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蜜月
初給料、五百円
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ちょっと過激な衝動をヤキモチだと自覚しながら公民館に戻ると、オレらの姿が見えたのだろう、中から村主さんが直々に出迎えてくれた。
小吉さんが緊張しながらも活動報告をすると、村主さんは嬉しそうな顔で「佐藤さんからお礼の電話を貰ったわ」とオレらの働きが予想以上のものだったと褒めてくれた。
「あの、これ、佐藤さんがくれてしまいました。おれと夷川の分です。金城先輩は、先生だと思われてたのでありません」
お褒めの言葉を頂いた後、照れているのか赤面した小吉さんが、忘れまいと慌てて二枚の五百円硬貨を差し出すと、村主さんは渋い顔でそれを受け取った。
「こういう事はしないように言ってあるんだけどね」
受け取った硬貨とオレらの顔を見比べ困ったように笑うと、村主さんは何故か小吉さんの手に硬貨を戻してしまった。
「今後は生徒に金品を与えないよう厳重に注意しておきます」
「あの、おれ、今から、佐藤さんに返してきます!」
オレには村主さんの意図が分からなかったが、小吉さんは察したらしく、今にも走り出しそうだった。
「ちゃんと報告してくれたし、今回はおばさん見なかった事にするから、ポケットにしまっておきなさい」
走り出しそうな格好のまま固まる小吉さん。オレも同じく、どう返事したらいいのか分からず黙り込んだ。
「本当はバイト代くらい出してあげたいんだけどね。それはしない約束なのよ」
苦笑しながら村主さんが言うのと同時に、スクラップ寸前の車が公民館へやって来る。早くしまってと、村主さんに急かされ五百円は再びオレらのポケットへと戻って来てしまった。
働いた対価として初めて貰ったお金に、ちょっとだけテンションが上がる。でも、貰ったのはオレらだけだった事を思いだし、先輩にも半分やりたい気持ちになった。
ちらっと先輩の方を見る。たかが五百円だし当たり前なんだが、特に気にしている様子は全く無い。それでも、一緒に頑張った先輩と成果を分け合いたかった。
「先輩、帰ったらジュース飲もう」
鼻息荒く提案すると、こんたんが見え見えだったのか「寒いから冷たいジュースは今度にしよう」と華麗にスルーされてしまった。
圏ガクの自販機に気の利いた『あたたか~い』飲み物は存在しない。先輩の言う通り冷えたジュースオンリーだ。
コタツはあるが部屋は寒い。せっかくの初給料、美味しく飲めないなら意味がないと、ちょっと上がったテンションは簡単に下がった。
五百円のテンションは下がったが、一日中『先生』と呼ばれ続け、いらん気遣いをしながらも率先して働いた奴を労いたい気持ちは当然なくならない。
昨日は少しばかり失敗してしまったが、今日こそは冬休みの初セックスをしてやるぞと意気込み帰校。
由々式のおばさんが作ってくれた美味しい弁当を食べ、湯冷めしないよう先輩と一緒に風呂に入った……のだが……。
「おぉ、寒いと思ったら雪か。セイシュン、雪が降ってるぞ」
お世辞にも温まったとは言えない、むしろ一日の汚れを落としただけの行水のような風呂上がり。オレたちを待っていたのはチラチラと雪が舞うほどの極寒だった。
濡れた髪は本気で凍りそうだし、空気読まない気候にふざけんなと胸中は悪態を吐きながらも、珍しそうに雪を眺める先輩に付き合い「積もったら何する?」トークを繰り広げ、見事に体の芯まで冷やしてやったぜ。
「さ、さむッさむぃ」
デジャヴ! コタツの中で丸まりながら震えがおさまるのを待つが、暫くかかりそうだった。
「セイシュン、明日は学校に残ろうと思うんだが、構わないか?」
そんな中、コタツの外でせっせと寝床を用意してくれる先輩が、らしくない事を言い出す。
「明日は先輩を『先生』って呼ぶ人はいないから大丈夫だよ」
コタツから顔を出してフォローするが、先輩は困ったように笑って「違うんだ」と、寝床準備を中断してコタツに足を突っ込んだ。
「今日みたいな仕事は、年明けにもう一件だけだって言ってただろ。明日からは全員で公民館の大掃除だって」
オレらが五百円をポケットにしまった後、村主さんから今後の予定が発表された。今日のような個人宅への派遣は年内はないらしく、明日からは三馬鹿と一緒に公民館での掃除に勤しむ事になっている。
「グループごとに仕事があるなら、抜けるのは難しいと思ったんだが、明日からは皆一緒だろう。なら、俺が一人くらい抜けてもいいかなと思ってな」
連日丸一日の掃除はめんどくさいよな。気持ちは分かる。
「じゃあ、オレも残る」
美味しい昼飯に心惹かれなくもないが、代わりに先輩をおいしく頂くとしよう。
「セイシュンも手伝ってくれるのか?」
オレがよからぬ企みにニヤけていると、先輩は爽やかな声で言った。先輩は先輩で単なるサボりではなく、やりたい事があるらしい。
もちろん、手伝うのはやぶさかではない。何をしたいんだと聞けば、先輩は嬉しそうな顔を見せた。
小吉さんが緊張しながらも活動報告をすると、村主さんは嬉しそうな顔で「佐藤さんからお礼の電話を貰ったわ」とオレらの働きが予想以上のものだったと褒めてくれた。
「あの、これ、佐藤さんがくれてしまいました。おれと夷川の分です。金城先輩は、先生だと思われてたのでありません」
お褒めの言葉を頂いた後、照れているのか赤面した小吉さんが、忘れまいと慌てて二枚の五百円硬貨を差し出すと、村主さんは渋い顔でそれを受け取った。
「こういう事はしないように言ってあるんだけどね」
受け取った硬貨とオレらの顔を見比べ困ったように笑うと、村主さんは何故か小吉さんの手に硬貨を戻してしまった。
「今後は生徒に金品を与えないよう厳重に注意しておきます」
「あの、おれ、今から、佐藤さんに返してきます!」
オレには村主さんの意図が分からなかったが、小吉さんは察したらしく、今にも走り出しそうだった。
「ちゃんと報告してくれたし、今回はおばさん見なかった事にするから、ポケットにしまっておきなさい」
走り出しそうな格好のまま固まる小吉さん。オレも同じく、どう返事したらいいのか分からず黙り込んだ。
「本当はバイト代くらい出してあげたいんだけどね。それはしない約束なのよ」
苦笑しながら村主さんが言うのと同時に、スクラップ寸前の車が公民館へやって来る。早くしまってと、村主さんに急かされ五百円は再びオレらのポケットへと戻って来てしまった。
働いた対価として初めて貰ったお金に、ちょっとだけテンションが上がる。でも、貰ったのはオレらだけだった事を思いだし、先輩にも半分やりたい気持ちになった。
ちらっと先輩の方を見る。たかが五百円だし当たり前なんだが、特に気にしている様子は全く無い。それでも、一緒に頑張った先輩と成果を分け合いたかった。
「先輩、帰ったらジュース飲もう」
鼻息荒く提案すると、こんたんが見え見えだったのか「寒いから冷たいジュースは今度にしよう」と華麗にスルーされてしまった。
圏ガクの自販機に気の利いた『あたたか~い』飲み物は存在しない。先輩の言う通り冷えたジュースオンリーだ。
コタツはあるが部屋は寒い。せっかくの初給料、美味しく飲めないなら意味がないと、ちょっと上がったテンションは簡単に下がった。
五百円のテンションは下がったが、一日中『先生』と呼ばれ続け、いらん気遣いをしながらも率先して働いた奴を労いたい気持ちは当然なくならない。
昨日は少しばかり失敗してしまったが、今日こそは冬休みの初セックスをしてやるぞと意気込み帰校。
由々式のおばさんが作ってくれた美味しい弁当を食べ、湯冷めしないよう先輩と一緒に風呂に入った……のだが……。
「おぉ、寒いと思ったら雪か。セイシュン、雪が降ってるぞ」
お世辞にも温まったとは言えない、むしろ一日の汚れを落としただけの行水のような風呂上がり。オレたちを待っていたのはチラチラと雪が舞うほどの極寒だった。
濡れた髪は本気で凍りそうだし、空気読まない気候にふざけんなと胸中は悪態を吐きながらも、珍しそうに雪を眺める先輩に付き合い「積もったら何する?」トークを繰り広げ、見事に体の芯まで冷やしてやったぜ。
「さ、さむッさむぃ」
デジャヴ! コタツの中で丸まりながら震えがおさまるのを待つが、暫くかかりそうだった。
「セイシュン、明日は学校に残ろうと思うんだが、構わないか?」
そんな中、コタツの外でせっせと寝床を用意してくれる先輩が、らしくない事を言い出す。
「明日は先輩を『先生』って呼ぶ人はいないから大丈夫だよ」
コタツから顔を出してフォローするが、先輩は困ったように笑って「違うんだ」と、寝床準備を中断してコタツに足を突っ込んだ。
「今日みたいな仕事は、年明けにもう一件だけだって言ってただろ。明日からは全員で公民館の大掃除だって」
オレらが五百円をポケットにしまった後、村主さんから今後の予定が発表された。今日のような個人宅への派遣は年内はないらしく、明日からは三馬鹿と一緒に公民館での掃除に勤しむ事になっている。
「グループごとに仕事があるなら、抜けるのは難しいと思ったんだが、明日からは皆一緒だろう。なら、俺が一人くらい抜けてもいいかなと思ってな」
連日丸一日の掃除はめんどくさいよな。気持ちは分かる。
「じゃあ、オレも残る」
美味しい昼飯に心惹かれなくもないが、代わりに先輩をおいしく頂くとしよう。
「セイシュンも手伝ってくれるのか?」
オレがよからぬ企みにニヤけていると、先輩は爽やかな声で言った。先輩は先輩で単なるサボりではなく、やりたい事があるらしい。
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