囲いの中で

すずかけあおい

文字の大きさ
7 / 22
欲望のままに

欲望のままに③

しおりを挟む
授業の前に尚紀が喉が渇いたと言うのでお茶を買いに行って戻ると、尚紀のそばに女子が立っている。
やっぱり尚紀からは一秒も離れちゃいけない。

「なにやってるんだ」

尚紀がびくっとする。
それに対して女子は能天気に笑っている。

「あ、椎名くん。小井くんと連絡先交換しようって話してたの」

尚紀と連絡先の交換?

誰がいいって言った。
誰がそんなことをしていいと許した?

尚紀を見ると、焦りで表情が強張っている。

「なんで尚紀がアンタと連絡先の交換をしないといけないんだ」

正直、言葉なんて交わしたくなかったけれど仕方なく言うと。

「アンタとか言わないでよ。小井くんはいいって言ったよ? ね?」

尚紀がいいと言うはずがないだろう。
俺がいいと言わないんだから。
俺が認めないことに尚紀は頷かない。
そうなっている。

「小井くんだって出会い欲しいよね? 椎名くんとばっかじゃつまんないって言ってやんなよ」

なるほど。
そういう自分勝手な考えを持っているのか。
尚紀が俺だけじゃつまらないと考えるわけがない。
考えられるわけがない。

「へえ…そうなのか? 尚紀」

平静を保ったつもりでも怒りが滲み出てしまって、まだ未熟だなと自分を小さく笑う。
尚紀の焦りは最大級になっている。

「衛介がだめって言うならやっぱりだめだから…」

それでいい。
なにも間違っていない。
俺の様子を伺いながらではなく、それが自分の意思として口にする尚紀は、言葉にできないほど可愛かった。

その夜、尚紀はそばにいて欲しいと言ってきた。
心が不安定になっているんだろう。
手を握ってやると、ほっとした表情になった。
でもまた瞳が曇る。
髪を撫でてやるとその手も握って、両手で俺を捕まえる。
そういう仕草が可愛くてたまらない。

「衛介、俺…邪魔じゃない?」
「次それ言ったら怒るぞ」
「……ごめん」

尚紀…俺の大切な尚紀。
なにがあっても守ってやる。
だから安心して俺の手の中で眠れ。


◇◆◇


尚紀の二十歳の誕生日前夜、俺は眠れなかった。
今日こそ尚紀を抱く。
そう思ったら緊張と恐怖と興奮が入り混じって俺を昂らせ、混乱させた。

夜、ふたりで初めてのビールを飲む。
思ったより飲める。
というか美味しいと思う。

「飲み口で怪我するなよ」

尚紀は覚えていないようだけれど、小さい頃に尚紀がうちに遊びにきたときにジュースの飲み口で唇を切ってすぐに舐めてやったというのに。
でも覚えていなくてよかったとも思う。
あのときの俺は純粋な気持ちで、ただ尚紀が心配で必死に唇を舐めた。
純粋な気持ちで、とか…俺自身もちょっと恥ずかしい思い出。
どれだけ今の心が汚れているかがわかるから恥ずかしいのかもしれない。

「誕生日プレゼント」

尚紀の手を取る。
俺の手が震えていることに気付かないで欲しい。
願い通り尚紀はなにも言わずに俺を不思議そうに見る。

「尚紀が望むとおりに抱いてやる」

ついに言った。
ついに叶う。
ついに、汚してしまう…。

後ずさって壁に背中がぶつかった尚紀を更に追い詰める。

「お、俺がもらうんじゃないの?」

焦った声。
可愛い。

「そう。尚紀は俺のものになるんだ」
「あ…んっ」

唇を重ねる。
どれだけ願った温もりと感触だろう。

「衛介…」

尚紀が俺の背に腕を回すと胸が焦がれる。

もっと知りたい。
もっと触れたい。

じれったい気持ちで唇を重ねる。
もっと性急に俺に染めたいという欲求と、大切に大切に包みたい思いが入り混じり、溶け合う。

突然、ぐっと身体を押し離された。
尚紀が俺から離れようと、俺の胸を押していた。

「尚紀?」
「……ごめん、なんか…あの」

混乱した瞳の尚紀が、俺を見てどうしたらいいかわからないという顔をする。

…そうか、俺は拒絶されたのか。
やっぱり汚してはいけないんだ。
俺はただ尚紀を手の中に入れておくだけで、それだけで…。

震える声で謝る尚紀に『気にするな』と返す。

「ごめん、衛介…俺」
「気にするなって言っただろ。俺、寝るな」
「え、もう?」
「ああ」

ビールの缶を片付けてから部屋に戻る。
ドアを閉めて、いつかのようにずるずると座り込む。

尚紀は俺を求めていた。
でも、拒絶されて安心している自分がいる。

「……なにやってんだ…」

今日こそは抱くと決めたのに。

ベッドに入ったら、寝不足にアルコールが手伝ってすぐに瞼が重たくなった。
今夜は尚紀を抱きながら眠るつもりだったんだけどな、と思ったら涙が零れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】

彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。 高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。 (これが最後のチャンスかもしれない) 流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。 (できれば、春樹に彼女が出来ませんように) そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。 ********* 久しぶりに始めてみました お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

勇者様への片思いを拗らせていた僕は勇者様から溺愛される

八朔バニラ
BL
蓮とリアムは共に孤児院育ちの幼馴染。 蓮とリアムは切磋琢磨しながら成長し、リアムは村の勇者として祭り上げられた。 リアムは勇者として村に入ってくる魔物退治をしていたが、だんだんと疲れが見えてきた。 ある日、蓮は何者かに誘拐されてしまい…… スパダリ勇者×ツンデレ陰陽師(忘却の術熟練者)

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら

夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。 テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。 Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。 執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学時代後輩から逃げたのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞ポイントいれて頂いた方々!ありがとうございました!! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

美形な幼馴染のヤンデレ過ぎる執着愛

月夜の晩に
BL
愛が過ぎてヤンデレになった攻めくんの話。 ※ホラーです

処理中です...