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新学期!!
恋人と過ごす新学期
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別れ際の熱烈なちゅーの名残を舌先と手の甲で拭い、全速力で校舎を走る。最短距離でいつもの道を駆けて、すっかり留守にしていた我が家である旧館が見えた頃、見慣れた三人の背中に追いついた。
思った通り、三人は時間を合わせて帰って来ていた。夏休み中も連絡は取り合っていたらしく、こっちの状況を由々式から聞いて知ってはいたがオレが五体満足で出迎えた事で、狭間と皆元は大袈裟に安堵してくれた。
「じゃあ、夏休み中は一度も部屋には戻ってないのか」
学校で残留二年と一緒に寝起きしていた事を話すと、皆元がそう聞いてきた。旧館で寝起きした時もあったが反省室だったので、皆元の言う通り一度も自室には戻っていなかったので頷くと、オレら四人は揃って暫く口を閉じた。
「先生が見回りとか、してくれてるかもしれないし……ね」
狭間が弱々しくフォローするが、たった八つの目がどこまで届くのかなど考えるまでもなく、嵐が直撃しているであろう我が家への足取りは非常に重くなった。
一ヶ月以上、上る事のなかった階段は、掃除など一度もされていないのは明らかで、埃やゴミだらけで実に明日からの仕事のし甲斐がありそうだ。一年フロアも同上で、何処かの部屋から聞こえてくる笑い声を思うと当然かと溜め息を吐く。
明日からの日常にウンザリしながらも、オレらは自室に戻り、その惨状を目の当たりにし四人揃って絶句した。
夏休みの教師による見回りは一階限定だったらしく(まあ学校での寝泊まりにも目を瞑るような現状だ、さもありなん)まず廊下と部屋を仕切る扉がなかった。多分、蹴り破られた扉は、畳の上に転がり腹に大穴を開けて、何故守ってくれなかったとオレを批難するような有様。圏ガクで唯一許されたプライバシーすら破壊された部屋に入れば、きっと初日にオレへぶつけられるはずだった暴力の数々が猛威を振るっていた。
襖も扉と同様に大穴が合計三つも開いており、窓こそ割れていないが、嫌がらせとして最大限の効力がある網戸の破壊は、カッターでも使ったのだろう、修復する物すら存在していなかった。その状態で窓も全開、畳の上には夏場に迷い込んできた虫の死骸が転がりまくっている。その畳もわざわざ靴を持ち込んだのか、無数の足跡がこれでもかと残されていた。
「これは……ワシらにどうせい言うんじゃ」
思わず絶句してしまったが、由々式の一言で我に返った。ようやく治まった火照りが、また復活し今度は腹の底が熱くなるような怒りが生まれる。
「……夷川……これをやった奴らに心当たりあるか?」
隣で同じように静かに怒る皆元へ「あぁ、思い当たるのがいるな」と返事をし、二人でオレらを嘲笑うかのごとく聞こえてくる笑い声へ突撃した。
誰がやったかなんてのは些細な事だった。夏休み初日、残留している一年はもれなくオレの敵だった。先輩と一線越えると決めたせいか、あの時に味わわされた屈辱が、嫌悪感と共に薄れる所か濃くこびり付き、思い出すだけで反吐が出そうなのだ。
気配のある部屋を片っ端から蹴り開け、中で馬鹿面を晒した連中を沈めていく。帰って早々、荷物を没収されて苛ついていた皆元は、それこそ千切っては投げの暴力の化身となり、実に頼もしい存在だったが、部屋から逃げ出した奴が教師にチクったせいで、香月に出くわすまでにオレらは御用となってしまった。
「戻って来るなり、はしゃぐな馬鹿もん。何が原因だ言ってみろ」
残留一年に目の敵にされていた事を知っている野村にとっ捕まり、一応ケンカの理由を聞いて貰えた。これ幸いと、部屋が破壊された事を訴えれば、野村の目の色が変わった。皆元に殴られ顔を腫らしている奴相手に、木刀を唸らせ無情にもバッサリ切り捨てる。
「お前らの部屋まで案内しろ」
座った目で現場を見せろと言う野村の迫力に押され、暴れ足りんと鼻息の荒かった皆元も素直に従った。夏休み中に出た器物破損などは、残留した教師の監督不行届になるのかもしれない。それに対して、どんなペナルティーがあるのかは分からないが、オレが犯人として名指しする奴らの末路が悲惨なのは確定した。
「おい……ここか?」
はずだったのに、五六人をしばいて帰って来たオレらの部屋は、何故かほぼ元通りになっていた。いや、元通りではないか、扉はないままだから、間違いなくオレらの部屋なんだが、土足で踏みにじられたボロボロの畳も虫の死骸も穴だらけの襖も、そこには存在していなかった。
「おかえり。あれ、野村先生も一緒ですか?」
雑巾で窓を拭いていた狭間が、振り返り不思議そうな顔をする。
「あぁ、ここの扉はどうした?」
拍子抜けした顔の野村は狭間に見当たらない扉の所在を尋ねた。すると狭間は「ありがとう、先生を呼んできてくれたんだね」と状況を飲み込み、オレらに変わって事情を説明し始めた。
「鬼だべ。ここに鬼がおったべ」
部屋の隅にいたらしい由々式が擦り寄ってきて、オレらに耳打ちする。なんとなく予想は出来たが、詳しく聞くと、なるほどやはり狭間は鬼だったかと納得した。オレらが飛び出してから、狭間はあのボロボロの部屋を掃除し、尚且つ修復不可能な畳と襖を空き部屋の物と取り替えたらしい。
その後、野村に事情を説明して、工具を借り、扉も空き部屋の物を付け替えるという荒技までやってのけた狭間の手足となって、オレらは今日からの寝床を確保する事が出来た。
全部入れ替えるのであれば、部屋自体を移ればいいんじゃないかと思わないでもなかったが、空き部屋の隣がスバルの部屋だったらしく、結局オレらは狭間に頭が上がらなかった。
その日の内に一年は全員が旧館に戻って来た。戻って来ない奴もいるんじゃないかと思ったが、圏ガクでは自主的な退学は認められないらしく、縄で縛られた状態で帰校する奴も珍しくなかった。
何度も独房での生活を体験したせいか、生徒が縄で捕縛される程度の事では驚かなくなってしまったが、実に非常識な学校だなと今更ながら思う。
まあPTAが存在しない圏ガクだから問題にはならないのだろうが、普通の学校だったら生徒だけでなく、間違いなく教師も生きていけない感じがヒシヒシとする。
朝昼とは缶詰だったが、一年全員が揃ってしまう夕食からは、旧館の食堂が再開され、また賑やかな日常がスタートした。
由々式のおばさんが作ってくれる美味しい料理はなく、比べてみれば確かに残飯にも見える食事を五分でかっ込み、風呂も同じく五分で済ます。もちろん食事も風呂も、今まで一緒だった先輩や小吉さんたちとは別々だ。
寂しくないと言えば嘘になるが、他の奴らの目もある。先輩との関係を変える気はないが、山センたちとはちゃんと一線を引いた関係に戻らねばなるまい。
二年の威厳を守る為、これ以上家畜に情けをかけさせる訳にはいかないと思い、オレから距離を置いたのに、稲継先輩の周囲を威圧する獰猛な視線を物ともせず、山センと小吉さんはいつも通り話しかけてきやがったので、ちょっとホッとした。
甘えすぎるのも問題だろうが、先輩の部屋へ行くのは許可してもらえるかもしれないと、現金な考えが浮かぶ。その時は、全力でパシりをやらせそうな矢野君ではなく、きっと冬休みに待つ女神との再会までに徳を積むであろう稲継先輩に頼もう。
刺激的な新学期になりそうだと、夏休みに得たものを噛みしめながら、翌日からは予定通りの大掃除だった。
DIYまで習得した狭間を有す我が班は、色々な場所に引っ張りだこで、恐らく他の奴らの十倍近くは働いた。
そこまでやらなくてもいいだろうと、オレら三人は狭間に対して切実に思ったが、放って置いたら一人でもやると分かっている奴を見て見ぬ振りも出来ず、旧館と学校の掃除に最後まで付き合い、新学期初日を精も根も尽き果てた状態で迎えた。
しかーし、単に掃除を必死でやっていただけじゃあないのがオレだ。破られた襖の修復を試みていた狭間から、水のりを少し分けてもらい、山センに奪われオレらの腹におさまってしまったマヨネーズの代わりをしっかりゲットしておいたのだ。
問題のローションも確保した。後は週末を待つのみ。結局、夏休みが終わってしまう憂鬱は、新学期への期待で吹っ飛んでしまい全く意識する事はなかった。
普通ならある学校行事の類いが圏ガクにはない。体育祭や球技大会はあるにはあったが、どの競技も最後は教師を交えた大乱闘になるような学校だ。文化的な行事は遠い昔に一掃されている。
なので、学校生活に変わり映えはなく、夏休み前と同じように、オレは放課後を心待ちにしながら授業を受ける毎日に戻った。
いや、変わった事もあるな。前は単に遊ぶ約束だったが、今は先輩とデートの約束をしているのだった。だがデートとは名ばかりで、その内容はこれまた夏休み前と同じキャンプの準備。
「ん、全部見つかって処分されちまったのかもな」
万全だったキャンプの準備を解体して、見つからないよう隠してくれた稲継先輩と矢野君に場所を聞いて回収に行ったのだが、何一つ見つけられず途方に暮れている所に山センが見計らったかのように現れた。
「いやぁ~稲っちたちの生ぬるい隠し方じゃあ見つかりそうだったから、オレが直々に隠し直したんだぜ。感謝しろよ」
先輩が揃えてくれたキャンプ用品が、教師に見つかり処分されていなくてホッとしたのも束の間。
「でも、どこに隠したか忘れちった」
片目を閉じながら舌をペッと出し言った、山センの無責任極まる一言で、当面のデート内容は決定してしまったのである。
先輩は処分されずに済んでよかったと、素直に山センへ感謝していたが、これは単なる嫌がらせに違いなく、二人きりの場所で誰の目も気にせず放課後を過ごすという甘美な時間を奪われたオレは歯軋りした。
「また一からスタートだな。冬までに全部見つけるぞ、セイシュン」
嬉しそうな先輩には申し訳ないが、キャンプの準備は宝探しみたいで楽しいと言えば楽しいのだが、オレはとにかくスキンシップがしたかったので、欲求不満が加速して気がおかしくなりそうだった。
先輩は先輩で、すっかりモードを切り替えているのか、人気のない倉庫とかでも全く隙を見せてくれず、オレは何度も先輩を押し倒そうとして、床にスライディングを決め泣きそうになった。
「なんで避けるんだよ! 誰もいないだろ!」
「こういうのは、俺の部屋でないと駄目だ」
そんなふうに言いつつも、地べたに這いつくばって懇願したおかげか、先輩は別れ際に軽くだがキスをしてくれるようになって、週末へのモチベーションは維持出来た。
あと、欲求不満で爆発するような事もなかったので、自分を褒めてやりたい。
思った通り、三人は時間を合わせて帰って来ていた。夏休み中も連絡は取り合っていたらしく、こっちの状況を由々式から聞いて知ってはいたがオレが五体満足で出迎えた事で、狭間と皆元は大袈裟に安堵してくれた。
「じゃあ、夏休み中は一度も部屋には戻ってないのか」
学校で残留二年と一緒に寝起きしていた事を話すと、皆元がそう聞いてきた。旧館で寝起きした時もあったが反省室だったので、皆元の言う通り一度も自室には戻っていなかったので頷くと、オレら四人は揃って暫く口を閉じた。
「先生が見回りとか、してくれてるかもしれないし……ね」
狭間が弱々しくフォローするが、たった八つの目がどこまで届くのかなど考えるまでもなく、嵐が直撃しているであろう我が家への足取りは非常に重くなった。
一ヶ月以上、上る事のなかった階段は、掃除など一度もされていないのは明らかで、埃やゴミだらけで実に明日からの仕事のし甲斐がありそうだ。一年フロアも同上で、何処かの部屋から聞こえてくる笑い声を思うと当然かと溜め息を吐く。
明日からの日常にウンザリしながらも、オレらは自室に戻り、その惨状を目の当たりにし四人揃って絶句した。
夏休みの教師による見回りは一階限定だったらしく(まあ学校での寝泊まりにも目を瞑るような現状だ、さもありなん)まず廊下と部屋を仕切る扉がなかった。多分、蹴り破られた扉は、畳の上に転がり腹に大穴を開けて、何故守ってくれなかったとオレを批難するような有様。圏ガクで唯一許されたプライバシーすら破壊された部屋に入れば、きっと初日にオレへぶつけられるはずだった暴力の数々が猛威を振るっていた。
襖も扉と同様に大穴が合計三つも開いており、窓こそ割れていないが、嫌がらせとして最大限の効力がある網戸の破壊は、カッターでも使ったのだろう、修復する物すら存在していなかった。その状態で窓も全開、畳の上には夏場に迷い込んできた虫の死骸が転がりまくっている。その畳もわざわざ靴を持ち込んだのか、無数の足跡がこれでもかと残されていた。
「これは……ワシらにどうせい言うんじゃ」
思わず絶句してしまったが、由々式の一言で我に返った。ようやく治まった火照りが、また復活し今度は腹の底が熱くなるような怒りが生まれる。
「……夷川……これをやった奴らに心当たりあるか?」
隣で同じように静かに怒る皆元へ「あぁ、思い当たるのがいるな」と返事をし、二人でオレらを嘲笑うかのごとく聞こえてくる笑い声へ突撃した。
誰がやったかなんてのは些細な事だった。夏休み初日、残留している一年はもれなくオレの敵だった。先輩と一線越えると決めたせいか、あの時に味わわされた屈辱が、嫌悪感と共に薄れる所か濃くこびり付き、思い出すだけで反吐が出そうなのだ。
気配のある部屋を片っ端から蹴り開け、中で馬鹿面を晒した連中を沈めていく。帰って早々、荷物を没収されて苛ついていた皆元は、それこそ千切っては投げの暴力の化身となり、実に頼もしい存在だったが、部屋から逃げ出した奴が教師にチクったせいで、香月に出くわすまでにオレらは御用となってしまった。
「戻って来るなり、はしゃぐな馬鹿もん。何が原因だ言ってみろ」
残留一年に目の敵にされていた事を知っている野村にとっ捕まり、一応ケンカの理由を聞いて貰えた。これ幸いと、部屋が破壊された事を訴えれば、野村の目の色が変わった。皆元に殴られ顔を腫らしている奴相手に、木刀を唸らせ無情にもバッサリ切り捨てる。
「お前らの部屋まで案内しろ」
座った目で現場を見せろと言う野村の迫力に押され、暴れ足りんと鼻息の荒かった皆元も素直に従った。夏休み中に出た器物破損などは、残留した教師の監督不行届になるのかもしれない。それに対して、どんなペナルティーがあるのかは分からないが、オレが犯人として名指しする奴らの末路が悲惨なのは確定した。
「おい……ここか?」
はずだったのに、五六人をしばいて帰って来たオレらの部屋は、何故かほぼ元通りになっていた。いや、元通りではないか、扉はないままだから、間違いなくオレらの部屋なんだが、土足で踏みにじられたボロボロの畳も虫の死骸も穴だらけの襖も、そこには存在していなかった。
「おかえり。あれ、野村先生も一緒ですか?」
雑巾で窓を拭いていた狭間が、振り返り不思議そうな顔をする。
「あぁ、ここの扉はどうした?」
拍子抜けした顔の野村は狭間に見当たらない扉の所在を尋ねた。すると狭間は「ありがとう、先生を呼んできてくれたんだね」と状況を飲み込み、オレらに変わって事情を説明し始めた。
「鬼だべ。ここに鬼がおったべ」
部屋の隅にいたらしい由々式が擦り寄ってきて、オレらに耳打ちする。なんとなく予想は出来たが、詳しく聞くと、なるほどやはり狭間は鬼だったかと納得した。オレらが飛び出してから、狭間はあのボロボロの部屋を掃除し、尚且つ修復不可能な畳と襖を空き部屋の物と取り替えたらしい。
その後、野村に事情を説明して、工具を借り、扉も空き部屋の物を付け替えるという荒技までやってのけた狭間の手足となって、オレらは今日からの寝床を確保する事が出来た。
全部入れ替えるのであれば、部屋自体を移ればいいんじゃないかと思わないでもなかったが、空き部屋の隣がスバルの部屋だったらしく、結局オレらは狭間に頭が上がらなかった。
その日の内に一年は全員が旧館に戻って来た。戻って来ない奴もいるんじゃないかと思ったが、圏ガクでは自主的な退学は認められないらしく、縄で縛られた状態で帰校する奴も珍しくなかった。
何度も独房での生活を体験したせいか、生徒が縄で捕縛される程度の事では驚かなくなってしまったが、実に非常識な学校だなと今更ながら思う。
まあPTAが存在しない圏ガクだから問題にはならないのだろうが、普通の学校だったら生徒だけでなく、間違いなく教師も生きていけない感じがヒシヒシとする。
朝昼とは缶詰だったが、一年全員が揃ってしまう夕食からは、旧館の食堂が再開され、また賑やかな日常がスタートした。
由々式のおばさんが作ってくれる美味しい料理はなく、比べてみれば確かに残飯にも見える食事を五分でかっ込み、風呂も同じく五分で済ます。もちろん食事も風呂も、今まで一緒だった先輩や小吉さんたちとは別々だ。
寂しくないと言えば嘘になるが、他の奴らの目もある。先輩との関係を変える気はないが、山センたちとはちゃんと一線を引いた関係に戻らねばなるまい。
二年の威厳を守る為、これ以上家畜に情けをかけさせる訳にはいかないと思い、オレから距離を置いたのに、稲継先輩の周囲を威圧する獰猛な視線を物ともせず、山センと小吉さんはいつも通り話しかけてきやがったので、ちょっとホッとした。
甘えすぎるのも問題だろうが、先輩の部屋へ行くのは許可してもらえるかもしれないと、現金な考えが浮かぶ。その時は、全力でパシりをやらせそうな矢野君ではなく、きっと冬休みに待つ女神との再会までに徳を積むであろう稲継先輩に頼もう。
刺激的な新学期になりそうだと、夏休みに得たものを噛みしめながら、翌日からは予定通りの大掃除だった。
DIYまで習得した狭間を有す我が班は、色々な場所に引っ張りだこで、恐らく他の奴らの十倍近くは働いた。
そこまでやらなくてもいいだろうと、オレら三人は狭間に対して切実に思ったが、放って置いたら一人でもやると分かっている奴を見て見ぬ振りも出来ず、旧館と学校の掃除に最後まで付き合い、新学期初日を精も根も尽き果てた状態で迎えた。
しかーし、単に掃除を必死でやっていただけじゃあないのがオレだ。破られた襖の修復を試みていた狭間から、水のりを少し分けてもらい、山センに奪われオレらの腹におさまってしまったマヨネーズの代わりをしっかりゲットしておいたのだ。
問題のローションも確保した。後は週末を待つのみ。結局、夏休みが終わってしまう憂鬱は、新学期への期待で吹っ飛んでしまい全く意識する事はなかった。
普通ならある学校行事の類いが圏ガクにはない。体育祭や球技大会はあるにはあったが、どの競技も最後は教師を交えた大乱闘になるような学校だ。文化的な行事は遠い昔に一掃されている。
なので、学校生活に変わり映えはなく、夏休み前と同じように、オレは放課後を心待ちにしながら授業を受ける毎日に戻った。
いや、変わった事もあるな。前は単に遊ぶ約束だったが、今は先輩とデートの約束をしているのだった。だがデートとは名ばかりで、その内容はこれまた夏休み前と同じキャンプの準備。
「ん、全部見つかって処分されちまったのかもな」
万全だったキャンプの準備を解体して、見つからないよう隠してくれた稲継先輩と矢野君に場所を聞いて回収に行ったのだが、何一つ見つけられず途方に暮れている所に山センが見計らったかのように現れた。
「いやぁ~稲っちたちの生ぬるい隠し方じゃあ見つかりそうだったから、オレが直々に隠し直したんだぜ。感謝しろよ」
先輩が揃えてくれたキャンプ用品が、教師に見つかり処分されていなくてホッとしたのも束の間。
「でも、どこに隠したか忘れちった」
片目を閉じながら舌をペッと出し言った、山センの無責任極まる一言で、当面のデート内容は決定してしまったのである。
先輩は処分されずに済んでよかったと、素直に山センへ感謝していたが、これは単なる嫌がらせに違いなく、二人きりの場所で誰の目も気にせず放課後を過ごすという甘美な時間を奪われたオレは歯軋りした。
「また一からスタートだな。冬までに全部見つけるぞ、セイシュン」
嬉しそうな先輩には申し訳ないが、キャンプの準備は宝探しみたいで楽しいと言えば楽しいのだが、オレはとにかくスキンシップがしたかったので、欲求不満が加速して気がおかしくなりそうだった。
先輩は先輩で、すっかりモードを切り替えているのか、人気のない倉庫とかでも全く隙を見せてくれず、オレは何度も先輩を押し倒そうとして、床にスライディングを決め泣きそうになった。
「なんで避けるんだよ! 誰もいないだろ!」
「こういうのは、俺の部屋でないと駄目だ」
そんなふうに言いつつも、地べたに這いつくばって懇願したおかげか、先輩は別れ際に軽くだがキスをしてくれるようになって、週末へのモチベーションは維持出来た。
あと、欲求不満で爆発するような事もなかったので、自分を褒めてやりたい。
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