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蜜月
脳筋具合
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「ん……大丈夫だ。腐ってないから、食べても平気だぞ」
毒味をさせる形になってしまった。まあ、缶詰だしな。少々期限が過ぎてようが、腹を壊すほど傷まないだろう。そう思い、自分でも期限切れ缶詰を口の中に入れたが、変に味を付け直されているせいで不味さに磨きがかかっていた。
「口直しだ。ほら、口開けろ」
味覚からのダメージが顔に出たらしく、先輩が得体の知れない何かを差し出してくる。先輩の箸ごと頬張ると、さっき自分で食べた所より美味しく感じた。一口大の鶏肉にクリームシチューのようなソースがかかってたのかな? 口の中で推理を試みるが、次を用意して楽しそうに待っている先輩を前に諦めた。
「すまん、ちょっと汚した」
全体的にデロっとしている先輩の弁当が、口に入りきらず垂れる。舌先で追うが間に合わず指先で拭うと、先輩が指を吸ってきた。
ちゃぶ台を挟んだ位置に置かず、隣合わせにした座布団が地味に良い仕事をしているのだ。どう考えても不自然な位置なので、狭いとか文句を言われるかと思ったが、先輩は何も言わず嬉しそうに付き合ってくれる。こうした些細なハプニングで触れたい気持ちが充たされ、布団を敷くぜ! という欲求が抑えられた。偉い。
デロデロの弁当を行儀良く箸を使って食べ終えると、昼休みの残り時間は半分を切っていた。座布団を枕に先輩がごろりと寝転がったので、オレはその腹をクッション代わりに乗りかかる。
「セイシュン、食ったばかりだぞ。腹を押すな」
苦笑しながら抗議されたが、上から全体重を乗せて押そうがビクともしない可愛げのない腹だったので、無視してくつろいでやった。
「あのさ、週末は泊まりに行ってもいい……てか、行くからな! 絶対に!」
夜這いを返品されたダメージから、ちょっと遠慮しそうになったが、強気に攻めてみる。
「ん、絶対に来い。来なかったら攫いに行くぞ」
頭を起こした先輩は、大真面目な顔で言った。やんわり承諾してくれると思っていたので、ちょっと面食らう。
「消灯後の一人歩きは危ないから、俺が迎えに行くのもいいな」
「部屋まで来るのはなし。いつもの所で待ってろよ、絶対行くから」
男が攫われるってかっこ悪い。行かないという選択肢はないが、ぐずぐずして先輩に攫われないよう気を付けよう。
「柏木とは話せた?」
部屋まで迎えに行くと食い下がりそうな気配を感じて話題を変える。変態の心配をしている訳ではないが、色々と便宜をはかってくれたので気にはなったのだ。
「……一応」
歯切れの悪い返答に興味が湧く。話したくなさそうな先輩を無視して、続きを促す。
「話してる時、羽坂に見つかって……俺の器が小さいと説教された」
不本意そうにむくれる先輩を見て、オレの恋人は過保護なくせにガキっぽい所がある変な奴だなぁと笑ってしまった。
昼飯をオレの部屋で食べるようになって、一緒の時間が増えたと思ったが、放課後に先輩の補習が入るようになり、プラマイゼロどころかマイナスだった。
「なんで三年で進路決定してる奴が毎日のように補習受けるんだよ。おかしいだろ」
先輩の状況に対して、知らず愚痴っているのを教師に聞かれてしまい、どうせならオレが抗議してやると食って掛かったのだが、憐れに思われたのだろう、先輩の学力について軽く教えて貰い閉口した。
筆記試験をパス出来たのは、正真正銘の奇跡だったらしく『こんな学力で社会に放り出す訳にはいかん』と、圏ガクの教師に思わせる何かが先輩にはあるらしい。その時、ふと山センから聞いた事を思いだした。
『今まで人として生きてないって感じでさ……感情がないみたいな? なんか、はじめは喋るって事から教えられてたから、オレでもビビったわ。いくら圏ガクとは言え『あいうえお』から教わってる奴いたらヤバイだろ』
先輩の生い立ちを思えば、勉強を始めてまだ三年も経っていないのだから、苦手なのは仕方がないと言わざるを得なかった。それに気付いてからは、先輩に文句を言うのは止めて、頑張れと応援する事にした。
そして、待ちに待った週末。
散々待たされたオレは、大人しく掘られてやるか、意趣返しに先輩を掘ってやろうか、割と本気で悩んでいた。
「オレ、初めてだしな。上手く出来る自信はねぇな……じゃあ、いつも通りか。先輩も補習で色々溜まってるだろうし、ここはオレを使ってスッキリさせてやろう……うん、そうしよう」
消灯後、そそくさと部屋を抜け出し、今夜の役割分担について一人会議をしていると、薄暗い廊下の隅に先輩の気配を感じた。目をこらすと、先輩もオレに気付いたらしく、控えめに手を振って見せている。
「セイシュン、えらく薄着だな。寒くないか?」
自分も似たり寄ったりな服装のくせに、先輩はオレの格好を指摘した。半袖から長袖に替えた程度の格好は、布団に入るだけなら問題ないが、外を出歩くのには確かに寒かった。
「ちょっと寒いかも。早く先輩の部屋行こ」
先輩の手を握りながら言うと、任せろと言いたげに先輩は手を離し、背中を向けてしゃがみ込んだ。
「最速で行こう」
オレの足が鈍いと言われているようでちょっと立腹したが、先輩の背中に乗るのは嫌いではない。容赦なく飛び乗ると、嬉しそうに「じゃあ出発だ」と足音もなく先輩は走り出した。
先輩は異常な早さで駈ける。先輩の背中に触れていない部分が、冷たい風を受けて冷えていく。耳をすまさないと聞こえない僅かな足音に運ばれ、オレらはあっと言う間に先輩の部屋に到着した。
身体能力って言うのかな、そういうのが先輩はずば抜けているのを実感する。その分、ちょっと勉強が苦手なのかもなと、詮無い事を思った。
毒味をさせる形になってしまった。まあ、缶詰だしな。少々期限が過ぎてようが、腹を壊すほど傷まないだろう。そう思い、自分でも期限切れ缶詰を口の中に入れたが、変に味を付け直されているせいで不味さに磨きがかかっていた。
「口直しだ。ほら、口開けろ」
味覚からのダメージが顔に出たらしく、先輩が得体の知れない何かを差し出してくる。先輩の箸ごと頬張ると、さっき自分で食べた所より美味しく感じた。一口大の鶏肉にクリームシチューのようなソースがかかってたのかな? 口の中で推理を試みるが、次を用意して楽しそうに待っている先輩を前に諦めた。
「すまん、ちょっと汚した」
全体的にデロっとしている先輩の弁当が、口に入りきらず垂れる。舌先で追うが間に合わず指先で拭うと、先輩が指を吸ってきた。
ちゃぶ台を挟んだ位置に置かず、隣合わせにした座布団が地味に良い仕事をしているのだ。どう考えても不自然な位置なので、狭いとか文句を言われるかと思ったが、先輩は何も言わず嬉しそうに付き合ってくれる。こうした些細なハプニングで触れたい気持ちが充たされ、布団を敷くぜ! という欲求が抑えられた。偉い。
デロデロの弁当を行儀良く箸を使って食べ終えると、昼休みの残り時間は半分を切っていた。座布団を枕に先輩がごろりと寝転がったので、オレはその腹をクッション代わりに乗りかかる。
「セイシュン、食ったばかりだぞ。腹を押すな」
苦笑しながら抗議されたが、上から全体重を乗せて押そうがビクともしない可愛げのない腹だったので、無視してくつろいでやった。
「あのさ、週末は泊まりに行ってもいい……てか、行くからな! 絶対に!」
夜這いを返品されたダメージから、ちょっと遠慮しそうになったが、強気に攻めてみる。
「ん、絶対に来い。来なかったら攫いに行くぞ」
頭を起こした先輩は、大真面目な顔で言った。やんわり承諾してくれると思っていたので、ちょっと面食らう。
「消灯後の一人歩きは危ないから、俺が迎えに行くのもいいな」
「部屋まで来るのはなし。いつもの所で待ってろよ、絶対行くから」
男が攫われるってかっこ悪い。行かないという選択肢はないが、ぐずぐずして先輩に攫われないよう気を付けよう。
「柏木とは話せた?」
部屋まで迎えに行くと食い下がりそうな気配を感じて話題を変える。変態の心配をしている訳ではないが、色々と便宜をはかってくれたので気にはなったのだ。
「……一応」
歯切れの悪い返答に興味が湧く。話したくなさそうな先輩を無視して、続きを促す。
「話してる時、羽坂に見つかって……俺の器が小さいと説教された」
不本意そうにむくれる先輩を見て、オレの恋人は過保護なくせにガキっぽい所がある変な奴だなぁと笑ってしまった。
昼飯をオレの部屋で食べるようになって、一緒の時間が増えたと思ったが、放課後に先輩の補習が入るようになり、プラマイゼロどころかマイナスだった。
「なんで三年で進路決定してる奴が毎日のように補習受けるんだよ。おかしいだろ」
先輩の状況に対して、知らず愚痴っているのを教師に聞かれてしまい、どうせならオレが抗議してやると食って掛かったのだが、憐れに思われたのだろう、先輩の学力について軽く教えて貰い閉口した。
筆記試験をパス出来たのは、正真正銘の奇跡だったらしく『こんな学力で社会に放り出す訳にはいかん』と、圏ガクの教師に思わせる何かが先輩にはあるらしい。その時、ふと山センから聞いた事を思いだした。
『今まで人として生きてないって感じでさ……感情がないみたいな? なんか、はじめは喋るって事から教えられてたから、オレでもビビったわ。いくら圏ガクとは言え『あいうえお』から教わってる奴いたらヤバイだろ』
先輩の生い立ちを思えば、勉強を始めてまだ三年も経っていないのだから、苦手なのは仕方がないと言わざるを得なかった。それに気付いてからは、先輩に文句を言うのは止めて、頑張れと応援する事にした。
そして、待ちに待った週末。
散々待たされたオレは、大人しく掘られてやるか、意趣返しに先輩を掘ってやろうか、割と本気で悩んでいた。
「オレ、初めてだしな。上手く出来る自信はねぇな……じゃあ、いつも通りか。先輩も補習で色々溜まってるだろうし、ここはオレを使ってスッキリさせてやろう……うん、そうしよう」
消灯後、そそくさと部屋を抜け出し、今夜の役割分担について一人会議をしていると、薄暗い廊下の隅に先輩の気配を感じた。目をこらすと、先輩もオレに気付いたらしく、控えめに手を振って見せている。
「セイシュン、えらく薄着だな。寒くないか?」
自分も似たり寄ったりな服装のくせに、先輩はオレの格好を指摘した。半袖から長袖に替えた程度の格好は、布団に入るだけなら問題ないが、外を出歩くのには確かに寒かった。
「ちょっと寒いかも。早く先輩の部屋行こ」
先輩の手を握りながら言うと、任せろと言いたげに先輩は手を離し、背中を向けてしゃがみ込んだ。
「最速で行こう」
オレの足が鈍いと言われているようでちょっと立腹したが、先輩の背中に乗るのは嫌いではない。容赦なく飛び乗ると、嬉しそうに「じゃあ出発だ」と足音もなく先輩は走り出した。
先輩は異常な早さで駈ける。先輩の背中に触れていない部分が、冷たい風を受けて冷えていく。耳をすまさないと聞こえない僅かな足音に運ばれ、オレらはあっと言う間に先輩の部屋に到着した。
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