囲いの中で

すずかけあおい

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囲いの中で 小話

衛介誕生日小話 2024.05.01

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「……頭痛い……」
「飲みすぎるからだ」
「うう……」
 今日は衛介の誕生日だから、昨夜はふたりで前夜祭としてスーパーでオードブルと刺身とビールを買ってきた。ゴールディンウィークなので近所のスーパーではごちそうセットがたくさん並んでいて衛介と楽しく選んで帰った。翌日は誕生日だというのに衛介が食事を作るというから「それはだめ」と止めて、手抜きで豪勢な食事に。
 結局プレゼントの希望を聞き出せず、以前言われた「尚紀が欲しい」を実行するためにバイトを休みにして、スーパーでの支払いは尚紀がした。珍しく財布の中身が詰まっているので、「もっと買ってもいいよ」なんて言ってしまった。もちろん怒られた。
 刺身はいつも買うものとは全然違う金額の盛り合わせを買ったら口の中でとろけて、尚紀は思わず無言になってしまった。オードブルもチキンやチョリソー、骨付きフランクに合鴨ローストなど、ボリュームたっぷり、ビールにもぴったりでついつい飲んでしまったのだ。
「だからもうやめておけと止めただろう」
「だって……飲みたかった」
「飲みたいだけ飲んでいたら身体がいくつあっても足りない」
「そのとおりです……」
 水を飲んでリビングでごろんと床に横になると、衛介が膝枕をしてくれた。心地よくて、気分の悪さが一気に遠のく。心配そうに見つめられて申し訳ないのにくすぐったくなってしまう。衛介に愛されていることを実感しているなどと言ったら怒られそうだけれど。
「学校休むか? 代返しておくが」
「休まない。衛介と一緒にいる。今日の俺はプレゼントだから」
 気合いを入れて素敵なプレゼントになろう、と決めたのだ。頑張らなくては。衛介はそんな尚紀に苦笑していたけれど、きちんと受け取ってくれるのはわかっている。それがわかるから余計に張り切ってしまう。衛介をたくさん喜ばせたい。
「帰ってきたら誕生日パーティーしようね」
「まさか、また飲むのか?」
「わからない。飲めたら飲む」
 鼻をつままれてしまった。衛介の目が「やめておけ」と言っているので、むむ、となりながらも素直に頷いたらその瞳の色が和らいだ。こういう表情がとても綺麗だと感じる。衛介は以前よりずっと魅力的になった。もとから恰好よかったけれど、柔らかさや穏やかさが生まれた。
「そんなにはしゃぐほど嬉しいか?」
「嬉しいよ。俺にとっての衛介がどれだけ大きいかを知ってるなら、そんなのわかるでしょ。俺の中心は衛介なんだから」
「もう俺の言うとおりにする気はないだろうけどな」
 あの頃の話を笑って話せるようになってきてよかった、と思う。衛介はどこか自分に罪を背負わせていて、尚紀の知らないところで苦しんでいるように見えるときがあった。その重みが少しでも軽減されたのならば嬉しい。
「言うとおりにしてもいいよ」
 衛介がそれを望むならかまわない。以前とまったく同じにはなれなくても、ふたりだけの世界には戻れる。尚紀を衛介が独占して、衛介を尚紀が独占するのだ。
「そういうことを冗談でも言うな」
 また鼻をつままれた。衛介はせつなげな、それでいて苦しそうな表情をする。綺麗な顔がこんなふうに歪むのは、それだけ尚紀を愛してくれているからで、尚紀が得た自由を喜んでいるということだ。それはときに衛介にとってはつらい状況を生み出しても、それでも受け入れようとしている。精神的に幼い尚紀と比べて、衛介はおとなだ。自身の葛藤さえ押し殺すことができる強さに、尚紀は歯がゆくなるときもある。
「尚紀は尚紀でいいんだ」
 髪を撫でる手が優しくて眠くなってしまう。でも寝るわけにはいかない。これから講義が詰まっている。そして帰ってきたら誕生日パーティーだ。
「支度するぞ」
「うん」
 身体を起こすと若干楽になっているように感じた。
 大学に着くと、最近声をかけてくれるようになった学生達が尚紀の様子を心配してくれたが、衛介が「ただはしゃいで飲みすぎただけだ」とばらしてしまうので呆れられた。
 衛介と尚紀だけの世界が広がって新しい人との出会いがあっても、尚紀には衛介がいつでも一番大切な存在だ。


「誕生日おめでとう!」
 缶ビールのプルタブをあげて衛介に渡す。もうすでに呆れ顔だ。
「今日は飲みすぎるなよ」
「わかってるよ」
 今日も手抜きで豪勢に。寿司と、昨日とは違うオードブルを買ってきた。このまま散財癖がつかないかと衛介は心配しているようだけれど、特別なときしかこんなことはしない。
「お寿司おいしい」
「うまいな」
「衛介、ぼたんえびあげる」
 おいしい寿司にオードブル、少し高いビールに衛介の笑顔。最高の日だ、と尚紀が嬉しくなってしまって、違うだろ、と自分につっこむ。今日は衛介の誕生日。彼に喜んでもらう日だ。すぐに自分が楽しんでしまうところは直さなくてはいけない。咎められなくても尚紀自身が嫌なのだ。
「尚紀」
「なに?」
「ありがとな」
「……?」
 突然紡がれた感謝の言葉に首を傾げてしまう。これといって特別なことはしていないから、なぜ突然そんなことを言われたのかがわからない。
「尚紀と出会えたよかった」
 泣き出しそうに微笑む衛介が綺麗で息を呑む。尚紀が囲いを作ってずっとしまっておきたくなるような、そんな美しさだった。
 なぜかしんみりした空気なので、景気づけにビールを一気に呷ろうとしたら止められた。
「今日は飲みすぎるな」
「うん……。明日も講義あるもんね」
「そうじゃない」
「……?」
 衛介と目が合って苦笑された。その表情が今度は可愛くて、どきりと胸が甘く疼いた。いろいろな表情を見せてくれるから心臓がいくつあっても足りない。すべてが魅力的で、なにもかもをひとり占めしたくなる。
「俺は酔い潰れた尚紀を抱く趣味はない」
「……」
「だから飲みすぎるな」
「……うん」
 そうだった、と思い出す。今日の尚紀はプレゼントだ。酒臭いプレゼントになるのは嫌だから、ビールを飲むのをやめて炭酸水を冷蔵庫から出す。
「衛介、これ残り飲んで」
 ビールの缶を渡したら、急にしおらしくなった尚紀を不思議に思うような表情をされた。「だって俺プレゼントだもん」と答えて炭酸水をひと口飲む。炭酸が口の中で弾ける刺激でほろ酔い気分が少し醒めた。
「俺、衛介の誕生日を祝えて幸せ」
 なぜかほろりと涙が零れた。泣くつもりなどなかったのに、幸せの頂点に至って感動してしまったのかもしれない。一度溢れた涙は次から次へと伝い落ちて止まらない。
「尚紀……」
「こんなに幸せにしてくれて、俺こそありがとう」
 自分ばかり幸せなのではないか、と不安になる必要なんてない。だって向かい合う衛介はこれ以上ないくらい幸せそうに微笑んでいる。
「誕生日おめでとう。プレゼントは返品不可だよ」
 手を差し出すと、その手をぎゅっと握られた。なだめるように手の甲を指の腹で撫でられてくすぐったい。口もとが緩む尚紀に、眩しいものでも見るように目を眇める衛介の表情は芸術品のようだった。
「返品すると思うか?」
「思わない」
 くすくすと笑い合い、身を乗り出して唇を重ねる。ただひとり、なによりも大切な衛介の誕生日をふたりで祝えたことを心の底から感謝した。
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