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空気を読んで!
空気を読んで!①
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「先輩に告白する!」
ずっと好きだった森岡先輩に告白すると決めた。宣言しないと逃げてしまいそうだから、口に出して人に聞いてもらう。
「ふうん。まあ好きにしたら?」
俺にべったりな貴宗だったらもっと反対するかと思ったら、あっさりしている。それはそれでなんだか気味が悪いけれど、まあいい。告白の脳内シミュレーションをする。サッカー部の森岡先輩は朝練で早いから、その時間に合わせて駅で待っていて……「好きです!」と行くしかない。あまり時間をかけると森岡先輩が朝練に遅れてしまうし。いや、だったら部活の終わった後の帰りに告白したほうがいいだろうか。
「あんまり期待しないほうがいいよ。都希の存在自体知らないんだろ、あいつ」
「『あいつ』とか言わないでよ」
森岡先輩に失礼だ。でも貴宗は片眉を軽く上げるだけ。
「都希がこんなに好きなのに、それに気づかない鈍い男なんて『あいつ』で充分」
「……」
貴宗はいつも森岡先輩を悪く言う。先輩は恰好いいし、サッカー部なだけあって運動もできるし成績もいいらしい。前にテストの結果が貼り出されていて上位に入っているのを見た。どこに文句をつけると言うのか。
……いや、貴宗なら文句をつけられるかもしれない。森岡先輩に負けず劣らず美形で、背が高くてスタイルがいい。成績もいいし運動もできる。テスト前にはいつも俺の勉強を見てくれる優しさも持っている。俺なんかと幼馴染やっていていいのかなと思うときがよくあるくらいだ。
「貴宗はまた告白断ったんだって?」
「好きじゃない子と付き合えないんだからあたりまえ」
「そっか……そうだよね」
好きじゃない子……森岡先輩も同じだろう。だから俺は振られるのをわかっていて告白する。気持ちだけ、伝えたい。
森岡先輩に告白すると決めた当日。結局部活帰りの森岡先輩に時間をもらうことにして、駅まで貴宗と一緒に行って別れる。どきどきするけれど、告白するときにそばについていてもらうなんておかしい。
「じゃあな」
「うん」
すごい勢いで心臓が脈打っている。森岡先輩はいつ頃来るだろう、とそわそわしながらその姿が見えるのを待った。
十分ほど待っていたら森岡先輩が駅に向かって歩いてきたので急いで駆け寄る。友達と一緒だったらどうしようかと思ったけれど、森岡先輩は一人だ。
「も、森岡先輩!」
「え?」
森岡先輩が俺を見ている。さあ告白だ! 言え! でも言葉が喉に引っかかってうまく出てこない。
「あ、あの、俺」
なに? という顔をして俺を見ている森岡先輩。こんなに近くにいるのは初めてで、ただでさえ緊張しているのに手が震えてきた。
でも、知らない後輩に声をかけられて、この状況。なんとなく察してくれたようで真剣な表情をして俺と向かい合ってくれた。
「す」
「すいかが食べたい? 夏に言え」
「!?」
なぜか帰ったはずの貴宗が俺の背後にいて謎なことを言う。勢いのまま開いた口を閉じられないでいると、貴宗に手を引かれた。
「え? なんで……」
「すいかのアイスならあるかもしれないから、一緒に見に行ってみるか」
引っ張られて先輩との距離が広がっていく。俺が足を止めても貴宗は構わず歩くのでついて行くことになってしまう。
「え、え……? 貴宗?」
俺の告白は……?
森岡先輩はぽかんとこちらを見ていて、優しいことに手を振ってくれた。
「ほら、すいか味のアイス」
コンビニに連れて行かれ、その後公園に。この寒い中でアイスなんて食べられるか。悔しさとか怒りとか、色々な感情がごちゃ混ぜになって貴宗を睨みつける。
「なんで?」
貴宗はパッケージを開けてシャリシャリとアイスを食べている。見ているだけで寒い。
「すいかが食べたいんだろ?」
「そんなこと言ってない! 俺は森岡先輩に告白するつもりで……!」
「ふうん。そうだったのか」
ふうん? なにそれ。頭にかあっと血が上る。
「前に言ったんだから知ってるでしょ、なんで邪魔するの!?」
「別に。というか邪魔しないなんて言ってないし」
「……」
手を振ってくれた森岡先輩の姿が頭に浮かぶ。頑張って告白しようとしたのに、なんでこんなことになるんだ。振られるのが前提でも告白はしたい。明日こそきちんと告白する。
今日も放課後にまた森岡先輩を駅で待つ。その前にちゃんと貴宗と別れて、電車に乗ったのを見送った。これで大丈夫。
少しして森岡先輩が駅に入ってきた。昨日のように駆け寄る。
「あ、すいかの子」
「!?」
「すいかのアイスあった? あれおいしいよね」
「……!」
森岡先輩が俺に微笑んでいる……! 歓喜の涙が溢れそうになったけれど、目的はこれじゃない。
「森岡先輩……昨日、ちゃんと言えなかったんですけど」
「うん?」
「俺、先輩のことが」
「先輩って身長いくつですか?」
「え? 一七九センチだけど」
「!?」
森岡先輩、一七九センチ……! じゃなくて! なんで貴宗がいるの!? 当然のように貴宗が森岡先輩に話しかけているその姿にふつふつと怒りが湧いてくる。
「へえ、俺より二センチ低いですね」
「きみ、昨日も突然現れたね。すいかくんと仲いいの?」
「……!」
先輩にあだ名をつけてもらえた! でも「すいかくん」って……!! ていうか!
「なんで貴宗がいるの! 帰ったんじゃないの!?」
「戻ってこないとは言ってない」
澄ました顔をしてなにを言ってるんだ。
「てか空気読んでよ!」
「空気は読むものじゃなくて吸うものだ。ほら、深呼吸」
言われたとおりに深呼吸をする。すう、はあ。ちょっと落ち着いた。
「落ち着いたか?」
「うん……そうじゃない!」
「じゃ森岡先輩、俺達はこれで」
貴宗に手を引かれてホームへと連れて行かれてしまう。森岡先輩は首を傾げながらまた手を振ってくれた。
電車に乗せられ、貴宗を睨む。睨んだところで効果がある相手じゃないのはよくわかっているけれど。
「どうして昨日から邪魔ばっかりするの?」
「邪魔?」
「俺は先輩に告白するって言ったでしょ」
電車の中だから大きな声が出せない。こそこそと言うと鼻で笑われた。
「応援するなんて言ってない」
「……」
明日は朝にして、貴宗にばれないようにしよう。俺は絶対告白するんだ!
ずっと好きだった森岡先輩に告白すると決めた。宣言しないと逃げてしまいそうだから、口に出して人に聞いてもらう。
「ふうん。まあ好きにしたら?」
俺にべったりな貴宗だったらもっと反対するかと思ったら、あっさりしている。それはそれでなんだか気味が悪いけれど、まあいい。告白の脳内シミュレーションをする。サッカー部の森岡先輩は朝練で早いから、その時間に合わせて駅で待っていて……「好きです!」と行くしかない。あまり時間をかけると森岡先輩が朝練に遅れてしまうし。いや、だったら部活の終わった後の帰りに告白したほうがいいだろうか。
「あんまり期待しないほうがいいよ。都希の存在自体知らないんだろ、あいつ」
「『あいつ』とか言わないでよ」
森岡先輩に失礼だ。でも貴宗は片眉を軽く上げるだけ。
「都希がこんなに好きなのに、それに気づかない鈍い男なんて『あいつ』で充分」
「……」
貴宗はいつも森岡先輩を悪く言う。先輩は恰好いいし、サッカー部なだけあって運動もできるし成績もいいらしい。前にテストの結果が貼り出されていて上位に入っているのを見た。どこに文句をつけると言うのか。
……いや、貴宗なら文句をつけられるかもしれない。森岡先輩に負けず劣らず美形で、背が高くてスタイルがいい。成績もいいし運動もできる。テスト前にはいつも俺の勉強を見てくれる優しさも持っている。俺なんかと幼馴染やっていていいのかなと思うときがよくあるくらいだ。
「貴宗はまた告白断ったんだって?」
「好きじゃない子と付き合えないんだからあたりまえ」
「そっか……そうだよね」
好きじゃない子……森岡先輩も同じだろう。だから俺は振られるのをわかっていて告白する。気持ちだけ、伝えたい。
森岡先輩に告白すると決めた当日。結局部活帰りの森岡先輩に時間をもらうことにして、駅まで貴宗と一緒に行って別れる。どきどきするけれど、告白するときにそばについていてもらうなんておかしい。
「じゃあな」
「うん」
すごい勢いで心臓が脈打っている。森岡先輩はいつ頃来るだろう、とそわそわしながらその姿が見えるのを待った。
十分ほど待っていたら森岡先輩が駅に向かって歩いてきたので急いで駆け寄る。友達と一緒だったらどうしようかと思ったけれど、森岡先輩は一人だ。
「も、森岡先輩!」
「え?」
森岡先輩が俺を見ている。さあ告白だ! 言え! でも言葉が喉に引っかかってうまく出てこない。
「あ、あの、俺」
なに? という顔をして俺を見ている森岡先輩。こんなに近くにいるのは初めてで、ただでさえ緊張しているのに手が震えてきた。
でも、知らない後輩に声をかけられて、この状況。なんとなく察してくれたようで真剣な表情をして俺と向かい合ってくれた。
「す」
「すいかが食べたい? 夏に言え」
「!?」
なぜか帰ったはずの貴宗が俺の背後にいて謎なことを言う。勢いのまま開いた口を閉じられないでいると、貴宗に手を引かれた。
「え? なんで……」
「すいかのアイスならあるかもしれないから、一緒に見に行ってみるか」
引っ張られて先輩との距離が広がっていく。俺が足を止めても貴宗は構わず歩くのでついて行くことになってしまう。
「え、え……? 貴宗?」
俺の告白は……?
森岡先輩はぽかんとこちらを見ていて、優しいことに手を振ってくれた。
「ほら、すいか味のアイス」
コンビニに連れて行かれ、その後公園に。この寒い中でアイスなんて食べられるか。悔しさとか怒りとか、色々な感情がごちゃ混ぜになって貴宗を睨みつける。
「なんで?」
貴宗はパッケージを開けてシャリシャリとアイスを食べている。見ているだけで寒い。
「すいかが食べたいんだろ?」
「そんなこと言ってない! 俺は森岡先輩に告白するつもりで……!」
「ふうん。そうだったのか」
ふうん? なにそれ。頭にかあっと血が上る。
「前に言ったんだから知ってるでしょ、なんで邪魔するの!?」
「別に。というか邪魔しないなんて言ってないし」
「……」
手を振ってくれた森岡先輩の姿が頭に浮かぶ。頑張って告白しようとしたのに、なんでこんなことになるんだ。振られるのが前提でも告白はしたい。明日こそきちんと告白する。
今日も放課後にまた森岡先輩を駅で待つ。その前にちゃんと貴宗と別れて、電車に乗ったのを見送った。これで大丈夫。
少しして森岡先輩が駅に入ってきた。昨日のように駆け寄る。
「あ、すいかの子」
「!?」
「すいかのアイスあった? あれおいしいよね」
「……!」
森岡先輩が俺に微笑んでいる……! 歓喜の涙が溢れそうになったけれど、目的はこれじゃない。
「森岡先輩……昨日、ちゃんと言えなかったんですけど」
「うん?」
「俺、先輩のことが」
「先輩って身長いくつですか?」
「え? 一七九センチだけど」
「!?」
森岡先輩、一七九センチ……! じゃなくて! なんで貴宗がいるの!? 当然のように貴宗が森岡先輩に話しかけているその姿にふつふつと怒りが湧いてくる。
「へえ、俺より二センチ低いですね」
「きみ、昨日も突然現れたね。すいかくんと仲いいの?」
「……!」
先輩にあだ名をつけてもらえた! でも「すいかくん」って……!! ていうか!
「なんで貴宗がいるの! 帰ったんじゃないの!?」
「戻ってこないとは言ってない」
澄ました顔をしてなにを言ってるんだ。
「てか空気読んでよ!」
「空気は読むものじゃなくて吸うものだ。ほら、深呼吸」
言われたとおりに深呼吸をする。すう、はあ。ちょっと落ち着いた。
「落ち着いたか?」
「うん……そうじゃない!」
「じゃ森岡先輩、俺達はこれで」
貴宗に手を引かれてホームへと連れて行かれてしまう。森岡先輩は首を傾げながらまた手を振ってくれた。
電車に乗せられ、貴宗を睨む。睨んだところで効果がある相手じゃないのはよくわかっているけれど。
「どうして昨日から邪魔ばっかりするの?」
「邪魔?」
「俺は先輩に告白するって言ったでしょ」
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