学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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逃走

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 「さて、諸君。分かっているだろうな?」

 キラン。細淵眼鏡が、光る。周囲の少年達が固唾をのんで、緊張した面持ちで頷く。重々しく彼らを見渡した眼鏡の少年が決意を込めるかの様にぎゅっと目を瞑って、次の瞬間、勢いよくかっと目を見開く。

 「学園祭の時期が来た!今こそ我らの実力を見せつける時だ!」
 「おぉー!」
 「いや、意味不明すぎて笑うんだけど?」

 握り拳を突き上げて雄たけびを上げる少年達。青年への成長途中のしっかりとした骨格の者から中性的な可愛らしい者まで関係なく顔を輝かせている。引きつった顔でぼそりと突っ込んだのは蓮。その隣の聖月は一瞬きょとんとしたものの、お祭り騒ぎの予感に目を輝かせている。

 此処は聖月と蓮の所属するクラス。ホームルームの時間を活用して、クラスの出し物を計画するのだ。何故か燃え上がっているクラスメイトと、張り切り通しの眼鏡の少年――委員長。放っておけばどこまでも暴走しそうな予感がするが、そこは心配ない。

 「はい、とりあえずそこまでね馬鹿委員長。話が進まない」
 「痛いぃ」

 パシン、といい音立ててその頭を張り倒したのは、クラスの学園祭実行委員。しらっとした表情で見つめていたが、進まない状況に痺れを切らしたらしい。クラスでも畏れられる優秀な指導者が口を出したことで、クラスがピタリと動きを止めて真面目な顔になる。

 「ううん。この調教済みな感じ。さすが、というか、最高」
 「聖月君?茶々を入れないでくれる?」

 ついでに地獄耳だったらしい。てぺっと舌をだす聖月に、満面の笑みを向ける実行委員。絵面だけは可愛らしい。こほん、と咳をした彼は、すらすらと黒板に字を書いていく。

 「委員長。進めて」
 「はいはーい!まずは最重要議案から!クラス出し物を何にするか、何だけど」

 そこでいったん言葉を切った委員長が、キランと再び眼鏡を輝かせた。ピタリと動きを止めた実行委員は察しが良い。

 「このクラスには実に可愛らしいクラスメイトが多い!そこで僕は次の出し物を提案する!」

 ガバリと振り返って制止しようとした時には遅かった。委員長が高らかに提案する。

 「メイドアンド執事喫茶!これぞ王道学園に相応しきかなグヘェ!」

 すかさず可愛らしいクラスメイトに分類される実行委員が委員長の頭を張り倒す。涼やかな口元が見事に引きつっている。ばっと顔を上げて取消そうとしたが時すでに遅し。クラスメイトの目が輝くを通り越してギラギラしているのをみて、その表情が抜け落ちる。

 「メイド喫茶?!可愛い服を合法的に来ていいの!」
 「うおぉ!俺は執事服でカッコよく決めて恋人ゲットだぜ!」
 「うん、まぁ、そんなところだと思ったけどさ」

 先程とはくらべものにならない歓声が沸き起こり、蓮が耳を押さえて蹲る。出し物の動機が不純すぎる!と突っ込むが、更なる聖月からのツッコミに更に撃沈する。

 「蓮くーん。普通、高校生の出し物ってお化け屋敷とか、他にあるだろうと先に突っ込むのが正解だと思うけど?」

 不純同性交友が蔓延るこの学園につくづく染まってるね、とうれしくないお墨付きをもらったのだった。



 極一部を除いた満場一致で決まった後、委員長と美容に詳しいクラスのチワワズが嬉々として打ち合わせする中、それ以外の人間でメニュー考案などをすることになった。

 「それにしても実行委員、幽霊みたいな顔してるけど」
 「触れてやるな。彼はこの学園では珍しく染められていない人間――といいたいけど、正確には女装が似合い過ぎて中等部で散々させられてコンプレックス化したらしいって有名な子だから」

 それは弄りに行かなければ!とワクワク顏の聖月に釘を刺していく。そうじゃないと俺が叱られるって言うか、最近コイツの保護者扱いされてる気がすると頭を抱える蓮を他所に、ふと聖月が質問を投げかける。

 「これって生徒会が主催なんだよね」
 「そりゃあ。生徒自治だし。因みに、今回は特に賞とかはなし」
 「あらら。これだけ盛り上がるんだもん。そういうのあると思ってた」
 「表彰だけ。そういう要望があったらしいけど、流石に、クラス全体に賞を出すのは面倒らしい」

 ふむふむ、と頷いた聖月は、ついでの様に尋ねる。

 「風紀は?」
 「学園祭中は警備に駆り出されてる。見回りとか、校則違反は通常時よりも罰則が厳しいとか色々あるみたいだけどそれがどうかした?」
 「いんやー」

 見回りかー、とチラリと頭の中で注意事項を書き留める。頼むから大人しくしていて、と悲壮な面持ちで懇願してくる蓮は一旦放置。ゲームの最中なのだ。ここまで大がかりなイベントだと、下手な行動をすれば見つかるリスクが高まる。

 どうしたものか、と思案していたが、そんな間にもクラスの議論は進んでいたらしい。ふと教壇を見やると、実行委員の少年が羽交い絞めにされて喚いている所だった。いつの間にか戻って来ていた委員長が上機嫌で黒板に文字を書いている。その内容をみて、聖月はニヤリとわらった。蓮の背筋に冷たいものが走る。

 「聖月さん?さっきから何度も何度も何度も何度も言ってるんだけどね?」
 「大人しくしてろでしょ?分かってるって。でもね、そんな心配している余裕ある?」

 がばっと振り返ると、黒板にデカデカと書かれた字。そこには、メイド要因――蓮、聖月、実行委員の三つの名前が。

 「ちょっと意義あり!」
 「却下!」

 追加のメイドと執事は立候補制にも関わらず、三人は問答無用らしい。慌てて立ち上がり叫んだ蓮だったが、すぐさま返された却下に絶句する。魂の抜け落ちた実行委員と呆然とする蓮、爆笑する聖月を他所に、凄まじい勢いで詳細が決定されていった。

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