学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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逃走

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 「違和感の正体はそれでしたか」
 「流石俺の片腕。優秀だねぇ」
 「聖……。次会ったらタダじゃおかない」
 「颯斗。相手はあいつだ。諦めろ」

 後日。例によって閑散とした風紀委員室に集まっているのは、高宮、嵯峨野、竜崎、颯斗、怜毅の五人。それ以外の風紀委員は現在見回りで出払っている。というか、そのタイミングを見計らって生徒会の二人が来ているのだが。

 「いい加減油売ってないで戻らないと書記と会計、庶務あたりが泣かないか?」
 「ハズレ。泣くのは補佐。会計はこれ幸いと遊んでるだろうし、書記は仕事に押しつぶされてるかな。庶務が笑顔で大激怒中って感じだと思う」
 「それをきっちり把握しておきながら笑顔で放置する生徒会長。大丈夫なのかこの学園」

 言外に帰れと、出口方向へ向かう目線と共に突き付ける竜崎だが、対する高宮が言葉通りの意味にとるだけで飄々としたもの。帰った時の生徒会室の惨状と仕事量を考えて遠い目をする嵯峨野の脇で、最もなツッコミを入れるのは怜毅。

 高宮にどことなく非難の眼差しが突き刺さってくる気がするが、気のせいと処理する事にしたらしい。優雅な仕草で茶をすすっている。はぁ、とため息をついた竜崎がペンを投げ出す。巻き込んでいる自覚がある手前、強く言えないのも事実だ。

 「でも、それならどうしてこのゲームに乗ったんですか?敢えて軌道修正しなかった理由は?」
 「一つ。本人も言っていたが、アイツの個人情報に対するプロテクトは異常に固い。ウチの情報担当を見ればわかるだろう。こいつらを育てたのはほかならぬアイツだ。一応秋に頼んで探って貰ってはいるが、情報が少なすぎて、と渋面になってた」
 「なるほど」

 チラリと颯斗に視線を投げて肩を竦める。僕も調べているんだけどねぇと颯斗もぼやくがその表情は晴れない。

 「二つ。このゲームに引きずり出せば、その間はアイツも簡単にはどっかに行かないだろうっていう、希望的観測を含めた目測での時間稼ぎ」
 「紐の切れた凧、もしくは、毛並みのいい野良猫といったアイツだが、ゲーム放棄はしないだろうしな」
 「ついでに、学園の新入生という大きなカードがこっちにはある。それを利用して個人情報の特定が出来ればそれ以上の詮索に繋がる物が出てくるかも知れない」
 「ですが、それは彼も考える所では?誘導されている可能性は?」

 高宮の賛同と、怜毅の補足。そこに待ったを掛けたのが嵯峨野。それを受けて何故か遠い目をしたのが竜崎。黙って颯斗に視線を向けると、それまで黙ってパソコンに向かい、仕事をしていた颯斗が顔を上げて、ふふふと可愛らしく笑った。

 「それはたぶん大丈夫」
 「そのセリフとその笑みの、その心は」
 「これが誘導だったらぶん殴ってやりたいくらいの事、もう既にやらかしてくれちゃってるよー聖のやつ」

 クルリとパソコンを返し、画面を見せつける。そこに書いてあったのは、パソコンに侵入したものがあったというセキュリティからの報告と、颯斗の纏めた被害状況。

 曰く。新入生の個人データが、破損はしていないが完全に引っ掻き回されている。つまり、顔写真や名前、クラスといったデータがランダムに入れ替えられ、使い物にならなくなっている、と。付け加えると、パソコンにメモが残されていたという。文面は、『大事なデータは頂いた!カイトウH』

 それを見た瞬間に、高宮が勢いよく立ち上がり、座っていたソファを飛び越えてドアに向かって逃げ出そうとした。すかさず首根っこを掴んだのが怜毅。やれやれといった顔を竜崎がしている以上、予想の範疇だったらしい。暫く攻防を繰り返していた二人だったが、ややあってがっくりと肩を落とした高宮が叫ぶ。

 「あの野郎!他人様を巻き込むのはルール違反だろう!」
 「このデータがある限り聖が圧倒的に不利ですからね。ついでに、侵入されたのが生徒会のパソコン、それを経由して態々風紀に入っていたデータを改ざん、ばら撒いたという事は、完全に生徒会と風紀の落ち度です。公表もしくは復旧に時間がかかったら、学園生徒に迷惑所か、他の学園に付け入る隙も作り、保護者への説明も面倒で、学園の特殊性から鑑みても国からの叱責は免れない。つまり、早急にかつ内々に処理しなければならないと」
 「データ復旧と、侵入経路の特定及び対策。これでもう僕らは手一杯だよねぇ。ほんっとイタイ嫌がらせ」

 国に九つある学園。名門校だからこその睨み合いは勿論存在する。優位を証明する為にお互いのあらさがしを怠る事は無いのだ。また、学生の親は国に影響力を持つVIPばかりで、ハッキリいってモンスターペアレントが多い。ついでに、学生、特に生徒会と風紀の同行は、成績と共に国に監視されている。

 頭を抱える嵯峨野と、これからも大きなクマを飼い続けなければならないのか、と絶望する颯斗。最早、やっている事が怪盗のソレとは違うだろうと突っ込む余裕も無い様だ。

 「で、俺たち風紀は治安秩序の維持、司法の分類だ。つまり仕事内容は侵入経路の特定と対策。お前ら生徒会は学園の運営、行政の分類」
 「データ復旧は私たちの管轄。道理で力づくで追い出されなかったという事ですか」
 「仕事の押しつけの為に罠貼ったのかよ性格わりぃ」

 自分達の事は棚に上げて恨めし気な顔をする生徒会。そんな事はどこ吹く風だ、と仕事を再開する風紀トリオ。仕方ない、仕事に戻るかと疲れ百倍の顔で立ち上がった二人に、竜崎はストレスを発散するかの様に笑顔で追い詰める。

 「ついでにもう一つプレゼントをやろう」
 「たのむからこれ以上はやめてくれ」
 「一体何ですか」

 引きつった顔で聞きたくないと大きく顔に書く二人だが、その先の竜崎の台詞を聞いてその秀麗な顔から一気に血の気を引いた。

 「おいおい、ちゃんとカレンダー見てんのか?そろそろだぜ、一年でもっとも忙しい期間の一つ。風紀もだが、特に生徒会はいつも死にかけてたよなぁ?」

 ばっと揃った動作でカレンダーを見た二人。嵯峨野が崩れ落ち、高宮が叫ぶ。

 「……学園祭!」
 「正解。生徒自治が基本の学園じゃあ、お前らが全ての指揮を執るんだろ?遊んでいる暇ないぜ。アイツからの嫌がらせもあるしな」

 第九学園に、新たな波乱の風が吹き荒れんとしていた。

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