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しおりを挟むしかし、バレンタインは消えませんでした。明日は必ず来てしまうものなのです。校内はこのクソみたいな記念日のせいで甘い空気が漂い生徒は皆浮き足立っていたが、俺だけまるで葬式のように心が沈んでいた。
鞄の中には妹から「ちゃんと渡してね」と念を押されたチョコが入っている。ご丁寧に可愛らしいラッピングまでされている。ずるい。ずるいずるい。俺なんてラッピングもされてない失敗作を渡されたのに真野先輩は本当にずるい人だ。
朝渡そうと思っていたが、まだ学校に来てないかもしれないと後回しにした。
昼休みになってもご飯を食べた後だからお腹いっぱいかも、と後回しに。
部活終わりになっても先輩は他の女子に囲まれて渡すタイミングがないから、と逃げて逃げていつの間にか窓の外は暗くなっていた。
はー、流石に一日経ったチョコとかまずいよな。今から真野先輩の机の中に仕込もうと思ったけど衛生面的に駄目か。妹に謝ってもう一回作ってもらおう。うん、そうしよう。間違って落としたって言えば許してくれるかもしれない。
「……渡さなきゃいいのになぁ」
ぽろり、と本音が零れた。
きっと真野先輩なら妹の告白を受け入れ妹を幸せにするだろう。妹は宇宙で一番可愛いから惚れるのは確実だ。真野先輩はこの一週間見てきたが、ちょっと意地悪なところはあるけども凄く良い人だ。でも、俺は妹が生まれたばかりの頃から大切に大切に一番傍で守ってきたのに急に俺より他人の方が好きとかあんまりだ。
「創、泣いてるのか?」
目を見開いた。話し掛けてきたのは元凶である真野先輩だから。
つい驚いて手を離す。そして見事にチョコレートはゴミ箱の中へ一直線。
「なんだ、これは?」
「え、えっと、それは」
先輩はゴミ箱から箱を拾いラッピングを素早く解く。
「チョコじゃないか。いつの間に作ったの、か……」
真野先輩の声が段々とか細くなるのも当たり前だ。
まさか中身はハート型のチョコ。更にホワイトチョコで「真野先輩♡」という文字が描かれているなんて誰も想定しないだろう。
妹よ、お前どんだけ……。妹が本気で作ったことは強く伝わったが、これは流石にお兄ちゃん傷つきます。ていうか先輩には俺が真野先輩宛のチョコを捨てた悪い奴に見えているだろうな。まあ実際ちゃんと妹のチョコを渡そうとしなかったからその悪い奴と同然だ。一応捨てるつもりはなかったと誤解を解いて離れようと思い口を開いた。
「えっと、これは違くて」
「……本当に、創が好きなのか?俺を」
「へ?」
思わず動揺により心の声が出てしまった。何で俺が真野先輩を?そんなわけないだろうが。うちの天使からチョコを貰っておいて何をとぼけて……
……あれ?
俺、妹が作ったなんて言ってない。つまり、今真野先輩から見たら、泣きながら俺が先輩宛のチョコの入った箱を捨てたように見える。
実質、俺が真野先輩にチョコレートを渡したみたいじゃないか!
「違います。これは」
「誤魔化さなくて良い。俺も好きだ」
「……え、誰を?」
「お前だよ、創」
口角を緩め、そっと優しく俺を包んで耳元で好きだと囁いた。
……へ?
急に抱き締められて動揺により体が石のように硬直する。そして、真野先輩はそんな俺に優しく微笑みかけた。
「これからよろしくな」
甘いスマイルに俺の心が痛む。勘弁してくれ。何でそんな純粋に嬉しそうな顔するの?俺断りづらいじゃん。今更「俺は好きじゃないです」って言えないんですけど!
一声も喉から出ず俺はぎごちなく笑い返すだけしか出来なかった。彼の姿が見えなくなるまで、貼り付けた笑顔で手を振り続ける。そして足音すら聞こえなくなった所で大きく息を吸った。
「ぁあ"あ"あ"!!!えっ、は?何これ?キャパオーバーなんですけど!!」
誰も居ない教室を良いことに本音を曝け出す。さっきまで妹の兄離れで泣きそうになっていたが、今はもう涙なんて出す余裕も無い。どうしよう。想像以上に非常事態だぞこれ。
今更振るのは流石に無いよな。断る理由が無い。しかも真野先輩、本気で俺の事好きそうだったし。せめて同情で付き合おうと言ってくれたなら断りやすかったのに。
「うわ、絶対根本的に悪いのは俺。どうにかしないと。改善策出さないと」
誰も傷つかない満足する策はないだろうか。足りない脳味噌で事態を収拾する案を必死に考える。
悩んでいる最中、俺のスマホが振動した。こんな時に誰だと少し腹を立てるが相手は何も悪くない。落ち着け俺。理性を取り戻すんだ。
画面には妹からのLIMEが映っていた。直ぐに開いてみると「ごめん。チョコ渡すのナシで。やっぱり自分から言葉で伝える方が良いと思って。どうせ渡せてないでしょ?食べていいよ」と書かれていた。
俺にとっては都合の良い出来事だ。真野先輩にはチョコレートを渡してしまったが、妹からとは言っていないからセーフ。
でもこれって妹も振られるんじゃないか?だって先輩、俺が好きだし。否、あんな可愛い天使を振る男なんてこの世界に存在しない。もし妹に告られたら真野先輩も即OKするだろうし今は無理に先輩の誤解を解かなくていいかな。
「……うん。どうせ俺は振られるだろうし大丈夫でしょ。二人が付き合えば俺ももうこの二人に悩まされることは無い」
そしてこの困った事態を無理強引に自己完結した。
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