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心を読んで
心を読んで④
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「おかえり」
「!?」
部屋に戻ると貴宗がまだいる。
「帰ってって言ったじゃん! 貴宗も『わかった』って言ったよね!?」
「言ったけど、帰るとは言ってない」
「屁理屈!」
「屁理屈でもなんでも、今都希から離れたら振られるからな」
「え……?」
どういうこと?
「都希はすぐ諦める、すぐ悪いほうに考える、すぐ手放す……昔から変わらない」
「……」
「せっかく都希の気持ちが俺に向き始めてるんだ。帰るわけがない」
「そんな……」
そこまでして俺と付き合いたい? どうして? なんでそんな本音をさらっと言えてしまうんだ。
「貴宗はいっつもかっこいいから腹が立つ!」
「そうか」
「なんで自分ばっかり本音言ってんの? 俺がぐちゃぐちゃしてるのに、一人ですっきりした顔して!」
こんなの八つ当たりだってわかっているけれど止まらない。泣き出してしまいそうなのを堪えて涙の代わりに言葉を吐き出す。
「そりゃ俺には迷いがないからな」
するりと言われた言葉に、八つ当たりの勢いが止まる。
「……え?」
「都希が好きってだけ。それだけしかない」
「……」
まっすぐな言葉に頬が火照って心臓が暴れ出す。そういう素直さとかも、腹が立つ。少し拗ねた顔をすると頬をつつかれた。
「……貴宗はずるい」
「そうだな」
「俺は自分の気持ちがわからなくて、認めたくなくて……」
「認めたくない時点でわかってるんだろ」
「そういう正論を言わないで!」
これだから頭のいいやつは……。
「貴宗、俺どうしたらいい……?」
「どうって?」
「貴宗が好き、かもしれない。でもわからない」
そっと手を取られ、どきりと脈が速くなる。
「都希がわかるようになるまで待つ」
「貴宗……」
やっぱり優しい。こんなふうにされたら好きになったっておかしくないよね……?
「――なんて言うと思ったか?」
「へ?」
「今すぐ認めろ。今すぐわかれ」
「なんでそう横暴なの!?」
手を離そうとぶんぶん振ってもきつく握られていて離してくれない。馬鹿力め、と睨みつける。
「逃がしたくないからな」
口角を上げて俺を見下ろす姿は本当に憎たらしいほど恰好よくて。ついその頬をつねってしまった。
「空気を読まないやつだな」
「だって……」
「『だって』?」
「……」
「『だって』、なんだ?」
しつこい男は嫌われる、と言おうとしても言えない。だってしつこい貴宗も嫌いじゃない。
「……貴宗にどきどきしちゃうから見てられないの!」
勢いのまま叫んだらぎゅうっと抱きしめられて苦しい。
「それでいい」
「貴宗……」
「ずっと俺にどきどきしてろ」
「でも……」
「そのうち『好き』って言わないと気が済まなくなるから」
そんな……症状が悪化していくみたいな。ちょっと怖い。
「そう、かな……」
「そうだ。俺はとっくにそうなってる」
「えっ」
「都希が好きだって言わないと気が済まない。これは重症だ」
「……」
なんだかとても恥ずかしいことを言われている気がする。でもふわふわして雲の上にいるみたいに心地いい。足が地についていないみたい……って、本当に床についてない。貴宗に抱っこされてる! 貴宗は俺を抱っこしたままくるくる回る。
「好きだ。都希が好き」
「わ、わっ」
くるん、くるん……好きだと言いながら貴宗が回る。ダンスなんて踊ったことがないけれど、もし踊ったらこんな感じだろうか。楽しくてわくわくして、貴宗の髪に頬を擦り寄せる。
貴宗と付き合ったらこんなふわふわした気持ちが続くのかも。だったら付き合うのも嫌じゃない。
心を読んでくれたら、答えは出ているんだけどな。自分で言うのは、まだちょっと……恥ずかしい。
おわり
「!?」
部屋に戻ると貴宗がまだいる。
「帰ってって言ったじゃん! 貴宗も『わかった』って言ったよね!?」
「言ったけど、帰るとは言ってない」
「屁理屈!」
「屁理屈でもなんでも、今都希から離れたら振られるからな」
「え……?」
どういうこと?
「都希はすぐ諦める、すぐ悪いほうに考える、すぐ手放す……昔から変わらない」
「……」
「せっかく都希の気持ちが俺に向き始めてるんだ。帰るわけがない」
「そんな……」
そこまでして俺と付き合いたい? どうして? なんでそんな本音をさらっと言えてしまうんだ。
「貴宗はいっつもかっこいいから腹が立つ!」
「そうか」
「なんで自分ばっかり本音言ってんの? 俺がぐちゃぐちゃしてるのに、一人ですっきりした顔して!」
こんなの八つ当たりだってわかっているけれど止まらない。泣き出してしまいそうなのを堪えて涙の代わりに言葉を吐き出す。
「そりゃ俺には迷いがないからな」
するりと言われた言葉に、八つ当たりの勢いが止まる。
「……え?」
「都希が好きってだけ。それだけしかない」
「……」
まっすぐな言葉に頬が火照って心臓が暴れ出す。そういう素直さとかも、腹が立つ。少し拗ねた顔をすると頬をつつかれた。
「……貴宗はずるい」
「そうだな」
「俺は自分の気持ちがわからなくて、認めたくなくて……」
「認めたくない時点でわかってるんだろ」
「そういう正論を言わないで!」
これだから頭のいいやつは……。
「貴宗、俺どうしたらいい……?」
「どうって?」
「貴宗が好き、かもしれない。でもわからない」
そっと手を取られ、どきりと脈が速くなる。
「都希がわかるようになるまで待つ」
「貴宗……」
やっぱり優しい。こんなふうにされたら好きになったっておかしくないよね……?
「――なんて言うと思ったか?」
「へ?」
「今すぐ認めろ。今すぐわかれ」
「なんでそう横暴なの!?」
手を離そうとぶんぶん振ってもきつく握られていて離してくれない。馬鹿力め、と睨みつける。
「逃がしたくないからな」
口角を上げて俺を見下ろす姿は本当に憎たらしいほど恰好よくて。ついその頬をつねってしまった。
「空気を読まないやつだな」
「だって……」
「『だって』?」
「……」
「『だって』、なんだ?」
しつこい男は嫌われる、と言おうとしても言えない。だってしつこい貴宗も嫌いじゃない。
「……貴宗にどきどきしちゃうから見てられないの!」
勢いのまま叫んだらぎゅうっと抱きしめられて苦しい。
「それでいい」
「貴宗……」
「ずっと俺にどきどきしてろ」
「でも……」
「そのうち『好き』って言わないと気が済まなくなるから」
そんな……症状が悪化していくみたいな。ちょっと怖い。
「そう、かな……」
「そうだ。俺はとっくにそうなってる」
「えっ」
「都希が好きだって言わないと気が済まない。これは重症だ」
「……」
なんだかとても恥ずかしいことを言われている気がする。でもふわふわして雲の上にいるみたいに心地いい。足が地についていないみたい……って、本当に床についてない。貴宗に抱っこされてる! 貴宗は俺を抱っこしたままくるくる回る。
「好きだ。都希が好き」
「わ、わっ」
くるん、くるん……好きだと言いながら貴宗が回る。ダンスなんて踊ったことがないけれど、もし踊ったらこんな感じだろうか。楽しくてわくわくして、貴宗の髪に頬を擦り寄せる。
貴宗と付き合ったらこんなふわふわした気持ちが続くのかも。だったら付き合うのも嫌じゃない。
心を読んでくれたら、答えは出ているんだけどな。自分で言うのは、まだちょっと……恥ずかしい。
おわり
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