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囲いの中で 小話
誕生日プレゼント小話 2024.03.02
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五月は衛介の誕生月。プレゼントを買うためにバイトのシフトを増やしていることは内緒だ。
「尚紀、最近バイト多いな」
内緒……なのに、ばれている。一緒に住んでいればばれて当然だけれど、そこまで頭がまわらなかった。言わなければわからないと思っていた。
でもそれだけ衛介が俺を細かく気にしてくれていることがわかって嬉しい。もう衛介の囲いで生きなくていいと言われたとき、俺に対する関心が薄れていくのではないかと不安だった。
「うん。人手不足で」
「そうか。身体に気をつけろよ」
バイト先のレストランは少し前に求人を出したから、人手は足りている。そういう細かいところまで以前の衛介ならばチェックしていただろうが今は違う。
突き放されているわけではない。衛介と「衛介の尚紀」だった俺が、個々の人間になり、恋人になり、いろいろ変わっているのだということはわかる。それでも時折寂しくなり、あの狭い囲いが恋しいと思うときだってある。衛介の手の中で、衛介以外の人とかかわりを持たずにふたりきり――そこに戻りたいときもある。
「衛介はなにか欲しいものある?」
さりげなく探りを入れていく。こういうことをうまく聞き出す言葉がわからなくて、思いついたままで聞くと、衛介がきょとんとする。
「欲しいもの?」
「そう。時計とか、えっと……バッグとか? 服とか……なにか欲しいもの」
プレゼントするものに疎い俺はこれくらいしか浮かばない。衛介は天井を少し見上げて首を傾げる。
「欲しいもの……」
なにかあるかな、とわくわくしながら待つ。バイトを増やした分、財布には余裕がある。高いブランド物でももしかしたら買えるかもしれない。衛介の誕生日の頃にはそれくらい金が溜まっている。
ブランド物といえば高い物というイメージしかなくて、どんなブランドがあるかとか特徴などはまったくわからないけれど。こういうことは以前は衛介がすべて考えてくれていたから今でも苦手だ。
「……まさかそのためにバイト増やしてるのか?」
「えっ」
どうしてばれたのだろう。俺はそんなことを一言も言っていないのに。やはり衛介はすごい。
「ち、違うよ……人手不足だからで、……違うよ」
できたら内緒でプレゼントを用意して驚かせたいから、誕生日プレゼントの探りを入れていることはばれたくない。バイトもそのために増やしていると言ったら怒られるかもしれない。怒りはしなくても呆れられる可能性はある。
「それならいいけど。欲しいものならある」
「なに?」
衛介はなにが好きでどういうものが欲しいのだろう。ついでに好きなブランドや、好みの物もいろいろ聞き出したい。
「尚紀が欲しい」
「俺……?」
「そうだ。だから人手不足が落ち着いたらふたりでゆっくりすごしたい」
甘い微笑みに胸が高鳴る。衛介はいつも俺をどきどきさせる。こんなにすごいことができるのだから、俺なんかが敵うはずがない。
「じゃ、じゃあ、俺をあげようかな……?」
少し目を逸らして言ってみると、衛介が笑ったのを感じる。
「誕生日プレゼントか?」
「なんでわかるの!?」
心を読まれた? 衛介はそんなすごい力――持っていそうだ。特に俺のことでわからないことなどないだろう。
ぽかんと口を開けていると、上下の唇を指でつままれ、ん、と口が閉じる。そこに優しいキスが落ちてきた。
「……可愛いな」
「……?」
「尚紀はなにが欲しい? 俺もバイトを増やして尚紀にとっておきのプレゼントを用意する」
「えっ、やだ!」
それでは衛介と会える時間が減ってしまう。今でも俺がバイトを増やしてすれ違うことが多いのに、さらにすれ違うなど我慢できない。やだやだやだと首を横に振ると衛介は困ったような微笑みを見せる。
「じゃああまり特別なものは欲しがらないでくれるか」
「それもやだ」
むう、とむくれると苦笑された。俺が欲しいものはとても特別なもので、それ以外はいらない。
「なにが欲しい?」
「めちゃくちゃスペシャルで特別なもの! ……シャワー浴びてきてよ」
「わかった」
髪をくしゃくしゃと撫でられ顔を覗き込まれる。きっと真っ赤になっていると思うのであまり見られたくない。頬にキスをくれてから衛介は浴室に向かう。
「『スペシャル』も『特別』も同じ意味だ」
「わかってるよ!」
ドアの向こうに消えた背中に言うと、小さな笑い声が漏れ聞こえてきた。
めちゃくちゃスペシャルで特別な衛介が欲しい。俺が欲しいのは、衛介だけ。
「尚紀、最近バイト多いな」
内緒……なのに、ばれている。一緒に住んでいればばれて当然だけれど、そこまで頭がまわらなかった。言わなければわからないと思っていた。
でもそれだけ衛介が俺を細かく気にしてくれていることがわかって嬉しい。もう衛介の囲いで生きなくていいと言われたとき、俺に対する関心が薄れていくのではないかと不安だった。
「うん。人手不足で」
「そうか。身体に気をつけろよ」
バイト先のレストランは少し前に求人を出したから、人手は足りている。そういう細かいところまで以前の衛介ならばチェックしていただろうが今は違う。
突き放されているわけではない。衛介と「衛介の尚紀」だった俺が、個々の人間になり、恋人になり、いろいろ変わっているのだということはわかる。それでも時折寂しくなり、あの狭い囲いが恋しいと思うときだってある。衛介の手の中で、衛介以外の人とかかわりを持たずにふたりきり――そこに戻りたいときもある。
「衛介はなにか欲しいものある?」
さりげなく探りを入れていく。こういうことをうまく聞き出す言葉がわからなくて、思いついたままで聞くと、衛介がきょとんとする。
「欲しいもの?」
「そう。時計とか、えっと……バッグとか? 服とか……なにか欲しいもの」
プレゼントするものに疎い俺はこれくらいしか浮かばない。衛介は天井を少し見上げて首を傾げる。
「欲しいもの……」
なにかあるかな、とわくわくしながら待つ。バイトを増やした分、財布には余裕がある。高いブランド物でももしかしたら買えるかもしれない。衛介の誕生日の頃にはそれくらい金が溜まっている。
ブランド物といえば高い物というイメージしかなくて、どんなブランドがあるかとか特徴などはまったくわからないけれど。こういうことは以前は衛介がすべて考えてくれていたから今でも苦手だ。
「……まさかそのためにバイト増やしてるのか?」
「えっ」
どうしてばれたのだろう。俺はそんなことを一言も言っていないのに。やはり衛介はすごい。
「ち、違うよ……人手不足だからで、……違うよ」
できたら内緒でプレゼントを用意して驚かせたいから、誕生日プレゼントの探りを入れていることはばれたくない。バイトもそのために増やしていると言ったら怒られるかもしれない。怒りはしなくても呆れられる可能性はある。
「それならいいけど。欲しいものならある」
「なに?」
衛介はなにが好きでどういうものが欲しいのだろう。ついでに好きなブランドや、好みの物もいろいろ聞き出したい。
「尚紀が欲しい」
「俺……?」
「そうだ。だから人手不足が落ち着いたらふたりでゆっくりすごしたい」
甘い微笑みに胸が高鳴る。衛介はいつも俺をどきどきさせる。こんなにすごいことができるのだから、俺なんかが敵うはずがない。
「じゃ、じゃあ、俺をあげようかな……?」
少し目を逸らして言ってみると、衛介が笑ったのを感じる。
「誕生日プレゼントか?」
「なんでわかるの!?」
心を読まれた? 衛介はそんなすごい力――持っていそうだ。特に俺のことでわからないことなどないだろう。
ぽかんと口を開けていると、上下の唇を指でつままれ、ん、と口が閉じる。そこに優しいキスが落ちてきた。
「……可愛いな」
「……?」
「尚紀はなにが欲しい? 俺もバイトを増やして尚紀にとっておきのプレゼントを用意する」
「えっ、やだ!」
それでは衛介と会える時間が減ってしまう。今でも俺がバイトを増やしてすれ違うことが多いのに、さらにすれ違うなど我慢できない。やだやだやだと首を横に振ると衛介は困ったような微笑みを見せる。
「じゃああまり特別なものは欲しがらないでくれるか」
「それもやだ」
むう、とむくれると苦笑された。俺が欲しいものはとても特別なもので、それ以外はいらない。
「なにが欲しい?」
「めちゃくちゃスペシャルで特別なもの! ……シャワー浴びてきてよ」
「わかった」
髪をくしゃくしゃと撫でられ顔を覗き込まれる。きっと真っ赤になっていると思うのであまり見られたくない。頬にキスをくれてから衛介は浴室に向かう。
「『スペシャル』も『特別』も同じ意味だ」
「わかってるよ!」
ドアの向こうに消えた背中に言うと、小さな笑い声が漏れ聞こえてきた。
めちゃくちゃスペシャルで特別な衛介が欲しい。俺が欲しいのは、衛介だけ。
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