圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

新たな日常

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 先輩と昼休みを部屋で過ごす事を同室の奴らに報告すると、いつも通りの反応でオレはホッとした。

 今まで一緒に飯を食っていた皆元は「おれを捨てるのか」と冗談めかして言ってきたが、一緒に食うかと誘うと「断る」と即答された。別に二人である必要はないんだと、躍起になって説得しようとしたが、単純に上級生と一緒じゃあ気が休まらないと、肩を竦められてしまった。

 先輩はそんな肩肘張った人じゃあないので、皆元の心配は無用なのだが、エロマンガ教の労働力として由々式がスカウトしていたので、オレも大人しく身を引いた。

 狭間は狭間で、何か必要な物はないかと気を遣ってくれた。机も椅子もない部屋で食事をするとなると、部屋を汚してしまう事になる。毎日、部屋を清潔に保ってくれている狭間に余計な負担をかけるべきではない。それに気付いたオレは、食べ終わった後はちゃんと片付けをする事を約束した。

「物置に小さいけど、ちゃぶ台って言うのかな? テーブルになりそうな物があったから、それを持ち込んだらいいよ。えっと、予備の布団が置いてある部屋があるんだけど、分かるかな?」

 どっかから段ボールでも調達するかと考えたオレを見透かしたように、狭間は提案をしてくれる。夏休みに布団を取りに行った事もあるし、あの辺り(反省室周辺)は庭のようなもんだ。ありがたく使わせてもらう事にした。

「前は昼下がりにイチャつこうとしたけど、冷静に考えるとそれはないな。誰か来るかもって前に、オレだけの部屋じゃあないもんな。やっぱ先輩の部屋の方がいいかな?」

 圏ガクの一年で、昼休みに食堂へダッシュする奴は殆どいない。なんせ、争い掴み取る物がない。どれだけ腹が減っても、待っているのは残飯なのだ。購買でも似たようなもので、争奪戦など起きようもない。毎日のように配送がないらしく、数日間は同じパンが並ぶ。

 そんな旧館の残念使用のおかげで、誰に邪魔される事なく、自分用の配給を回収後にちゃぶ台を抱えていようと、誰にも見咎められない。まあ、誰も欲しがらないと思うけれど、絡まれるのも面倒だからな。

「おぉーいいじゃん」

 部屋の中央にちゃぶ台を置くと、ちょっと部屋っぽくなった。座布団でもあれば、もっとそれっぽく見えるだろうが贅沢は言えないなと思っていると「夷川君、いる?」と狭間の声が廊下から聞こえた。返事をすると、扉を開けてくれと言うので開ける。

「金城先輩はまだ……だよね。はい、これ座布団。倉庫の奥に眠ってたの使ってあげて。ちゃんと干してあるから、黴臭くないし」

 手渡される座布団は、上等を物語る厚みがあり、干されていたせいか、ふんわりしているように思えた。

「昼寝出来そう」

 誘惑に勝てず座布団に顔を埋めてみると、見た目通りにふかふかで日の温もりも残っていた。「寝過ごさないようにね」と笑いながら部屋を後にする狭間に礼を言って、ちゃぶ台の側に座布団を二枚並べてセッティングする。

 配給の蓋をずらし中身を覗く。そっと蓋を元に戻して、座布団の上に寝転んだ。缶詰自体は入っていないが、明らかに缶詰の中身を細工した物が入っていた。賞味期限は過ぎているはずなのに……。

 最底辺の食料事情に切なさを感じながら、心地良い座布団でうとうとしていると、階段を駆け上がる足音が響いてきた。パッと目が覚め、起き上がりすぐに動けるよう態勢を整える。

「すまん、遅くなった! 待ったか、セイシュン」

 バンと無遠慮に扉を開いたのは先輩で、オレは正直驚いた。こんな慌てた先輩は初見だ。

「そんなに慌てて、どうかしたの?」

「セイシュンに先に食べてていいぞって言い忘れたんだ。それ思い出して慌てた」

 先輩が手に持っていた豪勢な箱とお茶缶を受け取り、小さなちゃぶ台の上にオレの配給と一緒に並べる。サイズ的には負けていないが、絵面は正に頂点と底辺だった。

「腹減っただろ、食おう」

 隣の座布団に座り、先輩は並んだ二つの弁当の蓋を開けた。

「うわぁ……」

 オレは思わず声を上げる。もちろん、感嘆の声ではない。同じ光景を目にして、先輩もグッと声を詰まらせた。

「全力疾走したんだな」

 オレがしみじみ言うと「うっ……すまん」と申し訳なさそうな先輩の声が続く。

 先輩の全力疾走により弁当の中身は見事にシェイクされていた。きっと見目美しかったであろう新館の昼飯は、ぐちゃぐちゃに混ざり合い見た目を形容すると残飯そのものだった。中身はオレの配給の方がまともに見える。

「よし! 食うぞ、腹減った」

 弁当を見てしょげる先輩にお茶缶を手渡し、遠慮なく人の弁当から手を付ける。うん、何かは分からないが、間違いなく美味しい。「取り替えて来ようか」と提案してくる先輩の口に同じ物を突っ込んで、必要ないと断る。

「見た目は悪いけど美味しいよ。ちなみにこっちは、見た目普通だけど味も酷いし賞味期限も切れてる」

 オレの配給からも一口、箸で摘まんで差し出すと、先輩は素直に食い付いてくれた。
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