学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

文字の大きさ
20 / 84
邂逅

6

しおりを挟む
 所変わって、聖月のいる場所からそう遠くはない喫茶店。近代的な建物の集うナンバーズの街並みの中で異色を放つレンガの建物。柔らかな光がその看板を照らし、昔懐かしといった風情を醸し出している。

 「地味に狭いし、レンガとか何時の時代だって感じだし、そもそも、喫茶店ってなんなのさ」
 「うるせぇぞ、そこ。文句言うなら出て行きやがれ」

 カラン、とこれまた古めかしい鈴の音を立ててドアを開けた少年――颯斗。学園と族の両方に関する雑事を片付けているせいで随分とすさんでいるようだ。デフォルトの毒舌がさえわたる。しかし、相対する者も慣れたもので。即刻切り返す。颯斗は情け容赦のない声の主を恨めし気に睨みつける。

 「普通族の本拠地って言ったらバーだろう!」
 「最終的に強調するところがそれか!黙れ未成年!俺の昔からの夢は喫茶店のマスターだ!」
 「いや、なんか段々論点がおかしくなってる気がするのは俺だけか」
 「……下戸だもんね、兄さん。下戸が開くバーってちょっと心配……」
 「シャラップ!」

 白のシャツに黒のスラックス。ついでに黒のシックなエプロンを着た美丈夫が顔を引きつらせる。26という男盛りに差し掛かった彼の名前は阿左美悠茉あざみゆうま。先述の通り、喫茶店を経営している。左程広くない彼の城で我が物顔に寛いでいるのは黒シャツを着て胸元を大胆に開けた竜崎と、ダボッとした黒のパーカーを着た少年。さり気なく銀のアクセサリーで胸元を飾り、男の色気満開でお前何歳だ、と問いたくなる竜崎とは対照的に、可愛らしいうさ耳のついたフードを目深に被っている。カウンターの傍のテーブルに陣取った彼らの元まで歩み寄った悠茉は、勢いよくトレーを机に叩きつけた。

 「うぉっと」
 「……兄さん。カップが可哀想」
 「てめぇらなぁ」

 僅かに飛び散った熱いコーヒーに飛びのく竜崎。早速ココアに手を伸ばした少年――名前は阿左美晴真あざみはるま――はフードの奥から非難の眼差しを悠茉に向けた。話から分かるように、彼ら二人は兄弟である。しかし、弟の何とも言い難い雑な対応。悠茉は口元をひきつらせた。

 「テンプレは酒呑みながら作戦会議して喧嘩でしょ、そこは」
 「未成年が堂々と法律違反要求すんじゃねぇ!他所に行け他所に!」
 「自分が呑めないからって、ねぇ。あ、僕、カフェオレ。甘くしてね」
 「っ!のやろっ!」

 容赦なく悠茉のコンプレックスをえぐっていく。竜崎も晴真も面白そうに見るだけで助け船はなし。寧ろ油を注がんと期を窺っているようだ。その上もってきて、上から目線のオーダー。コレ、怒っていいヤツだよね、俺。悠茉が額に青筋を立てる。一方の颯斗は面倒くさそうに一瞥して一言。

 「一応、客なんだけど?この零細店の」

 ぶつり。悠茉の頭の中で何かが切れた音がした。

 「ざっけんな、このクソガキども!出て行きやがれぇ!」

 夜の街に悠茉の怒声がこだましたとかしていないとか。




 「で?皆まだ来てないの?」

 肩を怒らせた悠茉が、それでも注文のカフェオレを作る為にカウンターの中へ戻っていくのを横目で見ながら颯斗は竜崎に尋ねた。これくらいのじゃれ合いは日常茶飯事。あいさつ代わりだ。さっさと本題に入らんとする颯斗。片肘を突いた竜崎は苦笑する。

 「ま、集合時間前だしな。そろそろ来るだろう。朱雀と朝顔は生徒会の仕事の関係で遅くなるかも知れないと連絡を受けている」

 「あっそ」

 椅子を引いて気のない返事を返した颯斗は視線をその隣に投げた。ちびちびとココアを啜っていたうさ耳少年が顔を上げる。

 「ひさしぶり」
 「ホント、久しぶり。相変わらず引きこもってんの、秋」
 「ん」

 コクンと頷いた晴真。それに合わせて揺れたうさ耳が変な方向に引っかかる。気にすることなく晴真は目の前に置いたパソコンを覗き込む。因みに、さり気なく耳を直すのは竜崎。知る人ぞ知る、可愛い物好きなのだ。パソコンの画面に夢中な彼にやれやれと肩を竦めると、颯斗は話が終わってないぞ、と呼びかける。

 「何か情報あった?」
 「街頭カメラのハッキング中。素戔嗚の集会場所と、冥府の居場所は分かった。いまは監視中」
 「流石」

 竜崎がニヤリと笑う。Nukusの情報担当は二人。対人においての情報収集を得意とする颯斗ヨウとIT技術を駆使して情報を収集・操作する事に長けた晴真アキ。戦闘には向かずとも、貴重な戦力である。早速情報の分析と戦略を、と会議を始めるトップの後ろでは、続々と少年、青年達が喫茶店に入ってくる。

 軽く挨拶しあう彼らはNukusに所属する者達。聖月がいたころよりもわずかに拡大したものの、もとから少数精鋭。この喫茶店――ornerinessオーネリネスに十分収容できる規模である。よって、マスターである悠茉の好意もあって、ココがNukusの溜まり場となっている。彼らは竜崎の求めに応じて集まって来たのだ。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

不幸体質っすけど、大好きなボス達とずっと一緒にいられるよう頑張るっす!

タッター
BL
 ボスは悲しく一人閉じ込められていた俺を助け、たくさんの仲間達に出会わせてくれた俺の大切な人だ。 自分だけでなく、他者にまでその不幸を撒き散らすような体質を持つ厄病神な俺を、みんな側に置いてくれて仲間だと笑顔を向けてくれる。とても毎日が楽しい。ずっとずっとみんなと一緒にいたい。 ――だから俺はそれ以上を求めない。不幸は幸せが好きだから。この幸せが崩れてしまわないためにも。  そうやって俺は今日も仲間達――家族達の、そして大好きなボスの役に立てるように―― 「頑張るっす!! ……から置いてかないで下さいっす!! 寂しいっすよ!!」 「無理。邪魔」 「ガーン!」  とした日常の中で俺達は美少年君を助けた。 「……その子、生きてるっすか?」 「……ああ」 ◆◆◆ 溺愛攻め  × 明るいが不幸体質を持つが故に想いを受け入れることが怖く、役に立てなければ捨てられるかもと内心怯えている受け

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

処理中です...