転生したら没落寸前だったので、お弁当屋さんになろうと思います。

皐月めい

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完全勝利

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 数ヶ月の日々が経たち、結論から言うとお弁当屋さんは大成功だった。
『サッと買ってすぐに帰れる』そんなコンセプトは、楽をしたければ外で食べるのが当たり前、というこの世界において瞬く間に人気を博した。

 オルブライト家の娘が売り子をしている、というのもかなりの宣伝になっているようで、父の統治が良かったと涙ぐみながら声をかけては大量に買ってくれる人もいるし、没落なんてさせねえぞ! と募金をしてくれる人もいた。

 中にはちょっと冷やかしで嫌な言葉を言われることもあったけれど、そこは私の騎士ギルバートの出番である。ずいっと前に出て話し合えば穏やかにご退場願えるので、今のところ快適に仕事ができている。

 人が人を呼び、毎日お店は賑わった。
 特に小さな子供がいる家庭向けに出したお子様弁当がヒットしてから、あらゆる年齢層に買われるようになり、順調に店は大きくなって店舗も増え、今や料理人を数十人抱えるまでに成長している。

「……この調子だと、借金を返せるかもしれません」

 セバスチャンが目尻に涙を滲ませてそう言った時、私は思わず感極まってギルバートに抱きついた。ギルバートは思いっきり固まって目を白黒させ、赤くなったり青くなったり様子がおかしくなっていた。大変なセクハラだったと反省している。

 臥せっていたお母様も少しずつ元気になった。今では女伯爵として少しずつ仕事をこなし、前より笑顔が戻ってきている。理系で数字に強い母が財政状況にメスを入れたことによって、領地経営で利益を上げられるようになってきているらしい。

 使用人を雇う余裕もできた。新しい顔ぶれも、懐かしい顔もいる。
 私も、お母様も、セバスチャンも、使用人もみんな笑顔だ。お父様が亡くなって悲しい気持ちはもちろんあるけれど、全てを失いかけて苦しかったあの頃が遠い昔のことに見える。


 という感じで割と屋敷内はうきうきモードだというのに、一人変わらず淡々と真面目な顔をしている男がいる。ギルバートだ。
 日課となった夜の業務報告と打ち合わせの最中も、なんだかやけに湿っぽい顔をしている。

「食事をお弁当で済ますことに罪悪感がある人向けに、合わせ調味料やカットした材料を詰めた『簡単お料理キット』を売るのはどうかしら」

 しれっと前世で見た知識を自分で考えたもののように提案すると、ギルバートが感心したように「良い考えですね」と頷いた。良い考えなのは当然だ。前世で発明した方、すみません。

「……この調子だと、間違いなく借金も返し終わりますね」
「そうね!」 

 思わず顔が綻ぶ。一年の期限まであと四ヶ月ほどあるけれども、この調子なら来月には借金分は返せそうだ。もしもこれ以上売り上げが伸びなくても、なんとか屋敷を売らずにすみそうだ。
 セバスチャンがスキップしそうな程ルンルンしながら「ひ孫の孫までオルブライト家に勤めさせてもらいます」とニコニコしていた。孫の進路は当人に任せてあげてと伝えたが、耳に入っているかはわからない。

「屋敷も売らずにすむから、爵位もこのまま。全てが元通りになると思うの」
「元通り……」
「ギルバートのおかげよ。本当にありがとう」
「……いいえ、私は何も」

 なんとなく歯切れの悪いギルバートに、違和感を覚えて首を傾げると彼はちょっと視線を彷徨わせたあと、覚悟を決めたように私をまっすぐ見つめた。

「ミアさまが望むことを、私は全て叶えたいと思っています」
「……ありがとう!」

 いつも通り、誰よりも私に忠実で、しかし頑固なギルバートの言葉だ。けれど、なんだか距離を置かれた気がする。

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