圏ガク!!

はなッぱち

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蜜月

地元民の強み

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 先輩の補習は本人の申告通り、週末を迎えるまでに完了した。大変喜ばしい事ではあるのだが、いまだにカツヤについて消化不良であるオレとしては、尻に火がついた状態になってしまった。どう捏ね繰り返しても事実は事実な訳で、無駄に悩まずそのまま伝えればいいと分かっていても、こう、本気で無駄にどうにかならないかと悩んでしまう。

「そもそも手帳の存在を隠しながら、先輩に事実を伝えるって難易度高すぎだよな」

 自分の浅はかさを呪っても妙案は浮かばない。エロマンガの神様がくれたマンガを読んで貰う以外に方法はなさそうだ。それも、先輩の名前の元ネタだという事を伏せて、だ。

 先輩はどう思うだろうか、自分と同じ名前の犬の話を。もしオレが同じ事をされたら……反応にめちゃくちゃ困るな。どうリアクションを取ればいいのか、さっぱり分からん。間違っても面白い内容じゃあないしな。リメイクの方は良い話になってるらしいが、先輩の元ネタは悲惨な方なのだ。

「嫌がらせだと思われたら、どう挽回したらいいんだ」

 オレにはさっぱりだが、先輩と先輩の大事な人との絆だからな。あぁ、弱音に思い切りケツを叩かれた。元から上手に全部を伝えられるなんて思っていない。でも、どれだけか細かろうと、それが先輩に届いて繋がっていればいいんだ。

 寮長と同じ感性で「なんで犬が喋ってるんだ」と先輩に聞かれた場合の答えを由々式から調達しておこう。オレに用意出来るのはそれくらいだ。

「お、珍しいのう。まだ部屋におった」

 カツヤのマンガを再読した後、先輩の部屋に出かける準備をしていると、人の事を全く言えない鉄砲玉の由々式が部屋に戻ってきた。(エロマンガ教の)本部に寄ろうと思っていたのだが、手間が省けてありがたい。オレはカツヤのマンガを見せながら、なんでこの犬喋るんだ? とダイレクトに聞いてみた。

「そりゃ無慈悲な動物実験のせいじゃ。その事を恨んどるから、カツヤ自身は好き好んで喋ったりせん。どうしても伝えないといかん時だけしか喋らんよ」

 ちゃんと理由があるのか、オレはてっきり子供番組のお約束で特に理由もなく喋っているのかと思っていた。なかなか難儀な人生、いや犬生を送ってるんだなカツヤ。

「それ裏番に見せるんじゃろ。なら、これも持っていくべ」

 由々式はそう言いながら、裏側にアニメやマンガのステッカーをべたべた貼り付けた個性的なタブレットを手渡してきた。

「なんで先輩に見せるって思うんだよ」

「裏番の名前じゃろ『勝家』って。それで聞いたんじゃないのか?」

 そうだけど、なんでオレの身内は揃いも揃って三年のフルネームを知ってるんだ。

「全員は知らんよ。でも関わりのある人間は一応は知っておいて損はないじゃろ。裏番は夷川が世話になっとるしな、有名人でもあるからのうチェックしとるよ」

「オレは飯田のフルネームなんて知らねぇぞ」

「ワシだって知らんわ。なんで飯田のフルネームなんかに興味あるんじゃ。おかしな奴だのぅ」

 関わりある人間は一応知っておいて損はないって数秒前に言いやがったのに、可哀想な奴を見る目を向けられた。放課後ほぼ同じ部屋で過ごしてるくせになんだ。仲悪いのか?

「良い訳ないじゃろ……飯田の話なんざ掘り下げてどーするんじゃ。暇なんか?」

 暇じゃねぇ、今から出かけるつもりだ。由々式に付き合っている暇はない、受け取ってしまったタブレットを突き返すと、また強引に押し付けられてしまった。

「出かけるって裏番の所だべ? なら丁度いいじゃろ、持って行って一緒に見るべ。前に見たいって言ってたカクレコノハのオリジナルとリメイクの何話かを見れるようにしておいたべ」

 由々式はタブレットを指先で何度か叩いて、動画配信サービスのアプリを立ち上げた。

「見れるようにって、ここ圏外だぞ。どうやったんだよ」

 ここは我らが圏ガク、もちろん電波なんてモノはなく、タブレットはオフライン状態だ。

「ダウンロードしてあるから圏外だろうと問題なく見れるんじゃよ。あまり長くは保たんから、出来れば今日中に見て返すべ。神殿も久しぶりに見たいと所望しておるからの」

 どうやってダウンロードしたんだと聞けば、校内に出入りしている業者に頼んでいるとの事。どうやら業者が近所の知り合いらしい。地元民のコネを全力で使い倒している由々式の逞しさに、入学するより前に脱走を企てた奴の面影はなかった。
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