154 / 422
第2章
嬉しいお誘い
しおりを挟むお食事会をした日から一ヶ月と少し。
僕の体の中の魔力循環もだいぶ良くなり、国による事件の処理も落ち着いた。
学園にも通常通り行けるようになり、朝、にぃ様と一緒に馬車に乗り通う平和な日常が戻ってきた。
そんな穏やかで寒さを感じ厚着をするようになった今日。
にぃ様達が学園を卒業する。
「…どうしたルナイス。」
「…今日でにぃ様と学園へ通うのが最後だと思うと…胸がぐぅってなります。」
馬車の窓からお外を見ていた僕、おそらくすっごく微妙な顔をしていたのだと思う。
にぃ様に声をかけられて、きちんとお答えしたいのだけど…寂しいだけではないような複雑な心境を上手く言葉にできなくて、返事も微妙になってしまう。
「あぁ…僕も寂しい。」
「っにぃ様!」
にぃ様が″僕″って言う時はとってもプライベートな時。
寂しそうに微笑むにぃ様に堪らない気持ちになって思いっきり抱き着いてしまう僕だけど、日頃鍛えているにぃ様は揺れることなく僕を受け止め、抱きしめ返してくれる。
しばらくそのままじっと抱擁を交わし、従者からのノックでお互いの体を離した。
「よぉ、アーバスノイヤー兄弟。」
「あぁ。」
「ご機嫌よう、ヒュー様。」
馬車を降りてすぐに僕達を待っていたらしいヒュー様に挨拶をすれば右手を軽く上げてよっとされた。
いつもはもうちょっと貴族同士っぽい感じで挨拶をするけど、今日は周りに人が少ないこともあってかすごくフランクな感じだ。
「学生最後の日なんだ。今日くらい只の同級生として過ごしてもいいだろ。」
二人のいつもと違う雰囲気に首を傾げる僕にヒュー様が二ッと笑って理由を教えてくれる。
なるほどっと僕が納得したところで二人が歩き出したので、僕もついて足を進めた。
にぃ様は卒業後、アーバスノイヤー家の正式な後継者と公表されて領地の運営に関わっていくことになっている。
しばらくは他領地へ挨拶兼視察へ行ったり、とーさまと一緒に遠出されることが多いのでとーさま含め顔を合わせる機会がぐっと減る。
寂しいけれど、絶対に必要なことだから我慢だ。
ヒュー様もヒル家の後継者として、にぃ様と同じように忙しくなるみたい。
そして二人とも父親と同じ近衛騎士団、王国騎士団に入団することも決まっている。
騎士団は実力主義だから入団するのはにぃ様達が望んだことで、実力があると判断されたから。
とーさまが現在やっていることだけど…改めて考えると領地運営に騎士団業務に、すっごく大変なことだ。
これから取り組んでいくにぃ様を尊敬するけれど、それ以上にとーさまへの尊敬度がぐぐぐーっと上がったことは言うまでもない。
そんな多忙な日常を送る前に只の学生として過ごすっていうのはすごく素敵なことだと思う。
それに僕は只の友として接する二人の雰囲気が大好きだ。
にぃ様は僕に接するよりもヒュー様への反応は少しばかり冷たいように思うけど、信頼していることが言葉のところどころから感じ取れるし、ヒュー様だって揶揄うような言い方をよくされるけれど、同じようににぃ様を信頼していることが分かる。
こんな風に穏やかに話す二人を見るのは、もしかしてこれが最後になってしまうんだろうか…
そう思うと何だか切ない。
「ルナイス。今日は昼を一緒にとって、帰りも共に帰ろう。」
ふっと後ろを歩く僕を振り返ったにぃ様がそんなことを言ってきたので驚いて立ち止まる。
校舎が離れていたり、にぃ様が忙しかったり、僕があんまり学園に通えなかったりで、学園でにぃ様と接触する機会は思っていたよりも少なかった。
今日も同級生と最後の学生生活を過ごすのだと思っていたから、予想もしていなかったお誘いを理解した途端に、顔がだらしなくふにゃっとしてしまう。
「言葉を発さなくても返事が是であることが分かるな。」
「癒される。」
「確かにな。」
言葉が出てこないくらい嬉しくてコクコクと何度も頷く僕を見て、2人が色々言っているけれど、思考がふわふわとしている僕にはあんまり意味が理解できなかった。
でも良い評価を貰えているのだなってことは理解したので、僕の顔はさらにだらしなくなってしまう。
811
あなたにおすすめの小説
最強賢者のスローライフ 〜転生先は獣人だらけの辺境村でした〜
なの
BL
社畜として働き詰め、過労死した結城智也。次に目覚めたのは、獣人だらけの辺境村だった。
藁葺き屋根、素朴な食事、狼獣人のイケメンに介抱されて、気づけば賢者としてのチート能力まで付与済み!?
「静かに暮らしたいだけなんですけど!?」
……そんな願いも虚しく、井戸掘り、畑改良、魔法インフラ整備に巻き込まれていく。
スローライフ(のはず)なのに、なぜか労働が止まらない。
それでも、優しい獣人たちとの日々に、心が少しずつほどけていく……。
チート×獣耳×ほの甘BL。
転生先、意外と住み心地いいかもしれない。
秘匿された第十王子は悪態をつく
なこ
BL
ユーリアス帝国には十人の王子が存在する。
第一、第二、第三と王子が産まれるたびに国は湧いたが、第五、六と続くにつれ存在感は薄れ、第十までくるとその興味関心を得られることはほとんどなくなっていた。
第十王子の姿を知る者はほとんどいない。
後宮の奥深く、ひっそりと囲われていることを知る者はほんの一握り。
秘匿された第十王子のノア。黒髪、薄紫色の瞳、いわゆる綺麗可愛(きれかわ)。
ノアの護衛ユリウス。黒みかがった茶色の短髪、寡黙で堅物。塩顔。
少しずつユリウスへ想いを募らせるノアと、頑なにそれを否定するユリウス。
ノアが秘匿される理由。
十人の妃。
ユリウスを知る渡り人のマホ。
二人が想いを通じ合わせるまでの、長い話しです。
神子の余分
朝山みどり
BL
ずっと自分をいじめていた男と一緒に異世界に召喚されたオオヤナギは、なんとか逃げ出した。
おまけながらも、それなりのチートがあるようで、冒険者として暮らしていく。
途中、長く中断致しましたが、完結できました。最後の部分を修正しております。よければ読み直してみて下さい。
【完結】悪役令息⁈異世界転生?したらいきなり婚約破棄されました。あれこれあったけど、こんな俺が元騎士団団長に執着&溺愛されるお話
さつき
BL
気づいたら誰かが俺に?怒っていた。
よくわからないからボーっとしていたら、何だかさらに怒鳴っていた。
「……。」
わけわからないので、とりあえず頭を下げその場を立ち去ったんだけど……。
前世、うっすら覚えてるけど名前もうろ覚え。
性別は、たぶん男で30代の看護師?だったはず。
こんな自分が、元第三騎士団団長に愛されるお話。
身長差、年齢差CP。
*ネーミングセンスはありません。
ネーミングセンスがないなりに、友人から名前の使用許可を頂いたり、某キングスゴニョゴニョのチャット友達が考案して頂いたかっこいい名前や、作者がお腹空いた時に飲んだり食べた物したものからキャラ名にしてます。
異世界に行ったら何がしたい?との作者の質問に答えて頂いた皆様のアイデアを元に、深夜テンションでかき上げた物語です。
ゆるゆる設定です。生温かい目か、甘々の目?で見ていただけるとうれしいです。
色々見逃して下さいm(_ _)m
(2025/04/18)
短編から長期に切り替えました。
皆様 本当にありがとうございます❤️深謝❤️
2025/5/10 第一弾完結
不定期更新
転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした
リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。
仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!
原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!
だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。
「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」
死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?
原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に!
見どころ
・転生
・主従
・推しである原作悪役に溺愛される
・前世の経験と知識を活かす
・政治的な駆け引きとバトル要素(少し)
・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程)
・黒猫もふもふ
番外編では。
・もふもふ獣人化
・切ない裏側
・少年時代
などなど
最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
寄るな。触るな。近付くな。
きっせつ
BL
ある日、ハースト伯爵家の次男、であるシュネーは前世の記憶を取り戻した。
頭を打って?
病気で生死を彷徨って?
いいえ、でもそれはある意味衝撃な出来事。人の情事を目撃して、衝撃のあまり思い出したのだ。しかも、男と男の情事で…。
見たくもないものを見せられて。その上、シュネーだった筈の今世の自身は情事を見た衝撃で何処かへ行ってしまったのだ。
シュネーは何処かに行ってしまった今世の自身の代わりにシュネーを変態から守りつつ、貴族や騎士がいるフェルメルン王国で生きていく。
しかし問題は山積みで、情事を目撃した事でエリアスという侯爵家嫡男にも目を付けられてしまう。シュネーは今世の自身が帰ってくるまで自身を守りきれるのか。
ーーーーーーーーーーー
初めての投稿です。
結構ノリに任せて書いているのでかなり読み辛いし、分かり辛いかもしれませんがよろしくお願いします。主人公がボーイズでラブするのはかなり先になる予定です。
※ストックが切れ次第緩やかに投稿していきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる