20 / 22
囲いの中で 小話
誕生日プレゼント小話 2024.03.02
しおりを挟む
五月は衛介の誕生月。プレゼントを買うためにバイトのシフトを増やしていることは内緒だ。
「尚紀、最近バイト多いな」
内緒……なのに、ばれている。一緒に住んでいればばれて当然だけれど、そこまで頭がまわらなかった。言わなければわからないと思っていた。
でもそれだけ衛介が俺を細かく気にしてくれていることがわかって嬉しい。もう衛介の囲いで生きなくていいと言われたとき、俺に対する関心が薄れていくのではないかと不安だった。
「うん。人手不足で」
「そうか。身体に気をつけろよ」
バイト先のレストランは少し前に求人を出したから、人手は足りている。そういう細かいところまで以前の衛介ならばチェックしていただろうが今は違う。
突き放されているわけではない。衛介と「衛介の尚紀」だった俺が、個々の人間になり、恋人になり、いろいろ変わっているのだということはわかる。それでも時折寂しくなり、あの狭い囲いが恋しいと思うときだってある。衛介の手の中で、衛介以外の人とかかわりを持たずにふたりきり――そこに戻りたいときもある。
「衛介はなにか欲しいものある?」
さりげなく探りを入れていく。こういうことをうまく聞き出す言葉がわからなくて、思いついたままで聞くと、衛介がきょとんとする。
「欲しいもの?」
「そう。時計とか、えっと……バッグとか? 服とか……なにか欲しいもの」
プレゼントするものに疎い俺はこれくらいしか浮かばない。衛介は天井を少し見上げて首を傾げる。
「欲しいもの……」
なにかあるかな、とわくわくしながら待つ。バイトを増やした分、財布には余裕がある。高いブランド物でももしかしたら買えるかもしれない。衛介の誕生日の頃にはそれくらい金が溜まっている。
ブランド物といえば高い物というイメージしかなくて、どんなブランドがあるかとか特徴などはまったくわからないけれど。こういうことは以前は衛介がすべて考えてくれていたから今でも苦手だ。
「……まさかそのためにバイト増やしてるのか?」
「えっ」
どうしてばれたのだろう。俺はそんなことを一言も言っていないのに。やはり衛介はすごい。
「ち、違うよ……人手不足だからで、……違うよ」
できたら内緒でプレゼントを用意して驚かせたいから、誕生日プレゼントの探りを入れていることはばれたくない。バイトもそのために増やしていると言ったら怒られるかもしれない。怒りはしなくても呆れられる可能性はある。
「それならいいけど。欲しいものならある」
「なに?」
衛介はなにが好きでどういうものが欲しいのだろう。ついでに好きなブランドや、好みの物もいろいろ聞き出したい。
「尚紀が欲しい」
「俺……?」
「そうだ。だから人手不足が落ち着いたらふたりでゆっくりすごしたい」
甘い微笑みに胸が高鳴る。衛介はいつも俺をどきどきさせる。こんなにすごいことができるのだから、俺なんかが敵うはずがない。
「じゃ、じゃあ、俺をあげようかな……?」
少し目を逸らして言ってみると、衛介が笑ったのを感じる。
「誕生日プレゼントか?」
「なんでわかるの!?」
心を読まれた? 衛介はそんなすごい力――持っていそうだ。特に俺のことでわからないことなどないだろう。
ぽかんと口を開けていると、上下の唇を指でつままれ、ん、と口が閉じる。そこに優しいキスが落ちてきた。
「……可愛いな」
「……?」
「尚紀はなにが欲しい? 俺もバイトを増やして尚紀にとっておきのプレゼントを用意する」
「えっ、やだ!」
それでは衛介と会える時間が減ってしまう。今でも俺がバイトを増やしてすれ違うことが多いのに、さらにすれ違うなど我慢できない。やだやだやだと首を横に振ると衛介は困ったような微笑みを見せる。
「じゃああまり特別なものは欲しがらないでくれるか」
「それもやだ」
むう、とむくれると苦笑された。俺が欲しいものはとても特別なもので、それ以外はいらない。
「なにが欲しい?」
「めちゃくちゃスペシャルで特別なもの! ……シャワー浴びてきてよ」
「わかった」
髪をくしゃくしゃと撫でられ顔を覗き込まれる。きっと真っ赤になっていると思うのであまり見られたくない。頬にキスをくれてから衛介は浴室に向かう。
「『スペシャル』も『特別』も同じ意味だ」
「わかってるよ!」
ドアの向こうに消えた背中に言うと、小さな笑い声が漏れ聞こえてきた。
めちゃくちゃスペシャルで特別な衛介が欲しい。俺が欲しいのは、衛介だけ。
「尚紀、最近バイト多いな」
内緒……なのに、ばれている。一緒に住んでいればばれて当然だけれど、そこまで頭がまわらなかった。言わなければわからないと思っていた。
でもそれだけ衛介が俺を細かく気にしてくれていることがわかって嬉しい。もう衛介の囲いで生きなくていいと言われたとき、俺に対する関心が薄れていくのではないかと不安だった。
「うん。人手不足で」
「そうか。身体に気をつけろよ」
バイト先のレストランは少し前に求人を出したから、人手は足りている。そういう細かいところまで以前の衛介ならばチェックしていただろうが今は違う。
突き放されているわけではない。衛介と「衛介の尚紀」だった俺が、個々の人間になり、恋人になり、いろいろ変わっているのだということはわかる。それでも時折寂しくなり、あの狭い囲いが恋しいと思うときだってある。衛介の手の中で、衛介以外の人とかかわりを持たずにふたりきり――そこに戻りたいときもある。
「衛介はなにか欲しいものある?」
さりげなく探りを入れていく。こういうことをうまく聞き出す言葉がわからなくて、思いついたままで聞くと、衛介がきょとんとする。
「欲しいもの?」
「そう。時計とか、えっと……バッグとか? 服とか……なにか欲しいもの」
プレゼントするものに疎い俺はこれくらいしか浮かばない。衛介は天井を少し見上げて首を傾げる。
「欲しいもの……」
なにかあるかな、とわくわくしながら待つ。バイトを増やした分、財布には余裕がある。高いブランド物でももしかしたら買えるかもしれない。衛介の誕生日の頃にはそれくらい金が溜まっている。
ブランド物といえば高い物というイメージしかなくて、どんなブランドがあるかとか特徴などはまったくわからないけれど。こういうことは以前は衛介がすべて考えてくれていたから今でも苦手だ。
「……まさかそのためにバイト増やしてるのか?」
「えっ」
どうしてばれたのだろう。俺はそんなことを一言も言っていないのに。やはり衛介はすごい。
「ち、違うよ……人手不足だからで、……違うよ」
できたら内緒でプレゼントを用意して驚かせたいから、誕生日プレゼントの探りを入れていることはばれたくない。バイトもそのために増やしていると言ったら怒られるかもしれない。怒りはしなくても呆れられる可能性はある。
「それならいいけど。欲しいものならある」
「なに?」
衛介はなにが好きでどういうものが欲しいのだろう。ついでに好きなブランドや、好みの物もいろいろ聞き出したい。
「尚紀が欲しい」
「俺……?」
「そうだ。だから人手不足が落ち着いたらふたりでゆっくりすごしたい」
甘い微笑みに胸が高鳴る。衛介はいつも俺をどきどきさせる。こんなにすごいことができるのだから、俺なんかが敵うはずがない。
「じゃ、じゃあ、俺をあげようかな……?」
少し目を逸らして言ってみると、衛介が笑ったのを感じる。
「誕生日プレゼントか?」
「なんでわかるの!?」
心を読まれた? 衛介はそんなすごい力――持っていそうだ。特に俺のことでわからないことなどないだろう。
ぽかんと口を開けていると、上下の唇を指でつままれ、ん、と口が閉じる。そこに優しいキスが落ちてきた。
「……可愛いな」
「……?」
「尚紀はなにが欲しい? 俺もバイトを増やして尚紀にとっておきのプレゼントを用意する」
「えっ、やだ!」
それでは衛介と会える時間が減ってしまう。今でも俺がバイトを増やしてすれ違うことが多いのに、さらにすれ違うなど我慢できない。やだやだやだと首を横に振ると衛介は困ったような微笑みを見せる。
「じゃああまり特別なものは欲しがらないでくれるか」
「それもやだ」
むう、とむくれると苦笑された。俺が欲しいものはとても特別なもので、それ以外はいらない。
「なにが欲しい?」
「めちゃくちゃスペシャルで特別なもの! ……シャワー浴びてきてよ」
「わかった」
髪をくしゃくしゃと撫でられ顔を覗き込まれる。きっと真っ赤になっていると思うのであまり見られたくない。頬にキスをくれてから衛介は浴室に向かう。
「『スペシャル』も『特別』も同じ意味だ」
「わかってるよ!」
ドアの向こうに消えた背中に言うと、小さな笑い声が漏れ聞こえてきた。
めちゃくちゃスペシャルで特別な衛介が欲しい。俺が欲しいのは、衛介だけ。
32
あなたにおすすめの小説
あなたと過ごせた日々は幸せでした
蒸しケーキ
BL
結婚から五年後、幸せな日々を過ごしていたシューン・トアは、突然義父に「息子と別れてやってくれ」と冷酷に告げられる。そんな言葉にシューンは、何一つ言い返せず、飲み込むしかなかった。そして、夫であるアインス・キールに離婚を切り出すが、アインスがそう簡単にシューンを手離す訳もなく......。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
僕の番
結城れい
BL
白石湊(しらいし みなと)は、大学生のΩだ。αの番がいて同棲までしている。最近湊は、番である森颯真(もり そうま)の衣服を集めることがやめられない。気づかれないように少しずつ集めていくが――
※他サイトにも掲載
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
二日に一度を目安に更新しております
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
平凡な僕が優しい彼氏と別れる方法
あと
BL
「よし!別れよう!」
元遊び人の現爽やか風受けには激重執着男×ちょっとネガティブな鈍感天然アホの子
昔チャラかった癖に手を出してくれない攻めに憤った受けが、もしかしたら他に好きな人がいる!?と思い込み、別れようとする……?みたいな話です。
攻めの女性関係匂わせや攻めフェラがあり、苦手な人はブラウザバックで。
……これはメンヘラなのではないか?という説もあります。
pixivでも投稿しています。
攻め:九條隼人
受け:田辺光希
友人:石川優希
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグ整理します。ご了承ください。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる