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第二部
139.エトワールへの帰還
しおりを挟む―――【転移】
魔法協会からエトワールへ転移し、正門をくぐる。
あれから3日。
無事完全回復した私はエトワールに戻る許可が降り、今に至る。
―――なんか、任務が終わって家に帰ってきたときみたいな安心感がある⋯⋯。
「ユリアーナ様」
「えっ、ルコラ様?」
奥の方から走ってくるルコラ様が見えた。
〈竜〉の被害のため休校中のはずだが⋯⋯いや、それよりも。
「怪我は大丈夫ですか?」
ミア様が言っていた。
私とノエル先輩、ルコラ様が重症だったのだと。
後遺症はないと聞いているが⋯⋯心配なことに変わりはなかった。
「はい。全く問題ありません。転移したあと、治癒魔法で治してもらって⋯⋯。わ、私なんかより、ユリアーナ様です。瀕死状態だったと父から聞きました」
―――瀕死状態?
そんなに酷かっただろうか。
重症だったとは自分でも思うけど⋯⋯。
―――あぁでも、〈竜〉に身体を押さえつけられてたか。
あれは確かに死を悟った。
そういう意味では瀕死状態だったと言えるのか?
『ウィリアムが間に合わなかったら、後遺症どころかおまえ、死んでたぞ?』
⋯⋯うん、瀕死状態だったんだろうね。
何にせよ私は生きている。
「もう平気ですよ。ご心配をおかけしました」
私が瀕死状態になったのは魔力がほぼ枯渇したからでもある。
もし観客も誰もいない、私と〈竜〉だけがいる状況だったら、勝てたかもしれない。
―――けど、あの状況で勝てる人が真の強い人だろうな。
現に、ウィリアム様は〈竜〉に勝った。
たった二撃で仕留めたらしい。
私にはできない。
「異学年交流魔法戦の準決勝、決勝は、行われないことになりました。成績に関しては他の実技試験で補う、と」
「! 魔法戦はもうやらないのですか?」
「今回の一件でトラウマになった方もいるようでして⋯⋯」
それに、とルコラ様は続けた。
「ハイネ先輩は、もう、いないので」
「!」
暗殺されたハイネ先輩は、四肢がバラバラになった状態で発見された。
綺麗な切断面だった。
かなりの手練れでなければ、あれはできない。
「⋯⋯すみません。こんな暗い話をしてしまって。お戻りのところ、引き留めてしまい申し訳ございませんでした」
「いえ、そんな」
「お話ができてよかったです。ではまた、学校で」
ルコラ様はそう言うと寮へ戻って行った。
―――私が、もっと、強かったら。
ハイネ先輩が死ぬことも、魔法戦が中止することも、なかったのだろうか。
特別寮に帰ると、ノエル先輩の盛大なハグでお出迎えしてくれた。
「ユリユリ~~っ!!」
「わっ、ノエル先輩⋯⋯」
ぎゅーっと抱きしめるノエル先輩、ちょっとかわいい。
「ユリユリだぁ⋯⋯ユリユリがいるよぉ⋯⋯」
―――なんで涙目⋯⋯?
「大丈夫ですか、ノエル先輩?」
「大丈夫じゃない⋯⋯」
ノエル先輩が珍しく甘えている。
これは確かに大丈夫そうではないな。
「ユリユリが死んじゃったら、どうしようって思ってた」
「ノエル先輩⋯⋯。私まだ死にませんよ」
「でも死にかけてた⋯⋯」
―――ルコラ様もだけど、なんで知ってるんだ?
観客まるごと全員転移させた後のあの競技場には私以外誰もいなかったと思うが⋯⋯。
「どうしてそのことを?」
「⋯⋯ユリユリ、〈天蓋の魔術師〉様が来てたの知ってる?」
「もちろん。知ってますよ」
〈竜〉が現れた時も、現れる前にも会っている。
ウィリアム様がどうかしたのか?
「あの人が〈竜〉を倒して競技場から出てきた時ね、ユリユリを抱っこしてたの」
「⋯⋯え?」
「こう、ユリユリの首を右手に、膝を左足で支えて出て来てたの」
―――そ、それって⋯⋯お姫様抱っこというやつでは!?
本当のことなら、すごくすごくお恥ずかしい。
ウィリアム様にお姫様抱っこしてもらうっていうなら、私、もっと体重減らしたのに!!
重いな、って思われてたらどうしよう~~っ!!
「それで、駆けつけた魔法協会の人が『代わりましょうか?』って聞いたんだと思うんだけど、そしたら〈天蓋の魔術師〉様が⋯⋯」
ウィリアム様が⋯⋯?
「『リアナが狙われているかもしれないから、このままでいい。今はこうして眠っているけれど、さっきまで瀕死状態でね。あまり動かしたくないんだ。起こしたら可哀想だろう?』って言ってた」
容易に想像できる。
お姫様抱っこしながら魔法協会の人に対応するウィリアム様……。
―――かっこよすぎだろ!!
お姫様抱っこの時点で興奮する。
そんでもって、ウィリアム様のセリフ!
慈愛に満ちている……まるで神父のよう!
前世は神だったんじゃないか疑惑浮上だよ!!
―――はぅっ、想像するだけでもう……っ。
心の中でも悶える私。
ウィリアム様がかっこよすぎて困る……っ!
「ねえねえ、ユリユリってさ、ウィリアム様のことが好きなの?」
「大好きですよ! 世界で一番尊敬しています! ウィリアム様のためなら死ねます!」
「そっかぁ。じゃあ、三角関係なんだね」
「……え?」
―――三角関係……?
ノエル先輩は何を言ってるんだ?
三角関係?
誰と誰と誰が?
まさかと思うが……私とウィリアム様とアルトゥール様のことを言っているんじゃないだろうな?
「ユリユリと、ユリユリの婚約者様と、〈天蓋の魔術師〉様だよ。ユリユリと〈天蓋の魔術師〉様が両想いで、婚約者様がユリユリに片想いしてるんでしょ?」
「んなわけないじゃないですか!」
「えっ、じゃあ〈天蓋の魔術師〉様が婚約者様のことを好きなの……? 男同士の禁断の恋? 全員片想いの三角関係じゃん」
「違いますっ!」
そもそもに三角関係じゃない!
確かに私はウィリアム様のことが好きだけど、恋愛的な意味の好きじゃないし、それに、ウィリアム様との年齢差どのくらいか知ってるのか?
年の差カップルとか年の差婚とかあるけれど、私はノーサンキューである。
すると、ノエル先輩がクスリと笑った。
「? なんで笑ってるんですか?」
「ん、なんか、日常が戻って来たなぁって思って。〈竜〉にやられてからずっと、雰囲気暗かったから」
言われてみると、誰かとくだらないことを話したのはあの日以来だ。
そういう意味ではノエル先輩の言うように日常が戻って来たように感じる。
まだまだ問題は山積みだが、特別寮に帰って来れたのはかなり大きなことではないだろうか。
―――日常、か。
そう思えるような時間を過ごしていたのだと思うと、自然と口元が綻ぶのだった。
――――――――――――
短編を投稿しました。こちらもお気に入り登録してもらえると嬉しいです。よろしくお願いします。短編はエリアーナ視点です。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/61423936/604001724/episode/10453185?preview=1
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