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二章
グルダに出発
しおりを挟む「本当に、行ってしまうのですね……」
「お姉様と離れるなんて、寂しいですわ」
クリフ様もミリアナも、わかりやすく落ち込んでいる。今日の午後には、国境に送った兵が戻るそうだ。
二人に会えなくなるのは寂しいけれど、私たちがガレスタ王国にいる理由はなくなった。
兵が戻るまで待ちたかったけれど、一刻も早くグルダに向かいたい。シェリルがここにいることで、ルギウス様はたった一人で戦わなければならないからだ。
「本当に、この子を連れて行ってもいいのでしょうか……」
胸元から顔を出すクウを見ながら、連れて行ってもいいか不安になる。
クリフ様の隣には、当たり前のようにホワイトがいる。ほかの子たちはホワイトから離れないのに、クウは寂しくないのだろうか。
「クウ、セリーナがこう言っているけど、どうする?」
「クゥクゥゥ!」
「置いていったら、追いかけるって言ってる。クウは、セリーナといたいみたい。ホワイトも、クウを任せられるのはセリーナしかいないって」
クリフ様が、羨ましい。私も、クウと話をしたいな。
「追いかけられたら困るので、クウは連れて行きます。ホワイト、クウのことは任せてね。大切に育てるから」
「ウォーーーーン!」
これは、聞かなくてもわかる。ホワイトは私に、クウを託してくれた。
「セリーナ嬢、今からでも俺を選んでここに残ってください!」
「ルドルフしつこいぞ。いい加減、諦めろ」
この二人のやり取りも、もう見られないのかと思うと寂しい。
「皆さん、セリーナとの別れが寂しいのですね。お兄様ったら、誰にも悲しんでもらえないなんて可哀想」
「シェリル……うるさいぞ」
こちらのやり取りは懐かしくて、なんだかホッとする。
「お姉様、また絶対絶対会いに来てくださいね!」
「もちろん。ミリアナに、また会いたいもの」
名残惜しいけれど、いつまでも別れを惜しんではいられない。皆さんに見送られながら、四人で同じ馬車に乗り込み出発する。
「いつかまた来たいですね」
色々あったけれど、この国で過ごした日々は忘れないだろう。
「私もまた来たいな。今度来る時は、観光もしてみたい」
シェリルは、いつからちゃんと休んでいないのだろうか。私たちと別れたあと、ずっと忙しい日々を送ってきたのだろう。あんなに綺麗だった肌が、荒れている。
それでも私たちに心配かけないために、手紙では明るく振舞っていた。しっかり調べた情報もくれていたし、シェリルの情報のおかげで助かった。
「シェリル、私たちには素直に甘えて欲しかったな。今まで、遠慮していたでしょ?」
手紙で、助けを求めることはできたはず。そうしなかったのはシェリルらしいけれど、少しは頼って欲しい。
「ごめんね。セリーナとお兄様の邪魔をしたくないという気持ちもあったけれど、自分たちでなんとかできると過信していた……」
過信……それは違う。シェリルならできると、私たちも思っていたし、今でもいい王妃になると確信している。敵が、厄介すぎただけだ。
「元王妃様とランドルク公爵家を、追い詰めたのは私。私が始めたことなのだから、私が解決するのは当たり前のことだと思う」
「いや、始めたのは俺たち三人だ。俺たちで解決しよう」
レイビス様も、妹が心配なようだ。いつもはケンカばかりしているのに、やっぱり兄妹だと改めて思う。
彼の手が、怒りに震えている。シェリルのことをこんなにも追い詰めた相手への怒りと、気づかなかった自分への怒りだろう。
「シェリル、グルダに着く前に情報を整理しよう。作戦は、私が考える」
本当は、すでに作戦を思いついている。けれど、きっとレイビス様は反対するだろう。グルダに着くまでは、まだ日数がかかる。今は、状況を整理することが先決だ。
シェリルの調べた情報によると、ランドルク公爵家に味方しているのは、子爵家から公爵家までの十一人の貴族たち。
元々ランドルク公爵家と繋がりがあった七人の貴族たちと、若いルギウス様に仕えることに反感を抱いている四人の貴族たちだそうだ。
若いといっても、ルギウス様は二十三歳。ルギウス様は国王としても、素晴らしい方だ。まだ幼く未熟だったクリフ様とは違う。
本当の理由は若い国王だからではなく、なにかやましいことがあるのだろう。
「元々ランドルク公爵家派ではない貴族たちは、なにか不正をしているの?」
「さすがセリーナね。領民から、必要以上に税をとっているという噂があるわ。他国に情報を流しているという噂も。ルギウスが不正を調べ始めたから、敵側に回ったみたい」
「それなら、遠慮する必要はなさそうね」
きっと、ランドルク公爵家からもお金を受け取っているだろう。
「セリーナ、変わったわね。とても強くなった。こんなに頼もしいなんて、なんだか不思議な気持ち」
「色んなことが、あったからかな。でも変われたのは、レイビス様とシェリル、そしてカタリーナに出会えたからよ」
なにも出来なかった昔の私は、もういない。
「ただ、セリーナにも苦手なものが……」
「カタリーナ!? それは、忘れて!」
「え? なに!? 聞きたい!」
「俺も聞きたい!」
「次の手紙に書こうと思っていたのだが、セリーナは……」
「やめてー!」
カタリーナの一言で、馬車の中は大騒ぎだった。いつものシェリルに戻ってくれたのは嬉しいけれど、私の歌が下手なことが二人に知られてしまった。
グルダに着くまで、気を張りつめている必要はない。少しでも、シェリルに楽しい時間を過ごして欲しい。
彼女の笑顔を見ながら、この作戦を必ず成功させると心に誓った。
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