囲いの中で

すずかけあおい

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囲いの中で

囲いの中で④

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「誕生日おめでとう、尚紀」
「ありがと」

ぼんやりしてたら誕生日が来てしまった。

「ビール、飲んでみるか?」
「うん。飲んでみたい」

衛介がプルタブを上げてくれる。

「飲み口で怪我するなよ」
「しないよ。子どもじゃないんだから」
「確かに、小さい頃尚紀はジュースの飲み口で怪我したな」
「そうだっけ」
「忘れたのか。俺は唇を舐めてやったのまでしっかり覚えてるぞ」
「そうなんだ…」

ん?
あれ?
唇を舐めてもらった…?
それってキスみたいなものじゃん!
俺、衛介とそんなことしてたの!?

「…ノーカン」
「なにが」
「なんでもない」

だって好きだからしたんじゃなくて、俺が唇を怪我したから舐めたってだけだったら、それはキスに含まれない。
いや、含まない。

「ちゃんとしてやろうか?」
「えっ!? な、なにを?」
「尚紀が考えてること」
「いい、いらないっ!」

慌ててビールの缶に口をつける。
苦くて、美味しいとかわからないけど飲めなくはない。

「衛介、どう? ビール美味しい?」
「まずくはない」
「気に入ったんだ?」
「そうだな」

衛介ってこういうところあるんだよな。
美味しいものを美味しいって素直に言わない…言えないのかな?
俺には正直になんでも言うのに、不思議だ。

「誕生日プレゼント」
「あ、うん。なに?」

ビールを一口飲んで聞くと、手を取られた。

「?」

缶をローテーブルに置いて、衛介を見る。

「尚紀をもらう」
「?」
「尚紀が望むとおりに抱いてやる」
「!?」
「ずっと前から決めてた。覚悟しろ」
「え、え、え…」

にじり寄ってくる衛介に、思わず後ずさる。
でもすぐに壁に背中がぶつかって、逃げ場がなくなった。

「お、俺がもらうんじゃないの?」
「そう。尚紀は俺のものになるんだ」
「あ…んっ」

キス!?
え、俺、衛介に抱かれるの?
ほんとに?

「衛介…」

衛介の背中に腕を回す。

「こんなに素直に育ってくれて嬉しい」
「…衛介が育てたんだろ?」
「そうだ」

また唇が重なる。
気持ちいい…。
ちゅ、と唇を吸われてぞくりとする。

『怖っ、洗脳してんじゃないの?』

はっとして衛介の胸を押して身体を離してしまう。

「尚紀?」
「……ごめん、なんか…あの」
「わかった」
「え」
「気にするな」

あっさり退いて俺を解放する衛介。
俺のほうが気が抜けてしまう。
もっと強引にされるかと思った。

「ごめん、衛介…俺」
「気にするなって言っただろ。俺、寝るな」
「え、もう?」
「ああ」

自分の飲んでいたビールの缶を片付けて、衛介は部屋に向かう。

「おやすみ、尚紀」
「…おやすみ」

パタンとドアの閉まる音。

なんだか変だ。
でも理由がわからない。
俺が拒んでしまったことが悪かったんだろうか。
だって、急にあの女子の言葉が頭に蘇ってきて…。

「わかんない」

ひとりでビールを飲む。
衛介が買ってきてくれたビールとおつまみでしっかりいい気分になっていった。

「……俺も寝ようかな」

初めての酒でふわふわする。
飲み過ぎたかもしれない。
ふらふらしながら部屋に戻ろうとして、衛介の部屋のドアに目が留まる。

「………」

自分の部屋のドアノブから手を離して、衛介の部屋のドアノブに手をかける。

「お邪魔しまーす」

ドアを開けると室内は暗くて、衛介はもう寝ているようだから、照明をつけずにそのままベッドの位置に進む。

「衛介…?」

整った寝顔が見えて、ほっとする。
髪を撫でると、口元がちょっと緩んで可愛い。
頬をなぞる。

「…?」

瞼が上がって、衛介が俺を見る。

「尚紀…?」
「衛介、キスしていい?」
「どうした? なにかあったか?」
「キスしたい」

そっと唇を重ねると、酒でぼーっとしている頭が更にぼんやりした。

「どれだけ飲んだんだ」
「冷蔵庫に入ってるだけ飲んだ」
「……飲み過ぎだ」

呆れた声。
布団を捲って俺もベッドに横になる。

「酔ってるんだ。早く部屋に戻れ」
「なんでそういう冷たいこと言うの? 俺の誕生日だよ?」
「尚紀…」

衛介に抱きついて、首元に頬をすり寄せる。

「ねえ、衛介…抱いてよ。さっきの続き、して」
「……」
「衛介…」

もう一度キスをしようとすると、避けられた。

「酔ってすることじゃない」

衛介が起き上がって、ベッドから出てしまう。
慌てて追いかけようとするけれどベッドから落ちてしまった。
衛介が照明をつける。

「いたた…」
「大丈夫か? 酔ってるんだから気を付けろ」
「ごめん…」

衛介をじっと見ると、目を逸らされた。

「どうして俺を見てくれないの?」
「別に」
「目、逸らさないで」

衛介の視線がゆっくり動いて、俺をとらえる。
抱きつきたい勢いのままに衛介に突進する。

「おい」
「衛介…」
「どうした?」
「えいすけぇ…っ」

涙が止まらない。
衛介に抱きついてわんわん泣くと、あやすように背中をぽんぽん叩いてくれる。

「尚紀?」
「衛介が、俺と一緒にいるの、洗脳するためじゃないよな? 好きだからだよな?」
「……」
「好きって言って…っ」
「好きだよ」
「……もっと…」
「好きだ、尚紀。尚紀だけ好きだ」

衛介の“好き”が体内を巡る。
どきどきより安心感のほうが大きい。
ずっと俺を好きでいて。
本当は、洗脳されたって構わない。
俺が衛介を好きだと思い込まされているなら、ずっとその洗脳が解けないようにそばにいて。
ずっとずっと、俺だけの衛介でいて。

俺だけに笑って。
俺だけに怒って。
俺だけに泣いて。

あのとき、俺の連絡先を聞いてきた女子に衛介が感情を動かしたのが気に入らないんだ、と今わかった。
俺以外が衛介の感情を揺らすのが気に食わない。
でもそんなことを言ったら衛介が困るかもしれないから言わない。
だから甘えてごまかす。
衛介の胸に顔をすり寄せて、ぎゅっと抱きつく。

「…ねえ、衛介」

俺だけの衛介でいて。
もっと俺を衛介の箱の中に詰め込んで。
衛介の作った囲いの中で生きるから。

「どうした?」

俺の頬を撫でる温かい手を握る。

「なんでもない」
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