永久糖度

すずかけあおい

文字の大きさ
4 / 22
永久糖度

永久糖度④

しおりを挟む
 今日は一日叶が静かで変な気分だった。不気味と言ったら言いすぎかもしれないが、違和感がすごかった。帰りの今もまだ叶は口を開かなくて、ずっとなにかを考え込んでいる様子だ。
「平和すぎる」
 つい呟いてしまうくらい、叶がおかしい。勝手なもので、しつこくくっつかれたらうるさがるくせに、静かだと物足りなく感じる。それにうるさいほうが叶らしくて、ほっとする。
「恵吾」
「おー、考えごと終わったか?」
「本当の恋愛ってなに?」
 ぴたりと足が止まる。叶を振り仰ぐと、真剣な瞳を恵吾に向けている。
「『本当の好き』ってなに?」
 今さらなにを、と思うのに焦りが生まれた。叶の迷いが瞳の色から見て取れる。
「叶?」
「……俺の恵吾への好きってなんだろう」
 緊張でどきりと心臓が跳ねる。なにかおかしな結論を出そうとしているのではないだろうか。
「これは『本当の好き』なのかな」
 今さらなに言ってんだ、と一蹴することもできる。でもそれで解決する問題ではないとわかる。今迷っている叶が出した答えによっては、恵吾から離れていくのかもしれない。真っ暗な穴にはまったような恐怖が突如襲ってきた。
「本当の好きって……なに言ってんだよ」
 指先が震えるのを、ぎゅっと手を握り込んで隠す。動揺を悟られたくないのに、声まで揺れてしまう。
「恵吾はわかるの?」
「それは……わからないけど。でも、叶が迷うのは違うだろ」
「どうして?」
 真剣に問われるとなんと返したらいいかわからないけれど、叶はそんなことで悩むような男ではないはずだ。恵吾が嫌がっても好意を向けてきて、ぐいぐいと押してくる。それが叶で、そうしない叶なんて違う。
「……」
 本当にそうなのか。ただ恵吾が叶をわかっていなかっただけではないか。叶は繊細なところがある。こういう悩みをいつもかかえていたのかもしれない。それに気がつけていなかったのではないだろうか。
「悪い。先帰る」
 叶を置いて走り出す。これ以上問いかけられても答えられないし、せつなさに圧し潰されそうだった。
 叶はなにがあっても恵吾の味方で、恵吾を好きだと言ってくれると思い込んでいた。そんな自分がいかに叶の好意の上に胡坐をかいていたかを思い知らされる。息切れの苦しさ以上に胸に迫ってくるものがあった。
「叶の馬鹿」
 いつもみたいに、自信満々に「恵吾が好き」って言えよ。
 叶以上に、自分のほうが彼に多くを求めていたのだろうか。考えても考えてもわからなくて、ただもやもやが心の内にいつまでも渦巻いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

ビジネス婚は甘い、甘い、甘い!

ユーリ
BL
幼馴染のモデル兼俳優にビジネス婚を申し込まれた湊は承諾するけれど、結婚生活は思ったより甘くて…しかもなぜか同僚にも迫られて!? 「お前はいい加減俺に興味を持て」イケメン芸能人×ただの一般人「だって興味ないもん」ーー自分の旦那に全く興味のない湊に嫁としての自覚は芽生えるか??

溺愛系とまではいかないけど…過保護系カレシと言った方が 良いじゃねぇ? って親友に言われる僕のカレシさん

315 サイコ
BL
潔癖症で対人恐怖症の汐織は、一目惚れした1つ上の三波 道也に告白する。  が、案の定…  対人恐怖症と潔癖症が、災いして号泣した汐織を心配して手を貸そうとした三波の手を叩いてしまう。  そんな事が、あったのにも関わらず仮の恋人から本当の恋人までなるのだが…  三波もまた、汐織の対応をどうしたらいいのか、戸惑っていた。  そこに汐織の幼馴染みで、隣に住んでいる汐織の姉と付き合っていると言う戸室 久貴が、汐織の頭をポンポンしている場面に遭遇してしまう…   表紙のイラストは、Days AIさんで作らせていただきました。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新するかもです。 BLoveさまのコンテストに応募するお話に、視点を追加して、倍くらいの字数増量(笑)でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

俺の彼氏は真面目だから

西を向いたらね
BL
受けが攻めと恋人同士だと思って「俺の彼氏は真面目だからなぁ」って言ったら、攻めの様子が急におかしくなった話。

篠突く雨の止むころに

楽川楽
BL
キーワード:『幼馴染』『過保護』『ライバル』 上記のキーワードを元に、美形×平凡好きを増やそう!!という勝手な思いを乗せたTwitter企画『#美平Only企画』の作品。 家族のいない大原壱の、唯一の支えである幼馴染、本宮光司に彼女ができた…? 他人の口からその事実を知ってしまった壱は、幼馴染離れをしようとするのだが。 みたいな話ですm(_ _)m もっともっと美平が増えますように…!

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

処理中です...