学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

文字の大きさ
21 / 84
邂逅

7

しおりを挟む


 「悪い遅くなった」
 「いや、大幅な遅刻って訳でもないしな。気にするな」

 左程経たずに現れたのは、高宮と嵯峨野。足早に近づいてきた彼らに、竜崎の付近に陣取っていた数名が快く場所を譲る。律儀に礼を述べた二人は遠慮なく席に着く。二人が来たのを見た悠茉が早速コーヒーを淹れはじめる。その香りを楽しむ顔をする高宮。その隣に座った嵯峨野が口火を切る。

 「こちらは別の者に指示して戦力を待機させています」
 「こっちも見た感じ全員いるだろう」

 すぐさま言葉を返した竜崎は、いつの間にかカップを片手に佇んでいた怜毅に視線を向ける。案の定、見た目に反してそつなくこなす彼は、メンバーを数えていたようだ。黙って首肯する。双方の戦力が集結しているのを確認して、本題に入る。

 「事前に素戔嗚のたまり場と冥府の居場所を幾つか検討付けて秋君に送っておいたのですが」
 「とっくに見つけて監視中」
 「そこから導き出せる戦力と、こちらの戦力、地理的条件や、望む戦略等を考慮して、ぶつかる場所や手順とかは考えておいた」
 「優秀ですね。うちはいかがですか?」
 「えへへ。褒められるのは嬉しいけど、遠慮しておく」
 「……僕の居場所はココ」

 さっくり答える年少幹部組に感心した様子の嵯峨野。ついでにさり気なく勧誘するが失敗。実に残念そうな顔をするが、実は2、3日に一回は繰り返される下り。なので放置する。

 「何処にする?」
 「二人の試算では、ココからそう遠くはない広場。そっちは数押しが得意だから自由に暴れられるはずだ。周囲は空き家になっているから、狭い空間で戦うのが得意な俺たちも十分に動ける」
 「詳しい戦略は」
 「……メールで送った」

 トップ二人が淡々と整理する中、パソコンをいじっていた晴真がぼそっと割り込む。同時に電子音がして、嵯峨野と高宮が携帯を見る。さっと添付ファイルに目を通した二人は頷いて席を立つ。

 「こちらも戻って準備を進めます」
 「予定時刻に指定場所で」

 軽く手を上げて挨拶をした二人はそのまま踵を返す。出口付近まで来た際、タイミングよく出てきた悠茉がテイクアウト用のコーヒーを二つ手渡す。

 「丁度良かったみたいだな。もってけ」
 「ありがとうございます」
 「ほんっと。ここのヤツらはアンタも含めて優秀だな」

 ニヤリとニヒルに笑った高宮が称える言葉を残して先に出ていく。さっと小銭をだして支払を済ませた嵯峨野がそれに続く。そのやり取りを見ていた竜崎だったが、扉が完全に締まったのを見て、徐に立ち上がった。微かにざわめいていた室内が、一気に静まり返る。

 「さて。高宮達に子細を送ったのと同時にお前たちにもメールが行っているはずだ」

 チラリと視線を落とすと、当然だ、とうさ耳がひょっこり動く。仲間達がそれぞれ確認しているのを見つつ、声を張り上げる。

 「図々しくも、俺たちの領域を踏み荒らしてきた奴らがいる。奴らはそれに飽き足らず、聖域を穢さんとしている。決して許す事はできん」

 強い光を瞳に宿す仲間達の顔を見て、凄絶な笑みを浮かべて見せる。

 「俺たちが何のために、何を求めて、ここに集っているのか。それを見せつけてやる。コケにされた落とし前、きっちりつけさせんぞおめぇら!」
 「うぉお!」

 青年達の雄たけびがornerinessにこだまし、びりびりと空気を揺らす。



 彼らが集うは、白の皇帝に導かれ、魅了されたから。そして、彼の想いと願いに共感し、彼と共に在らんと誓ったから。
 彼らは何時の間にか、血と戦いに意義を見出し、外れた道を再び歩き出す事が出来た。いつしか、治安の悪いその街で自警団的に始まった彼らは、風紀委員となって活動の場所と内容を拡げようとも、その意志を違える事はなかった。
 いま再び、彼らの闘いが始まる。




 「ふっふふーん。街灯カメラハッキングっと。流石秋ちゃん。先にハックしてると思ったら隙も卒もないねぇ」

 電柱に凭れかかって、軽快にタイプしていた聖月は満足げな顔をする。自らIT技術という武器を授けた身としては、その成長が嬉しいものである。とはいえ、隠密行動をしている以上、見つかるわけにはいかない。想像以上に上達した弟分の技術に、喜び半分苦笑半分といった体で、それでもその指は軽やかに動き続ける。

 ざっと欲しい情報を手に入れると、ほっそりとした指を小さな顎に当て、しばし思案する。膨大な情報からNukus、Kronous、素戔嗚の三チーム、そしてそれぞれの幹部たちの動きを予測演算する。

 「ま、こんなもんかな」

 ややあって満足する結果が出たのか、聖月は電柱から背中を離し、コードを勢いよく引っ張った。ピンっと音を立てて外れたソレを回収し、パソコンと一緒にポケットに突っ込むと、弾む足取りで闇へと消えていった。


**********
 ちょっと蛇足な部分もある気がしますが……ご容赦ください。
 楽しんでいただけていると幸いです。

しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。 そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

血のつながらない弟に誘惑されてしまいました。【完結】

まつも☆きらら
BL
突然できたかわいい弟。素直でおとなしくてすぐに仲良くなったけれど、むじゃきなその弟には実は人には言えない秘密があった。ある夜、俺のベッドに潜り込んできた弟は信じられない告白をする。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

あと一度だけでもいいから君に会いたい

藤雪たすく
BL
異世界に転生し、冒険者ギルドの雑用係として働き始めてかれこれ10年ほど経つけれど……この世界のご飯は素材を生かしすぎている。 いまだ食事に馴染めず米が恋しすぎてしまった為、とある冒険者さんの事が気になって仕方がなくなってしまった。 もう一度あの人に会いたい。あと一度でもあの人と会いたい。 ※他サイト投稿済み作品を改題、修正したものになります

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

推しにプロポーズしていたなんて、何かの間違いです

一ノ瀬麻紀
BL
引きこもりの僕、麻倉 渚(あさくら なぎさ)と、人気アイドルの弟、麻倉 潮(あさくら うしお) 同じ双子だというのに、なぜこんなにも違ってしまったのだろう。 時々ふとそんな事を考えてしまうけど、それでも僕は、理解のある家族に恵まれ充実した引きこもり生活をエンジョイしていた。 僕は極度の人見知りであがり症だ。いつからこんなふうになってしまったのか、よく覚えていない。 本音を言うなら、弟のように表舞台に立ってみたいと思うこともある。けれどそんなのは無理に決まっている。 だから、安全な自宅という城の中で、僕は今の生活をエンジョイするんだ。高望みは一切しない。 なのに、弟がある日突然変なことを言い出した。 「今度の月曜日、俺の代わりに学校へ行ってくれないか?」 ありえない頼み事だから断ろうとしたのに、弟は僕の弱みに付け込んできた。 僕の推しは俳優の、葛城 結斗(かつらぎ ゆうと)くんだ。 その結斗くんのスペシャルグッズとサイン、というエサを目の前にちらつかせたんだ。 悔しいけど、僕は推しのサインにつられて首を縦に振ってしまった。 え?葛城くんが目の前に!? どうしよう、人生最大のピンチだ!! ✤✤ 「推し」「高校生BL」をテーマに書いたお話です。 全年齢向けの作品となっています。 一度短編として完結した作品ですが、既存部分の改稿と、新規エピソードを追加しました。 ✤✤

処理中です...