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魔法がない
しおりを挟むマヨネーズ作りは断念した。卵は生で食べると食中毒になるらしく、ギルバートにしこたま怒られた。
「転生と言ったら普通は魔法でちょいちょいできるはずじゃないの!」
「何を仰っているのかよくわかりませんが……百歩譲って危険のない生卵だとしても、大多数の者は抵抗があって食べませんよ。絶対に売れません」
「……!」
「ここ数日でミア様がやりたいことは分かりましたが、ミア様が一人でお作りになるのは無……いえ、途方もない時間がかかると思います。なぜあなたの騎士を使わないのですか」
それは……あなたが料理人ではなく騎士だからなのですが……。
そう思ったけれど口をつぐむ。やや半ギレ状態のギルバートが、有無を言わせない口調と表情で私の前に立った。美形が怒ると迫力がある。
「二人で頑張りましょう。あなたの剣を、如何様にもお使いください」
「ギッ……!ギルバート……!!」
後光がさしている。もはやただの菩薩じゃないか。
人には向き不向きがある。ギルバートと、それからセバスチャンにも相談して、私はアイディアと売り子を担当。ギルバートは私のアイディアを吟味して、調理を担当することになった。セバスチャンは経費の管理と宣伝だ。
かくしてオルブライト家のお弁当事業が始まった。
◇
血湧き肉躍るような晴天だ。本日無事に開店の運びとなる我が弁当屋の門出に相応しい陽気である。
武者震いにそわそわしながら、私は並べられたお弁当を見て大歓声を上げた。
「すごい! すごいわギルバート! 大天才!」
「いえ、ミア様のアイディアのお陰です」
「ふっふん」
大体が前世からのパクリだということは置いといて、私はちょっと得意げに胸を張った。
作られたお弁当は三種類。軽めのサンドイッチ弁当、唐揚げ弁当、洋風幕の内弁当である。
サンドイッチの方は、パンが鳥や王冠の型抜きで抜かれている。バターとレタスをたっぷり使ったハムサンド、コロッケサンドのセットである。
唐揚げ弁当はにんにくをガッツリ利かせた塩味だ。パンチのある味はパンに合うように作っていて、付け合わせにパスタと卵焼きを入れたボリューム重視なお弁当だ。箸休めのピクルスは彩り鮮やかなパプリカやきゅうりを入れている。ピラフかパンか、お好きな主食を選んで頂く心憎い気配りもある。
洋風幕の内弁当は、ああでもないこうでもないとギルバートと話し合った渾身の作である。
六種類あるおかずはこの国の伝統に沿った昔ながらのおかずばかりを用意して、お年寄りにも手に取りやすい品を目指した。
しかし俵形にしたピラフの一つ一つに、野菜の飾り切りや動物の形に型抜きをしたチーズを乗せて女性や子供の目を引くことを意識している。
ちなみにお弁当屋さんの開店にかかったお金は、十歳の時に父が贈ってくれたネックレスを売った。
既に売っていた他のアクセサリーに比べればやや安物なのだけれど、ギルバートが紹介してくれた知り合いに売ったらびっくりするくらいの高値で買い取ってくれたので、お店の開店資金は無事賄えた。
「売れるといいなあ」
「そうですね」
「売れますとも」
不安と期待で武者振るい。
三人でそわそわ緊張しながら、お弁当屋さんが開店した。
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