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一章 契約と回帰
十八話
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訓練場の地面に座り込んだソラの肩が、ゆっくり上下していた。
魔力を右手に集めて殴る――その作業を繰り返すだけなのに、息は荒く、汗は背中を伝い、筋肉にまで重さを感じる。
「はぁ……はぁ……っ。ぜぇ……なんで、こんなに……疲れるんだ……?」
バッグの上で座っていたクロが、すっと跳び下りる。
いつもの落ち着いた金の瞳でソラを見つめ、当然だと言わんばかりに口を開いた。
『魔力操作というのは、今のお前にとって“全身を使う”行為だからだ。
魔力視と同じで、集中力がいる。二時間近くやれば息が切れるのも当然だ』
「集中……だけで、こんなに……?」
『当たり前だ。魔力を集めることに失敗している間も、ずっと意識を張り詰めていただろう?
普通は一時間で集中が切れてくる。二時間も保たせたのだ、よくやったほうだ』
褒められ、ソラの表情がほころびかける――が、クロはすぐに厳しい現実を突きつけてきた。
『だが。集中はよかったが、魔力操作はお粗末だ』
「ぐっ……お、お粗末……?」
クロは尻尾を揺らし、淡々と続ける。
『片手に魔力を集めるのに五分かかるようでは、実戦で使い物にならない。
魔物はお前が魔力を溜め終わるまで待っていてはくれんぞ』
「……それは、確かに」
『強くなりたいのなら、戦闘中でも反射的に魔力を流し、瞬時に力へ変換できなければならない。
今のお前のやり方は、準備運動を五分かけてやっているようなものだ』
ソラは苦笑するしかない。
あらためて言われると、まったく反論の余地がなかった。
「じゃ、じゃあ……魔力操作のコツとか、アドバイスは……?」
クロは目を細め、静かに首を横に振る。
『それは、教えられん』
「えっ!?なんで!?」
『魔力というのは、感じ方も扱い方も人によって大きく異なるからだ。
水のようだと感じる者、糸のようだという者、煙のようだという者……さまざまだ。
わたしの感覚を押しつければ、逆にお前の成長を妨げることになる』
「……なるほど……」
『だからこそ、魔力視のときもアドバイスはしなかった。
お前自身の感覚を育てなければならんからだ。
魔力操作も同じ。地道に、日々、自分の魔力の感覚と“性質”を理解していくしかない』
クロの言葉には、揺るぎがなかった。
ソラは深く息を吐く。
魔力視に成功して、調子に乗っていたのかもしれない。
自分は特別なんじゃないかと――ほんの少しだけだが感じていた。
だが現実は、まだ“第一歩を踏んだだけ”。
魔力を感じられるようになったというのは、ただのスタート地点に立ったにすぎない。
「……よし」
ソラは立ち上がった。
足はまだ少し震えていたが、その顔には覚悟が宿っている。
「地道に、少しずつ……だな。
五分が四分になって、四分が三分になって……いつか、瞬時にできるようになるまで積み重ねる」
クロは満足そうに頷いた。
『それでいい。それしかない。
焦らず、だが止まらずにやれ。魔力を扱えるということは、戦い方の幅が無限に広がるということだ』
「うん。分かった。ありがとう、クロ」
『礼なら結果を出してから言え。わたしは甘やかさんぞ』
ツンとしたように見えるが、尻尾がわずかに嬉しそうに揺れている。
ソラはそれを見て、小さく笑った。
クロはいつもこうだ。厳しいが、必ず背中を押してくれる。
「よし、今日はもう帰るか。
オレ、汗でぐっしょりで……なんか体中が重い」
『当然だ。風呂に入り、栄養を摂り、今日は早く寝ろ。
次に魔力を集めるときは、五分をもっと短くしてみせろ』
「わかった!」
ソラはバッグを肩にかけ、訓練場から家までの道を歩き出した。
夕暮れの街が優しい風を運んでくる。
疲れているはずなのに、足取りはどこか軽かった。
魔力を“視る”ことができた。
魔力を“動かす”ことにも一歩踏み出せた。
次は――もっと速く、もっと正確に。
ソラは胸の奥に、ゆっくりと火が灯るのを感じていた。
そして歩きながら、小さくつぶやいた。
「よし……今日より明日、絶対に強くなる」
クロはソラの肩のバッグの中で、そっと笑った。
『そうだ、それでいい。
わたしは、お前のその気持ちを何より評価する』
夕陽が落ちていく。
その光が、まるでソラの決意を照らすかのように、鮮やかに輝いていた。
魔力を右手に集めて殴る――その作業を繰り返すだけなのに、息は荒く、汗は背中を伝い、筋肉にまで重さを感じる。
「はぁ……はぁ……っ。ぜぇ……なんで、こんなに……疲れるんだ……?」
バッグの上で座っていたクロが、すっと跳び下りる。
いつもの落ち着いた金の瞳でソラを見つめ、当然だと言わんばかりに口を開いた。
『魔力操作というのは、今のお前にとって“全身を使う”行為だからだ。
魔力視と同じで、集中力がいる。二時間近くやれば息が切れるのも当然だ』
「集中……だけで、こんなに……?」
『当たり前だ。魔力を集めることに失敗している間も、ずっと意識を張り詰めていただろう?
普通は一時間で集中が切れてくる。二時間も保たせたのだ、よくやったほうだ』
褒められ、ソラの表情がほころびかける――が、クロはすぐに厳しい現実を突きつけてきた。
『だが。集中はよかったが、魔力操作はお粗末だ』
「ぐっ……お、お粗末……?」
クロは尻尾を揺らし、淡々と続ける。
『片手に魔力を集めるのに五分かかるようでは、実戦で使い物にならない。
魔物はお前が魔力を溜め終わるまで待っていてはくれんぞ』
「……それは、確かに」
『強くなりたいのなら、戦闘中でも反射的に魔力を流し、瞬時に力へ変換できなければならない。
今のお前のやり方は、準備運動を五分かけてやっているようなものだ』
ソラは苦笑するしかない。
あらためて言われると、まったく反論の余地がなかった。
「じゃ、じゃあ……魔力操作のコツとか、アドバイスは……?」
クロは目を細め、静かに首を横に振る。
『それは、教えられん』
「えっ!?なんで!?」
『魔力というのは、感じ方も扱い方も人によって大きく異なるからだ。
水のようだと感じる者、糸のようだという者、煙のようだという者……さまざまだ。
わたしの感覚を押しつければ、逆にお前の成長を妨げることになる』
「……なるほど……」
『だからこそ、魔力視のときもアドバイスはしなかった。
お前自身の感覚を育てなければならんからだ。
魔力操作も同じ。地道に、日々、自分の魔力の感覚と“性質”を理解していくしかない』
クロの言葉には、揺るぎがなかった。
ソラは深く息を吐く。
魔力視に成功して、調子に乗っていたのかもしれない。
自分は特別なんじゃないかと――ほんの少しだけだが感じていた。
だが現実は、まだ“第一歩を踏んだだけ”。
魔力を感じられるようになったというのは、ただのスタート地点に立ったにすぎない。
「……よし」
ソラは立ち上がった。
足はまだ少し震えていたが、その顔には覚悟が宿っている。
「地道に、少しずつ……だな。
五分が四分になって、四分が三分になって……いつか、瞬時にできるようになるまで積み重ねる」
クロは満足そうに頷いた。
『それでいい。それしかない。
焦らず、だが止まらずにやれ。魔力を扱えるということは、戦い方の幅が無限に広がるということだ』
「うん。分かった。ありがとう、クロ」
『礼なら結果を出してから言え。わたしは甘やかさんぞ』
ツンとしたように見えるが、尻尾がわずかに嬉しそうに揺れている。
ソラはそれを見て、小さく笑った。
クロはいつもこうだ。厳しいが、必ず背中を押してくれる。
「よし、今日はもう帰るか。
オレ、汗でぐっしょりで……なんか体中が重い」
『当然だ。風呂に入り、栄養を摂り、今日は早く寝ろ。
次に魔力を集めるときは、五分をもっと短くしてみせろ』
「わかった!」
ソラはバッグを肩にかけ、訓練場から家までの道を歩き出した。
夕暮れの街が優しい風を運んでくる。
疲れているはずなのに、足取りはどこか軽かった。
魔力を“視る”ことができた。
魔力を“動かす”ことにも一歩踏み出せた。
次は――もっと速く、もっと正確に。
ソラは胸の奥に、ゆっくりと火が灯るのを感じていた。
そして歩きながら、小さくつぶやいた。
「よし……今日より明日、絶対に強くなる」
クロはソラの肩のバッグの中で、そっと笑った。
『そうだ、それでいい。
わたしは、お前のその気持ちを何より評価する』
夕陽が落ちていく。
その光が、まるでソラの決意を照らすかのように、鮮やかに輝いていた。
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