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反逆の家畜
化け物退治
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「こんな所で何してんの、えべっさん」
スバルの周りに居る奴らは、スバルと同じ呼び方でオレを呼ぶ。なんか妙に浸透してしまっていた。別に止めろとは言わないが、殆ど面識のない奴から言われると戸惑う。
「お前に関係ないだろ。それより、スバルあっちに走って行ったぞ」
親切にもオレがスバルの行方を教えてやると、いやいやとコウスケは顔の前で手を振って、追いかけないよと薄情な事を言ってのけた。
「だって、ここから先に足踏み入れたら寮則違反ですよね、寮長」
「ふむ、確かにその通りだ」
あー確かそんな事も書いてあったかなぁ。他学年のフロアには原則立ち入り禁止だったか。これは一年フロアに二年が入る事も禁じているんだが……じゃあオレは現状寮則違反を犯しているのか。まあ、そんなの取るに足らないけどな、もっとえげつない事をやらかしてしまった後だから。
「て、事なのでぇ……えべっさん……スバルの事は任せた!」
「はぁ!? 何言ってんだ、てめぇ」
オレが文句を言おうとする前に、コウスケは自分が言い終わるや、一目散に階段を上って行ってしまった。その無責任さに呆れて、オレだって知ったこっちゃねぇと思っていると、廊下の先から色んな物が壊れる音が聞こえてきた。
「今、ここを走り去ったのが春日野遼一か?」
何かが割れる音に何かが転がる音、怒声に悲鳴に歓声まで聞こえてくる中、寮長はマイペースを崩さず、それらを特に気にした様子もなく聞いてきた。
短くその問いに答えると、寮長はポケットから何かを取り出して見せた。それは手のひらに乗るくらいの、黒い箱から小型のマイクが細いコードで繋がっている、マイクがイヤホンだったら携帯オーディオのような物だった。
「夷川、お前は春日野と親しいのか?」
コードを指先で弄る寮長から、不吉な事を聞かれてしまう。クラスメイトだからって、親しいとは言わないよな。そうオレがしょっぱい事を考えていると、さらに寮長は踏み込んだ質問をしてきた。
「暴れている春日野を押さえる事は出来るか?」
オレは思わず息を飲んでしまった。たった一週間だが、何度となくこういった場面に出くわしてきた。その度、スバルを止めに入っていたが、それはオレ一人ではなく、皆元や他の連中と一緒にだ。
自分しか居ない今、そうそう安請け合いは出来ないと思い、首を横に振ろうとした時、寮長は実に不適に笑って見せた。
「お前は初日の顛末を知っていたのだったな。ならば分かるな。雫にとってあの春日野という一年は相性が悪いらしい。今、ここで雫を呼び寄せても、また騒動が大きくなるだけだ」
冷や汗が背中をタラタラと流れていく。まだ汗ばむ季節には早いと言うのに。
「先輩方にご迷惑をかける訳にはいかない。旧館の問題は僕たちで解決しないとな」
オレとしては、先輩を呼んで色々と助けて欲しいと切実に思ってしまうのだが、それは絶対に口にしない方がよさそうだった。寮長の目が全く笑っていなかったからな。
「さて、夷川。これから僕が言おうとしている事、利口なお前ならば分かるな……先ほどの一件、春日野を無事に取り押さえる事が出来たなら、僕だけの胸にしまっておこうと思う」
「……取り押さえる事が……出来なかった時は?」
もうこの時点で他の選択肢はないのだが、一応ちょっとだけ自分の身を危険にさらさず済む方法がないか気になって、そんな言葉がつい口から転がり出てしまった。寮長の表情を窺うと、とても鮮やかな微笑が咲き誇っていた。
「僕の使用人の忠誠心を思い知る事になる」
オレは潔く立ち上がり、どこかで見た事のある光景を思い出し、自然と敬礼していた。
「ありがたく、そのお役目頂戴致します」
自分でもどうかと思う返事をして、オレはスバルの後を追いかけようとした。けれど、何故か寮長はオレの腕を掴み、ジッとこちらを見つめて独り言みたいに呟いた。
「怪我はするな」
酷い無茶を言う人だった。なんだか笑えてきたので、冗談を返すノリで「はい」と答えると寮長は手を離し、膝に置いた黒い箱を弄りだした。
「後始末は雫にやらせるから心配はいらない。春日野を捕らえたら、すぐにここへ戻って来るように」
「それで呼ぶんですか?」
ちょっと気になったので聞いてみる。寮長はTシャツの襟ぐりにマイクを留める仕草を見せた。
「どこに居ても僕の声が聞こえるようにしたいと言われて、無理矢理持たされているんだ」
なるほど、この主従コンビのテレパシーはコレのせいか。苦笑しながら答えてくれた寮長は、どこか恥ずかしそうだった。
オレは改めて気合いを入れた。スバルの蛮行を止めないと明日以降の朝日を拝めなくなる。そんな危機感を新たに戦地へと赴く。
廊下の先に視線をやると、一歩も進んでいないのに反転して自分の部屋に戻りたくなったが、旦那様にザーメンぶっかけた奴として、あの執事モドキの前に突き出されない為にも、必死で足を動かし、ひたすら進む。
廊下を少し進むと、わらわらと野次馬が湧いて出ていた。ここは二年のフロアなので、当然その野次馬は二年という事になるのだが、今はあまり深く考えずに、それらを無視して目的の場所へと急ぐ。
まさか半裸の一年がここに居るとは思うまい。……まあ、目の前にもっと面白い見世物があるのでスルーされているが、半裸というだけでオレもかなり悪目立ちしていた。こんな心地の悪い場所、早々にお暇したいものだ。
寮長が居る何もない空間と対になる位置、そこがメイン会場だった。
どうやら、向こうとは違いそこは談話室になっていたらしく、由々式に聞いた話では扇風機すら贅沢品との事だったが、何に使うのか、そんなに大きくはないが液晶のテレビがあったようだ。薄いボディに長めの棒が二本も貫通し、既にあった事は過去形になってしまっているが、他にも色々と時間を潰せそうな物が目に付く。
空間自体広いようで卓球台に箱形のレトロなゲーム機(電気を使わない玉転がして遊ぶのとか)トランプの散らばるテーブルの側には、ペットボトルの飲料が売られている自販機まである。一年が使える自販機はオール紙パックなのに!
目の前にある物体が何であるかを見極め、それらが元あった姿を頭の中で思い描くと、どうやらこの談話室、ひなびた温泉旅館の遊戯場といった様相だったらしい。
それらが推測の域を出ないのは、そこが見るも無惨な現状を晒しているからだ。一番に目に付いたテレビに始まり、卓球台は見事に真っ二つに割れ何人かの生徒がその上に倒れ込んで動かないし、ゲーム機に頭を突っ込む程に没頭している奴も居る。
ひっくり返されたテーブルに押し潰されてピクリともしない奴もいれば、頭から血を流しながら廊下へ逃げようと這って居る奴も居た。そして、オレの目的であるスバルは、自販機の側で見覚えのある背格好の男を吊し上げていた。
「よくもオレっちのモン盗みやがったな、豚がぁ! てめぇの脂にまみれて切れなくなってたら、絞め殺すぞ」
「はあぁ! 何言ってんのか、わっかんねぇーって言ってんだろが!」
化け物の化粧を落とした笹倉は、まあ最初の印象よりもまともだったが、その太い首にスバルの指が容赦なく食い込んで、威勢のいい声の割に切羽詰まった顔色をしている。
スバルを止めなければいけないのだが、ざまぁとか思ってしまう自分も居て、少しだけ自分の気持ちに素直になる事にした。ちょっとの間、傍観していようと。
けれど周りの野次馬に混じって、スバルと笹倉の噛み合わない問答を眺めていると、自販機を背に追い詰められていた笹倉がオレに気付いてしまう。
「夷川! てめぇの差し金か!」
憎悪の視線を一身に受け、オレはその心地よさにニヤリと笑って見せた。
そうやって奴の怒りにガソリンを撒いた結果、笹倉はスバルを渾身の力で張り倒しこちらへ猪のように突っ込んで来る。
オレもその勢いに乗り、視界の端にあった転がったテーブルを飛び乗るように高く、高く蹴った。タイミングが合わず失敗したら、なんて考える暇なかった。ただ、その場のノリに身を任せた。
空中で靴底に強い感触。地面を踏みしめるより確かな感触が、豚の断末魔のような気の抜けた音と共に、オレの中から今日のモヤモヤをスッキリと消し去った。
膝から崩れるように目の前に転がった巨体を覗き込む。本当なら、この憎たらしい顔にファイルの中身をぶちまけたかったのだが、まあ鼻血に鼻水、涙に涎、それらに塗れたぐちゃぐちゃの顔には出来たので良しとしとこう。
しかし、オレが満足感に浸れる時間はない。野次馬がざわめき出す。
オレらが一年だと全員に認識される前に逃げないと、まずい。今この場にいる野次馬だけを振り切ればいいという問題ではないのだ。ここは二年フロア、誰かが一声かければ次から次へと二年が湧いて出る。
オレは目的のスバルを回収するべく張り倒されたスバルの行方を探すが、どうした事か見当たらない。確か窓がある方へと……張り、倒された、ような気がするんだが……。
「スバル!」
開け放たれていた、と言うか割れてるのか、てか割ったのか! とにかく、窓に駆け寄り身を乗り出し下を覗き込むと、スバルは器用にも着地を決めていた。
落ちたと言っても二階だからな、ここ。まあそれはいい。問題なのは、スバルが着地した場所だな。一階の窓から漏れる蛍光灯の光の中に見えるのは、スバルに踏みつぶされた生徒指導の教師の、潰れたカエルのような地面に投げ出された四肢だった。
オレがささやかな復讐を達成した後、騒動は更に激化した。どうしてかと言うと、旦那様に待機命令を出されヤキモキしていた執事モドキが、談話室の騒動に気付き、その心配からくる鬱憤を野次馬たちにぶつけだしたからだ。
倒れた生徒が見境のない執事モドキによって再び宙を舞うという事態に、底知れぬ恐怖を感じたオレはスバルに倣い窓から脱出。二階くらいの高さならいけるだろうと、軽く飛んでみたら予想以上に足に響いて、暫く身動きが取れなくなってしまった。
下にクッションになるモノがあったスバルは、そんなオレを指さしてケラケラ笑ったが、クッションになったオッサンにその首根っこを掴まれ、強烈な頭突きを食らいぶっ倒れた。教師による体罰を目の当たりにしたオレは、自分は関係ないと言い逃れしようとして失敗、スバルと同じ運命を辿った。
旧館の談話室が全壊した今回の騒動、頭突き一発で済むはずがなく、寮長の横で一升瓶抱えて寝ていたジジィによって(このジジィが圏ガクの校医ならしい)酒の抜けない怪しげな手つきで一通り治療を受けた後、オレらは食堂に集められる事になった。
スバルの周りに居る奴らは、スバルと同じ呼び方でオレを呼ぶ。なんか妙に浸透してしまっていた。別に止めろとは言わないが、殆ど面識のない奴から言われると戸惑う。
「お前に関係ないだろ。それより、スバルあっちに走って行ったぞ」
親切にもオレがスバルの行方を教えてやると、いやいやとコウスケは顔の前で手を振って、追いかけないよと薄情な事を言ってのけた。
「だって、ここから先に足踏み入れたら寮則違反ですよね、寮長」
「ふむ、確かにその通りだ」
あー確かそんな事も書いてあったかなぁ。他学年のフロアには原則立ち入り禁止だったか。これは一年フロアに二年が入る事も禁じているんだが……じゃあオレは現状寮則違反を犯しているのか。まあ、そんなの取るに足らないけどな、もっとえげつない事をやらかしてしまった後だから。
「て、事なのでぇ……えべっさん……スバルの事は任せた!」
「はぁ!? 何言ってんだ、てめぇ」
オレが文句を言おうとする前に、コウスケは自分が言い終わるや、一目散に階段を上って行ってしまった。その無責任さに呆れて、オレだって知ったこっちゃねぇと思っていると、廊下の先から色んな物が壊れる音が聞こえてきた。
「今、ここを走り去ったのが春日野遼一か?」
何かが割れる音に何かが転がる音、怒声に悲鳴に歓声まで聞こえてくる中、寮長はマイペースを崩さず、それらを特に気にした様子もなく聞いてきた。
短くその問いに答えると、寮長はポケットから何かを取り出して見せた。それは手のひらに乗るくらいの、黒い箱から小型のマイクが細いコードで繋がっている、マイクがイヤホンだったら携帯オーディオのような物だった。
「夷川、お前は春日野と親しいのか?」
コードを指先で弄る寮長から、不吉な事を聞かれてしまう。クラスメイトだからって、親しいとは言わないよな。そうオレがしょっぱい事を考えていると、さらに寮長は踏み込んだ質問をしてきた。
「暴れている春日野を押さえる事は出来るか?」
オレは思わず息を飲んでしまった。たった一週間だが、何度となくこういった場面に出くわしてきた。その度、スバルを止めに入っていたが、それはオレ一人ではなく、皆元や他の連中と一緒にだ。
自分しか居ない今、そうそう安請け合いは出来ないと思い、首を横に振ろうとした時、寮長は実に不適に笑って見せた。
「お前は初日の顛末を知っていたのだったな。ならば分かるな。雫にとってあの春日野という一年は相性が悪いらしい。今、ここで雫を呼び寄せても、また騒動が大きくなるだけだ」
冷や汗が背中をタラタラと流れていく。まだ汗ばむ季節には早いと言うのに。
「先輩方にご迷惑をかける訳にはいかない。旧館の問題は僕たちで解決しないとな」
オレとしては、先輩を呼んで色々と助けて欲しいと切実に思ってしまうのだが、それは絶対に口にしない方がよさそうだった。寮長の目が全く笑っていなかったからな。
「さて、夷川。これから僕が言おうとしている事、利口なお前ならば分かるな……先ほどの一件、春日野を無事に取り押さえる事が出来たなら、僕だけの胸にしまっておこうと思う」
「……取り押さえる事が……出来なかった時は?」
もうこの時点で他の選択肢はないのだが、一応ちょっとだけ自分の身を危険にさらさず済む方法がないか気になって、そんな言葉がつい口から転がり出てしまった。寮長の表情を窺うと、とても鮮やかな微笑が咲き誇っていた。
「僕の使用人の忠誠心を思い知る事になる」
オレは潔く立ち上がり、どこかで見た事のある光景を思い出し、自然と敬礼していた。
「ありがたく、そのお役目頂戴致します」
自分でもどうかと思う返事をして、オレはスバルの後を追いかけようとした。けれど、何故か寮長はオレの腕を掴み、ジッとこちらを見つめて独り言みたいに呟いた。
「怪我はするな」
酷い無茶を言う人だった。なんだか笑えてきたので、冗談を返すノリで「はい」と答えると寮長は手を離し、膝に置いた黒い箱を弄りだした。
「後始末は雫にやらせるから心配はいらない。春日野を捕らえたら、すぐにここへ戻って来るように」
「それで呼ぶんですか?」
ちょっと気になったので聞いてみる。寮長はTシャツの襟ぐりにマイクを留める仕草を見せた。
「どこに居ても僕の声が聞こえるようにしたいと言われて、無理矢理持たされているんだ」
なるほど、この主従コンビのテレパシーはコレのせいか。苦笑しながら答えてくれた寮長は、どこか恥ずかしそうだった。
オレは改めて気合いを入れた。スバルの蛮行を止めないと明日以降の朝日を拝めなくなる。そんな危機感を新たに戦地へと赴く。
廊下の先に視線をやると、一歩も進んでいないのに反転して自分の部屋に戻りたくなったが、旦那様にザーメンぶっかけた奴として、あの執事モドキの前に突き出されない為にも、必死で足を動かし、ひたすら進む。
廊下を少し進むと、わらわらと野次馬が湧いて出ていた。ここは二年のフロアなので、当然その野次馬は二年という事になるのだが、今はあまり深く考えずに、それらを無視して目的の場所へと急ぐ。
まさか半裸の一年がここに居るとは思うまい。……まあ、目の前にもっと面白い見世物があるのでスルーされているが、半裸というだけでオレもかなり悪目立ちしていた。こんな心地の悪い場所、早々にお暇したいものだ。
寮長が居る何もない空間と対になる位置、そこがメイン会場だった。
どうやら、向こうとは違いそこは談話室になっていたらしく、由々式に聞いた話では扇風機すら贅沢品との事だったが、何に使うのか、そんなに大きくはないが液晶のテレビがあったようだ。薄いボディに長めの棒が二本も貫通し、既にあった事は過去形になってしまっているが、他にも色々と時間を潰せそうな物が目に付く。
空間自体広いようで卓球台に箱形のレトロなゲーム機(電気を使わない玉転がして遊ぶのとか)トランプの散らばるテーブルの側には、ペットボトルの飲料が売られている自販機まである。一年が使える自販機はオール紙パックなのに!
目の前にある物体が何であるかを見極め、それらが元あった姿を頭の中で思い描くと、どうやらこの談話室、ひなびた温泉旅館の遊戯場といった様相だったらしい。
それらが推測の域を出ないのは、そこが見るも無惨な現状を晒しているからだ。一番に目に付いたテレビに始まり、卓球台は見事に真っ二つに割れ何人かの生徒がその上に倒れ込んで動かないし、ゲーム機に頭を突っ込む程に没頭している奴も居る。
ひっくり返されたテーブルに押し潰されてピクリともしない奴もいれば、頭から血を流しながら廊下へ逃げようと這って居る奴も居た。そして、オレの目的であるスバルは、自販機の側で見覚えのある背格好の男を吊し上げていた。
「よくもオレっちのモン盗みやがったな、豚がぁ! てめぇの脂にまみれて切れなくなってたら、絞め殺すぞ」
「はあぁ! 何言ってんのか、わっかんねぇーって言ってんだろが!」
化け物の化粧を落とした笹倉は、まあ最初の印象よりもまともだったが、その太い首にスバルの指が容赦なく食い込んで、威勢のいい声の割に切羽詰まった顔色をしている。
スバルを止めなければいけないのだが、ざまぁとか思ってしまう自分も居て、少しだけ自分の気持ちに素直になる事にした。ちょっとの間、傍観していようと。
けれど周りの野次馬に混じって、スバルと笹倉の噛み合わない問答を眺めていると、自販機を背に追い詰められていた笹倉がオレに気付いてしまう。
「夷川! てめぇの差し金か!」
憎悪の視線を一身に受け、オレはその心地よさにニヤリと笑って見せた。
そうやって奴の怒りにガソリンを撒いた結果、笹倉はスバルを渾身の力で張り倒しこちらへ猪のように突っ込んで来る。
オレもその勢いに乗り、視界の端にあった転がったテーブルを飛び乗るように高く、高く蹴った。タイミングが合わず失敗したら、なんて考える暇なかった。ただ、その場のノリに身を任せた。
空中で靴底に強い感触。地面を踏みしめるより確かな感触が、豚の断末魔のような気の抜けた音と共に、オレの中から今日のモヤモヤをスッキリと消し去った。
膝から崩れるように目の前に転がった巨体を覗き込む。本当なら、この憎たらしい顔にファイルの中身をぶちまけたかったのだが、まあ鼻血に鼻水、涙に涎、それらに塗れたぐちゃぐちゃの顔には出来たので良しとしとこう。
しかし、オレが満足感に浸れる時間はない。野次馬がざわめき出す。
オレらが一年だと全員に認識される前に逃げないと、まずい。今この場にいる野次馬だけを振り切ればいいという問題ではないのだ。ここは二年フロア、誰かが一声かければ次から次へと二年が湧いて出る。
オレは目的のスバルを回収するべく張り倒されたスバルの行方を探すが、どうした事か見当たらない。確か窓がある方へと……張り、倒された、ような気がするんだが……。
「スバル!」
開け放たれていた、と言うか割れてるのか、てか割ったのか! とにかく、窓に駆け寄り身を乗り出し下を覗き込むと、スバルは器用にも着地を決めていた。
落ちたと言っても二階だからな、ここ。まあそれはいい。問題なのは、スバルが着地した場所だな。一階の窓から漏れる蛍光灯の光の中に見えるのは、スバルに踏みつぶされた生徒指導の教師の、潰れたカエルのような地面に投げ出された四肢だった。
オレがささやかな復讐を達成した後、騒動は更に激化した。どうしてかと言うと、旦那様に待機命令を出されヤキモキしていた執事モドキが、談話室の騒動に気付き、その心配からくる鬱憤を野次馬たちにぶつけだしたからだ。
倒れた生徒が見境のない執事モドキによって再び宙を舞うという事態に、底知れぬ恐怖を感じたオレはスバルに倣い窓から脱出。二階くらいの高さならいけるだろうと、軽く飛んでみたら予想以上に足に響いて、暫く身動きが取れなくなってしまった。
下にクッションになるモノがあったスバルは、そんなオレを指さしてケラケラ笑ったが、クッションになったオッサンにその首根っこを掴まれ、強烈な頭突きを食らいぶっ倒れた。教師による体罰を目の当たりにしたオレは、自分は関係ないと言い逃れしようとして失敗、スバルと同じ運命を辿った。
旧館の談話室が全壊した今回の騒動、頭突き一発で済むはずがなく、寮長の横で一升瓶抱えて寝ていたジジィによって(このジジィが圏ガクの校医ならしい)酒の抜けない怪しげな手つきで一通り治療を受けた後、オレらは食堂に集められる事になった。
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