恐怖症な王子は異世界から来た時雨に癒やされる

琴葉悠

文字の大きさ
6 / 8

予想外の事態

しおりを挟む



「アディー大丈夫か」
「ああ、大丈夫だ」
「昨日は無理したもんな、我慢したもんな」
 ソファーの上で二人は抱きしめ合った。
「Safe word言えて偉かったぞ、本当に偉かった」
「ああ……」
「もし可能ならもっと早く言っていいんだぞ?」
「いい、のか?」
「当然だ。あとして欲しい事とか、ないか?」
「……キスをして欲しい」
「へ?」
 予想外の言葉に、時雨は間抜けな声を上げる。
「い、いい。忘れて──」
 慌てふためく、アディーに、時雨はキスをした。
「じゃあ、Playといこうか?」
 ふれあうキスをやめてから時雨はにっと笑って言った。
「唇に『Kiss』」
 アディーはうっとりした表情で、時雨の唇にキスをした。
 舌を絡め合うようなキスをする。
 口づけが終わると、時雨はアディーの頭を撫でて褒めた。
「よくできました、上手かどうかは俺キスしたことこれが初めてだから判定できないけど、すごいってのは分かったよ」
「そうか、初めてなのか……良かった」
 安心したように笑うアディーが愛おしくて、時雨はアディーを抱きしめた。




「順調そうで何よりです」
「アディーも少しずつ良くなってるし、俺は欲求満たされてるし──」


「アディー殿下が異世界人にのめり込んでるんだと」
「はぁ? どんな輩も受け付けなかったあの潔癖症の殿下が?」
「どうせ、変人に決まってる異世界人など」

「ちょっとあの方々を絞めてきます」
「いいよ、俺の事だけだか──」

「実の兄達の露骨なPlayを見て吐いた上、兄君達から強要された殿下にはお似合いさ」

 ブツンと時雨の中で何かがキレる音がした。

「テメェ等」
 男達に近寄り、言い放つ。
「俺のSubの何がテメェ等に分かる!!」
 男達は尻餅をつき、圧倒され、逃げていった。
「待ちやがれ!!」
「シグレ様、後はお任せを、そして落ち着いてください。今の貴方は『Glare』状態です」
「……」
 不服そうな時雨にミハイルは言った。
「ご安心を、我らが殿下を侮辱した罪は償っていただきますので」
 そこで、時雨は何とか溜飲を下げた。


「はぁ……」
 時雨はため息をついた。
 予想しない方向で、アディーのダイナミクスの性への恐怖心を理解したのだ。
 実の兄達にされた事がトラウマで、セーフワードも言えない。
 実の兄達の所為で、他のDomがダメになってしまった。
 可哀想で仕方なかったが、これを本人に伝える訳にはいかない。

 今まで通り接しようと、心に決めることにした。




 翌日、何とか普通通りにアディーを体を触れあい、Playをする。
 それで、終わろうとした時アディーが言ってきた。
「あの、シグレ」
「何だ、アディー」
「……私がダメになった話を聞いてくれるか?」
「……いいのか?」
「お前なら、軽蔑しないと思ったから……」
「軽蔑なんてするかよ」
 シグレはそう言ってアディーを抱きしめた。

 アディーはそのぬくもりに目を閉じて、軽く深呼吸を繰り返した。

「聞いてくれ、私の忌まわしい過去を──」





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

ゲームにはそんな設定無かっただろ!

猫宮乾
BL
 大学生の俺は、【月の旋律 ~ 魔法の言葉 ~】というBLゲームのテストのバイトをしている。異世界の魔法学園が舞台で、女性がいない代わりにDomやSubといった性別がある設定のゲームだった。特にゲームが得意なわけでもなく、何周もしてスチルを回収した俺は、やっとその内容をまとめる事に決めたのだが、飲み物を取りに行こうとして階段から落下した。そして気づくと、転生していた。なんと、テストをしていたBLゲームの世界に……名もなき脇役というか、出てきたのかすら不明なモブとして。 ※という、異世界ファンタジー×BLゲーム転生×Dom/Subユニバースなお話です。D/Sユニバース設定には、独自要素がかなり含まれています、ご容赦願います。また、D/Sユニバースをご存じなくても、恐らく特に問題なくご覧頂けると思います。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

【完結】俺だけの○○ ~愛されたがりのSubの話~

Senn
BL
俺だけに命令コマンドして欲しい 俺だけに命令して欲しい 俺の全てをあげるから 俺以外を見ないで欲しい 俺だけを愛して……… Subである俺にはすぎる願いだってことなんか分かっている、 でも、、浅ましくも欲張りな俺は何度裏切られても望んでしまうんだ 俺だけを見て、俺だけを愛してくれる存在を Subにしては独占欲強めの主人公とそんな彼をかわいいなと溺愛するスパダリの話です! Dom/Subユニバース物ですが、知らなくても読むのに問題ないです! また、本編はピクシブ百科事典の概念を引用の元、作者独自の設定も入っております。 こんな感じなのか〜くらいの緩い雰囲気で楽しんで頂けると嬉しいです…!

監獄にて〜断罪されて投獄された先で運命の出会い!?

爺誤
BL
気づいたら美女な妹とともに監獄行きを宣告されていた俺。どうも力の強い魔法使いらしいんだけど、魔法を封じられたと同時に記憶や自我な一部を失った模様だ。封じられているにもかかわらず使えた魔法で、なんとか妹は逃したものの、俺は離島の監獄送りに。いちおう貴族扱いで独房に入れられていたけれど、綺麗どころのない監獄で俺に目をつけた男がいた。仕方ない、妹に似ているなら俺も絶世の美形なのだろうから(鏡が見たい)

【本編完結】落ちた先の異世界で番と言われてもわかりません

ミミナガ
BL
 この世界では落ち人(おちびと)と呼ばれる異世界人がたまに現れるが、特に珍しくもない存在だった。 14歳のイオは家族が留守中に高熱を出してそのまま永眠し、気が付くとこの世界に転生していた。そして冒険者ギルドのギルドマスターに拾われ生活する術を教わった。  それから5年、Cランク冒険者として採取を専門に細々と生計を立てていた。  ある日Sランク冒険者のオオカミ獣人と出会い、猛アピールをされる。その上自分のことを「番」だと言うのだが、人族であるイオには番の感覚がわからないので戸惑うばかり。  使命も役割もチートもない異世界転生で健気に生きていく自己肯定感低めの真面目な青年と、甘やかしてくれるハイスペック年上オオカミ獣人の話です。  ベッタベタの王道異世界転生BLを目指しました。  本編完結。番外編は不定期更新です。R-15は保険。  コメント欄に関しまして、ネタバレ配慮は特にしていませんのでネタバレ厳禁の方はご注意下さい。

冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~

大波小波
BL
 フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。  端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。  鋭い長剣を振るう、引き締まった体。  第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。  彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。  軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。  そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。  王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。  仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。  仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。  瑞々しい、均整の取れた体。  絹のような栗色の髪に、白い肌。  美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。  第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。  そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。 「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」  不思議と、勇気が湧いてくる。 「長い、お名前。まるで、呪文みたい」  その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。

あなたがいい~妖精王子は意地悪な婚約者を捨てて強くなり、幼馴染の護衛騎士を選びます~

竜鳴躍
BL
―政略結婚の相手から虐げられ続けた主人公は、ずっと見守ってくれていた騎士と…― アミュレット=バイス=クローバーは大国の間に挟まれた小国の第二王子。 オオバコ王国とスズナ王国との勢力の調整弁になっているため、オオバコ王国の王太子への嫁入りが幼い頃に決められ、護衛のシュナイダーとともにオオバコ王国の王城で暮らしていた。 クローバー王国の王族は、男子でも出産する能力があるためだ。 しかし、婚約相手は小国と侮り、幼く丸々としていたアミュレットの容姿を蔑み、アミュレットは虐げられ。 ついには、シュナイダーと逃亡する。 実は、アミュレットには不思議な力があり、シュナイダーの正体は…。 <年齢設定>※当初、一部間違っていたので修正済み(2023.8.14) アミュレット 8歳→16歳→18歳予定 シュナイダー/ハピネス/ルシェル 18歳→26歳→28歳予定 アクセル   10歳→18歳→20歳予定 ブレーキ   6歳→14歳→16歳予定

処理中です...