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心を読んで
心を読んで①
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時間が経つとともに冷静になってきて朝のあれはなんだったんだと考える余裕が出てくる。それでも貴宗の真剣な表情が頭から離れない。あのとき、くしゃみをしていなかったらどうなっていたのか。想像しただけで頬が熱くなる。貴宗とキスなんて……俺が好きなのは森岡先輩のはずなのに、こんなどきどきはおかしい。
全力で、というわりに貴宗はなにもしてこなくて逆に怖い。貴宗の全力ってどんなんだ。授業中も貴宗ばかり見てしまう。窓側前から二番目の席に、その姿はある。俺は廊下側一番うしろ。いつも一緒にいるけれど、こうやってよく見ることはあまりない。うしろ姿も綺麗で、どこまで美形なんだと悔しくなる。そんな貴宗が好きなのは、俺。
またどきどきして、こんなんじゃ軽い男だ、と自分を戒めた。
昼休みに外からキャーキャー聞こえてくるので窓から覗いてみると、森岡先輩が友達とサッカーをしている。恰好よくてじっと見ていたら背後から頭を叩かれた。
「なにするの!」
「蚊がとまってた」
「こんな時期に蚊はいない!」
やっぱり貴宗。叩くことのどのへんが全力なんだ。全力で叩いたようにも思えない。
「馬鹿になったらどうすんの」
叩かれたところを撫でながら言うと、貴宗がにやりと笑う。
「それいいな。そうしたらもっと勉強みてやれる」
また叩こうとしてくるので慌てて逃げる。こんなやつと絶対付き合いたくない!
放課後になり、貴宗が一緒に帰ろうと言うので二人で教室を出る。そんなことを言わなくても一緒に帰っているのにどうしたんだろうと疑問に思う。まさか「全力」が始まるのか。そう簡単にはいかない、気合いを入れてぐっと拳を握る。
「都希」
「なっ、に?」
声をかけられてびくりと反応してしまう。驚きで心臓が小さく飛び上がった。
「今、俺を意識したな?」
口角を上げて聞かれ、首を横にぶんぶん振る。
「まさか! 全然してないよ」
「そう思いたいなら思ってろ」
「どういう意味?」
貴宗の言うことはときどき難しくてわからないことがある。
「そのままの意味」
よくわからないけど、貴宗は機嫌よく鼻歌なんて歌っている。これははっきり言っておいたほうがよさそうだ。
「貴宗」
呼びかけに振り返る姿に申し訳なくなるけれど、でも仕方ない。
「俺は貴宗を幼馴染として好きだけど、それ以上にはならない」
「なんでそう言い切れる?」
「だって俺は森岡先輩が……」
先輩が好き。だから貴宗じゃない。
「森岡先輩には振られただろ」
さらっと言われて腹が立つ。
「振られたんじゃなくて、あれは貴宗が……!」
「もともと脈なかったんだよ。あいつは都希のことを知らなかったし、それにもし俺だったら都希が誰と付き合っていようが奪う」
「……!」
強気な発言にどきりとする。さっきの小さな心臓の動きと違う、悔しいけれど貴宗を恰好いいと思ったから「どきり」。
「そ、そんなこと言ったって、俺は簡単に人を好きになったりしないよ。貴宗は意地悪だし」
一生懸命理由を作る。そうしないと乱されそうだ。
「優しければいいのか?」
「え?」
「優しくして都希が好きになってくれるなら優しくする」
「……」
それは、なんか違うような……。でも貴宗は真剣な表情で言葉を紡ぐ。
「都希の好みは森岡か?」
「『先輩』つけてよ」
失礼なんだから。
「あいつみたいになれと言うなら、なる努力はする。俺のほうが身長二センチ高いけど」
「……」
二センチ高いことにこだわるな……。まさか森岡先輩に勝てる部分がそれだけだから、だったりして……そんなことないか。
「ごめん。貴宗が優しいことはよく知ってるよ」
「どうした?」
「だって本当に意地悪なら貴宗とこんなにずっと仲良くしてられないから」
いつも勉強をみてくれたり助けてくれたり、本当は貴宗は優しい。
「俺は意地悪だ」
「違うよ」
「意地悪でいいんだよ」
「どういうこと?」
意地悪でいい、ってなに? 頬をつねられて、むっとしてしまうけれどそれより言葉の真意が知りたい。
「森岡を優しくて恰好いいから好きになったんだろ? 同じレベルで見られたくない」
「……」
「森岡と同じ『優しい人』のくくりに入るのも、本当は腹が立つ。『俺』を都希に見てもらいたい」
そんなことをまっすぐに言われたら頬が熱くなってしまう。それをごまかすように頬を手の甲で軽く擦った。
「それは……嫉妬?」
思ったままを言ってみて、まさかな、と思う。だって貴宗がそんなふうに対抗心を燃やすなんて――。
「嫉妬してなにが悪い。俺は森岡と同じように見られるなんて御免だ。でも都希が好きになってくれるなら森岡みたいになってやる」
「それは……」
「都希を『すいかくん』とか呼びやがって……すいかに失礼だ」
「ちょっと」
今いい感じでどきどきしてたのに……本当に空気読まないんだから。って、俺は何を期待しているんだ。貴宗相手にこれは違うじゃん、と唇を尖らせると貴宗が微笑む。
「俺はすいかより都希が好きだけどな」
「すいかと比べられても……」
なんだか微妙だ。比較対象がすいかっていうのも悲しい。
「それにすいかのアイスより都希のその顔のほうがおいしそうだ」
「その顔って……?」
おいしそうな顔ってなんだろう。
「キスしたくなる顔」
「……!」
慌てて俯き、顔を隠す。キスしたくなる顔ってなに? どんな顔!? ていうか貴宗だって誰かと付き合ったことがあるわけじゃないんだから、そういうの慣れてないはずなのにどうしてこんなに余裕なの!? ……それとも、経験ある……のかな。
なんとなく貴宗を見上げる。
「どうした?」
「……貴宗はキスしたことあるの?」
「都希のくしゃみでしそこねた」
「それより前に」
「あるわけないだろ」
なぜだかほっとして、首を傾げる。そう、これはたぶんあれだ。先を越されたら悔しいというだけ。それだけ……それだけ。
全力で、というわりに貴宗はなにもしてこなくて逆に怖い。貴宗の全力ってどんなんだ。授業中も貴宗ばかり見てしまう。窓側前から二番目の席に、その姿はある。俺は廊下側一番うしろ。いつも一緒にいるけれど、こうやってよく見ることはあまりない。うしろ姿も綺麗で、どこまで美形なんだと悔しくなる。そんな貴宗が好きなのは、俺。
またどきどきして、こんなんじゃ軽い男だ、と自分を戒めた。
昼休みに外からキャーキャー聞こえてくるので窓から覗いてみると、森岡先輩が友達とサッカーをしている。恰好よくてじっと見ていたら背後から頭を叩かれた。
「なにするの!」
「蚊がとまってた」
「こんな時期に蚊はいない!」
やっぱり貴宗。叩くことのどのへんが全力なんだ。全力で叩いたようにも思えない。
「馬鹿になったらどうすんの」
叩かれたところを撫でながら言うと、貴宗がにやりと笑う。
「それいいな。そうしたらもっと勉強みてやれる」
また叩こうとしてくるので慌てて逃げる。こんなやつと絶対付き合いたくない!
放課後になり、貴宗が一緒に帰ろうと言うので二人で教室を出る。そんなことを言わなくても一緒に帰っているのにどうしたんだろうと疑問に思う。まさか「全力」が始まるのか。そう簡単にはいかない、気合いを入れてぐっと拳を握る。
「都希」
「なっ、に?」
声をかけられてびくりと反応してしまう。驚きで心臓が小さく飛び上がった。
「今、俺を意識したな?」
口角を上げて聞かれ、首を横にぶんぶん振る。
「まさか! 全然してないよ」
「そう思いたいなら思ってろ」
「どういう意味?」
貴宗の言うことはときどき難しくてわからないことがある。
「そのままの意味」
よくわからないけど、貴宗は機嫌よく鼻歌なんて歌っている。これははっきり言っておいたほうがよさそうだ。
「貴宗」
呼びかけに振り返る姿に申し訳なくなるけれど、でも仕方ない。
「俺は貴宗を幼馴染として好きだけど、それ以上にはならない」
「なんでそう言い切れる?」
「だって俺は森岡先輩が……」
先輩が好き。だから貴宗じゃない。
「森岡先輩には振られただろ」
さらっと言われて腹が立つ。
「振られたんじゃなくて、あれは貴宗が……!」
「もともと脈なかったんだよ。あいつは都希のことを知らなかったし、それにもし俺だったら都希が誰と付き合っていようが奪う」
「……!」
強気な発言にどきりとする。さっきの小さな心臓の動きと違う、悔しいけれど貴宗を恰好いいと思ったから「どきり」。
「そ、そんなこと言ったって、俺は簡単に人を好きになったりしないよ。貴宗は意地悪だし」
一生懸命理由を作る。そうしないと乱されそうだ。
「優しければいいのか?」
「え?」
「優しくして都希が好きになってくれるなら優しくする」
「……」
それは、なんか違うような……。でも貴宗は真剣な表情で言葉を紡ぐ。
「都希の好みは森岡か?」
「『先輩』つけてよ」
失礼なんだから。
「あいつみたいになれと言うなら、なる努力はする。俺のほうが身長二センチ高いけど」
「……」
二センチ高いことにこだわるな……。まさか森岡先輩に勝てる部分がそれだけだから、だったりして……そんなことないか。
「ごめん。貴宗が優しいことはよく知ってるよ」
「どうした?」
「だって本当に意地悪なら貴宗とこんなにずっと仲良くしてられないから」
いつも勉強をみてくれたり助けてくれたり、本当は貴宗は優しい。
「俺は意地悪だ」
「違うよ」
「意地悪でいいんだよ」
「どういうこと?」
意地悪でいい、ってなに? 頬をつねられて、むっとしてしまうけれどそれより言葉の真意が知りたい。
「森岡を優しくて恰好いいから好きになったんだろ? 同じレベルで見られたくない」
「……」
「森岡と同じ『優しい人』のくくりに入るのも、本当は腹が立つ。『俺』を都希に見てもらいたい」
そんなことをまっすぐに言われたら頬が熱くなってしまう。それをごまかすように頬を手の甲で軽く擦った。
「それは……嫉妬?」
思ったままを言ってみて、まさかな、と思う。だって貴宗がそんなふうに対抗心を燃やすなんて――。
「嫉妬してなにが悪い。俺は森岡と同じように見られるなんて御免だ。でも都希が好きになってくれるなら森岡みたいになってやる」
「それは……」
「都希を『すいかくん』とか呼びやがって……すいかに失礼だ」
「ちょっと」
今いい感じでどきどきしてたのに……本当に空気読まないんだから。って、俺は何を期待しているんだ。貴宗相手にこれは違うじゃん、と唇を尖らせると貴宗が微笑む。
「俺はすいかより都希が好きだけどな」
「すいかと比べられても……」
なんだか微妙だ。比較対象がすいかっていうのも悲しい。
「それにすいかのアイスより都希のその顔のほうがおいしそうだ」
「その顔って……?」
おいしそうな顔ってなんだろう。
「キスしたくなる顔」
「……!」
慌てて俯き、顔を隠す。キスしたくなる顔ってなに? どんな顔!? ていうか貴宗だって誰かと付き合ったことがあるわけじゃないんだから、そういうの慣れてないはずなのにどうしてこんなに余裕なの!? ……それとも、経験ある……のかな。
なんとなく貴宗を見上げる。
「どうした?」
「……貴宗はキスしたことあるの?」
「都希のくしゃみでしそこねた」
「それより前に」
「あるわけないだろ」
なぜだかほっとして、首を傾げる。そう、これはたぶんあれだ。先を越されたら悔しいというだけ。それだけ……それだけ。
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