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圏ガクの夏休み
ひとりぼっち
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冷蔵庫内にある時計は、電池が切れて五時十二分で針が止まっているので、正確には分からないが、山センたちの酒盛りは日付を跨いで続いていたように思う。
「ぁ、あ、頭が、いたい。今……なん? 何時だろ
それに付き合わされた小吉さん、今朝はすこぶる顔色が悪い。単なる寝不足とは思えない様子が心配で、介抱しようと近づくとその原因が、まず鼻に届く。
「すげぇ酒臭いよ、小吉さん」
見れば抱き枕よろしく抱えて寝たらしい、ほぼ空っぽの一升瓶が布団に横たわっている。
「お、おぉう、おは、おはよぉ」
酔っ払って中身は布団に飲ませたのかと思ったが、垂れ流された地図はなく、しっかりと腹におさめているのを掠れた挨拶一つで確認出来てしまった。欠けた湯飲みで水を手渡すと、気合いを入れる為か一気に煽った小吉さんだったが、両手で蓋をするよう口を覆うと一目散に冷蔵庫を出て行ってしまう。
明らかに二日酔いの様子。一升瓶を枕に寝るじいちゃんみたいな酒臭い息を吐いて、教師の後ろに座るとか自殺行為だろうな。
「今日は一人、か」
朝飯用にと思い、冷蔵庫から取り出した二つのトマトを元に戻す。途端に失せた食欲を思えば、オレも今日の奉仕作業を休むという選択肢もあるのだが、小吉さんがいなければ何も出来ない奴だと思われたくなくて、なんとか自分を鼓舞する。とは言え、さして考えるまでもなく、休むという選択肢は消えてしまっている。一年は奉仕作業に出なければ夕食にもありつけないのだ。これは痛い。
先輩の用意してくれた非常食も捨てがたいが、この二日で由々式のおばさんにすっかり胃袋を掴まれてしまった。食事が最大の楽しみって、ある意味とてつもなく不健全な夏休みだなと、自分の身の上を思うと泣けてくるが嘆いてみても仕方無し。冷蔵庫からトマトをもう一度取り出して、腹ごしらえを済ませ身支度する。
顔を洗おうと手洗い場に向かうと、出せるモノ全部出してげっそりした小吉さんが、廊下に倒れていたので、腹ごなしに冷蔵庫へ運ぶ。
「ごめんな、えびすがわ……きょ今日、こんなだから、おれ、山下りられそうにないや」
ヨレヨレの小吉さんに今日は一人で行ってくると伝える。「大丈夫か?」としきりに心配してくれるが、こんな状態の小吉さんの方が心配だと伝えると、もう二度とお酒は飲まないと呪文のように唱えだした。
しかし、よく考えてみれば、なんで普通に酒なんてあったんだろうな。部活の帰りに買い出しとか? それとも教師がこっそり買い込んでいる物を盗んだのか?
「まあ、学校で酒飲むっていう時点で非常識だよな」
留年してようと、見た目が老けてようと、一応と前置きが必要でも未成年は未成年な訳で、どう転んでもアウトだ。教師に見つかったら、それこそ地獄だろう。山センたちが酒を持ち込んでそうな日は、小吉さんを冷蔵庫から遠ざけねば。
小吉さんと別れ、先輩の部屋で時間を潰す。ここ二日、集合時間は早まる事がないのを確認済み。なら時間前に旧館に足を踏み入れる必要性はない。極力、残留一年と関わり合いにならないよう、引率教師の姿が見えてから集合場所へと出向く。
意識したくなくても、視界の端にあるゴミ箱がその忌々しい中身を思い出させる。膨れ上がる不快感を押し止める為に、ゴミ箱を隣の部屋へと放り込んで、先輩の椅子に腰掛けて目の前に貼られたカレンダーを眺めた。
「……先は長いな」
机の引き出しからペンを取り出して、過ぎた日にちを消してみた。まだ三日しか経ってない。改めて実感すると、湿っぽい景気の悪い溜め息が漏れる。先輩が帰って来る、約束の日を指折り数える気すら起きない。自分の指だけじゃあ、まるで足らなくて泣けてくる。
気分を変えたくて……それから今日一日を乗り切る為の活力を補充したくて、小さな冷蔵庫を開いた。整然とジュースが並ぶ庫内を見ると、これを準備したであろう先輩の姿が目に浮かんで、自然と顔が緩んだ。先輩オススメの野菜ジュースを一本取り出した後、もう一本追加で手に取る。
自分の分を飲み干し、気持ちを切り替える。小吉さんにジュースを差し入れしてから、集合場所へ向かおう。重い腰を気合いで上げて、部屋を後にする時、誰もいない部屋に「いってきます」と挨拶をして廊下に出た。
小吉さんが一緒じゃない事で、気分が落ち込んでいるのかもしれない。ふと、昔の事を思い出した。誰か居ても「いってらっしゃい」と言って貰えなかった時の事を。
「…………」
それに慣れて、何年も言わなくなった言葉を自然と口にしてしまった。それを当たり前みたいに言ってくれる奴らが居るから、それに馴染んでしまったんだろうな。先輩が不在の堪らない寂しさはあるけど、昔感じた嫌な気分にはならなかった。
冷蔵庫に立ち寄って、小吉さんにジュースを手渡し「よし、行くか」と覚悟を決めると、
「き、気をつけてぇな。ぃ、ぃいって、いってらっさい」
ヨレヨレの小吉さんが、聞きたかった言葉をかけてくれた。オレは山センたちを起こさないよう声を落として「いってきます」ともう一度口にして冷蔵庫を後にした。
旧館に着くとタイミング良く、宿直室から今日の引率担当らしい教師と出くわした。中島という英語教師で、一年の授業も受け持っているので多少の面識はある。担当教科のくせに英語の発音が驚く程に無茶苦茶なジジイなのだが、圏ガクでは珍しい暴力に訴えないタイプの教師で、よく言えば生徒から慕われて、悪く言えば生徒から舐められている。
多少、不安に思わないでもないが、心配ばかりしていても始まらない。そう自分に言い聞かせ、食堂に踏み込んだのだが、一瞬で後悔が襲いかかって来た。
食堂に集まった残留一年の中に、見たくない姿を見つけてしまったのだ。
「遅かったなぁ、夷川。今日は来ないのかと思ったぞ」
人当たりの良さそうな猫を被った香月が、オレの姿を見るなり気安く話しかけてきた。昨日は出て来ていなかった香月とその取り巻きが、勢揃いした食堂を前に、何も考えず先輩の部屋へと戻りたくなってしまった。
食堂内には、初日に先輩の部屋へ大集合してくれた顔ぶれ。多少は少ないかもしれないが、残留一年のほぼ全員と言っていい数が揃っている。一斉に向けられたそいつらの視線で、情けないかな目眩を覚えた。
小さく息を吐き、頭の中で自分に活を入れる。動揺している事を悟られたら終わりだ。いつも通り、虚勢でもって今日一日凌ぐ。
香月の言葉に応えるよう食堂内を睨み付けると、少しは救いになりそうな現状が目に入ってくる。初日には香月を中心に徒党組んでいた残留一年だが、今は大きく二つの集まりに分裂していた。
香月を中心にした生徒会に染まりきった奴らが一つ。もう一つは、主にスバルたちに八つ当たりされた、昨日も奉仕作業に参加していた歯抜け共だ。何があったのかは知らないが、両者の間には無関係なオレが見ても分かるほど見事に亀裂が入っている。歯抜け共がオレだけでなく、香月たちにも牽制するような態度を取っていた。
「こりゃまた大漁だな。感心感心」
食堂内に蔓延する険悪な雰囲気などお構いなしに、中島は笑いながら食堂に入ってきた。入り口付近の椅子を引いてきて、小脇に抱えていたファイルを広げ、首から下げていた老眼だろうか眼鏡をかける。昨日まではなかった点呼が始まり、数えてみると、オレを入れて十八人もの生徒が集まっている事を知った。
点呼を終えて、バスを出してくると重い腰を上げた中島は、一番近くに座っていたオレにファイルを差し出し、宿直室に届けてくるよう言う。バスを待つ間、香月たちに絡まれるのを避けられる、有り難い申し出を丁重に引き受け、ジジイの背中を追うように食堂を出た。
参加人数が予想以上に多かった為、今日は圏ガクにあるバスの中で一番大きい物を使用するらしい。「下まで保つかな?」と実に不安を煽る独り言を零す中島を玄関で見送ると、普段はじいちゃんが寝起きしている宿直室へと急ぐ。
そして廊下にまで響く非常識な鼾を前にして、手にしたファイルを持て余してしまう。とにかく部屋にファイルがあればいいのか、それともちゃんと教師に手渡さなければいけないのか、詳細を聞いてくるのを忘れていた事に気付いたのだ。その場で躊躇するが、面倒臭くなって遠慮のない声とノックで宿直室の扉を開いた。
扉を開くと大きく一度、鼾が途切れた拍子にブタの鳴き声のような間抜けな音が聞こえ、部屋のど真ん中で布団を敷いて眠っていた担任がのそりと起き上がった。煎餅布団の周りには数えるのが馬鹿らしくなる程のビール缶が所狭しと並んでいる。
「おはようございます。あの、中島先生がこれ」
ファイルを差し出すと、例え寝起きとは言え、教職者とは思えない酷い顔を晒した担任は、黙ってそれを受け取った。腫れぼったい目で中を確認すると「小吉はどうした?」と酒臭い息を吐きながらこちらを見る。
「小吉さんは、その……今日は体調が悪いらしく、欠席です」
まさかアンタと同じ状態だとも言えず、無難に答える。すると、どうしたことか、担任は途端に顔色を曇らせ「大丈夫か」とオレの身を案じる言葉をかけてきた。小吉さんがいないと何も出来ない奴だと思われているのか、一年の中でオレが孤立しているのを知られているのか、どちらか分からなかったが、「はい」と短く返事をしてその場を離れる。
「午後には合流する。それまでは適当にやり過ごせよ」
背後から聞こえた担任の声に安堵を覚えた自分が情けなくもあったが、もう一度短く返事をして、オレは壊れそうなバスのエンジン音が聞こえる方へと走った。
靴を履き替えて外に出ると、下まで保つか分からない大型のバスは結局エンジンがかからなかったらしく、昨日乗ったバスが今にも止まりそうな音を立てながらオレらを待っていた。
「ぁ、あ、頭が、いたい。今……なん? 何時だろ
それに付き合わされた小吉さん、今朝はすこぶる顔色が悪い。単なる寝不足とは思えない様子が心配で、介抱しようと近づくとその原因が、まず鼻に届く。
「すげぇ酒臭いよ、小吉さん」
見れば抱き枕よろしく抱えて寝たらしい、ほぼ空っぽの一升瓶が布団に横たわっている。
「お、おぉう、おは、おはよぉ」
酔っ払って中身は布団に飲ませたのかと思ったが、垂れ流された地図はなく、しっかりと腹におさめているのを掠れた挨拶一つで確認出来てしまった。欠けた湯飲みで水を手渡すと、気合いを入れる為か一気に煽った小吉さんだったが、両手で蓋をするよう口を覆うと一目散に冷蔵庫を出て行ってしまう。
明らかに二日酔いの様子。一升瓶を枕に寝るじいちゃんみたいな酒臭い息を吐いて、教師の後ろに座るとか自殺行為だろうな。
「今日は一人、か」
朝飯用にと思い、冷蔵庫から取り出した二つのトマトを元に戻す。途端に失せた食欲を思えば、オレも今日の奉仕作業を休むという選択肢もあるのだが、小吉さんがいなければ何も出来ない奴だと思われたくなくて、なんとか自分を鼓舞する。とは言え、さして考えるまでもなく、休むという選択肢は消えてしまっている。一年は奉仕作業に出なければ夕食にもありつけないのだ。これは痛い。
先輩の用意してくれた非常食も捨てがたいが、この二日で由々式のおばさんにすっかり胃袋を掴まれてしまった。食事が最大の楽しみって、ある意味とてつもなく不健全な夏休みだなと、自分の身の上を思うと泣けてくるが嘆いてみても仕方無し。冷蔵庫からトマトをもう一度取り出して、腹ごしらえを済ませ身支度する。
顔を洗おうと手洗い場に向かうと、出せるモノ全部出してげっそりした小吉さんが、廊下に倒れていたので、腹ごなしに冷蔵庫へ運ぶ。
「ごめんな、えびすがわ……きょ今日、こんなだから、おれ、山下りられそうにないや」
ヨレヨレの小吉さんに今日は一人で行ってくると伝える。「大丈夫か?」としきりに心配してくれるが、こんな状態の小吉さんの方が心配だと伝えると、もう二度とお酒は飲まないと呪文のように唱えだした。
しかし、よく考えてみれば、なんで普通に酒なんてあったんだろうな。部活の帰りに買い出しとか? それとも教師がこっそり買い込んでいる物を盗んだのか?
「まあ、学校で酒飲むっていう時点で非常識だよな」
留年してようと、見た目が老けてようと、一応と前置きが必要でも未成年は未成年な訳で、どう転んでもアウトだ。教師に見つかったら、それこそ地獄だろう。山センたちが酒を持ち込んでそうな日は、小吉さんを冷蔵庫から遠ざけねば。
小吉さんと別れ、先輩の部屋で時間を潰す。ここ二日、集合時間は早まる事がないのを確認済み。なら時間前に旧館に足を踏み入れる必要性はない。極力、残留一年と関わり合いにならないよう、引率教師の姿が見えてから集合場所へと出向く。
意識したくなくても、視界の端にあるゴミ箱がその忌々しい中身を思い出させる。膨れ上がる不快感を押し止める為に、ゴミ箱を隣の部屋へと放り込んで、先輩の椅子に腰掛けて目の前に貼られたカレンダーを眺めた。
「……先は長いな」
机の引き出しからペンを取り出して、過ぎた日にちを消してみた。まだ三日しか経ってない。改めて実感すると、湿っぽい景気の悪い溜め息が漏れる。先輩が帰って来る、約束の日を指折り数える気すら起きない。自分の指だけじゃあ、まるで足らなくて泣けてくる。
気分を変えたくて……それから今日一日を乗り切る為の活力を補充したくて、小さな冷蔵庫を開いた。整然とジュースが並ぶ庫内を見ると、これを準備したであろう先輩の姿が目に浮かんで、自然と顔が緩んだ。先輩オススメの野菜ジュースを一本取り出した後、もう一本追加で手に取る。
自分の分を飲み干し、気持ちを切り替える。小吉さんにジュースを差し入れしてから、集合場所へ向かおう。重い腰を気合いで上げて、部屋を後にする時、誰もいない部屋に「いってきます」と挨拶をして廊下に出た。
小吉さんが一緒じゃない事で、気分が落ち込んでいるのかもしれない。ふと、昔の事を思い出した。誰か居ても「いってらっしゃい」と言って貰えなかった時の事を。
「…………」
それに慣れて、何年も言わなくなった言葉を自然と口にしてしまった。それを当たり前みたいに言ってくれる奴らが居るから、それに馴染んでしまったんだろうな。先輩が不在の堪らない寂しさはあるけど、昔感じた嫌な気分にはならなかった。
冷蔵庫に立ち寄って、小吉さんにジュースを手渡し「よし、行くか」と覚悟を決めると、
「き、気をつけてぇな。ぃ、ぃいって、いってらっさい」
ヨレヨレの小吉さんが、聞きたかった言葉をかけてくれた。オレは山センたちを起こさないよう声を落として「いってきます」ともう一度口にして冷蔵庫を後にした。
旧館に着くとタイミング良く、宿直室から今日の引率担当らしい教師と出くわした。中島という英語教師で、一年の授業も受け持っているので多少の面識はある。担当教科のくせに英語の発音が驚く程に無茶苦茶なジジイなのだが、圏ガクでは珍しい暴力に訴えないタイプの教師で、よく言えば生徒から慕われて、悪く言えば生徒から舐められている。
多少、不安に思わないでもないが、心配ばかりしていても始まらない。そう自分に言い聞かせ、食堂に踏み込んだのだが、一瞬で後悔が襲いかかって来た。
食堂に集まった残留一年の中に、見たくない姿を見つけてしまったのだ。
「遅かったなぁ、夷川。今日は来ないのかと思ったぞ」
人当たりの良さそうな猫を被った香月が、オレの姿を見るなり気安く話しかけてきた。昨日は出て来ていなかった香月とその取り巻きが、勢揃いした食堂を前に、何も考えず先輩の部屋へと戻りたくなってしまった。
食堂内には、初日に先輩の部屋へ大集合してくれた顔ぶれ。多少は少ないかもしれないが、残留一年のほぼ全員と言っていい数が揃っている。一斉に向けられたそいつらの視線で、情けないかな目眩を覚えた。
小さく息を吐き、頭の中で自分に活を入れる。動揺している事を悟られたら終わりだ。いつも通り、虚勢でもって今日一日凌ぐ。
香月の言葉に応えるよう食堂内を睨み付けると、少しは救いになりそうな現状が目に入ってくる。初日には香月を中心に徒党組んでいた残留一年だが、今は大きく二つの集まりに分裂していた。
香月を中心にした生徒会に染まりきった奴らが一つ。もう一つは、主にスバルたちに八つ当たりされた、昨日も奉仕作業に参加していた歯抜け共だ。何があったのかは知らないが、両者の間には無関係なオレが見ても分かるほど見事に亀裂が入っている。歯抜け共がオレだけでなく、香月たちにも牽制するような態度を取っていた。
「こりゃまた大漁だな。感心感心」
食堂内に蔓延する険悪な雰囲気などお構いなしに、中島は笑いながら食堂に入ってきた。入り口付近の椅子を引いてきて、小脇に抱えていたファイルを広げ、首から下げていた老眼だろうか眼鏡をかける。昨日まではなかった点呼が始まり、数えてみると、オレを入れて十八人もの生徒が集まっている事を知った。
点呼を終えて、バスを出してくると重い腰を上げた中島は、一番近くに座っていたオレにファイルを差し出し、宿直室に届けてくるよう言う。バスを待つ間、香月たちに絡まれるのを避けられる、有り難い申し出を丁重に引き受け、ジジイの背中を追うように食堂を出た。
参加人数が予想以上に多かった為、今日は圏ガクにあるバスの中で一番大きい物を使用するらしい。「下まで保つかな?」と実に不安を煽る独り言を零す中島を玄関で見送ると、普段はじいちゃんが寝起きしている宿直室へと急ぐ。
そして廊下にまで響く非常識な鼾を前にして、手にしたファイルを持て余してしまう。とにかく部屋にファイルがあればいいのか、それともちゃんと教師に手渡さなければいけないのか、詳細を聞いてくるのを忘れていた事に気付いたのだ。その場で躊躇するが、面倒臭くなって遠慮のない声とノックで宿直室の扉を開いた。
扉を開くと大きく一度、鼾が途切れた拍子にブタの鳴き声のような間抜けな音が聞こえ、部屋のど真ん中で布団を敷いて眠っていた担任がのそりと起き上がった。煎餅布団の周りには数えるのが馬鹿らしくなる程のビール缶が所狭しと並んでいる。
「おはようございます。あの、中島先生がこれ」
ファイルを差し出すと、例え寝起きとは言え、教職者とは思えない酷い顔を晒した担任は、黙ってそれを受け取った。腫れぼったい目で中を確認すると「小吉はどうした?」と酒臭い息を吐きながらこちらを見る。
「小吉さんは、その……今日は体調が悪いらしく、欠席です」
まさかアンタと同じ状態だとも言えず、無難に答える。すると、どうしたことか、担任は途端に顔色を曇らせ「大丈夫か」とオレの身を案じる言葉をかけてきた。小吉さんがいないと何も出来ない奴だと思われているのか、一年の中でオレが孤立しているのを知られているのか、どちらか分からなかったが、「はい」と短く返事をしてその場を離れる。
「午後には合流する。それまでは適当にやり過ごせよ」
背後から聞こえた担任の声に安堵を覚えた自分が情けなくもあったが、もう一度短く返事をして、オレは壊れそうなバスのエンジン音が聞こえる方へと走った。
靴を履き替えて外に出ると、下まで保つか分からない大型のバスは結局エンジンがかからなかったらしく、昨日乗ったバスが今にも止まりそうな音を立てながらオレらを待っていた。
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