才能は流星魔法

神無月 紅

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異世界へ

0059話

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 ドレミナを出立したソフィアは、機動力重視の部隊編成を取っていた。
 隕石の件が続けて行ったことから、ドレミナにいた傭兵団の中でも勘の鋭い者がいる傭兵団や、儲け話だろうと判断した商人、あるいは領主が何かあると判断して部隊を派遣したりもしたのだが……ランクA傭兵団黎明の覇者の中でも、機動力に優れた馬やモンスターが牽く馬車というのは圧倒的な速度を持っていた。
 ましてや、ソフィアの場合は実際に隕石を降らせた人物に心当たりがある以上、少しでも早くその現場に向かう必要がある。
 この点も、他の者たちと比べるとかなり有利だったのは間違いない。
 何しろ隕石の降った場所に向かっている他の者たちは、そこに何があるのか正確には分からないのだから。
 分からない以上、どうしても慎重になる……もしくはもっと極端に怖がるといったようなことで、移動速度が遅くなってもおかしくはない。
 そんな中で、ソフィアは可能な限り移動を続けた。
 また、何かあるのか分からないから……そして何より、夜に移動するのは危険だということで、ソフィアたち以外は夜になると早々に野営の準備をした。
 そんな中、ソフィアたちは夜になっても問題なく走り続ける。
 日本とは違い、この世界では街頭などという物がないし、夜になれば……ましてや街の外となるとかなり暗い。
 月明かりや星明かりがあるものの、よほどの幸運でもなければそれを頼りに移動するのは難しいだろう。
 しかし、ソフィアたちの場合はそれが出来た。
 ソフィアの乗る場所を牽く虎のモンスターは、夜目が利く。
 それこそ夜であっても昼とは全く違いなく走れるくらいには。
 とはいえ、そのような真似が出来るのはあくまでもソフィアの乗っている馬車を牽くモンスターだけで、普通の馬車であったり、あるいは馬に直接乗っている者たちにそのような真似は出来ない。
 それが可能となったのは、ソフィアの乗っている馬車が篝火をつけ、それを目当てにして他の馬車や騎兵が移動していたためだ。
 そして夜中になってようやく野営をし、その野営も翌朝にはすぐに出発出来るように最低限の道具しか使っていない。
 ……なお、ソフィアを含めた女たちは馬車の中で眠ることになった。
 食事はそれなりに豪華なものとなる。
 英雄の宴亭の厨房で作って貰ったサンドイッチがあったので、不満を言うような者はいなかった。
 そうして朝になるとすぐに出発の準備を整えて出発し……そして目的に到着したのだ。

「どうやら、無事だったようね」

 馬車から降りたソフィアは、まずイオを見て笑みを浮かべ、他の者たちも無事だったのを確認して安堵しながら呟く。
 そして次にソフィアの視線が向けられたのは、ベヒモスの骨。
 すでにほぼ全てが解体されてはいるものの、その骨を見ただけで相手は強力なモンスターであるというのは予想出来た。
 本来の目的であった餓狼の牙との戦いとは全く関係のないような、そんな存在との戦い。
 だからこそ、イオが流星魔法を使わなければならなかったのだろうと。

「ソフィア様……まさか、本当に……」
「ルダイナ? どうしたのかしら?」

 ルダイナの様子が、いやそれ以外の多くの者の様子がおかしいのを見て、ソフィアは不思議そうに尋ねる。
 ソフィアと一緒に来た面々もまた、そんなルダイナたちの様子に疑問を感じていた。
 最初はこの状況で自分たちがやって来たことに驚いているのかと思ったものの、ルダイナたちの様子を見る限りではそれとはまた違うように思える。
 そうある以上、今この場ではいったい何故そのように思っているのか……それを疑問に思うなという方が無理だった。
 そんな疑問に答えたのは、やはりルダイナ。

「その、ソフィア様たちが近付いて来る土煙は見えていたんですが、まだ判別出来なかったときに、イオがソフィア様たちだと言って……正直、最初は信じられなかったんですけど」
「……そうなの?」

 ソフィアの視線はイオに向けられる。
 そんな視線を向けられたイオは、ソフィアに向かって頷く。

「はい。正直なところ本当に何でそう思ったのかは、分かりません。けど……何故か分かったというのが正しいですね」
「そう。……その辺はあとでゆっくりと話を聞かせて貰うわ。今はそれよりも前にこのモンスターをどうにかしないといけないわね。ちなみに、これはどんなモンスターだったのかしら?」

 ベヒモスは骨だけになってしまっているせいか、ソフィアが少し見た程度ではどのようなモンスターなのか分からなかった。
 しっかりと調べれば分かるのかもしれないが、今はそのようなことをしている自信はないし、モンスターの正体を知っている者が目の前にいる以上はそちらから事情を聞いた方が手っ取り早い。

「ベヒモスです」

 ルダイナの口から出たその言葉を聞いても、ソフィアはあまり驚いた様子はない。
 ソフィアの側にいた他の者たちは、ベヒモスという言葉を聞いて驚いていたが。
 ベヒモスという高ランクモンスターが何故このような場所に出るのか。
 そんな疑問を抱くのは当然だろう。
 だが、実際に死体が……より正確には解体されて骨になったベヒモスが目の前に存在する以上、それを否定するような真似は出来ない。

「ベヒモスね。それで……」

 言葉を途中で切ったソフィアが視線を向けたのは、イオが流星魔法を使って隕石を落下させた場所。
 当然ながら、そこには落下した隕石が半ば地面に埋まっていた。
 イオにしてみれば、可能ならこの隕石を回収したいと思う。
 しかし、ベヒモスの死体から剥ぎ取った素材ですら、全てを持ち帰ることが出来ないのだ。
 それもベヒモス丸々一匹という訳ではなく、流星魔法で下半身がない状態であっても。
 そうである以上、地面に埋まっている隕石を確保するというのは不可能に近い。

「それは、その……イオが……」
「ええ、分かってるわ。流星魔法でしょう? ここに来た者達は全員がそれを知ってるわ。ゴブリンの軍勢の一件でその痕跡は見ているし」

 ソフィアの言葉に、ルダイナは安堵する。
 イオからソフィアが流星魔法について知っているというのは聞いていた。
 しかし、それでも本当にその言葉を信じてもいいのかどうかは分からなかったし、直接こうしてソフィアから話を聞かされ、それで安心するのは当然の話だろう。

「そうですか。ソフィア様の言う通りイオが流星魔法で倒しました。ベヒモスの下半身は流星魔法の結果として消滅しましたが、上半身は残りました。その剥ぎ取りを昨日からやっていたのですが、それで剥ぎ取った素材は……それこそ骨も含めて、全て持ち帰ることは出来ません」
「でしょうね。マジックバッグでも持たせておけば、もう少しは素材を収納出来たでしょうけど。……それでもこの骨をこのまま捨てるには勿体ないわね」
「私もそう思っていました。ただ、イオが流星魔法を見せた以上、それを見てやって来る者がいるかもしれないからと不安に思っていたんですが……ソフィア様が来てくれて助かりました」

 ルダイナが自分のことを私と口にしているのを聞いて、イオは一瞬違和感を抱く。
 だが、ルダイナにしてみればソフィアは自分よりも格上の存在なのだ。
 それもちょっとやそっとではなく、圧倒的なまでに。
 そうである以上、ルダイナが口調を変えるのは当然だった。
 ……そういう意味では、ソフィアに対して丁寧な言葉遣いをしているものの、一人称が俺というままのイオの方がおかしいのだろう。

「そうね。ただ、私たちが最初にやって来たのは事実だけど、恐らくそう遠くないうちに他の勢力から派遣された人たちも来るでしょうね。そのときまでに、どう対応するのか考えておいた方がいいんでしょうけど……ギュンター、どう思う?」
「黎明の覇者の客人を奪おうとしたり、黎明の覇者が倒したモンスターの素材を奪おうとする相手に対しては、確固たる態度を取るべきかと」

 それはつまり、イオやベヒモスの素材を奪おうとする相手とは正面から戦うべきだと、そう言ってるも同然だった。
 とはいえ、ある意味でそれは正しい。
 傭兵団というのは、他の傭兵団から侮られるようなことがあった場合、色々と面倒なことになる。
 そのようなことにならないためには、ちょっかいを出してくる相手には相応の態度をとる必要があった。
 ここで下手に相手に対して妥協をすると、これからは何度も同じようなことを相手にされる可能性が高いのだから。
 そうならないためにも、ちょっかいを出してくる相手への対処はしっかりとする必要もある。
 ただし、その加減も難しい。
 どのような相手であろうと問答無用で実力行使をするような真似をすれば、それはそれで他の傭兵団にとっては話の通じない存在と認識され、何かあったとき一緒に戦うのは遠慮したいと思う者たちも出てくる。
 ましてや、今回イオを欲しているのは、傭兵団や商人といった者たちの他にドレミナの領主もいる。
 その地を支配している領主と戦いになった場合は、面倒なことになる可能性は否定出来なかった。
 ……とはいえ、だからといってイオを渡すといった選択肢はソフィアの中にはないのだが。

「そうね。私たちは黎明の覇者。であれば、その名前通りに動きましょう。……これから一体どのような相手が来るのかは分からないけど、それでも決して私たちが譲ることはない」

 あるいはこれがイオの件ではなければ……それこそ、もっと代わりが用意出来るような何かであれば、交渉次第で相手に譲ってもいい。
 しかし、イオは駄目だ。
 流星魔法という、圧倒的な威力を持つ魔法を使える存在。
 その存在は、黎明の覇者にとってどれだけ大きな存在なのかは考えるまでもないだろう。
 だからこそソフィアは相手が誰であってもここで退くようなつもりはない。
 また、ソフィアだけではなく他の者たちもまた同様に、イオという存在について知っていれば、ソフィアの意見に異を唱えるようなことはなかった。

「では、私たちは私たちらしく行動しましょうか」

 そんなソフィアの指示に従い、黎明の覇者は動き出すのだった。
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