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「…………」
明日やっと退院だというのに、眠れなかった。消灯した部屋の中で、天井を見つめていた。久保田から言われたことが頭から離れない。
『大丈夫です。僕は逃げたりしません』
いやいやいや、こわいこわいこわい。俺は逃げたいから。
『大丈夫です。もう心配いりませんから』
なにが? なにがなの? なんの心配がいらないの? 意味が分からない。赤の他人のくせに。しかも母さんに勝手に電話しやがって転職したことも勝手に言いやがった。しかもしかも、勝手にキスしやがった! キ……キ……キ……キ…………!
俺はなぁ、追い詰められたら犯罪だって犯しちゃう人間なんだぞ! これ以上追い詰めたら何するか分かんないぞ! でも俺だってまたわけわかんなくなって犯罪なんて犯したくないよ!
「野坂さんっ! 待ってましたよ!」
「…………」
一週間ぶりに出勤すると、なぜか村上に出迎えられた。そしてなぜか俺の机の上に花瓶が置かれ、花まで飾られている。
「さぁっ! 野坂さん。今日からまたバリバリと働いてくださいね!」
村上に両肩を叩かれ、椅子に強引に座らされた。
「バリバリ働くほど仕事がねーだろ」
猫目の森田が呆れたように村上の隣で言った。
俺もそう思う。
「これでやっと平常運転に戻りましたね!」
「…………」
そう。平常運転。朝礼が終わると、コーヒーメーカーの洗浄をした。久保田のおかげで溜まっている仕事は何もない。溜まっているのは掃除くらいだ。しかしそれも村上が言っていたほどひどい状態ではなかった。
コーヒーメーカーの最初のカフェラテを自分で飲みつつ、観葉植物に水をやりながら枯れてしまった葉っぱを取り除いた。
「野坂さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
どうしたことか、俺は今日から挨拶マシーンと化していた。社員がいちいち俺に挨拶をしてくるのだ。
「野坂さん、行ってきます」
また外回りに出掛ける社員だ。俺はゴミ箱のゴミを集めるのをやめ、顔を上げた。
「はいはい、行ってら……」
久保田だった。
俺は思い切り顔を背け、久保田を無視した。
「野坂さん?」
久保田が近づいてくる気配に俺はたまらず逃げ出し、トイレへ駆け込んだ。個室に入って久保田がいなくなるのを待つ。
あいつは興信所まで使って俺の過去を調べた。しかもその過去を使って脅しもした。俺を甘やかして飼い殺しにしようともしてるし、勝手に俺のスマホのロックはずして見たし、リョータにも勝手に連絡しやがった。しかもしかも母親にまで電話しやがった! 久保田はそういう奴なんだ。久保田はそういう奴なんだ!
俺は何度も自分にそう言い聞かせてからトイレを出ると、久保田はすでにいなかった。
「野坂さん」
「……はい」
畳の部屋の個室。窓からは絵を切り取ったような庭が見える。目の前には鍋。すき焼きが食べられる老舗の料亭だ。今日は久保田が店を選んだ。きっと肉好きの俺のためにこの店を選んだんだろう。
また実家に電話してやると脅されて仕方なくここに来たが、今日の俺は少しも揺らぐつもりはかった。
「野坂さん、食べないんですか?」
「…………」
目の前の鍋にはすき焼きが出来上がっている。美味しそうな匂いはしているが、俺は箸を取らなかった。
「もしかして体調が悪いですか?」
「…………」
久保田からの正面からの質問に目をそらす。
「あまり元気がないように見えるんですが。食欲もなさそうですし」
「…………」
「ピロリ菌除去の薬は毎日ちゃんと飲んでますか?」
「…………」
俺はよく今まで久保田の前であんなにも無防備に大食いを披露していたと思う。
「なんか本当に心配ですね」
久保田もまた食事に手を付けていなかった。ずっと俺のことを見ているのだ。俺はお腹が鳴りそうになったのを誤魔化すためにお茶を一気に飲んだ。すると思い切り咳き込んでしまった。
「……ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ……!!」
「大丈夫ですか?」
久保田が隣に来て背中をさすってくれた。
「野坂さん。体調が悪いなら言ってくれたら良かったのに。今日はもう帰りましょう」
その言葉に俺は勢い良く頷いた。そうしてくれると助かる。そうだ、このまま帰ってしまおう。
俺たちは料理に手を付けないまま店を出た。店の前で久保田がタクシーを拾い、久保田も一緒に乗り、運転手に行き先に俺の家を告げた。
タクシーに乗っている間中、俺は窓の外を見ていた。早く久保田から解放されることを願って。しかし、久保田は俺の家に着くと、一緒にタクシーを降りたのである。
「心配なので家まで送ります」
「…………」
なぜか久保田に肩を支えられながらアパートの階段を上った。家の前まで来ると、久保田が鍵を取り出し、俺の家の鍵を開けた。
「え?」
「あ、合鍵を作りました。いざっていう時に必要だと思って」
いざっていつ? ……今?
改めて久保田の怖さを実感した。
俺は無理矢理抱きかかえられる状態で家の中に運ばれた。
入院のために着替えを久保田に取りに行って貰ったが、相当散らかっていたはずの部屋を完璧に片づけられていた。どういう掃除方法かは分からないが、畳までワックスかけたみたいにツルツルになっていた。
「野坂さん、もう寝てください」
俺は敷きっぱなしの布団の上で降ろされた。俺はあぐらをかいて座り込む。
「あの、もう大丈夫だから、帰って」
「今から薬を買ってきます。症状を教えてください」
「あの、本当にもう、大丈夫だから」
久保田は俺の目の前に座ると、俺のおでこに手を当てた。
「…………」
「熱はなさそうですが、風邪ですか?」
俺は久保田の体を手を伸ばして押し返した。
「お願いだから、もう帰って!」
「帰れません。一人にしてまた倒れたらと思うととても帰る気にはなれません」
「…………」
がっくりと項垂れた俺に、久保田の顔が近付いた。
「野坂さん、もしかして、この前キスしたこと怒ってますか?」
「…………」
……こいつに近づかれるのはヤバい。俺は再度久保田の体を押し返した。
「僕としては、キスまでならOKだと思ったんですが」
「なに勝手にOK出してんだよ!」
理性はどうした!
「嫌ならもうしません」
「うそだっ」
「本当です」
「うそっ」
「本当です。あなたに嫌われたくないですから」
「……ほんとに?」
「はい」
「……絶対?」
「はい」
もう絶対にしない、と言われてやっと肩の力を抜くことができた。
なんで久保田にキスをさせてしまったんだろうと、ずっと後悔していた。好きな男としかしたことなかったから。でももうしないなら忘れよう。なかったことにしよう。そうだ、俺は久保田とは何もしていない!
布団に勢いよく倒れ込むと、今さらすき焼きを食いっぱぐれた事を後悔した。
「あー! 腹減った!」
「何か作りましょうか」
作ると言われて、冷蔵庫の中に何が入っていたかと思い出そうとした。たしか、卵と冷凍したご飯があったはず。
「……じゃあ、チャー」
チャーハンなら作れると言おうとして目を開けると、久保田の顔が目の前にあった。俺の顔の両横に手を付いている。鼻先が触れ、息がかかった。
「…………」
突然のことに驚いていると、そのままキスをされた。
「…………」
「チャーハンですね? 今すぐ作ります」
久保田はそう囁くように言うと、勢いよく立ち上がり、勝手に冷蔵庫を開けてチャーハンを作り始めた。
「野坂さん、どうかしました?」
「え?」
「なんか、ボーっとしてますね」
「それじゃいつもと変わんねーだろ」
目の前に村上と森田の芸人コンビのような二人が座っている。以前誘われたのに行けなかった会社近くのうどん屋に連れて来て貰っていた。しかも俺の退院祝いで二人で奢ってくれるらしい。
近所の人しか知らなさそうな小さなうどん屋。
村上は味噌煮込みうどん、森田はカツ丼を食べていて、俺は天ぷらうどんを食べていた。
「今度、みんなで野坂さんの退院祝いで飲み会しようって言ってるんですけど、野坂さんてお酒飲める方ですか?」
「いえ、そんな、契約社員ですし、そこまでしてもらうわけには」
なんか申し訳ない。あんな楽な仕事なのに。
「えー、野坂さんともっと仲良くなれるチャンスじゃないですかー。やりましょーよー」
チャンスって何? 村上は徐々に俺に対して遠慮がなくなってきていた。
「本人が嫌がってるんだからいいだろ」
森田が村上をつっけんどんな口調でたしなめた。
「本当にお気持ちだけで充分です。ありがとうございます」
丁重に断るために頭を下げた。
久保田の態度が相当ひどかったのか、復帰してからというもの、他の社員からの扱いがガラリと変わった。今までの留守番電話のような扱いとは違い、挨拶される上に普通に話しかけられるようになった。しかしさすがに、飲み会まで開かれるのは困る。
「なーんだ。結局久保田さんの独り占めなんですね」
「え?」
「久保田さんに他の奴らとは仲良くするなとか言われてるんじゃありません?」
「そんなことは」
否定しようとしたが遮られた。
「あの人、野坂さん以外を人間だと思ってないんですよ。野坂さんがいない間も、俺たちのせいでストレスで野坂さんが病気になったんじゃないかって、一人ずつに聞いて回ってたんですよ? こっちは否定してんのにネチネチネチネチ!」
「…………」
「まるで生徒のいじめを疑う教師みたいだったよな?」
森田が珍しくこれには同意した。
「…………」
あいつそんなことしてたのか。だからみんなの様子がおかしかったんだ……。ストレスのせいだとしたら完全にお前のせいだろ。
「野坂さんが戻って来てくれて本当に助かりましたよ。あのネチネチサイボーグを黙らせることができたんですから」
「…………」
俺はそんな頭のおかしい男と二回もキスをしたんだ。合鍵も作られたし、毎日家に来たいと打診されてるし、毎日夜這いに来ないか不安で余計に眠れなくなったし、実家にまで押しかけられる可能性だってある。
しかもあいつの中では俺たちは付き合ってることになってるんだ。早く逃げないと大変なことになるかもしれないぞ!
明日やっと退院だというのに、眠れなかった。消灯した部屋の中で、天井を見つめていた。久保田から言われたことが頭から離れない。
『大丈夫です。僕は逃げたりしません』
いやいやいや、こわいこわいこわい。俺は逃げたいから。
『大丈夫です。もう心配いりませんから』
なにが? なにがなの? なんの心配がいらないの? 意味が分からない。赤の他人のくせに。しかも母さんに勝手に電話しやがって転職したことも勝手に言いやがった。しかもしかも、勝手にキスしやがった! キ……キ……キ……キ…………!
俺はなぁ、追い詰められたら犯罪だって犯しちゃう人間なんだぞ! これ以上追い詰めたら何するか分かんないぞ! でも俺だってまたわけわかんなくなって犯罪なんて犯したくないよ!
「野坂さんっ! 待ってましたよ!」
「…………」
一週間ぶりに出勤すると、なぜか村上に出迎えられた。そしてなぜか俺の机の上に花瓶が置かれ、花まで飾られている。
「さぁっ! 野坂さん。今日からまたバリバリと働いてくださいね!」
村上に両肩を叩かれ、椅子に強引に座らされた。
「バリバリ働くほど仕事がねーだろ」
猫目の森田が呆れたように村上の隣で言った。
俺もそう思う。
「これでやっと平常運転に戻りましたね!」
「…………」
そう。平常運転。朝礼が終わると、コーヒーメーカーの洗浄をした。久保田のおかげで溜まっている仕事は何もない。溜まっているのは掃除くらいだ。しかしそれも村上が言っていたほどひどい状態ではなかった。
コーヒーメーカーの最初のカフェラテを自分で飲みつつ、観葉植物に水をやりながら枯れてしまった葉っぱを取り除いた。
「野坂さん、行ってきます」
「行ってらっしゃい」
どうしたことか、俺は今日から挨拶マシーンと化していた。社員がいちいち俺に挨拶をしてくるのだ。
「野坂さん、行ってきます」
また外回りに出掛ける社員だ。俺はゴミ箱のゴミを集めるのをやめ、顔を上げた。
「はいはい、行ってら……」
久保田だった。
俺は思い切り顔を背け、久保田を無視した。
「野坂さん?」
久保田が近づいてくる気配に俺はたまらず逃げ出し、トイレへ駆け込んだ。個室に入って久保田がいなくなるのを待つ。
あいつは興信所まで使って俺の過去を調べた。しかもその過去を使って脅しもした。俺を甘やかして飼い殺しにしようともしてるし、勝手に俺のスマホのロックはずして見たし、リョータにも勝手に連絡しやがった。しかもしかも母親にまで電話しやがった! 久保田はそういう奴なんだ。久保田はそういう奴なんだ!
俺は何度も自分にそう言い聞かせてからトイレを出ると、久保田はすでにいなかった。
「野坂さん」
「……はい」
畳の部屋の個室。窓からは絵を切り取ったような庭が見える。目の前には鍋。すき焼きが食べられる老舗の料亭だ。今日は久保田が店を選んだ。きっと肉好きの俺のためにこの店を選んだんだろう。
また実家に電話してやると脅されて仕方なくここに来たが、今日の俺は少しも揺らぐつもりはかった。
「野坂さん、食べないんですか?」
「…………」
目の前の鍋にはすき焼きが出来上がっている。美味しそうな匂いはしているが、俺は箸を取らなかった。
「もしかして体調が悪いですか?」
「…………」
久保田からの正面からの質問に目をそらす。
「あまり元気がないように見えるんですが。食欲もなさそうですし」
「…………」
「ピロリ菌除去の薬は毎日ちゃんと飲んでますか?」
「…………」
俺はよく今まで久保田の前であんなにも無防備に大食いを披露していたと思う。
「なんか本当に心配ですね」
久保田もまた食事に手を付けていなかった。ずっと俺のことを見ているのだ。俺はお腹が鳴りそうになったのを誤魔化すためにお茶を一気に飲んだ。すると思い切り咳き込んでしまった。
「……ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ……!!」
「大丈夫ですか?」
久保田が隣に来て背中をさすってくれた。
「野坂さん。体調が悪いなら言ってくれたら良かったのに。今日はもう帰りましょう」
その言葉に俺は勢い良く頷いた。そうしてくれると助かる。そうだ、このまま帰ってしまおう。
俺たちは料理に手を付けないまま店を出た。店の前で久保田がタクシーを拾い、久保田も一緒に乗り、運転手に行き先に俺の家を告げた。
タクシーに乗っている間中、俺は窓の外を見ていた。早く久保田から解放されることを願って。しかし、久保田は俺の家に着くと、一緒にタクシーを降りたのである。
「心配なので家まで送ります」
「…………」
なぜか久保田に肩を支えられながらアパートの階段を上った。家の前まで来ると、久保田が鍵を取り出し、俺の家の鍵を開けた。
「え?」
「あ、合鍵を作りました。いざっていう時に必要だと思って」
いざっていつ? ……今?
改めて久保田の怖さを実感した。
俺は無理矢理抱きかかえられる状態で家の中に運ばれた。
入院のために着替えを久保田に取りに行って貰ったが、相当散らかっていたはずの部屋を完璧に片づけられていた。どういう掃除方法かは分からないが、畳までワックスかけたみたいにツルツルになっていた。
「野坂さん、もう寝てください」
俺は敷きっぱなしの布団の上で降ろされた。俺はあぐらをかいて座り込む。
「あの、もう大丈夫だから、帰って」
「今から薬を買ってきます。症状を教えてください」
「あの、本当にもう、大丈夫だから」
久保田は俺の目の前に座ると、俺のおでこに手を当てた。
「…………」
「熱はなさそうですが、風邪ですか?」
俺は久保田の体を手を伸ばして押し返した。
「お願いだから、もう帰って!」
「帰れません。一人にしてまた倒れたらと思うととても帰る気にはなれません」
「…………」
がっくりと項垂れた俺に、久保田の顔が近付いた。
「野坂さん、もしかして、この前キスしたこと怒ってますか?」
「…………」
……こいつに近づかれるのはヤバい。俺は再度久保田の体を押し返した。
「僕としては、キスまでならOKだと思ったんですが」
「なに勝手にOK出してんだよ!」
理性はどうした!
「嫌ならもうしません」
「うそだっ」
「本当です」
「うそっ」
「本当です。あなたに嫌われたくないですから」
「……ほんとに?」
「はい」
「……絶対?」
「はい」
もう絶対にしない、と言われてやっと肩の力を抜くことができた。
なんで久保田にキスをさせてしまったんだろうと、ずっと後悔していた。好きな男としかしたことなかったから。でももうしないなら忘れよう。なかったことにしよう。そうだ、俺は久保田とは何もしていない!
布団に勢いよく倒れ込むと、今さらすき焼きを食いっぱぐれた事を後悔した。
「あー! 腹減った!」
「何か作りましょうか」
作ると言われて、冷蔵庫の中に何が入っていたかと思い出そうとした。たしか、卵と冷凍したご飯があったはず。
「……じゃあ、チャー」
チャーハンなら作れると言おうとして目を開けると、久保田の顔が目の前にあった。俺の顔の両横に手を付いている。鼻先が触れ、息がかかった。
「…………」
突然のことに驚いていると、そのままキスをされた。
「…………」
「チャーハンですね? 今すぐ作ります」
久保田はそう囁くように言うと、勢いよく立ち上がり、勝手に冷蔵庫を開けてチャーハンを作り始めた。
「野坂さん、どうかしました?」
「え?」
「なんか、ボーっとしてますね」
「それじゃいつもと変わんねーだろ」
目の前に村上と森田の芸人コンビのような二人が座っている。以前誘われたのに行けなかった会社近くのうどん屋に連れて来て貰っていた。しかも俺の退院祝いで二人で奢ってくれるらしい。
近所の人しか知らなさそうな小さなうどん屋。
村上は味噌煮込みうどん、森田はカツ丼を食べていて、俺は天ぷらうどんを食べていた。
「今度、みんなで野坂さんの退院祝いで飲み会しようって言ってるんですけど、野坂さんてお酒飲める方ですか?」
「いえ、そんな、契約社員ですし、そこまでしてもらうわけには」
なんか申し訳ない。あんな楽な仕事なのに。
「えー、野坂さんともっと仲良くなれるチャンスじゃないですかー。やりましょーよー」
チャンスって何? 村上は徐々に俺に対して遠慮がなくなってきていた。
「本人が嫌がってるんだからいいだろ」
森田が村上をつっけんどんな口調でたしなめた。
「本当にお気持ちだけで充分です。ありがとうございます」
丁重に断るために頭を下げた。
久保田の態度が相当ひどかったのか、復帰してからというもの、他の社員からの扱いがガラリと変わった。今までの留守番電話のような扱いとは違い、挨拶される上に普通に話しかけられるようになった。しかしさすがに、飲み会まで開かれるのは困る。
「なーんだ。結局久保田さんの独り占めなんですね」
「え?」
「久保田さんに他の奴らとは仲良くするなとか言われてるんじゃありません?」
「そんなことは」
否定しようとしたが遮られた。
「あの人、野坂さん以外を人間だと思ってないんですよ。野坂さんがいない間も、俺たちのせいでストレスで野坂さんが病気になったんじゃないかって、一人ずつに聞いて回ってたんですよ? こっちは否定してんのにネチネチネチネチ!」
「…………」
「まるで生徒のいじめを疑う教師みたいだったよな?」
森田が珍しくこれには同意した。
「…………」
あいつそんなことしてたのか。だからみんなの様子がおかしかったんだ……。ストレスのせいだとしたら完全にお前のせいだろ。
「野坂さんが戻って来てくれて本当に助かりましたよ。あのネチネチサイボーグを黙らせることができたんですから」
「…………」
俺はそんな頭のおかしい男と二回もキスをしたんだ。合鍵も作られたし、毎日家に来たいと打診されてるし、毎日夜這いに来ないか不安で余計に眠れなくなったし、実家にまで押しかけられる可能性だってある。
しかもあいつの中では俺たちは付き合ってることになってるんだ。早く逃げないと大変なことになるかもしれないぞ!
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