9 / 13
9、気付いたこと
「良かった……」
私の安堵した顔を見て、不機嫌だったアレン様の表情が穏やかになった。
「グレイ兄上が、今取り調べを行っている。すぐに自白するだろう」
「グレイ様が……ですか?」
グレイ様は、第二王子様に側近として仕えている。そのグレイ様が、直接取り調べをするとは……
「兄上も、エリーを心配しているんだ。エリーに傷を付けるなど許さん! って、自分から取り調べ室に乗り込んで行ったらしいよ」
「グレイ様は、変わっていませんね」
「そうだな。エリーに会いたがっていたよ」
グレイ様にもアレン様にも、デイビッド様との婚約が決まってからあまり会うことがなくなっていた。お父様が忙しくて寂しいだろうと、おじ様がいつも私のことを連れ出してくれた時が懐かしい。グレイ様はお兄様みたいで、デイビッド様は同じ歳なのに弟みたいだった。おじ様のことは、もう一人のお父様のように思っていた。そしてアレン様は……
「どうした?」
いつの間にか、アレン様の顔をジッと見つめていた。目が合った瞬間、顔が真っ赤になっていくのを感じる。
「む、昔のことを思い出して、ボーッとしていました!」
私ったら、焦りすぎ……
「昔のエリーは、可愛かったな」
わざとそんな言い方をするアレン様。すぐからかうところは、昔と全く変わっていない。
「今も可愛いです!」
「そうだな。エリーは、昔も今も可愛い。そうだ、これを……」
そんな優しい眼差しで素直に認められたら、何も言えなくなる。
「それは?」
「切り傷によく効く薬だ。痕が残らないように、毎日塗りなさい」
優しいところも、本当に変わらない。
「ありがとうございます。あの、アレン様にお願いがあるのですが……」
アレン様には、デイビッド様からのいただき物を全ておじ様に返して欲しいとお願いをした。私は、期間限定の婚約者。贈り物をもらう理由などない。
その翌日、お父様が隣国から戻って来た。
「その手は、どうしたのだ!?」
お父様は私の手の怪我を見て、卒倒しそうになっていた。落ち着いてから色々話そうと思っていたけれど、「すぐに話せ」と言われ、帰宅早々全てを話すことになってしまった。
私が話している間、黙って聞いてくれていたけれど、怒りで拳がふるふると震えている。
「……あいつ、どういうつもりなんだ!? ぶん殴ってやる!!」
「お、お父様!? ダメです!!」
お父様は温和な方だけれど、私のこととなると見境がなくなる。シードル侯爵家に乗り込もうとするのを、必死に止めた。
「それにしても、あのデイビッドが信じられん。あれほどお前を愛してると言っていたのに……」
「それは、どういうことですか?」
お父様にそんな話をしていたなんて、初耳だった。
十年前、お父様とおじ様が私の婚約者に選んだのは、アレン様だった。その話を聞いていたデイビッド様が、「エリアーナを愛しています!」そう何度も何度も言ったそうだ。それは、何日も何週間も何ヶ月も続いた。絶対に諦めようとはしないデイビッド様を見て、そんなに愛しているならと、彼を婚約者とした。
一番に手を挙げた……とは聞いていたけれど、必死に婚約者になりたいと説得していたなんて知らなかった。だからおじ様は、あれほど自信を持って言い切っていたのだ。
ただ、その話を聞いても、デイビッド様に気持ちが戻ることはない。それどころか、アレン様が婚約者だったら良かったのにと思っている。
「お前が我慢する必要はない。自分の身を守る為に、お前を盾にしたなど、俺がこの手で殺してやりたい! 婚約なんて破棄だ!」
「旦那様、それではエリアーナ様が我慢して来た意味がありません。お茶お飲みになり、心を落ち着かせてください」
怒りのおさまらないお父様に、ジョアンナが落ち着くようにとリラックスするお茶を用意してくれた。ずっと近くで見ていたジョアンナが、一番私の気持ちを理解してくれている。
「お父様、この一件で私は強くなりました。私に、考えがあるのですが……」
お父様の話を聞いて、違和感の正体が分かった気がした。私の考えが正しければ、このままにしておくことは出来ない。何より、あれほど心配しているおじ様が気の毒だ。
「考えだと?」
「はい。婚約の件は、私に任せてください」
お父様は不満そうだったけれど、このまま婚約を破棄して、何も解決しないまま終わってしまうのは嫌だった。
私達の婚約は、三ヶ月、またはデイビッド様の記憶が戻るまで。それなら、三ヶ月もかからないかもしれない。
そして一週間後、行きたいところがあると、デイビッド様を呼び出した。
あなたにおすすめの小説
さようなら、もと婚約者さん~失踪したあなたと残された私達。私達のことを思うなら死んでくれる?~
うめまつ
恋愛
結婚して三年。今頃、六年前に失踪したもと婚約者が現れた。
※完結です。
※住む世界の価値観が違った男女の話。
※夢を追うって聞こえはいいけど後始末ちゃんとしてってほしいと思う。スカッとな盛り上がりはなく後読感はが良しと言えないですね。でもネクラな空気感を味わいたい時には向いてる作品。
※お気に入り、栞ありがとうございます(*´∀`*)
私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?
百谷シカ
恋愛
地味顔の私じゃなくて、可愛い顔の妹を選んだ伯爵。
だけど私は知っている。妹と結婚したって、不幸になるしかないって事を……
〖完結〗旦那様はどうしようもないですね。
藍川みいな
恋愛
愛人を作り、メイドにまで手を出す旦那様。
我慢の限界を迎えた時、旦那様から離婚だ! 出て行け! と言われました。
この邸はお父様のものですが?
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全3話で完結になります。
ミュリエル・ブランシャールはそれでも彼を愛していた
玉菜きゃべつ
恋愛
確かに愛し合っていた筈なのに、彼は学園を卒業してから私に冷たく当たるようになった。
なんでも、学園で私の悪行が噂されているのだという。勿論心当たりなど無い。 噂などを頭から信じ込むような人では無かったのに、何が彼を変えてしまったのだろう。 私を愛さない人なんか、嫌いになれたら良いのに。何度そう思っても、彼を愛することを辞められなかった。 ある時、遂に彼に婚約解消を迫られた私は、愛する彼に強く抵抗することも出来ずに言われるがまま書類に署名してしまう。私は貴方を愛することを辞められない。でも、もうこの苦しみには耐えられない。 なら、貴方が私の世界からいなくなればいい。◆全6話
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
婚約者の愛した人が聖女ではないと、私は知っています
天宮有
恋愛
私アイラは、3人いる聖女候補の1人だった。
数ヶ月後の儀式を経て聖女が決まるようで、婚約者ルグドは聖女候補のシェムが好きになったと話す。
シェムは間違いなく自分が聖女になると確信して、ルグドも同じ考えのようだ。
そして数日後、儀式の前に私は「アイラ様が聖女です」と報告を受けていた。
妹のように思っているからといって、それは彼女のことを優先する理由にはなりませんよね?
木山楽斗
恋愛
伯爵令嬢であるアルリアは、婚約者の行動に辟易としていた。
彼は実の妹がいるにも関わらず、他家のある令嬢を心の妹として、その人物のことばかりを優先していたのだ。
その異常な行動に、アルリアは彼との婚約を破棄することを決めた。
いつでも心の妹を優先する彼と婚約しても、家の利益にならないと考えたのだ。
それを伝えると、婚約者は怒り始めた。あくまでも妹のように思っているだけで、男女の関係ではないというのだ。
「妹のように思っているからといって、それは彼女のことを優先する理由にはなりませんよね?」
アルリアはそう言って、婚約者と別れた。
そしてその後、婚約者はその歪な関係の報いを受けることになった。彼と心の妹との間には、様々な思惑が隠れていたのだ。
※登場人物の名前を途中から間違えていました。メレティアではなく、レメティアが正しい名前です。混乱させてしまい、誠に申し訳ありません。(2024/08/10)
※登場人物の名前を途中から間違えていました。モルダン子爵ではなく、ボルダン子爵が正しい名前です。混乱させてしまい、誠に申し訳ありません。(2024/08/14)