圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

予期せぬ災難

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「これから一緒に髭を殴りに行こうか」

 返り討ちにされそうだが、そのショックでオレの記憶が飛べば、それはそれで救われる気がする。割と本気で提案すると、先輩は何がおかしいのか声を出して笑った。

「多分、真山は殆ど覚えてないと思うぞ」

 なんでそう言い切れるんだと視線に抗議を乗せて、先輩を無言で睨む。

「あの時、さすがに気まずくてな。後を追いかけて、その、なんだ、事情を説明しようとしたんだが、こう混乱が極まったのか、真山が標準語で喋ってたんだ」

「はぁ?」

 思わず眉間に皺を寄せながら、短く疑問を投げかける。

「もし今でも覚えてるとしたら、お前とまともに話せてないと思うぞ」

 髭との接点は一年のオレにはほぼない。オレから話かけた事は何度かあるが、数少ないそれらを思い出してみれば割と普通に受け答えしてくれていた印象がある。初日のキスであれだけ狼狽えた髭なので、先輩のフォローはあながち的外れでもないように思えた。

 溜め息一つ吐いて、廊下をもう一度覗いてみる。

「そんなに心配か?」

 オレの肩越しに先輩も廊下を覗きながら言った。全力で意識させられたので、何も思わないと言えば嘘になるが、過ぎてしまった話を引きずっても仕方あるまい。頭の中から冷蔵庫で勉強している奴を追い出し、目の前の真面目に補習を受けようとする堪らない奴に意識を集中する。

「もう大丈夫」

 短く返事をしながら扉をしっかり閉じ、じんわりと温もり出した空気の中で先輩と向き合う。真っ直ぐ見つめると、先輩はふにゃっと笑って机の上に置かれていた紙束をオレに見せた。

「半分以上は終わったんだ。元々あった冬休みの課題は終わっててな、今は追加で渡された分をやってる。今夜もな、セイシュンが来なくても、ちゃんと進めるつもりだったから、俺の心配もしなくて大丈夫だぞ」

 補習を少々サボろうと、先輩は怒られながらも補習に参加したのだろう。そんな事はどうでもいい。オレは課題の束を受け取る振りをして床にばら撒いた。手の空いた先輩との距離を一気に詰め、無理矢理引き寄せた驚いた顔に吸い付いてやった。

「セイシュン、補習をするんじゃないのか? 遊んでる暇なんてないって言ってたろ」

 戸惑っているのか、声も体もあっという間に強張る。ついでにオレを引き離そうともしやがるので、やっぱりなと自分の判断は正しかったと実感した。

「これがオレの補習だ」

 遊びじゃあないのだ。先輩が感情に任せてオレをヤろうとした事で、今後ヤる時に反動のように自制モードに入るんじゃあないかと心配だったのだ。オレが冗談を言っているのではないと悟ったのか、先輩は戸惑いから抜け出し真面目な顔を見せる。

「さっきも言ったが、こうゆう事は暫く控えたいんだ」

「オレは嫌だとか思ってない。小吉さんの部屋でやるとか、共有施設でやりたいって言われたら困るけどさ……ッまさか、誰かに見られるかもっていう状況が興奮するとか言い出さないよな」

 初めての時、髭に覗かれて(覗いてはないかもしれないが)先輩が妙な性癖を開花させたのではと勢いに任せて聞いてみたら、何故か額に脳みそを揺らすような重い指先の一発を頂いた。久しぶりに手心なしの制裁に思わず頭を抱えて蹲ると、先輩は慌ててオレを介抱しようとする。そうやって先輩は何度も懲りずに隙を見せる。するりと自然に体を寄せようとしたが、大きな手に前髪を上げられ、襲える距離にはやや届かない状態で目が合う。

「赤くなってるな。少し冷やすか?」

「これくらい大丈夫。もう慣れた」

 少し不貞腐れて言うと先輩は困ったように笑って、部屋に常備しているのか、どこからともなくお茶の缶を持ってきてオレの額に当てた。室内に置いてあっただけだろうが、外気温と大差ない部屋の中でしっかり冷やされていた缶は冷たかった。
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