江戸の夕映え

大麦 ふみ

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偽金使いを追う岡引の話─『反古のうらがき』より

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 ──はい、もう十年にも、いえ、もっとになりやす。千両ぐらいには、なりますでしょうか。……、はい、そのあいだに危なかったことなど、一度もござんせん。商売の取引にも使ったことがあるぐらいでごぜえやすが、疑うものなんぞついぞいやしやせんでした。

 ──そうじゃござんせん。あっしの作ったものじゃござんせん。他人の拵えた偽金で、腕が後ろにまわったわけでやす。

 ──へえ、近頃は偽金がよく出回っておりやす。もちろん、そんな不細工ななもの、受け取ったりはしなかったでやすが、なかには、「おっ」と思うくらいのものがごぜえす。それで、なんとなく一つ受け取った、そっからです。手元に取り置いて、そいつらを取り混ぜて払いに使うようになったわけでございやす。

 ──なんと申上げましょうか、ええ、もう自分では、満足のいくものを作る根気ってもんが続かないんでサア。根を詰めて、満足いくほどのものを、もう作れない。……それでも、まだやれるんだいう気があるから、偽金から離れられねえ。それで、この始末でさあ。なんもかも自分ひとりでできないのに手をだすような代物じゃあねえとは、わかっていたつもりなんですがねえ。しかたございやせん、はなから覚悟していたことでごぜえやす、止め時逃したた自分のせいてごぜえやす…… (了)
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