〖完結〗婚約者の私よりも、ご自分の義妹ばかり優先するあなたとはお別れしようと思います。

藍川みいな

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8、趣味の悪い指輪

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 「わざわざ、贈り物をする為にいらしたのですか? 頭を打ったのですから、お休みになっていないと」

 「君は容姿が美しいだけでなく、心まで美しいのだな!」

 記憶を失ったデイビッド様は、歯の浮くようなセリフを恥ずかしげもなく言うようになっていた。嬉しいなんて気持ちは、全くない。それどころか、まさかこれが三ヶ月続いたりはしないだろうかと不安になっていた。

 「……庭で、お茶をいただきましょう」

 とりあえず、私の目的は記憶を取り戻してもらうこと。話をするのが、一番だと考えた。

 庭にあるテーブルに座ると、ジョアンナがお茶を運んで来た。彼女は事情を知っているからか、デイビッド様を見る目がものすごく冷たい。

 「美しい婚約者と、美しい花々に囲まれながらお茶を飲んでいるとは、まるで天国にいるようだ。昨日の出来事は、父から全て聞いた。記憶を失ってしまったとはいえ、生きていて良かったと心から思う」

 ジョアンナの冷たい視線には気付かず、お茶を一口飲んだ後、また歯の浮くようなセリフを言う。

 「全て聞いたのでしたら、湖には私ではなくキルスティン様とお二人で行かれたこともお聞きになりましたよね? キルスティン様とは、お会いになったのですか?」

 正直、私と居るよりも、キルスティン様と一緒に居る方が記憶は戻るのではと思う。

 「キルスティン……ああ、義妹だったか。なぜ一緒に居たのだろう? 昨日騒いでいた女性だよな? 全くタイプではないし、彼女は裏表がありそうで苦手だな」

 まるで関心がないように話す、デイビッド様。
 散々キルスティン様の演技に騙されていた人から出た言葉とは、とても思えない。あれほど彼女を優先していたのに、記憶を失った途端、彼女から興味をなくしていた。
 記憶がなくなると、こんなにも人が変わるのだろうか……

 「そうですか……。デイビッド様は、どれくら覚えていらっしゃるのですか?」
 
 「実は、何も覚えていないんだ。自分が誰なのか、父上のことも兄達のことも、君のことも。ただ、君を見て居ると、ここが温かくなる」

 優しく微笑みながら、胸に手を当てる。
 少し、羨ましくなってきた。私も、あなたにされたこと全てを忘れられたらどんなにいいか。
 デイビッド様が何も覚えていなくても、あなたの言葉の全てが薄っぺらく感じてしまう。

 「もうすぐ、父が隣国から戻って来ます。お会いしたら、何か思い出すかもしれませんね」

 私は今日、初めてデイビッド様に笑顔を見せた。
 父が戻って来たら、全てを話すつもりだ。おじ様が、約束を破るような方ではないのは分かっているけれど、デイビッド様がどんな行動に出るか分からないからだ。
 記憶を取り戻す手伝いはするけれど、我慢するつもりは毛頭ない。

 「そう……か。婚約者の父親に会うというのは、緊張するな。もう少し、君のことを知ってから会うことにするよ」

 彼は困ったように笑い、お茶を飲み干した後、急に真剣な顔でこちらを見た。

 「先程の贈り物とは別に、君に渡したい物があるんだ。これを……」

 「……これは?」

 差し出された小さな箱を開けてみると、中には大きくて真っ赤な宝石が施された指輪が入っていた。

 「俺の、今の気持ちだ。昨日、初めて君を見て、恋をした。婚約者だと知り、本当に嬉しかった。今までの記憶は失ってしまったけれど、これから沢山の思い出を作って行こう」
 
 趣味の悪い派手な指輪を前に、彼の中身は変わっていないのだと確信した。言っていることや、やっていることは前とは別人だけれど、派手な物を好むところは変わっていない。

 「お話中、失礼致します。アレン様が、お見えになっています」

 指輪を返そうとしたところで、ジョアンナが焦ったようにそう言った。後ろには、アレン様の姿がある。タイミングが悪かったと、ジョアンナは察しているようだ。

 「彼女は俺の婚約者のはずですが、兄上は何をしに来たのですか?」

 アレン様の姿を見たデイビッド様は、急に不機嫌になった。記憶を失っているはずなのに、不機嫌になった彼に違和感を感じる。

 「エリーに、話があって来た。父上が心配していたぞ。早く帰って、安心させたらどうだ?」

 私の前に置いてある指輪をチラリと見ると、アレン様までものすごく不機嫌な顔をした。

 「デイビッド様は、お帰りください。おじ様を心配させるようなことは、控えてください。アレン様は、中にお入りください。お話を聞きます」

 デイビッド様は納得がいかない様子で、事件の話だと伝えると「俺も一緒に聞く」と言ってきた。
 記憶がない状態で聞いても、混乱するだけだと説得をし、ようやく帰ってもらうことが出来た。
 デイビッド様を送り出した後、アレン様をリビングへとお通しし、話を聞くことにした。

 「犯人が、捕まった」

 アレン様は、ソファーに腰を下ろしてすぐにそう告げた。

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