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心を読んで
心を読んで③
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翌朝起きてもまだ変な感じがする。寒いから風邪をひいたのかもしれない、今日は寝ていよう。
「都希……なんだ寝てるのか?」
ノックの音がして貴宗が部屋に入ってきた。また全力阻止のためだろうか。
「うん。なんか変な感じがするから」
「変な感じ? 風邪か?」
「そうかも」
身体を起こすと肩を押されてまたベッドに横になってしまう。布団をかけられ心配そうな表情で顔を覗き込まれる。
「寝てろ」
「森岡先輩に会いに行ったりしないから、貴宗も帰って」
「なんで?」
「うつったらよくないから」
「そんなこと気にするな。むしろうつせ」
ぽんぽんと頭を撫でられてほわっと心が温かくなる。
「嫌だよ……」
おとなしく横になっていると、貴宗が椅子に座ってこちらをじっと見ている。
「なに?」
「欲しいものあるか?」
「ううん、大丈夫」
俺がなにか欲しいと言ったら取りに行ってくれるだろうし、して欲しいことはしてくれるだろう。こういうところ、すごく優しい。
「咳は出ないみたいだな。熱は?」
「ない」
「寒気がしたりとかは?」
「ない」
そういう症状は出ていない。でもたぶん風邪だと思う。
「……風邪なんだよな?」
「たぶん」
「症状は?」
「変な感じがする」
「変?」
昨日からの変な感じや、胸がむずむずすることを話すと大きなため息をつかれた。なんでだ。それから布団をめくって中に入ってきた。
「なんで!? うつるよ!」
人の話を聞いているんだろうか。あれほど変な感じがすると言ったのに。
「うつらない。こうしてると絶対よくなるから、おとなしくしてろ」
すぐそばに貴宗の体温があって、優しく頭を撫でられる。すると変な感じが本当に収まってきた。今度は心にぽっと光が灯るような温かな感覚。
「よくなっただろ」
「……うん。でもまた変だよ」
こんな感じ、まるで貴宗がす…………いやいや、考えたくないけれど、あれみたいじゃん。森岡先輩のときよりもっと心が温かくて、ほっとするのにどきどきする。これじゃ本当にそうみたいだ……。
目を覚ますとベッドに一人。いつ寝たんだろうと室内を見回すけれど貴宗はいない。なんだか急に心細くて不安になる。帰ったのかな、黙って帰らなくてもいいじゃん、と少し拗ねた気持ちに唇を尖らせた。
「貴宗……」
「呼んだか?」
「わあっ」
部屋のドアが開いて探していた姿が見える。
「どこ行ってたの?」
「下。おばさんに都希は風邪ではなさそうだって言ってきた」
「そう……」
それでも黙っていなくなったのが気に入らない。ベッドに横になり、貴宗に背を向けて身体を丸める。
「なに拗ねてるんだ」
「拗ねてないよ」
もう大丈夫だから帰って、と背を向けたまま言う。顔を見たらもやもやが更に広がりそうだ。これじゃ、本当に貴宗のことが……好き、みたいだ。こんな短期間で好きになるとかありえない。自分の気持ちを認めたくない。俺が好きなのは森岡先輩だ。俺は軽い男じゃない。
「ひゃっ」
頬に温かいものが触れて変な声が出る。見ると貴宗の大きい手が俺の頬を撫でている。
「……すいかのアイス買ってくる」
「え?」
「待ってろ」
なんですいかのアイス? 疑問符だらけの俺を置いて、貴宗は部屋を出て行ってしまう。どう考えても今のタイミングでアイスが出てきた意味がわからない。
十分経たないくらいでドアが開いて貴宗が入ってきた。コンビニまで行ってきたんだろうか。
「コンビニになかったからスーパーまで行ってきた」
「……」
スーパーまでは俺が歩くと片道五分かかる。買い物をする時間を考えても、最短で十五分。貴宗の脚に視線を向けると、長い、悔しい。
「どこ見てんだよ、変態」
「!?」
変態!?
「なんで変態!?」
「男の下半身なんてじろじろ見るな」
「……」
下半身をじろじろ……その言い方だと本当に俺が変態みたいだ。むう、とむくれたら目の間にすいかのアイスが差し出された。
「食べろ」
「なんで?」
「いいから」
以前のように寒い公園ではなく暖房の効いた室内だからいいけど、と思いながらパッケージを開ける。貴宗も一緒にアイスを取り出した。
「あんな寒い中でよくアイスなんて食べられたね」
「かっこつけてただけだ。めちゃくちゃ寒かった」
「は?」
「都希にはかっこ悪いところ見せたくないんだよ」
だから平然とした顔でアイスを食べてたってこと? そんなことで恰好悪いなんて思ったりしないのに……もしかしてそれも、森岡先輩と張り合ってたのかな。先輩がいつも恰好いいから。
「なんで教えてくれたの?」
「俺の本音を話せば、都気も気持ちを教えてくれるかと思って」
「気持ち?」
「胸がむずむずするのはどうしてだ?」
どうして……?
「わかんない」
そう、わからないことにしよう。俺が好きなのは森岡先輩で……それなのに貴宗から視線を逸らせない。
「わからないなら教えてやろうか」
「いい! 遠慮します!」
近づいてくるので逃げようとするけれど、貴宗は「絶対逃がさない」という鋭い目をしている。
「俺が好きなら好きと言えばいい」
「言わない! 嫌だ、認めない!」
「『認めない』?」
壁際に追い詰められてしまった。アイスが溶けてきて手に垂れていくのを貴宗が指ですくって舐めとる。
「都希は自分の気持ちがわかってるんだな?」
「……」
「早すぎるだろ」
「っ……」
呆れた表情に嫌な汗が背筋を伝う。来週……もう今週だけど、それまでに貴宗と付き合っていると言ったのは誰だ。
「本当は森岡なんか好きじゃなくて、ずっと俺が好きだったってことだ」
「違う!」
「じゃあこんなに早く俺を好きになったのか。ずっと惹かれてた?」
「そうじゃない!」
なんでそう、自分に都合のいいようにとらえるんだ。俺はちゃんと森岡先輩が好きだった。貴宗を幼馴染として好きだったけれど、恋愛の意味で好きだと思ったことはない。それなのにこんな認めたくない感情……どうしたらいいんだ。
「……俺、混乱してるし手もべたべただから一回帰って」
「さっさと食べろ」
「うん……」
溶けかけたアイスを食べ終えてもまだすっきりしない。
「手洗ってくる間に帰ってね」
「わかった」
一階に下りて、洗面所で手を洗う。鏡を見ると頬を真っ赤にした俺が映っていた。
「都希……なんだ寝てるのか?」
ノックの音がして貴宗が部屋に入ってきた。また全力阻止のためだろうか。
「うん。なんか変な感じがするから」
「変な感じ? 風邪か?」
「そうかも」
身体を起こすと肩を押されてまたベッドに横になってしまう。布団をかけられ心配そうな表情で顔を覗き込まれる。
「寝てろ」
「森岡先輩に会いに行ったりしないから、貴宗も帰って」
「なんで?」
「うつったらよくないから」
「そんなこと気にするな。むしろうつせ」
ぽんぽんと頭を撫でられてほわっと心が温かくなる。
「嫌だよ……」
おとなしく横になっていると、貴宗が椅子に座ってこちらをじっと見ている。
「なに?」
「欲しいものあるか?」
「ううん、大丈夫」
俺がなにか欲しいと言ったら取りに行ってくれるだろうし、して欲しいことはしてくれるだろう。こういうところ、すごく優しい。
「咳は出ないみたいだな。熱は?」
「ない」
「寒気がしたりとかは?」
「ない」
そういう症状は出ていない。でもたぶん風邪だと思う。
「……風邪なんだよな?」
「たぶん」
「症状は?」
「変な感じがする」
「変?」
昨日からの変な感じや、胸がむずむずすることを話すと大きなため息をつかれた。なんでだ。それから布団をめくって中に入ってきた。
「なんで!? うつるよ!」
人の話を聞いているんだろうか。あれほど変な感じがすると言ったのに。
「うつらない。こうしてると絶対よくなるから、おとなしくしてろ」
すぐそばに貴宗の体温があって、優しく頭を撫でられる。すると変な感じが本当に収まってきた。今度は心にぽっと光が灯るような温かな感覚。
「よくなっただろ」
「……うん。でもまた変だよ」
こんな感じ、まるで貴宗がす…………いやいや、考えたくないけれど、あれみたいじゃん。森岡先輩のときよりもっと心が温かくて、ほっとするのにどきどきする。これじゃ本当にそうみたいだ……。
目を覚ますとベッドに一人。いつ寝たんだろうと室内を見回すけれど貴宗はいない。なんだか急に心細くて不安になる。帰ったのかな、黙って帰らなくてもいいじゃん、と少し拗ねた気持ちに唇を尖らせた。
「貴宗……」
「呼んだか?」
「わあっ」
部屋のドアが開いて探していた姿が見える。
「どこ行ってたの?」
「下。おばさんに都希は風邪ではなさそうだって言ってきた」
「そう……」
それでも黙っていなくなったのが気に入らない。ベッドに横になり、貴宗に背を向けて身体を丸める。
「なに拗ねてるんだ」
「拗ねてないよ」
もう大丈夫だから帰って、と背を向けたまま言う。顔を見たらもやもやが更に広がりそうだ。これじゃ、本当に貴宗のことが……好き、みたいだ。こんな短期間で好きになるとかありえない。自分の気持ちを認めたくない。俺が好きなのは森岡先輩だ。俺は軽い男じゃない。
「ひゃっ」
頬に温かいものが触れて変な声が出る。見ると貴宗の大きい手が俺の頬を撫でている。
「……すいかのアイス買ってくる」
「え?」
「待ってろ」
なんですいかのアイス? 疑問符だらけの俺を置いて、貴宗は部屋を出て行ってしまう。どう考えても今のタイミングでアイスが出てきた意味がわからない。
十分経たないくらいでドアが開いて貴宗が入ってきた。コンビニまで行ってきたんだろうか。
「コンビニになかったからスーパーまで行ってきた」
「……」
スーパーまでは俺が歩くと片道五分かかる。買い物をする時間を考えても、最短で十五分。貴宗の脚に視線を向けると、長い、悔しい。
「どこ見てんだよ、変態」
「!?」
変態!?
「なんで変態!?」
「男の下半身なんてじろじろ見るな」
「……」
下半身をじろじろ……その言い方だと本当に俺が変態みたいだ。むう、とむくれたら目の間にすいかのアイスが差し出された。
「食べろ」
「なんで?」
「いいから」
以前のように寒い公園ではなく暖房の効いた室内だからいいけど、と思いながらパッケージを開ける。貴宗も一緒にアイスを取り出した。
「あんな寒い中でよくアイスなんて食べられたね」
「かっこつけてただけだ。めちゃくちゃ寒かった」
「は?」
「都希にはかっこ悪いところ見せたくないんだよ」
だから平然とした顔でアイスを食べてたってこと? そんなことで恰好悪いなんて思ったりしないのに……もしかしてそれも、森岡先輩と張り合ってたのかな。先輩がいつも恰好いいから。
「なんで教えてくれたの?」
「俺の本音を話せば、都気も気持ちを教えてくれるかと思って」
「気持ち?」
「胸がむずむずするのはどうしてだ?」
どうして……?
「わかんない」
そう、わからないことにしよう。俺が好きなのは森岡先輩で……それなのに貴宗から視線を逸らせない。
「わからないなら教えてやろうか」
「いい! 遠慮します!」
近づいてくるので逃げようとするけれど、貴宗は「絶対逃がさない」という鋭い目をしている。
「俺が好きなら好きと言えばいい」
「言わない! 嫌だ、認めない!」
「『認めない』?」
壁際に追い詰められてしまった。アイスが溶けてきて手に垂れていくのを貴宗が指ですくって舐めとる。
「都希は自分の気持ちがわかってるんだな?」
「……」
「早すぎるだろ」
「っ……」
呆れた表情に嫌な汗が背筋を伝う。来週……もう今週だけど、それまでに貴宗と付き合っていると言ったのは誰だ。
「本当は森岡なんか好きじゃなくて、ずっと俺が好きだったってことだ」
「違う!」
「じゃあこんなに早く俺を好きになったのか。ずっと惹かれてた?」
「そうじゃない!」
なんでそう、自分に都合のいいようにとらえるんだ。俺はちゃんと森岡先輩が好きだった。貴宗を幼馴染として好きだったけれど、恋愛の意味で好きだと思ったことはない。それなのにこんな認めたくない感情……どうしたらいいんだ。
「……俺、混乱してるし手もべたべただから一回帰って」
「さっさと食べろ」
「うん……」
溶けかけたアイスを食べ終えてもまだすっきりしない。
「手洗ってくる間に帰ってね」
「わかった」
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