学園と夜の街での鬼ごっこ――標的は白の皇帝――

天海みつき

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逃走

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 「第九学園名物、同性不純交友者美少年たちによる女装メイドアンド執事喫茶はいかがでしょうかいかがかね!」
 「ちょっと蓮ちゃん?副音声が放送出来ない上に、露天商のオヤジになってる」

 ミニスカメイドがプラカードを持って客引きをしている。一人はそこそこある伸長とスレンダーな体つきを生かす様なちょっと煽情的なラインをした白黒のメイド服。もう一人は小柄で可愛らしい顔付きを強調するような赤白がメインのメイド服。両方レースのメイドカチューシャまで付ける力の入れようである。

 膝上の可愛らしいメイド服とニーハイを渡された時は全力を持って抵抗していた蓮。そこで体力を使い果たしたのかぐったりした所を勢いよく制服を剝がれ、あれよあれよという間にメイドさんに大変身。メイクまでされた時点で自棄になったのだろうか。今は青筋を気付かれないように浮かべながら、満面の笑顔と可愛らしい声で客引きをしている。恐ろしく低い声での副音声付きだが。

 「ていうか、聖月の方こそ、なんでそんなにノリノリな訳?!普通嫌がらない?」
 「えー?だって、似合ってるでしょ?俺、可愛いの結構好きよ」

 同じミニスカメイドでも、色と着る人間が違うとこうも印象が変わるのか。いっそ感心するほどに着こなした聖月は可愛らしさと色気を同居させている。ついでに口八丁手八丁で丸め込み黒ぶち眼鏡で雰囲気を変える程の入れ込みよう。普段とは別人である。

 「ま、こういうのが好きっていう他にも理由あるけどね」
 「聖月?」

 流石イベント好きと呆れ顔の蓮を横目で見つつ、口の中で呟く。聞き取れなかった蓮が聞き返すが曖昧に笑ってごまかす。

 「ちゃんと客引きしないと委員長に何されるか分かんないよ」
 「メイドカフェはいらんかねー!」
 「ちょっと、副音声が主音声に変わってる」

 自棄っぱちに叫ぶ蓮。慌てて宥めつつ、驚いた顔の周囲の客に対してサービス笑顔を投げておいた。




 今日は学園祭当日。学業の傍ら、全て自分達で用意しなければならないという事で、非常に忙しかった準備期間。例によって中心に突っ込んでいった聖月。委員長を始めノリノリ派の人間を巻き込んで、怖ろしい出来栄えのメイドアンド執事喫茶を作り上げた。

 生徒会と風紀は、学園祭運営で過労死寸前になっているのは、遠くから確認済み。ハンデを埋める為に献上したプレゼントも機能しているようだ。自称情報通の蓮もこればっかりは知らなかったらしい。お陰で学園祭の準備に専念できたとホクホクである。

 「(思った以上に)生徒会のメンツが、見る度に死にそうな顔してる気がするけど」
 「何かあったのかな?」

 優秀な人間が集まってるんじゃなかったっけ?と思ったのは学食での事。蓮と一緒に食べに行ったところ、生徒会の一団に出くわしたのだ。キャーと黄色がメインだが、黄土色が多分に混ざった歓声が上がるのを予想して二人で耳を塞ぐ。ついでに様子を窺うと、疲れを隠し切れないイケメンたちが歩いていたのだ。

 流石に心配そうな声がチラホラと上がる中、呑気にうどんを啜りつつ蓮と首を傾げたのだった。破壊したデータを修復しようとするとデータ破壊ウイルスがどこからともなく現れ鼬ごっこになるというプログラムをプレゼントに含めていたのをすっかり忘れていたのだ。完全なる疫病神である。

 それはそうと、どうにか開催にこぎ着けた学園祭。美人可愛い所三人と、有志のチワワズ、勇気ある筋肉ダルマがメイドの服を。それ以外の強運たる勝者が執事の服を着て戦闘開始。あっという間に人気店となり、更に燃え上がった委員長他数名に、客引きをしてこいと放り出されたのがさっきの事。

 なんで僕が!と叫ぶものの、じゃああっちがいい?と笑顔の委員長に指示された方向をみて撃沈した蓮。その先には、能面の如く無表情をした実行委員がマネキンよろしく展示されていたのだ。どちらがいいかは明白だった。

 そして現在に戻る。プラカードを両手にもった美少女メイドが練り歩くのは実に目立つ。フラフラと引き寄せられる客に笑顔でクラスへ行くように誘導する。

 「蓮!あっちお化け屋敷やってる!楽しそう!」
 「ちゃっかり楽しんでるし。現金というか、容量が良いというか」

 うずうずしながら目を輝かせる聖月。仕事の合間に学園内を歩いてはめぼしい露店を探していたのだ。やれやれ、と息をついた蓮だったが、ここまで来たら聖月のようにこの状況を利用するか、と楽しむことにした。その際重要なのは自分の恰好を記憶の箱にしまい込んでガムテープぐるぐる巻きにした挙句、タンスにしまい込んで鍵をかける事。

 そうして歩いていると、ふと聖月が立ち止まった。

 「どうした聖月?」
 「あのこ……」

 学園の制服をきた小柄な少年が、客であろうガタイの良い数人の男に囲まれていた。ナンパにしてはちょっと行儀が悪い、と蓮が顔を顰める。すると、スタスタと聖月が集団に近寄っていく。

 「ちょ、聖月!」
 「おにーさん達、ちょっといい?」

 にっこり笑って声を掛けると、ああん?とテンプレな声を上げて男が一人振り返った。美少女に見えるメイドが二人、背後に立っているのをみて目が釘付けになる。他の男も同様だった。獲物を聖月たちに切り替え、周りを囲んでくる。

 「なぁに、かわいこちゃんたち。遊んでほしいの?」
 「えぇ、遊んでくれるの!ミヅ、嬉しぃ」
 「え、誰コイツ」

 上目遣いのぶりっ子口調。初見の人間は一人残らず落ちるであろう可愛らしさ。しかし、その本性を知っている蓮としては鳥肌モノである。引きつった顔の蓮はまた後で絞める、と心に決めて男たちにすり寄る。

 「でもでもぉ。ミヅ、今お仕事中なの。お仕事しないと怒られちゃう」
 「そんなのいいって。たかが学祭だろ」
 「でも、委員長が……」

 うるうると潤んだ目で見上げられると、男たちの意識は聖月で一気に占領される。うーん、と悩む仕草をした聖月は、ぽん、と手を叩いた。

 「じゃあ、お兄さんたち、委員長に許可取ってくれない?そうしたら、ミヅも一緒に遊べる!」
 「えー、でもめんどくさい」
 「ミヅの教室、すぐ近くだよ?ミヅより可愛い子がいっぱいいるからすぐに分かると思うしぃ」

 だめ?とダメ押しの萌え袖弄りの小首傾げ。うっと唸った男たちが顔を見合わせる。

 「皆、お兄さんと遊びたいと思うなぁ。お兄さんたちがクラスにいって皆と遊びたいって許可取ってくれれば皆で一緒に遊べるんだけど……」

 悪魔のささやきである。冷静に考えればおかしい。しかし、単純な男たちの思考は、一に聖月の美貌、二に聖月以上の美貌、三四とんで、五に疑似ハーレム。我先にと走り出す男たち。にこやかに手を振る聖月の脇で、蓮が頭を抱えている。

 「ツッコミどころ多すぎだけど、とりあえずアイツら送って大丈夫なの?」
 「大丈夫。馬鹿の撃退法は委員長に直伝済み。結構ノリノリでやってくれるよ」

 何を教えたのかは、考えたくなかった蓮君だった。

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