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蜜月
バカップル誕生
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「生徒会には近づかないで欲しい……心配だ。春先に自分がどんな目に遭わされたか思い出してくれ」
「うん」
何度も言われている言葉だが、今までの単なる注意とは違う先輩の声に、オレの鼓動は静かに高まる。
「春日野とも距離を置いて欲しい……心配だ。今日少し話したら、セイシュンは自分の恋人だと言われた。誤解だろうって訂正したら、錯乱し始めて大変だった」
「……ごめん」
とりあえず謝った。錯乱って事は、多分連れ(コウスケ)を泣きながら殴り始めたんだろう。申し訳なさが天井知らずだ。
「セイシュンは俺の……」
先輩が拗ねたような声で呟く。続きが聞きたくて数秒待ったが、聞こえて来ないので催促すると「セイシュンは俺のだ」とヤケクソ気味な宣言を頂いた。
「そこは『俺の恋人だ』って言えよ。照れてんのか」
焦れったくて、背中越しの会話は止めた。先輩の方を向くと「生意気だ」と両頬を軽く抓られる。
「余裕ないね」
不機嫌そうな顔を赤らめる先輩を指摘してやると、頬を思い切り引き伸ばされた。地味に痛い。可能な限り頬を伸ばした後、俺の顔から手を離した先輩は、今度は自分の顔をその手で覆い俯いた。
「…………余裕、ないんだ」
切羽詰まった声にドキッとする。周囲に人がいないのを確認して、先輩の無防備な背中を撫でる。
「今まで押し込めるだけでよかった気持ちが、出してもいいんだってなって、どんどん出てきちまう。ただでさえ、セイシュンの事を考えちまってるのに、お前、無茶ばっかりするから、心配で気がおかしくなりそうだ」
「そんな心配しなくても大丈夫だよ」
常套句を口にすると、どの口が言うんだと言いたげな目を向けられた。
「いや、他の生徒会の奴は知らねーけど柏木は意外と普通だし、スバルは一応『ともだち』って事で落ち着いたから。もう心配いらねぇよ」
スバルと『ともだち』になってしまったのは不本意だが、恋人なんていう迷惑な誤解は解消した。放課後の一部始終を先輩にも説明すると、何故か深い深い溜息を吐かれてしまった。
「セイシュン……こんな事は言いたくないが……友だちは選べ」
正論だが、正論が正論だからと言って全て通る訳ではないのだ。
「俺が言っていい事じゃないけどな」
先輩が困ったような顔で笑う。堪らなくなって、オレは耳をすましながら左右を確認して、先輩の唇に吸い付いた。
「オレの事なら先輩は何言ったっていい」
驚いた顔をする先輩の目を見て言ってやる。
「だって、オレは先輩ので、先輩はオレのだから。オレらは押しも押されもしない恋人同士だからな」
もちろん公共の場である自販機前なので小声だが、ただ事実を口に出すだけで顔がにやけてくるのは『恋人』という言葉にそれだけの魅力がある証拠だろう。
そんな愉快な言葉を先輩にも言わせたくて迫ってみたが、恥ずかしそうに「二人の時に言う」と実に男らしくない、いやはっきり言ってしまおう、女々しい返答をされた。
「じゃあ二人になれる時間もっと作ろうよ。昼飯、オレらの部屋で食うってのは?」
放課後のキャンプ道具探しを止める訳にはいかない。せっかく先輩が用意してくれたキャンプ道具を山センの玩具にしておくなんて嫌だからな。
「他の奴らの迷惑にはならないか?」
「大丈夫だと思うよ。一昨日は誰も来なかっただろ。心配なら、昼休みに部屋で先輩と飯食うって皆元たちに言っとくし」
いや待てよ……それって先輩と二人で部屋に籠もる事を宣言するようなもんだな。大丈夫かな?
「なら、お前の分の昼飯は俺が用意する」
「それは駄目だ。毎日先輩に昼飯を奢ってもらう気はねぇから。オレの分は配給あるから買わなくていい。自分の分だけ持って来いよ」
「じゃあ、中身をいくつか交換しよう。それならいいだろ?」
「うん」
旧館と新館では、おかずに天と地ほど差があるだろうが、そこは加減を見極めて甘えてしまおう。先輩が何も言わず、分かるだろうと言いたげに小指を突き付けてくる。小指で小指を握り返すと、ふにゃっと嬉しそうに笑って「また明日……昼休みにな」と立ち上がった。
「あ、先輩、何か用事あったんじゃあないの?」
部屋に帰ってしまいそうな先輩に、わざわざ旧館まで足を運んでくれた理由を慌てて聞く。
「特に用事はないぞ。セイシュンの顔を見に来ただけだ」
何気ない言葉なのに、なんでこんなに嬉しいんだ。オレもどんどん先輩の顔を見に行こう。無駄に甘ったるい幸福感をお裾分けだ。
「俺が昼間に春日野と話したせいで、放課後そんな事になってるとは知らず……すまん」
自業自得なので先輩が謝る必要はない。そう告げようとしたが、真面目な顔をした先輩に「次は、もっと上手くやる」と言われてしまった。
「次って何! スバルの誤解は解けたよ!?」
「柏木とは、まだちゃんと話せてないんだ。興津とは話したんだけどな」
何を話すつもりなんだろう。先輩のやる気に水を差すのも悪いと思い、柏木の事は諦める事にした。
「話すだけにしとけよ」
「もちろんだ」
先輩の微笑ましい嫉妬も、オレにとってはご馳走なのだと、にやけそうになる顔で思い知る。
どんどん日は短くなり、冷えた風が寒さに感じられる気候に変わりつつあるが、オレらの頭の中は間違いなく春だった。
「うん」
何度も言われている言葉だが、今までの単なる注意とは違う先輩の声に、オレの鼓動は静かに高まる。
「春日野とも距離を置いて欲しい……心配だ。今日少し話したら、セイシュンは自分の恋人だと言われた。誤解だろうって訂正したら、錯乱し始めて大変だった」
「……ごめん」
とりあえず謝った。錯乱って事は、多分連れ(コウスケ)を泣きながら殴り始めたんだろう。申し訳なさが天井知らずだ。
「セイシュンは俺の……」
先輩が拗ねたような声で呟く。続きが聞きたくて数秒待ったが、聞こえて来ないので催促すると「セイシュンは俺のだ」とヤケクソ気味な宣言を頂いた。
「そこは『俺の恋人だ』って言えよ。照れてんのか」
焦れったくて、背中越しの会話は止めた。先輩の方を向くと「生意気だ」と両頬を軽く抓られる。
「余裕ないね」
不機嫌そうな顔を赤らめる先輩を指摘してやると、頬を思い切り引き伸ばされた。地味に痛い。可能な限り頬を伸ばした後、俺の顔から手を離した先輩は、今度は自分の顔をその手で覆い俯いた。
「…………余裕、ないんだ」
切羽詰まった声にドキッとする。周囲に人がいないのを確認して、先輩の無防備な背中を撫でる。
「今まで押し込めるだけでよかった気持ちが、出してもいいんだってなって、どんどん出てきちまう。ただでさえ、セイシュンの事を考えちまってるのに、お前、無茶ばっかりするから、心配で気がおかしくなりそうだ」
「そんな心配しなくても大丈夫だよ」
常套句を口にすると、どの口が言うんだと言いたげな目を向けられた。
「いや、他の生徒会の奴は知らねーけど柏木は意外と普通だし、スバルは一応『ともだち』って事で落ち着いたから。もう心配いらねぇよ」
スバルと『ともだち』になってしまったのは不本意だが、恋人なんていう迷惑な誤解は解消した。放課後の一部始終を先輩にも説明すると、何故か深い深い溜息を吐かれてしまった。
「セイシュン……こんな事は言いたくないが……友だちは選べ」
正論だが、正論が正論だからと言って全て通る訳ではないのだ。
「俺が言っていい事じゃないけどな」
先輩が困ったような顔で笑う。堪らなくなって、オレは耳をすましながら左右を確認して、先輩の唇に吸い付いた。
「オレの事なら先輩は何言ったっていい」
驚いた顔をする先輩の目を見て言ってやる。
「だって、オレは先輩ので、先輩はオレのだから。オレらは押しも押されもしない恋人同士だからな」
もちろん公共の場である自販機前なので小声だが、ただ事実を口に出すだけで顔がにやけてくるのは『恋人』という言葉にそれだけの魅力がある証拠だろう。
そんな愉快な言葉を先輩にも言わせたくて迫ってみたが、恥ずかしそうに「二人の時に言う」と実に男らしくない、いやはっきり言ってしまおう、女々しい返答をされた。
「じゃあ二人になれる時間もっと作ろうよ。昼飯、オレらの部屋で食うってのは?」
放課後のキャンプ道具探しを止める訳にはいかない。せっかく先輩が用意してくれたキャンプ道具を山センの玩具にしておくなんて嫌だからな。
「他の奴らの迷惑にはならないか?」
「大丈夫だと思うよ。一昨日は誰も来なかっただろ。心配なら、昼休みに部屋で先輩と飯食うって皆元たちに言っとくし」
いや待てよ……それって先輩と二人で部屋に籠もる事を宣言するようなもんだな。大丈夫かな?
「なら、お前の分の昼飯は俺が用意する」
「それは駄目だ。毎日先輩に昼飯を奢ってもらう気はねぇから。オレの分は配給あるから買わなくていい。自分の分だけ持って来いよ」
「じゃあ、中身をいくつか交換しよう。それならいいだろ?」
「うん」
旧館と新館では、おかずに天と地ほど差があるだろうが、そこは加減を見極めて甘えてしまおう。先輩が何も言わず、分かるだろうと言いたげに小指を突き付けてくる。小指で小指を握り返すと、ふにゃっと嬉しそうに笑って「また明日……昼休みにな」と立ち上がった。
「あ、先輩、何か用事あったんじゃあないの?」
部屋に帰ってしまいそうな先輩に、わざわざ旧館まで足を運んでくれた理由を慌てて聞く。
「特に用事はないぞ。セイシュンの顔を見に来ただけだ」
何気ない言葉なのに、なんでこんなに嬉しいんだ。オレもどんどん先輩の顔を見に行こう。無駄に甘ったるい幸福感をお裾分けだ。
「俺が昼間に春日野と話したせいで、放課後そんな事になってるとは知らず……すまん」
自業自得なので先輩が謝る必要はない。そう告げようとしたが、真面目な顔をした先輩に「次は、もっと上手くやる」と言われてしまった。
「次って何! スバルの誤解は解けたよ!?」
「柏木とは、まだちゃんと話せてないんだ。興津とは話したんだけどな」
何を話すつもりなんだろう。先輩のやる気に水を差すのも悪いと思い、柏木の事は諦める事にした。
「話すだけにしとけよ」
「もちろんだ」
先輩の微笑ましい嫉妬も、オレにとってはご馳走なのだと、にやけそうになる顔で思い知る。
どんどん日は短くなり、冷えた風が寒さに感じられる気候に変わりつつあるが、オレらの頭の中は間違いなく春だった。
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