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邂逅
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しおりを挟む「悪い遅くなった」
「いや、大幅な遅刻って訳でもないしな。気にするな」
左程経たずに現れたのは、高宮と嵯峨野。足早に近づいてきた彼らに、竜崎の付近に陣取っていた数名が快く場所を譲る。律儀に礼を述べた二人は遠慮なく席に着く。二人が来たのを見た悠茉が早速コーヒーを淹れはじめる。その香りを楽しむ顔をする高宮。その隣に座った嵯峨野が口火を切る。
「こちらは別の者に指示して戦力を待機させています」
「こっちも見た感じ全員いるだろう」
すぐさま言葉を返した竜崎は、いつの間にかカップを片手に佇んでいた怜毅に視線を向ける。案の定、見た目に反してそつなくこなす彼は、メンバーを数えていたようだ。黙って首肯する。双方の戦力が集結しているのを確認して、本題に入る。
「事前に素戔嗚のたまり場と冥府の居場所を幾つか検討付けて秋君に送っておいたのですが」
「とっくに見つけて監視中」
「そこから導き出せる戦力と、こちらの戦力、地理的条件や、望む戦略等を考慮して、ぶつかる場所や手順とかは考えておいた」
「優秀ですね。うちはいかがですか?」
「えへへ。褒められるのは嬉しいけど、遠慮しておく」
「……僕の居場所はココ」
さっくり答える年少幹部組に感心した様子の嵯峨野。ついでにさり気なく勧誘するが失敗。実に残念そうな顔をするが、実は2、3日に一回は繰り返される下り。なので放置する。
「何処にする?」
「二人の試算では、ココからそう遠くはない広場。そっちは数押しが得意だから自由に暴れられるはずだ。周囲は空き家になっているから、狭い空間で戦うのが得意な俺たちも十分に動ける」
「詳しい戦略は」
「……メールで送った」
トップ二人が淡々と整理する中、パソコンをいじっていた晴真がぼそっと割り込む。同時に電子音がして、嵯峨野と高宮が携帯を見る。さっと添付ファイルに目を通した二人は頷いて席を立つ。
「こちらも戻って準備を進めます」
「予定時刻に指定場所で」
軽く手を上げて挨拶をした二人はそのまま踵を返す。出口付近まで来た際、タイミングよく出てきた悠茉がテイクアウト用のコーヒーを二つ手渡す。
「丁度良かったみたいだな。もってけ」
「ありがとうございます」
「ほんっと。ここのヤツらはアンタも含めて優秀だな」
ニヤリとニヒルに笑った高宮が称える言葉を残して先に出ていく。さっと小銭をだして支払を済ませた嵯峨野がそれに続く。そのやり取りを見ていた竜崎だったが、扉が完全に締まったのを見て、徐に立ち上がった。微かにざわめいていた室内が、一気に静まり返る。
「さて。高宮達に子細を送ったのと同時にお前たちにもメールが行っているはずだ」
チラリと視線を落とすと、当然だ、とうさ耳がひょっこり動く。仲間達がそれぞれ確認しているのを見つつ、声を張り上げる。
「図々しくも、俺たちの領域を踏み荒らしてきた奴らがいる。奴らはそれに飽き足らず、聖域を穢さんとしている。決して許す事はできん」
強い光を瞳に宿す仲間達の顔を見て、凄絶な笑みを浮かべて見せる。
「俺たちが何のために、何を求めて、ここに集っているのか。それを見せつけてやる。コケにされた落とし前、きっちりつけさせんぞおめぇら!」
「うぉお!」
青年達の雄たけびがornerinessにこだまし、びりびりと空気を揺らす。
彼らが集うは、白の皇帝に導かれ、魅了されたから。そして、彼の想いと願いに共感し、彼と共に在らんと誓ったから。
彼らは何時の間にか、血と戦いに意義を見出し、外れた道を再び歩き出す事が出来た。いつしか、治安の悪いその街で自警団的に始まった彼らは、風紀委員となって活動の場所と内容を拡げようとも、その意志を違える事はなかった。
いま再び、彼らの闘いが始まる。
「ふっふふーん。街灯カメラハッキングっと。流石秋ちゃん。先にハックしてると思ったら隙も卒もないねぇ」
電柱に凭れかかって、軽快にタイプしていた聖月は満足げな顔をする。自らIT技術という武器を授けた身としては、その成長が嬉しいものである。とはいえ、隠密行動をしている以上、見つかるわけにはいかない。想像以上に上達した弟分の技術に、喜び半分苦笑半分といった体で、それでもその指は軽やかに動き続ける。
ざっと欲しい情報を手に入れると、ほっそりとした指を小さな顎に当て、しばし思案する。膨大な情報からNukus、Kronous、素戔嗚の三チーム、そしてそれぞれの幹部たちの動きを予測演算する。
「ま、こんなもんかな」
ややあって満足する結果が出たのか、聖月は電柱から背中を離し、コードを勢いよく引っ張った。ピンっと音を立てて外れたソレを回収し、パソコンと一緒にポケットに突っ込むと、弾む足取りで闇へと消えていった。
**********
ちょっと蛇足な部分もある気がしますが……ご容赦ください。
楽しんでいただけていると幸いです。
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