空気を読んで！

心を読んで

心を読んで②

　翌朝、貴宗が迎えに来た。

「どうしたの？」
「また森岡のところに行かないように迎えに来た」
「行かないよ。てか行けないし。それから森岡『先輩』！」

　ここは大切だから声を大きくすると、貴宗が苦々しい表情をする。

「……都希がそう呼べって言うなら」

　どう見てもおもしろくなさそうだ。そんなに森岡先輩が気に入らないのか。
　二人で駅に向かいながら、ふと疑問に思ったことを聞いてみる。

「全力で行くって言ったわりにはなにもしてこないね」
「なにかして欲しいのか？」
「違う！」

　なんでそうなるんだ。貴宗の発想は謎すぎる。

「これでも頑張ってるんだけどな。都希が森岡先輩に近づくのを全力で阻止」
「えっ」

　阻止って……そこ？　全力で落とすとかそういうんじゃなくて？

「阻止しなくたって近づけないよ」

　誰かさんのせいで。

「昨日先輩がサッカーしてるのを見てただろ」
「うん……まさか」
「こんな時期に蚊はいない」
「そりゃそうだよ……」

　もしかして貴宗って恋愛面では不器用？　知らなかった、なんだかかわいい。

「わっ」

　いきなり首筋に息を吹きかけられて変な声が出る。

「なにすんの！」
「隙だらけ」

　やっぱり全然かわいくない！



　昨日と違って休み時間ごとに貴宗が寄ってくる。そんなことをしなくたって、森岡先輩には近づけない。だって先輩は貴宗と俺が付き合うことになると思ってるんだから…………誤解をとけばいい？　いや、そこまでして、ってあんなに告白したいと思っていたのにどうしたんだろう。
　貴宗を見ると、貴宗も俺を見ている。

「森岡のこと考えてただろ」
「森岡『先輩』！」

　すぐに「先輩」が抜ける。貴宗らしいけど。

「そんなことどうでもいい。俺といるときにあいつのことは考えるな」
「……一人のときなら考えてもいいの？」

　今の言い方はそういうことだ。

「しょうがないから許可してやる。けど」
「けど？」
「俺のことだけ考えて欲しいのが本音」

　そんなのずるい……本当に貴宗のこと考えちゃうじゃん。

「絶対嫌！」

　でも、そう簡単には受け入れない！



　明日は日曜日だけど貴宗は来るのかな。今度はなにを言われるんだろう。
　……なんだか森岡先輩のことを考えるより貴宗のことを考える時間のほうが増えている。一人でいるときは先輩のことを考えてもいいと言われたけれど、結局貴宗のことを考えている。本音だなんて、あんな言い方をされたら気になってしまうのはあたりまえだ。そう、そういうこと。それだけ……だよな？
　なんとなく窓から隣の家を見てみる。隣は貴宗の家で、すぐそばに貴宗がいる。こんなの昔からずっとなのに変な感じがする。胸がむずむずしてきたのでさっさと寝ることにした。