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囲いの中で 小話
バレンタイン小話
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Xとぷらいべったーに掲載していた小話、『囲いの中で』の前と『いつまでも』の後です。
*****
「小井くん、これ椎名くんに渡してくれる?」
「えっと……」
「よろしくね!」
同じクラスの、よく知らない女子から頼まれごとをしてしまった。綺麗なラッピングをされたこれは間違いなくバレンタインチョコ。衛介に、と預かったと言ったら怒るだろう。
こういうものは人づてに渡してもいいものなのだろうか。よく知らないけれど、直接渡したほうが印象はよさそう――そう考えて首を傾げる。衛介がいい印象を持つ相手がわからない。うちの高校の中で、衛介が笑いかける相手はいるのだろうか。いや、うちの学校に限らず、この世界中に俺以外にいるのだろうか。衛介はお父さんとお母さんにもそっけなくて、俺の両親にはかろうじて僅かな笑顔を見せる。衛介がそうしているならそういうものなかもしれない。
「尚紀、なにしてる」
「あ……今うちのクラスの女子から衛介に渡して欲しいって、これ」
チョコを渡すと、眉を顰めてごみ箱に直行させようとするので慌てて止める。それはさすがに可哀想だと俺でもわかる。
「だめだよ」
「……」
ごみ箱に放り込まれそうになったチョコを押さえて、衛介の手に握らせるとますます眉を顰められた。
「どうして受け取った?」
「……だって『渡して』って言われて、『よろしく』って……」
「二度と受け取るな。尚紀宛てだったらもっと受け取るな」
こういうときの衛介は怖い。
でも、衛介がそう言うなら。
「うん。受け取らない」
「帰ったら俺が尚紀のチョコを家に持って行く」
「ありがとう。待ってる」
バレンタインには毎年衛介がチョコをくれる。俺からは、衛介からもらったチョコを一つ分けてあげること。それでいいと昔言われて、ずっとそうしている。
「楽しみだなあ」
いつも俺が好きなチョコをくれるからわくわくしてしまう。衛介は俺が好きだからチョコをくれるのだと知っていることも安心できる。チョコをもらえなくなる日は来ないだろう。
「しょうがないやつ」
呆れ顔をしているけれど、少し喜んでいるのがわかる。俺がこうやっているのが、衛介は一番安心なのだと知っている。
来年も再来年もその次も、もっと先まで、ずっとずっと衛介のチョコは俺だけに。
「衛介、これなに?」
バイトから帰った衛介がリュックからテーブルにいくつか箱を置く。綺麗にラッピングされたそれはバレンタインチョコ。でも衛介から俺へのものではなさそうだ。次から次に出てくる。
「バイト先でもらった」
「……」
「尚紀も食べろ」
「……やだ」
衛介のために、どこの誰かわからない女性がくれたチョコなど食べたくない。拗ねて背を向けると、背後から手が伸びてきて包み込むように抱きしめられた。
「悪い。断れなくて」
「……俺、チョコ用意してない」
いつものように衛介がくれるチョコを一つ分けてあげるつもりだった。でもこれでは完全に女性達に負けている。
「用意してなくていい。いつもどおりにしてくれ。俺から尚紀へのチョコはちゃんと用意してあるから」
「……気に入らない」
お腹に回された手に手を重ねて、それからつねる。
「そんなに怒ってるのか」
「怒ってる」
「どうしたらいい?」
どうしたら……。
「衛介のチョコ、作る」
「今からか?」
頷くと衛介が頬をすり寄せてくる。温かいけれどせつなくてぎゅっと唇を噛む。俺だって衛介にチョコを贈りたい。他の誰にも負けないくらい好きだと伝えたい。
「今日はもう遅い。また今度にしよう」
なだめるような声に、また悔しくなる。もっと早くチョコのことに思い至っていれば、今頃二人でチョコを贈り合えていた。いつまでも衛介頼りではいけないとわかっているのに、俺は根本が変わっていない。
「やだ! 今作る!」
「でも材料がないだろう」
「……」
確かにない。振り返ると、見たくないチョコの山が見えてしまった。
「……浮気者、嫌い」
「浮気なんてしてないし、する気もない」
わかっているけれどすっきりしないのは俺の心が子どもだからだ。もっと大人になりたい。衛介みたいに、きちんと色々なことを考えたい。
「じゃあ、証明して」
「証明?」
身体の向きを変え、衛介に向き合って抱きつく。嗅ぎ慣れた優しいにおいにどきどきしながら整った顔をじっと見上げる。見つめ合うともっとどきどきしてしまう。いつまでもこういう雰囲気には慣れなくて、心臓が暴れておかしくなりそうになる。
「俺だけ好き?」
「尚紀だけ好きだ」
迷うことなくきっぱりと言い切ってくれてほっとする。答えがわかっていても聞きたい。何回でも、何十回でも何万回でも。
「ほんと?」
「本当だ」
よかった、と呟くと唇が重なった。
衛介は周りに優しくなった。俺ももっと寛容になって、どんな衛介も受け止められるようになりたい。
「ところで尚紀のリュックからはみ出しているあの箱はなんだ?」
「……」
「もしかしなくてもチョコじゃないのか?」
「…………バイト先の人からもらった義理チョコ」
義理、を強調して言うと僅かに口角を上げて頭を撫でてくれた。少し寂しそうなのは、俺だからわかる。
たまにこういう表情をするから以前のような俺のほうがいいのだろうかと思ってしまうけれど、今更囲いの中には戻れない。
でも、囲いから出て衛介の隣にいる。
「拗ねていいか?」
「衛介が?」
「そうだ」
そんな可愛い反応をしてくれるなんて、チョコをもらってよかったかもしれない。でもそれは言わないでおこう。衛介がもっと拗ねてしまうから。
「明日チョコ作ろうね」
「そうだな。明日が俺達のバレンタインだ」
二月十四日をすぎても、俺達には甘いときが待っている。
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「小井くん、これ椎名くんに渡してくれる?」
「えっと……」
「よろしくね!」
同じクラスの、よく知らない女子から頼まれごとをしてしまった。綺麗なラッピングをされたこれは間違いなくバレンタインチョコ。衛介に、と預かったと言ったら怒るだろう。
こういうものは人づてに渡してもいいものなのだろうか。よく知らないけれど、直接渡したほうが印象はよさそう――そう考えて首を傾げる。衛介がいい印象を持つ相手がわからない。うちの高校の中で、衛介が笑いかける相手はいるのだろうか。いや、うちの学校に限らず、この世界中に俺以外にいるのだろうか。衛介はお父さんとお母さんにもそっけなくて、俺の両親にはかろうじて僅かな笑顔を見せる。衛介がそうしているならそういうものなかもしれない。
「尚紀、なにしてる」
「あ……今うちのクラスの女子から衛介に渡して欲しいって、これ」
チョコを渡すと、眉を顰めてごみ箱に直行させようとするので慌てて止める。それはさすがに可哀想だと俺でもわかる。
「だめだよ」
「……」
ごみ箱に放り込まれそうになったチョコを押さえて、衛介の手に握らせるとますます眉を顰められた。
「どうして受け取った?」
「……だって『渡して』って言われて、『よろしく』って……」
「二度と受け取るな。尚紀宛てだったらもっと受け取るな」
こういうときの衛介は怖い。
でも、衛介がそう言うなら。
「うん。受け取らない」
「帰ったら俺が尚紀のチョコを家に持って行く」
「ありがとう。待ってる」
バレンタインには毎年衛介がチョコをくれる。俺からは、衛介からもらったチョコを一つ分けてあげること。それでいいと昔言われて、ずっとそうしている。
「楽しみだなあ」
いつも俺が好きなチョコをくれるからわくわくしてしまう。衛介は俺が好きだからチョコをくれるのだと知っていることも安心できる。チョコをもらえなくなる日は来ないだろう。
「しょうがないやつ」
呆れ顔をしているけれど、少し喜んでいるのがわかる。俺がこうやっているのが、衛介は一番安心なのだと知っている。
来年も再来年もその次も、もっと先まで、ずっとずっと衛介のチョコは俺だけに。
「衛介、これなに?」
バイトから帰った衛介がリュックからテーブルにいくつか箱を置く。綺麗にラッピングされたそれはバレンタインチョコ。でも衛介から俺へのものではなさそうだ。次から次に出てくる。
「バイト先でもらった」
「……」
「尚紀も食べろ」
「……やだ」
衛介のために、どこの誰かわからない女性がくれたチョコなど食べたくない。拗ねて背を向けると、背後から手が伸びてきて包み込むように抱きしめられた。
「悪い。断れなくて」
「……俺、チョコ用意してない」
いつものように衛介がくれるチョコを一つ分けてあげるつもりだった。でもこれでは完全に女性達に負けている。
「用意してなくていい。いつもどおりにしてくれ。俺から尚紀へのチョコはちゃんと用意してあるから」
「……気に入らない」
お腹に回された手に手を重ねて、それからつねる。
「そんなに怒ってるのか」
「怒ってる」
「どうしたらいい?」
どうしたら……。
「衛介のチョコ、作る」
「今からか?」
頷くと衛介が頬をすり寄せてくる。温かいけれどせつなくてぎゅっと唇を噛む。俺だって衛介にチョコを贈りたい。他の誰にも負けないくらい好きだと伝えたい。
「今日はもう遅い。また今度にしよう」
なだめるような声に、また悔しくなる。もっと早くチョコのことに思い至っていれば、今頃二人でチョコを贈り合えていた。いつまでも衛介頼りではいけないとわかっているのに、俺は根本が変わっていない。
「やだ! 今作る!」
「でも材料がないだろう」
「……」
確かにない。振り返ると、見たくないチョコの山が見えてしまった。
「……浮気者、嫌い」
「浮気なんてしてないし、する気もない」
わかっているけれどすっきりしないのは俺の心が子どもだからだ。もっと大人になりたい。衛介みたいに、きちんと色々なことを考えたい。
「じゃあ、証明して」
「証明?」
身体の向きを変え、衛介に向き合って抱きつく。嗅ぎ慣れた優しいにおいにどきどきしながら整った顔をじっと見上げる。見つめ合うともっとどきどきしてしまう。いつまでもこういう雰囲気には慣れなくて、心臓が暴れておかしくなりそうになる。
「俺だけ好き?」
「尚紀だけ好きだ」
迷うことなくきっぱりと言い切ってくれてほっとする。答えがわかっていても聞きたい。何回でも、何十回でも何万回でも。
「ほんと?」
「本当だ」
よかった、と呟くと唇が重なった。
衛介は周りに優しくなった。俺ももっと寛容になって、どんな衛介も受け止められるようになりたい。
「ところで尚紀のリュックからはみ出しているあの箱はなんだ?」
「……」
「もしかしなくてもチョコじゃないのか?」
「…………バイト先の人からもらった義理チョコ」
義理、を強調して言うと僅かに口角を上げて頭を撫でてくれた。少し寂しそうなのは、俺だからわかる。
たまにこういう表情をするから以前のような俺のほうがいいのだろうかと思ってしまうけれど、今更囲いの中には戻れない。
でも、囲いから出て衛介の隣にいる。
「拗ねていいか?」
「衛介が?」
「そうだ」
そんな可愛い反応をしてくれるなんて、チョコをもらってよかったかもしれない。でもそれは言わないでおこう。衛介がもっと拗ねてしまうから。
「明日チョコ作ろうね」
「そうだな。明日が俺達のバレンタインだ」
二月十四日をすぎても、俺達には甘いときが待っている。
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