モラハラ王子の真実を知った時

こことっと

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 頭の中がグチャグチャする……。

 俯いて歩く私と、手を取り危険がないようにフォローしてくれるフェルザー。 でも……私の離縁にホクホクとご機嫌な様子に腹が立った。

 だって、私の頭の中はグチャグチャしているから。

 腹が立ったから蹴ってやろうかと思ったけど、靴で汚れてしまうかな……。 ジッと足元を見つめていれば、歩みが止まった。

「どうかしたのか?」

 感情はぶつけた方がいい。 そう言ったフェルザーの言葉を思い出した。

「フェルザーが、私の不幸を喜んでいるように見えるのが気に入りません」

「ぇ、あ、そうか……そうだな。 レーネ様はマルクルが好きだったもんな。 俺にとってはアイツは余り良い奴とは言えないから、どうしても良かったと思ってしまうんだ。 不快にさせてすまなかった。」

 謝られはしたけれど、さりなく過去形にされた。 
でも、思ったほど胸が痛くない?

「あの、どういう所が良い奴ではないんですか?」

「風邪をぶり返すから早く戻ろう」

「あ、はい……あの……」

「どういう所が、か……。 まぁ、色々あるが、もし……俺がマルクルの立場だったら、もっとレーネ様を大事にするのにって思ってな」

 ニッコリと笑いかけられ、何故か不思議に恥ずかしく思った。

「そ、そうですか……」

「折角可愛らしいんだからもっと可愛い恰好をさせたり、出かけた時は美味しいものを土産に買って帰ったり。 今は社交の場は控えているが、アイツの立場なら各地の領主達と交流を図りレーネ様の好きそうな物を取り寄せたり。 お茶を一緒にして、食事も一緒にして、眠る前には話をして」

「あの……」

「どうかしたか?」

「半分以上は今と変わりませんが?」

「……それは当たり前だろう。 俺には権力も金もある!! それにレーネ様が仕事で分からない事を各地の領主から学んだ後には、皆必ずレーネ様のために領地の特産品をプレゼントする。 俺がなぜしてはいけないと思う?」

「いえ……あの……」

『誰だって貴方が受ける寵愛を恐れ、貴方の機嫌を取るような事を言い、行動をする。 そんな人の言葉を真に受ける等、愚か者のする事です。 貴方は愚か者ですか?』

 居ないはずのマルクル兄様の声が甘く響きながら頭の中に響く。

 黙り込み俯けば、大きな右手が顎に触れ上向かされた。

「な、何?」

「俺とレーネ様の間に、信頼関係はないのか?」

 静かな苦々しい笑い。

「あの……。 私が……陛下と王妃様の寵愛を受けているから……優しくしてくれるのですか?」

「はぁ?」

 明らかに馬鹿にしたような声で、なんだか恥ずかしくなった。

「俺が、あの二人に遠慮している所を見聞きしたことがありますか?」

「な、ないです」

「でしょう? 俺がレーネ様の事を好きだからですよ」

「そ、そうですか……ありがとうございます」

 何故だか……頬が熱かった。

「あの!!」

「んっ?」

「他の人達も、同じでしょうか?」

「あ~~、どうだろうなぁ……」

 フェルザーは、少しだけ悩んで苦々しく笑いながら頭を撫でまわし言うのだ。

「侍女達も、レーネ様が関わった貴族達もきっと好意的に思っている。 でも、きっと俺の方がずっと好きだよ」

 胸が痛い。

 マルクル兄様が与える痛みとは違う……全然違う、甘い痛みで……勘違いしそうになる。

「フェルザー、私、喉が渇いたのお茶を飲みたいわ」

 両手を差し出せば抱き上げられた。

 もう冬なのに熱い。 そっと寄り添う体温を、初めてレーネは意識した……暖かくて……とても心地いいのだと……。

 だからと言って、ただ、それに飲み込まれ、眠っていれば良いと言うものではないだろう。



 だって、私は……考えなければいけないから。



 私は……何に引っかかっているの?

 逃げないで考えないと……。
 私の居場所は無くならないと言ってくれたのだから。

 私は何に引っかかったのかしら?

『自分達がいかに無能かを披露しているようなものですよ』
『偽物、であっても己を輝かせる方法はあると言うものです。 無能者には無能者に相応しい方法がね……』

 文官達に言われた言葉。

 私は、彼等が無能ではない事を知っている。 確かに今回は、禁じられた事を行って、本来の仕事に支障を出したかもしれない。 だけど、ソレはマルクル兄様が無能と言う条件に彼等を当てはめただけ。 無能と言うレッテルで縛っただけ。

 知っているもの……一緒に仕事をしたことがあるから。 彼等は無能ではないわ。

 兄様は嘘つき……。
 いえ……言葉に都合の良い嘘を混ぜ込む?

 私は……留学から戻ってから1度だって私に好意の言葉を口にしたことが無い事を悲しく思い……そして、余りにも悲しかったから気づかないふりをしていた事を思い出す。

 もう、胸は痛くない。
 だって、私も同じだから。

 私も慕っているとは言うけど、好きだとも愛しているとも言った事が無いのだから。

 王妃様は……お母様は言っていた。 家族でいるために自分に課した予防線で、条件なのだと……そう言われた私は、あぁ、そうなのかと……ホッとした。

 良く考えて……

 心地よい声で……追い詰める。
 優しい口調で、味方のふりをする。

 私は……例え愚かで幼稚だったとしても、私は見下し蔑まれ偽りに彩られた好意を向けられていた訳ではないわ。 フェルザーがノーラが……私の周りの人達がそんな事をする訳ないのですから。



「ごめんなさい……」

「ぇ?」

「やっぱりお茶は後にしたいの。 お願い、マルクル兄様の所に連れて行って」

 苦し気な表情、声、呼吸でレーネはフェルザーに訴えた。

「兄様を見たいの……」



 会いたいではなく。

 見たい。

 ならばと、フェルザーは穏やかに了解した。



「私は、納得していません」

 何時ものように穏やかに笑みを浮かべたままマルクルは母親に訴えていた。 父はどうにでも丸め込めると、視界の外に置いていた。

「どうしてかしら? 貴方は……あの子を愛していないでしょう?」

「母上には理解できないかもしれませんが、私は私の心で、愛しておりますよ。 人に譲りたくもありません。 あの子を与えてくれたのは父上と母上ではありませんか。 今更無かった事になさらないで下さい」

「私が、くれてやったと言うなら、私が止めれば終わり。 そうではありませんか?」

 親子の睨み合い。

「コレは決定事項。 もう覆る事はありません。 安心しましたわ。 貴方がとても素敵なお姫様を自ら選び連れてきてくれて、息子の事はよろしく頼みますよ」

「もう少し、話し合いをしてはどうだ。 事は夫婦の事、他人が勝手に決めるなど無粋と言うものでは」

 国王が慌てながら告げた。

「貴方は、お黙りなさい。 行くわ……今日はお茶に招待してくれてありがとう」

「いえ、お二方にお茶の時間を設けて頂いたこと感謝いたしますわ」

 王妃に応じたのは、マルクルではなくアリアーヌ姫だった。



 時間が足りない。
 まだ、時じゃない。

 王を引きずり落とすのに足りない。

 マルクルは焦りを覚えた。

 ……幼い頃、幾度となく母と……フェルザーとぶつかりあった。 だけれど、マルクルの本能を思考を理解してもらう事は無く、理解出来なかった。 疑問をぶつけてみた事もあったけれど、彼等の語る言葉の合理性もまた理解出来なかった。

 語り合い、理解する事に意味はありません。
 もう、随分昔に諦めたでしょう。

 自分に語りかけ、そして……マルクルは微笑んで見せた。



「母上のお考えは、理解いたしました。 妻のために時間を作っていただきありがとうございました」

「えぇ、とても有意義なお茶会だったと思うわ」

「お義母様、今度は、あの女の子もお茶会に招いて下さい。 私、とても気に入りましたの」

「時期が来ればご紹介しますわ。 さぁ、アナタ行きますわよ!!」

 去る王妃はレーネの姿を確認し、僅かに口角を上げた。
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