圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

コタツという桃源郷

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 その日の消灯後、爆睡中の皆元以外の二人に一言断り、オレは先輩に補習を受けさすべく部屋を抜け出した。一応、先輩の名前の元って言っていいのか、由来について大きな進展があった訳だが、どうやって伝えたらいいのか分からず、呉須から貰ったマンガは部屋に置いてある。

「だからなんだって感じになりそうだしな」 

 周囲を警戒しつつ一人でぼやいていると、階段がある暗がりに先輩の気配がした。念の為、少し様子を見るように立ち止まると、窓から入る月明かりが届く場所に先輩は出てきた。

「補習はちゃんと受けてきたぞ」

「当たり前だろ。ちゃんと終わるまでサボらず行けよ」

 偉そうに言いながら、先輩の手を握る。下から表情を覗いてやると、補習を真面目に受けたのだろう、少し疲れが滲んでいた。

「補習が終わるまでは、こういうのは、その、控えよう」

 真昼間に小吉さんの部屋で無理やり口に吸い付いてきた奴とは思えない言葉だ。口にはしなかったが顔には出たらしく、先輩は「反省はしてるんだ」と申し訳なさそうに俯く。

「勝手に勘違いすんな。補習だって言っただろ。遊んでる暇なんかない、行こうぜ」

 予想通りの反応を見せる先輩の手を引いて校舎に向かう。多少の抵抗か、しばらくは手を握り返してこなかったが、旧館を出る頃にはいつもの感触が戻っていた。寒さから先輩との距離を極限にまで縮めると、ポケットの中に邪魔させてくれる。

「今日は真山が隣を使ってるみたいだ」

 オレへの牽制か、単なる状況説明か、先輩は聞いてもいないのに冷蔵庫の使用状況を教えてくれた。隣と言っても、実際は空き教室をいくつも隔てた先。なんの問題にもならない。

「新館の充実した自室があるのに、なんでクソ寒い校舎で勉強してんの?」

 勉強するなら一人の方が効率的だとは思うが、校舎の寒さは勉強どころではないと思う。同室の奴が邪魔してくるとか、仕方のない理由があるなら分からんでもないが、髭は押しも押されぬ圏ガクの番長だ。そんな命知らずな奴がいるとは思えないんだが。

「髭じゃなくて真山だ。ん、同室の奴が原因じゃないと思うぞ。確か久戸だったはずだからな。単純にコタツが好きなんじゃないか?」

 馬鹿らしい答えだが、冬休みでコタツの心地よさを知った今では、あながち間違ってないかもしれないと思ってしまった。コタツで食べるみかんは美味しかった。

「コタツが恋しい」

 あの温かな空間が忘れられない。言っても詮無い事だが、つい本心が剥き出しになってしまった。

「俺たちも……と言うか俺だけだな、今から勉強するなら真山に頼んでみるか? 真山も何でも聞ける相手がいれば、勉強捗るだろう」

 笑いながら先輩が無茶を言う。授業内容くらいなら問題ないが、受験勉強の助けにはなれる自信は全くない。オレは邪魔にしかならないと伝えると「邪魔さえしなければ、使わせてくれると思うぞ」と冷蔵庫に行くか聞いてきた。

「本気で勉強してる奴の近くで、冬休みの課題サボった奴の補習はさせられねぇわ。一人で集中する方が絶対に効率がいいからな」

 コタツも理由だと思うが、一人で集中したいってのもあるだろう。まあ、ヒゲの事情を考慮しなくても、冷蔵庫に行くなんて選択肢はないんだが。

 少し棘のある言い方になったせいか、指先から先輩がちょっととへこんだのを感じる。横目で表情を盗み見ると、疲れた顔が更にしょぼくれていた。ごめんと言いたかったが、何に対しての謝罪か分からないので止めておく。補習を受ける事になったのも、補習をサボりやがったのも、真剣に受験勉強してる奴のところに突撃しようとしたのも、全部褒められた事じゃあない。
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