転生したら没落寸前だったので、お弁当屋さんになろうと思います。

皐月めい

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ズボラ界の救世主

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 日本が世界に誇れる文化の一つ、BENTO。
 いつでもどこでも食べられて、家庭の味から始まり手軽なコンビニ、果ては高級な料亭のお味まであらゆる好みに対応できる懐の広さを持つ偉大な文化だ。

 この世界には食堂や高級レストラン、屋台なんかはあるけれど、持ち帰りができる料理は存在しない。食べて帰るか家で作るかの二択という、主婦や社畜に優しくない仕様となっている。

 そんなところにこの弁当文化を持ち込んだらどうなるか。黒船だ。革命である。
 もしもこの事業がうまくいってお金を稼げたら屋敷を、爵位を手放さずに済むかもしれない。

 というわけで、私はまず売り出す弁当の試作に乗り出すことにした。
 エプロンをつけて両頬に闘志を漲らせて厨房に立つ。後ろでギルバートが怪訝な瞳でじっと様子を見守っている。

「まずは卵焼き!」

 ハート型の卵焼きを作りたいと思い立つ。お砂糖を入れて泡立て器でくるくるかき混ぜ、熱したフライパンに入れるとじゅうっと良い音がする。早速成功の予感だ。香りも良い。

 しかし私は不器用だった。

「…………スクランブルエッグのお弁当も美味しいかもしれないわね!」
「大丈夫ですか?」
「無問題よ」

 心配そうに口を挟んでくるギルバートを制して、次はウインナーをタコさんにする。足の太さがバラバラだしなぜか足が七本になってしまったけれど、なかなかうまくできたと思う。
 ハンバーグを作る。生焼けが怖いあまりに焼きすぎて色が薄めの炭となったが、とりあえずチーズを使って熊の顔を模してみた。怖。ブロッコリーは茹ですぎてグズグズになり、トマトだけは普通に美味しい。

 完成形を見たギルバートが一瞬黙って口を開いた。

「これは、斬新な……地獄絵図のようですね」
「……初めてはこんなものよ!」

 しかしそれから数日もの間、何度もチャレンジしたのだけれど私が上達することはなかった。見た目の下手さもさることながら、致命的なほど味がまずい。
 オーソドックスなお弁当は諦めて、他のものを作ることにした。

「次はサンドイッチを作ってみるわ」

 私の料理下手を悟りつつあるギルバートが、眉根のあたりに『不安』の二文字を漂わせてハラハラ見ている気配がする。

 しかしながらサンドイッチだ。奥深い食べ物ではあるけれど、流石に挟んでいくタイプの料理でデスマターを生み出すほど不器用じゃない。

 私はサンドイッチが大好きだ。
 ピリッとまろやか辛子マヨのきゅうりサンドや、優しい味わいのたまごサンドが特に好きだ。お腹が減ってる時の照り焼きチキンサンドは格別だし、ハムサンドとツナサンドも捨てがたい。


 けれども一つ問題があった。どのサンドウィッチにも欠かせないマヨネーズが、なんとこの世界にはないのである。
 ここで再度ペリー来航。ようやく生きる知識チートのお出ましだ。

 作るしかない。幸い私は小学生の時に夏休みの自由研究で作ったことがあるし、普通に美味しいものができたと記憶している。

 一度マヨネーズを味わいし者がマヨネーズなしの人生に戻れないことは全日本人が体験済みだ。つまりマヨネーズを発売したら、売れに売れてウッハウハ、屋敷を売らずにすむという寸法である。

「まずはマヨネーズを作るわ」
「マヨネーズ……?」
「卵と油とお酢とお塩を混ぜて作る調味料よ」

 また心配そうな表情を見せるギルバートに、私はふふんと少し得意げに説明をした。

「卵……。茹でるのですか?」
「いいえ、生よ。黄身だけ使うの」

 この国では卵は生食しないそうだ。これを機会に生卵の美味しさを知ってもらって、いずれミアちゃん印の新鮮卵をプロデュースするのも良いかもしれない。

 そう思っていたのに、一瞬ぎょっとしたギルバートの眉間がググッと寄った。
 これは、詰問される五秒前の合図である。

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