モラハラ王子の真実を知った時

こことっと

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 今まで、私はマルクル兄様と一緒に居る時は、その場の出来事を全て当事者として捕らえていた。 自分を中心に物事を考え過ぎていたのかもしれません……よね?

 裁判を見るかのように第三者的に、見るのよ……。

 お母様とマルクル兄様との会話を木々の裏から覗き見た。

 緊張。

 温もりを覚えたはずの肌と心が、凍るように冷える

 私を愛していると言っている時の感情の籠らない表情に、何処に愛があると言うのでしょうか? 私の意志を決めつけ、私を物のように扱う……そんな相手に、私は本当に親しみを感じ慕っているの?

 私は、考え込む。

 邪魔しないようにフェルザーとノーラは待ってくれていた。

 お母様が去った時、私も一緒に戻れば良かった等とは言わない。



「義母様は随分とご立腹だったようね」

 お姫様が言いながら、ぬるりと姫君は兄様の首元に手を回していた。 襟元から首筋に指先が入り込み、口づけを交わす。 その口づけが熱い吐息を含んでいるように思えた。 かき抱くように兄様は姫君の背に手を回していた。

 フェルザーが私の目を塞ぐけれど、振り返ればその手は外してくれた。 音を出さずフェルザーは言う。

 行くぞ。

 首を横に振る。

 兄様と姫君の熱が上がるほどに、私の熱は冷めていき、お母様が語っていた、忘れていた記憶が思い出される。

 私が怯えるのを面白がっていた記憶を。

 大量の孵化寸前の蜘蛛の卵が部屋に隠されていて、部屋中に蜘蛛が徘徊していたとか。 月の無い夜に窓が揺り動かされたとか。 犬と小さな自分をロープで繋がれたとか。 彼に逆らう者への虐待を見せつけられた。 何度も何度も……繰り返し。

 声を出せばここにいる事がばれてしまうからと、私は必死に唇を噛もうとすれば……様子がおかしいと気付いてくれたフェルザーが抱きしめ、私はその場から去ろうと腕をトントンと叩いた。



 その場を離れ……私はお願いをした。

「あの二人を、あそこに入り込まないようにして……あそこは私が計画して作らせた場所、不愉快だわ……」

「了解、手配をしよう」

「私、思い出したの……彼は……どう変わったの?」

 フェルザーは肩を竦めた。

「大人になれば人は変わる」

 私は……いじめにあっている間もずっと彼と共にいた。 彼に連れられていた。 誰かが大人が彼に協力していた。 でなければ厳しいお母様の目を盗んであんなことはできない。

「人は変わっても人同士の繋がりは変わらないわ」

「はい」

「なに? ノーラ」

「そんな、支援者がいるなら文官に仕事をふるでしょうか? そう言うものは秘密であるほど良いのだから、なら、なぜ……彼を支援しなかったのでしょうか?」

「……そうね……彼もまた試されている。 そう、考えるべきではないかしら? 貴族だって彼に付き合って地に落ちたくはないでしょう。 でも……一緒に落ちて貰いましょう。 危険的な思考は民に悪影響ですもの。 それと……彼から仕事を任せられた文官達を洗い出し報酬を集めましょう。 だって……本当に魔皇石の産地があるなら、食糧難の時にあれほど混乱に陥るかしら? 全部調べて頂戴。 王宮内にどれだけ信頼できる人がいる? 人は足りるかしら?」

「了解、なんとかしましょう」





 真実とは厳しいもの……。

 嘘とは言え……私は、彼が慕っていた。
 ソレを思えば、胸が痛んだ。

 彼は……多くの人に不幸をもたらしていた。

 それでも恋心だろうと思うこの気持ちに……嘘は無かっただろうと思えば……罪悪感を覚えてしまう。 自分の平和だけを望み、そして……忘れてしまっていたから。 その間に救えた人がどれぐらいにいただろうか? ソレが、胸の痛みになっていた。



 静か……とても……静かだわ。

 広すぎるベッドに横になっていた。

 この宮に関わる人は、信頼できる公爵家の人達で、今日は何時もよりも人が少ない……それが不安だけど……。 大丈夫、えぇ、彼は私が従順な彼の子羊だと思っているから。



 カタカタとバルコニーと繋がるドアが揺れていた。

 風の音は無い。

 人の手で揺らされる音。
 ドアが揺らされる振動でカーテンが揺れた。

 私はそっとベッドからずり落ちた。
 音を立てずに……。

「レーネ、レーネ……私です。 ここを開けて下さい」

 マルクルが来た。

 彼を罠に嵌めるなら、扉を開き彼を招き入れなければいけない。 どうしよう……怖い……。 私は、床を這うようにして部屋を出て……そして、ドアの外で護衛をしている人に話しかけた。

「私が呼んだら、或いは30分経ったら入って来て。 あと……お母様か、フェルザーを呼んできて」

 私は……、私は立ち上がりドアの側に立つ。

「どうか、されたのですか?」

「母上が、貴方を傷つけるような事を言ったのではと心配になったもので、私達は話し合う必要があります」

「私はとても眠いの まだ体調がよくなくて……眠くて眠くてたまらないの……」

 少しでも時間を稼がないと……。

「そう、なら、私が子守歌を歌って上げましょう。 貴方のために。 さぁ……ここを開けてください」

 扉を叩く音が激しくなる。

「私は、もう子守歌や寝物語を望む子供ではないわ」

「なら……大人同士、話し合いましょう。 さぁ、ここを開けて下さい。 私まで風邪をひいてしまいます」

「でも、こんな夜中に男の人を招くと、フェルザーに怒られてしまうわ」

「私は貴方の夫ですよ?」

「でも……王妃様が……」

 息苦しい……。

「貴方は、ソレを受け入れるつもりですか? 貴方の私への思いは……他人に邪魔にされて終わる程度のものなのですか?」

 甘く優しい声色。
 揺れるような話し方。

 頭の中がグラグラとする。

 ドアを叩く音が激しくなり、鍵がガタガタと揺れて……徐々に外れてくる。 なんて、軟弱な鍵なの!!



 心臓の動きが早い。
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