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蜜月
圏ガクお風呂事情
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「風呂の掃除をしようと思うんだ。ちゃんと湯船に浸かったら、体も温まるだろ」
「うぇ」
先輩の提案にオレは即座に嫌そうな声を上げてしまう。
「先輩、風呂に入りたいの?」
「んー、俺が入りたいと言うより、セイシュンを風呂に浸からせてやりたいんだ。お前、部屋に戻る頃には湯冷めどころかガタガタ震えてるだろ」
「うぇぇ」
オレを風呂に浸けたいと直球で言われ、当然の事ながら嫌だと言わんばかりの声が出た。
風呂が嫌いな訳ではない……が、圏ガクの湯船に浸かろうとは死んでも思えない。春先には一度、知らずに入ってしまったとは言え、もう知ってしまったのだ。あの風呂でヤった奴らがいて、射精した上に血の小便まで垂れ流した事を。
オレの態度に怪訝な顔をする先輩へ事情を全て教えてやる。旧館の湯船がいかに汚いのか。
「ただでさえ、野郎の垢まみれで汚いのにトドメにそれだよ。風呂に浸かろうものなら、病気になるから絶対」
「だから、掃除しようと思うんだ。セイシュンの中の認識を書き換えるくらい、完璧に清潔な湯船にしてみせる」
オレの説明を聞いて、先輩は大真面目な顔で言い切った。そして、ふにゃっと笑って「コタツからセイシュンを取り戻したいんだ」とクソ可愛い事を言いやがった。
部屋に戻るなり、コタツにダイブするオレをそんなふうに思っていたなんて……今すぐにコタツを抜け出し、先輩を押し倒してやりたい……のに、外気と大差のないコタツの外には出られなかった。自分の根性のなさが憎い。
「わかった。オレも手伝う。明日は風呂掃除する」
覚悟を決めて伝えると、先輩は嬉しそうに小指をオレに突き付けた。まだかじかんだままの小指を絡めてやると、ぎゅっと一瞬だけ握り返してくれる。
「小吉には俺が話してくる。セイシュンはコタツに戻ってろ」
コタツの外は寒いが、部屋の外はもっと寒い。先輩に甘えてスルスルとコタツに戻ると、少し笑われてしまった。
二人揃って仕事をサボるのを申し訳なく思ってか、先輩は駄菓子を抱えて冷蔵庫に向かった。
先輩と同じく、オレも小吉さんに対して申し訳なく思ってしまう。奉仕作業は強制ではなく自由参加な訳だが。
「小吉さんにも気持ちよく風呂に入って貰えるよう、明日は気合い入れて頑張るか」
風呂に対するモチベーションを上げた後、コタツの中で睡魔に襲われ、先輩の帰りも待たず、身を任せてしまった。不覚。
翌日、自習組(残留一年全員)が下山したのを見計らい、オレらは行動を開始した。
まずは風呂掃除する事を校内に残っている教師……と言うか読書中の霧夜氏に了解を取り、新館に忍び込み(先輩自身のカードキーを使用しているので決してやましくはない)旧館にはない最新の洗剤を入手した。狭間が知ったら悔しがって歯軋りしそうなくらい、新館の生活用品は充実しており掃除道具も『ここはドラッグストアか!』と思うほどの品揃えだった。
とにかく強力そうな洗剤数種と、狭間の手入れが行き届いた掃除用具を勢揃いさせ、濡れてもいい服に着替え浴場の扉を開いた。
「……けっこうデカイよね」
掃除当番で何度も掃除した事があるとは言え、オレらの班は一人で十人以上の働きをする狭間がいた為、あまり大変だった記憶はない。だが、こうして先輩と二人で風呂場に立ってみると、数十人の同時使用が前提の風呂場は異常に広かった。
「あと予想はしてたけど……それを軽く上回るくらい汚いな」
窓から入る日光に照らされた風呂場は、電気の光で見るよりも鮮明に悲惨さを露わにする。洗い場もカビなのか苔なのか分からない薄黒さが床や壁にこびり付いているし、浴槽は垢が堆積しているのか斑な模様がはっきり見える。
「…………ッ! よし。やるかっ」
現実逃避しそうになったが、踏み止まり気合いを入れる。洗剤を両手に構え、いざ浴槽に足を踏み入れ、文字通り苔の上を歩くような感触に襲われた。ぬるりとした感触は当然のように滑り、垢の上にダイブ……。
「セイシュン、ここを風呂だと思うのは危険だ。靴を履いてやろう」
する直前に先輩が体を支えてくれる。
足の裏を襲う強烈な不快感を手にした洗剤で洗った後、オレらは土足で浴場掃除に挑んだ。
はじめこそ土の付いた靴で湯船に踏み入る事に抵抗もあったが、靴の持ち込む汚れよりデッキブラシで擦り落とした湯垢のおぞましさに、靴が汚れるという意識の方が強くなった。
「セイシュンの言う通り、このまま入ってたら本気で病気になりそうだな」
激しく洗剤を撒いているのに白い泡が全く立たない現状を見て、先輩が呆れたように呟く。湯船に浸かるって選択肢が元からないせいか、狭間も当番が当たっている日にしか浴場の掃除をしないからな。旧館に住まう奴の汚れの集合体だと思えば、納得出来る汚さだ。正直な感想としては、便所の方がまだ清潔感がある。
「うぇ」
先輩の提案にオレは即座に嫌そうな声を上げてしまう。
「先輩、風呂に入りたいの?」
「んー、俺が入りたいと言うより、セイシュンを風呂に浸からせてやりたいんだ。お前、部屋に戻る頃には湯冷めどころかガタガタ震えてるだろ」
「うぇぇ」
オレを風呂に浸けたいと直球で言われ、当然の事ながら嫌だと言わんばかりの声が出た。
風呂が嫌いな訳ではない……が、圏ガクの湯船に浸かろうとは死んでも思えない。春先には一度、知らずに入ってしまったとは言え、もう知ってしまったのだ。あの風呂でヤった奴らがいて、射精した上に血の小便まで垂れ流した事を。
オレの態度に怪訝な顔をする先輩へ事情を全て教えてやる。旧館の湯船がいかに汚いのか。
「ただでさえ、野郎の垢まみれで汚いのにトドメにそれだよ。風呂に浸かろうものなら、病気になるから絶対」
「だから、掃除しようと思うんだ。セイシュンの中の認識を書き換えるくらい、完璧に清潔な湯船にしてみせる」
オレの説明を聞いて、先輩は大真面目な顔で言い切った。そして、ふにゃっと笑って「コタツからセイシュンを取り戻したいんだ」とクソ可愛い事を言いやがった。
部屋に戻るなり、コタツにダイブするオレをそんなふうに思っていたなんて……今すぐにコタツを抜け出し、先輩を押し倒してやりたい……のに、外気と大差のないコタツの外には出られなかった。自分の根性のなさが憎い。
「わかった。オレも手伝う。明日は風呂掃除する」
覚悟を決めて伝えると、先輩は嬉しそうに小指をオレに突き付けた。まだかじかんだままの小指を絡めてやると、ぎゅっと一瞬だけ握り返してくれる。
「小吉には俺が話してくる。セイシュンはコタツに戻ってろ」
コタツの外は寒いが、部屋の外はもっと寒い。先輩に甘えてスルスルとコタツに戻ると、少し笑われてしまった。
二人揃って仕事をサボるのを申し訳なく思ってか、先輩は駄菓子を抱えて冷蔵庫に向かった。
先輩と同じく、オレも小吉さんに対して申し訳なく思ってしまう。奉仕作業は強制ではなく自由参加な訳だが。
「小吉さんにも気持ちよく風呂に入って貰えるよう、明日は気合い入れて頑張るか」
風呂に対するモチベーションを上げた後、コタツの中で睡魔に襲われ、先輩の帰りも待たず、身を任せてしまった。不覚。
翌日、自習組(残留一年全員)が下山したのを見計らい、オレらは行動を開始した。
まずは風呂掃除する事を校内に残っている教師……と言うか読書中の霧夜氏に了解を取り、新館に忍び込み(先輩自身のカードキーを使用しているので決してやましくはない)旧館にはない最新の洗剤を入手した。狭間が知ったら悔しがって歯軋りしそうなくらい、新館の生活用品は充実しており掃除道具も『ここはドラッグストアか!』と思うほどの品揃えだった。
とにかく強力そうな洗剤数種と、狭間の手入れが行き届いた掃除用具を勢揃いさせ、濡れてもいい服に着替え浴場の扉を開いた。
「……けっこうデカイよね」
掃除当番で何度も掃除した事があるとは言え、オレらの班は一人で十人以上の働きをする狭間がいた為、あまり大変だった記憶はない。だが、こうして先輩と二人で風呂場に立ってみると、数十人の同時使用が前提の風呂場は異常に広かった。
「あと予想はしてたけど……それを軽く上回るくらい汚いな」
窓から入る日光に照らされた風呂場は、電気の光で見るよりも鮮明に悲惨さを露わにする。洗い場もカビなのか苔なのか分からない薄黒さが床や壁にこびり付いているし、浴槽は垢が堆積しているのか斑な模様がはっきり見える。
「…………ッ! よし。やるかっ」
現実逃避しそうになったが、踏み止まり気合いを入れる。洗剤を両手に構え、いざ浴槽に足を踏み入れ、文字通り苔の上を歩くような感触に襲われた。ぬるりとした感触は当然のように滑り、垢の上にダイブ……。
「セイシュン、ここを風呂だと思うのは危険だ。靴を履いてやろう」
する直前に先輩が体を支えてくれる。
足の裏を襲う強烈な不快感を手にした洗剤で洗った後、オレらは土足で浴場掃除に挑んだ。
はじめこそ土の付いた靴で湯船に踏み入る事に抵抗もあったが、靴の持ち込む汚れよりデッキブラシで擦り落とした湯垢のおぞましさに、靴が汚れるという意識の方が強くなった。
「セイシュンの言う通り、このまま入ってたら本気で病気になりそうだな」
激しく洗剤を撒いているのに白い泡が全く立たない現状を見て、先輩が呆れたように呟く。湯船に浸かるって選択肢が元からないせいか、狭間も当番が当たっている日にしか浴場の掃除をしないからな。旧館に住まう奴の汚れの集合体だと思えば、納得出来る汚さだ。正直な感想としては、便所の方がまだ清潔感がある。
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