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15、私の幸せ
しおりを挟む陛下の本音を聞いて、ジオルド様も承諾してくれた。そして私達は、王都から離れた空気のいいのどかな土地に住むことになった。
陛下……アルは公爵となり、私はアルの正妻になっていた。
「本当に、私についてきて良かったの?」
エリーは呆れた顔をしながら、頷いた。
「逆にお聞きしますが、アイシャ様にお仕え出来るのは私くらいだと思いますよ?」
そんなことない……と言いたいところだけど、こんなに心を許せるのは、この先もエリーだけだと思う。
「でも、エリーは子爵令嬢でしょう? 結婚とか考えたら、王宮で働いていた方がいいんじゃないかな?」
「私は六女です。貴族と結婚しろと、両親に厳しく言われているわけではないので、好きにいたします。アイシャ様を見ていると、身分などどうでもいいように思えて来るのです」
確かに、私には貴族令嬢としての記憶がないから、身分なんてどうでもいい。美味しいものをお腹いっぱい食べられれば、幸せな人生だと思っていたしね。
「エリー、ありがとう」
きっと私は、アイシャの記憶を一生思い出すことはないと思う。それを話しても、エリーは私に仕えてくれることを選んだ。
前世の記憶を思い出したあの日から、エリーは私の味方でいてくれた。怒られたことは何度もあったけど、エリーだけは何があっても私を裏切らないと信じられる。そして、もう一人……
「アイシャ、最近忙し過ぎるぞ! 私との時間が、全くないではないか! 自由にして欲しいとは言ったが、これでは私が寂し過ぎる!」
アルは店に入ってくるなり、拗ねた顔でそう言った。
私は今、食堂を開いている。
「アルは仕事をサボり過ぎです。日に何度も店に来ていては、仕事が終わりませんよ?」
アルは公爵としての仕事をサボり、しょっちゅう店に来る。仕事をほったらかしてばかりのアルに、執事が頭を抱えていた。
「仕事はしている! 今は休憩時間だ」
休憩時間がだいぶ多いけど、店が忙しくてアルと一緒にいられる時間が少ないのは私のせいだ。
「食事しますか? アルの好きな、ふわふわオムレツを作ってあげます」
「本当か!?」
子供のように喜ぶアルを見ていると、何だか幸せな気持ちになる。この気持ちが、愛なのかはまだ分からない。だけど、アルと一緒に居るのは楽しいし嬉しい。好きなのは、間違いない。
「この店で食事をすると、病気や怪我が治るそうだ!」
「痛めていた腰が、すっかり良くなったんだ!」
「ここのスープを飲んだら、体調が良くなったんだよ」
私の店で食事をすると、嘘のように病気や怪我が治ると噂になっていた。実際、多くの人が治っている。私が作った料理を食べると、あの不思議な力が発動するようだ。
すでにエリーには、私の力は知られている。アルも、食堂で食事した人達が健康になっているのを見て、何か気付いているようだ。二人とも、そのことを問いただしたりはしない。何も聞かなくても、私を信じてくれている。
「アイシャ、明日は店を休んでくれないか?」
拗ねはするけど、休んで欲しいと言われたのは初めてのことだった。何か事情があるのかもしれないと、明日は休むことにした。
翌日、朝起きるとエリーに白いドレスを着せられて、メイクをされ、庭園に連れて行かれた。
そこで待っていたのは、街の人達や使用人達、そして正装したアルだった。
「これって、まさか……」
「はい、結婚式です! アイシャ様が、正妻になられてから、式を行う時間がありませんでしたから、旦那様が少しずつ準備をしていたのです」
結婚式なんて、出来ないと思っていた。アイシャはすでに、側妃として式を挙げていたからだ。こんな嬉しいサプライズ……貴族が参列していない式、本当にアルは私のことを分かっている。
「アイシャ、私の手を取ってくれるかい?」
愛おしそうに私を見つめながら、差し出された手。
「はい!」
その手を、私は力強く握る。
END
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すごくサラサラ読め幸せな気分になれました。
公爵夫人の仕事は大丈夫なの?とは突っ込みたくなったけど(笑)
感想ありがとうございます。嬉しいです(つω`*)
公爵としては どうかと思うけど(笑 ←社交は全然しないの? とかwww
かなり痛快で楽しかったですヽ(*´▽)ノ♪
アルも性格かなり豪快だよねワラワラw
ありがとうございます(>ᴗ<)嬉しいです
おもしろかったです。読んだ後、幸せな気持ちになりました。
ありがとうございます。嬉しいです( *ˊᵕˋ*)