空気を読んで!

すずかけあおい

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空気を読んで!

空気を読んで!②

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 翌朝、部活動の朝練許可時間帯の一番早い時間に合わせて家を出る。森岡先輩が使う、昨日と一昨日貴宗に邪魔をされた駅で待機。
 今日は絶対邪魔が入らない。だって貴宗にはこの時間に家を出ることを言ってない。
 緊張でどきどきしながら森岡先輩を待つ。十五分ほど待ったところで先輩の姿が改札の向こうに見えた。改札を出るのに合わせて駆け寄り、先輩の前に立つ。

「すいかくん? きみも朝練?」
「いえ、先輩に、あの……」
「どうしたの?」

 心臓の音が耳に響く。唇を一度引き結んでから口を開く。

「俺、先輩のことが、わあっ」

 耳にふうっと息を吹きかけられて変な声を上げてしまう。なに!? と横を見ると貴宗が立っている。

「……!?」
「どうしたの? 俺、朝練に遅れるからあんまり時間取れないんだけど」
「大丈夫です。こいつは先輩を見かけて声をかけたかっただけのようなので」

 適当なことをすらすら言うのはその口か! 塞いでやろうとしたら両手をぎゅっと握られ、貴宗のそばに引き寄せられる。

「そう? じゃあ先行くね」

 森岡先輩が貴宗と俺を置いて歩き出す。待って、待って先輩……、そんな気持ちで森岡先輩を見つめていたら先輩が振り返ってくれた。思いが通じた!

「二人仲いいね。付き合ってるの?」
「これから付き合います」
「そうなんだ。お幸せにね」
「ありがとうございます」

 優しく微笑み、手を振ってから去って行く森岡先輩。手を振り返す貴宗。動けない俺。

「なんでっ!!」
「なにが?」
「なんでいるの!?」

 今日は時間もなにも言っていないのに、どうしてここにいるんだ。告白再チャレンジをすることも言ってない。

「部屋から都希の動きを観察してた」
「!?」
「俺から逃げようなんて甘いな」

 自慢げな貴宗の両肩を掴んで揺らしても涼しい顔をしていて憎らしい。

「どうすんの! 森岡先輩にあんなこと言ったら、俺告白できないじゃん!」
「しなければいい」

 さらっとそんな答えが返ってきてますます腹が立つ。

「やだよ! それに貴宗と付き合うってなに!?」
「事実だろ」
「事実じゃない!」

 なんで貴宗と俺? どこからその組み合わせが出てきたんだ。幼馴染でいつも一緒にいるからか。

「好きなやつを他の男に渡すと思うか?」
「……え?」

 貴宗の好きな人って誰? 貴宗の両肩に手を置いたまま顔をじっと見上げてしまう。こんなときなのに綺麗な顔をしていて悔しい。

「なに……誰が好きなの?」
「まだそんなこと言ってんのか」

 まっすぐ見つめられて頬が熱くなる。なんで貴宗相手にこんなにどきどきしているんだ、と自分に不思議になるけれど、速い鼓動が耳に響く。幼稚園の頃から一緒にいて貴宗の顔なんて見慣れているのに、こんなに真剣な表情は初めて見る。

「都希が好きだ」
「……!」
「俺と付き合ってくれ」

 貴宗が俺を好き? そんなの初耳だ。

「でも……俺は……」
「大丈夫だ。都希はさっき失恋した」
「!?」
「俺が慰めてやる」
「結構です!」

 貴宗の肩を思いきり叩こうとしたらさっとよけられた。ほんと腹が立つ。慰めてくれなくて結構、俺には森岡先輩がいる。……もう告白できないけど。

「俺はずっと都希しか見てなかったのに、気づかれてないってのもな……」

 どんだけ鈍いんだ、と言われて、うっとなる。確かに鈍いかもしれないけれど、まさか貴宗が俺を好きだなんて想像もしない。
 まっすぐ見つめ合っていたら、なぜだかどきどきが加速していく。

「貴宗……」
「もう一回言う。都希、好きだ」

 貴宗が俺の頬を手でなぞる。その温もりに心がふわっと浮き立つようなそわそわするような、不思議な感覚が広がっていき力が抜けていく。貴宗の顔が近づいてきて、どうしよう、と思いながら瞼を下ろした。

「くしゅんっ」

 くしゃみが出た。

「……」
「あ、あはは。冷えるもんね」

 ほっとしたような、残念なような……、ってなんで残念なんだ。自分の頭を軽く叩いて思考を修正する。

「空気を読め」
「空気は読むものじゃなくて吸うものなんでしょ? ほら深呼吸して」

 貴宗が俺にしたように深呼吸をさせようとしたら頭を小突かれた。好きな相手にそういう扱いなんだ……貴宗らしいけど。

「まあ、今のでわかった」
「なにが?」
「来週には都希は俺と付き合ってる」
「!?」

 来週って、なにを根拠にそんなことを言っているんだ。貴宗と並んで歩いているのを想像してしまう。並んで歩くなんていつものことなのに、なんだか特別に感じてしまってちょっと頬が熱くなった。

「全力で行くから覚悟しろ」
「っ……!」

 そんな覚悟したくない!!



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