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永久糖度
永久糖度⑤
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朝起きてから何度ため息をついただろう。アラームの設定時刻を間違えていないのに、一時間半も早く目が覚めた。頭の中がずっとすっきりとせず、苛立ったりせつなくなったり焦ったり、止め処なく感情が押し寄せてくる。
「今日も昨日の調子のままかな」
考えると、それだけでまたため息が出る。叶がおかしいと恵吾も落ちつかない。
こうしていても仕方がない、ととりあえずベッドから出る。カーテンを開けて窓の向かいを見ると、叶の部屋のカーテンはまだ閉まっている。
叶はどんな結論を出そうとしてるんだろう。
想像するだけで心細くなる。恵吾から離れることを決めた、と言われたら、なにも反応ができなくなる自分がわかる。それだけ叶が必要で、彼がいることが当然になっていた。叶が向けてくれる好意や愛情に甘えきっていたのだ。なにも返さなくても与え続けてくれると信じて疑わなかった。そんな都合のいいことがあるはずはないのに。
ベッドを背もたれにして床に座る。俯いたら気持ちまで下を向いた。
「俺、叶を失うのかな」
それは言葉で言い表せないほど恐ろしいことだ。
家を出ても叶は恵吾のところに来なかった。それが叶の結論か、と口を歪めて歩き出そうとしたら、背後でドアの開閉する音がした。はっと振り返ると、叶が俯きがちに家を出てきたところだった。
「叶……」
呟いた声が届くわけがないのに、顔をあげてくれたことに安堵する。まだ求められている気がしたのだ。
「恵吾!」
たたたっと軽快に走り寄ってきた叶は、両腕を広げて恵吾に抱きついた。
「……!?」
「俺わかった。『本当の好き』は恵吾への好き」
昨日の重苦しい雰囲気など微塵も残さず、晴れた空のようにすっきりとした笑顔を向けられた。状況が読めず目をまたたく恵吾に、叶は自慢げに胸を張って見せた。
「俺の恵吾への好きが本当じゃないはずないもんね」
「……」
よくわからないが、なんらかの答えには行きついたようだ。悩んだ時間を返してもらいたいくらいだが、叶が離れていく結末にならなかったことにほっとして力が抜けた。
「そうだよ。叶は素直に俺を好きでいればいいんだよ」
呆れつつ苦笑すると、今度は叶が目をしばたたいた。
「俺が好きなんだろ?」
こくん、と頷いた叶に、今度は恵吾から抱きつく。
「俺も好きだよ。『本当の好き』で、叶が好き」
そんなことに悩んでんじゃないよ、馬鹿。
言葉を呑み込んで、心の中でだけ文句を言った。
「ま、待って。シチュエーションも大事。本当の恋愛するにはリアリティが……」
「は?」
「だめだよ、ちゃんとしないと!」
本当にわからないが、叶なりの「本当」の形ができあがっているようだ。本当にしょうがないやつ、と呆れているのに心が温かくなった。
「リアリティがほしいなら、ずっと俺を捕まえてろよ」
精いっぱい優しく微笑みかけると、叶は目を丸くして口を開いたまま固まった。
「えっ」
「逃がさないように、頑張れよ」
「恵吾は逃げたいの?」
「逃げたくならないように、しっかり捕まえとけってこと」
叶の両手を取ると、握り返してくれた。大きくてしっかりした手は、もう大人の男と変わらない。
「恵吾」
真剣な瞳を向けられ、緊張に唾を飲む。
「な、なに?」
強張った声になってしまい、叶が「馬鹿だなあ」と言うように穏やかかに目を細めた。叶相手に緊張する必要なんてないのだ。だって叶も恵吾も、本心で相手を求めている。
「恵吾が好きです。これからもずっと好きな自信があります。俺とつき合ってください」
「はい。よろしくお願いします」
真剣な表情に胸がとくんと鳴り、叶にこんなふうに心が疼くことがくすぐったい。
こうなる結果は決まっていたのかもしれないけれど、過程も大事だ。叶が通った悩みも恵吾がひとりもやもやしたことも、うまく消化できればそれでいい。
「今日も昨日の調子のままかな」
考えると、それだけでまたため息が出る。叶がおかしいと恵吾も落ちつかない。
こうしていても仕方がない、ととりあえずベッドから出る。カーテンを開けて窓の向かいを見ると、叶の部屋のカーテンはまだ閉まっている。
叶はどんな結論を出そうとしてるんだろう。
想像するだけで心細くなる。恵吾から離れることを決めた、と言われたら、なにも反応ができなくなる自分がわかる。それだけ叶が必要で、彼がいることが当然になっていた。叶が向けてくれる好意や愛情に甘えきっていたのだ。なにも返さなくても与え続けてくれると信じて疑わなかった。そんな都合のいいことがあるはずはないのに。
ベッドを背もたれにして床に座る。俯いたら気持ちまで下を向いた。
「俺、叶を失うのかな」
それは言葉で言い表せないほど恐ろしいことだ。
家を出ても叶は恵吾のところに来なかった。それが叶の結論か、と口を歪めて歩き出そうとしたら、背後でドアの開閉する音がした。はっと振り返ると、叶が俯きがちに家を出てきたところだった。
「叶……」
呟いた声が届くわけがないのに、顔をあげてくれたことに安堵する。まだ求められている気がしたのだ。
「恵吾!」
たたたっと軽快に走り寄ってきた叶は、両腕を広げて恵吾に抱きついた。
「……!?」
「俺わかった。『本当の好き』は恵吾への好き」
昨日の重苦しい雰囲気など微塵も残さず、晴れた空のようにすっきりとした笑顔を向けられた。状況が読めず目をまたたく恵吾に、叶は自慢げに胸を張って見せた。
「俺の恵吾への好きが本当じゃないはずないもんね」
「……」
よくわからないが、なんらかの答えには行きついたようだ。悩んだ時間を返してもらいたいくらいだが、叶が離れていく結末にならなかったことにほっとして力が抜けた。
「そうだよ。叶は素直に俺を好きでいればいいんだよ」
呆れつつ苦笑すると、今度は叶が目をしばたたいた。
「俺が好きなんだろ?」
こくん、と頷いた叶に、今度は恵吾から抱きつく。
「俺も好きだよ。『本当の好き』で、叶が好き」
そんなことに悩んでんじゃないよ、馬鹿。
言葉を呑み込んで、心の中でだけ文句を言った。
「ま、待って。シチュエーションも大事。本当の恋愛するにはリアリティが……」
「は?」
「だめだよ、ちゃんとしないと!」
本当にわからないが、叶なりの「本当」の形ができあがっているようだ。本当にしょうがないやつ、と呆れているのに心が温かくなった。
「リアリティがほしいなら、ずっと俺を捕まえてろよ」
精いっぱい優しく微笑みかけると、叶は目を丸くして口を開いたまま固まった。
「えっ」
「逃がさないように、頑張れよ」
「恵吾は逃げたいの?」
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「恵吾」
真剣な瞳を向けられ、緊張に唾を飲む。
「な、なに?」
強張った声になってしまい、叶が「馬鹿だなあ」と言うように穏やかかに目を細めた。叶相手に緊張する必要なんてないのだ。だって叶も恵吾も、本心で相手を求めている。
「恵吾が好きです。これからもずっと好きな自信があります。俺とつき合ってください」
「はい。よろしくお願いします」
真剣な表情に胸がとくんと鳴り、叶にこんなふうに心が疼くことがくすぐったい。
こうなる結果は決まっていたのかもしれないけれど、過程も大事だ。叶が通った悩みも恵吾がひとりもやもやしたことも、うまく消化できればそれでいい。
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