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欲望のままに
欲望のままに①
しおりを挟むいつまでもいつまでも、俺の手の中で―――。
誘拐がどういうものかを知れば知るほど、あの日の尚紀が目の前に見える。
尚紀は俺が守らないと…、そう思って尚紀を囲い込んだ衛介。
でも心は複雑に揺れる。
『囲いの中で』の攻め(衛介)視点です。衛介の胸中や攻め視点の過去が気になりますと他サイトでコメントをいただいたので書いてみました。
*****
いつまでもいつまでも、俺の手の中で―――。
「尚紀、おはよう」
コーヒーを淹れたところで尚紀が起きてくる。
「衛介…おはよう。いいにおい」
「コーヒー淹れた。パンも焼ける」
「ありがとう」
顔を洗いに行った背中を見つめる。
尚紀…今日も生きてる。
寝息を立てていることを何度確認しても、自分で起きて喋ってくれないと不安になる。
だから俺は尚紀より先に起きる。
寝ていられない。
尚紀の目覚めを確認できるように。
小学校二年生の学校帰り。
俺が尚紀と別に帰ったことがあった。
あの頃はまだ他に友達もいたし、尚紀以外とも遊んだから。
尚紀にも俺以外の友達がいた。
俺が帰宅していると、尚紀の家のすぐ近くにある公園の前に車が停まっていて、なんだろうと思ったらメガネをかけた中年男が尚紀に話しかけていた。
そのまま手を取ろうとする。
なんだかわからなかったけど、直感というか、なにか感じたんだろう。
『知らない人について行ったらだめだよ』
親からもよくそう言われていた。
「おばさん、おばさんっ…!」
すぐに尚紀の家の中に声をかけると、ちょうど俺の母親が来ていて尚紀のお母さんといつものようにおしゃべりをしていたところだったようで、ふたりが飛び出してくる。
「尚紀がっ!!」
俺の声と母親達に気付いた中年男は尚紀から手を離して、車に乗って去って行った。
尚紀は車のあった場所のすぐそばまで連れて行かれていた。
「尚紀! 大丈夫!?」
「衛介? どうしたの?」
ぼーっとしたままでなにが起ころうとしていたかわからない様子の尚紀を夢中で抱き締めた。
俺は理解する。
尚紀は俺が守らないといけない。
この世は危険しかない。
当時はこんな難しい言葉はわからなかったけど、漠然とそういう風に思った。
俺が尚紀を守ると思うきっかけになった事件。
その後もやっぱり尚紀は事態の大きさをわかっていなかった。
尚紀が俺の前から消えていたかもしれない。
俺の尚紀………。
「え? どうして?」
「だから尚紀にはもう友達はいらないんだ」
「どうして? 僕、みんなと遊びたいよ」
「尚紀には僕がいる」
小学生なりに考えて出した答えは、尚紀を俺の手の中に入れることだった。
何事も深く考えない尚紀。
代わりに俺が考えてやる。
だから俺が言う通りにしていればいい。
そうしたら尚紀を危険から守れる。
「わかった」
最初はちょっと不思議そうにしていたけれど、俺とだけいるということにあっという間に慣れていった。
「衛介、衛介」
振り返って俺を呼ぶ。
俺の後をついて回るなと言ってある。
後ろだと見えないから。
必ず俺の少しだけ前を歩かせる。
なにかあったときにすぐに反応できるように。
…子どもの頭で、よくそんなことを考えたものだと我ながら感心する。
「衛介、スマホってあったら便利なの?」
「便利だな」
「俺も欲しい。母さんに買ってってお願いしてもいい?」
中学生くらいになると、尚紀はしっかり俺の箱詰めに慣れていた。
親に言う前に俺に確認する。
俺はその度に安堵した。
でも、困ることもあった。
性欲が抑えられない。
尚紀が好きで好きで、俺の性的欲求は全て尚紀に向かった。
日に日に尚紀への感情が膨らんでいく。
だから男同士のセックスの仕方も詳しく調べたし、自慰のときには尚紀以外を想像できない。
――――抱きたい。
ただ、尚紀だけを抱きたい。
他の誰もいらない。
俺が望むのは尚紀だけ。
高校一年、学校帰りの電車。
疲れてうとうとしながら俺の肩にもたれる尚紀の唇に目が留まった。
電車の揺れがちょうどいいゆりかごだったのか、尚紀は寝入ってしまった。
「尚紀…」
唇を重ねたい。
激しい衝動に正直に動いた。
…でも、できなかった。
周囲の目がとかそんなのどうでもいい。
尚紀を汚すことが怖かった。
「っ…尚紀…っ」
自分の部屋にこもって昂ったものを扱く。
尚紀の唇。
そこに俺の唇を重ねたら……。
「…く、っ…」
手に付いた白濁液。
汚れない尚紀。
大切過ぎて、手が出せない。
思春期の男子にはきつかった。
自慰で収めるには俺の性欲は狂暴で、尚紀を壊すまで抱きたくて狂いそうになる。
でも、だからこそ尚紀にはそれをぶつけてはいけない。
尚紀を箱詰めにしているのは、守るため。
壊すために守っているんじゃない。
俺を含む全てから尚紀を守るため、だ。
「小学生の誘拐だって」
「……」
顔を洗ってきた尚紀と朝食を食べながらニュースを見ていると、小学生が誘拐されたニュースが流れる。
俺はすぐチャンネルを変える。
あのときの恐怖は、年齢を重ねる毎に増していった。
誘拐がどういうものかを知れば知るほど、あの日の尚紀が目の前に見える。
それなのに、尚紀はぼんやりニュースを見ている。
気にしているのは俺だけか。
でも、尚紀のそういうところに救われている。
「尚紀、ウィンナーひとつやる」
「いいの? ありがとう」
尚紀の好きなウィンナー。
皮が弾けるまで焼くのが尚紀の一番の好み。
大学生になっても尚紀はしっかり俺の手の中にいて、俺は毎日安堵する。
天国にも地獄にも行かせない。
尚紀はいつまでも、俺の手の中から出さない。
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