22 / 116
一章 契約と回帰
十九話
しおりを挟む
ソラはまだ薄暗い早朝、目覚ましが鳴るよりも早く目を覚ました。
昨夜の魔力操作訓練の疲労は体の奥に残っていたが、不思議と気分は悪くない。
むしろ胸の奥がじんわりと熱い。魔力視に成功し、魔力を右手に集めてパンチを放ったという事実は、ソラの中に静かな高揚を残していた。
「……今日もやらなきゃな」
布団から抜け出し、軽く顔を洗って鏡を見る。
少しだけクマがある。けど、それ以上に表情は引き締まっていた。
しかし今日は訓練の日ではない。
学校がある。
ソラは支度を整え、まだ眠っているクロにそっと声をかける。
「クロ、学校行ってくる」
バックの中から低い声が返る。
『……授業中に寝るなよ。昨日の疲れを引きずると集中が切れるぞ』
「わかってるよ」
少し笑いながら家を出る。
学校までは歩いて十五分。通学路を歩きながら、ソラは自然と丹田にある“魔力の器”を意識していた。
昨夜、クロに褒められたこと。
そしてすぐに厳しい指摘を受けたこと――。
ソラはそれらを思い返し、心の奥が引き締まるような感覚を覚える。
「もっと早く……集められるようになりたい」
歩きながら右手を軽く握っては開き、握っては開く。
魔力を集めるイメージを思い描くが、今は操作しない。学校に着く前から集中して疲れるわけにはいかなかった。
教室に着いて席につくと、授業が始まった。
内容は一般科目で特に難しくもない――はずだが、ソラには別の目的があった。
丹田にある魔力を感じる。
昨夜、拳に魔力を集めていたとき感じたあの“水が揺れるような感覚”をもう一度確かめたい。
深呼吸し、意識を静かに自分の中心へ落としていく。
すると、微かに――波紋のようなゆらぎが意識に触れる。
(……やっぱり、俺の魔力って水みたいだ)
透明な器に注がれた水が、ゆっくり揺れる。
そのイメージが自然と浮かび上がる。
“掴めないようで、掴める。けれど一瞬で形が変わる。”
その“水”を右手へ流そうと意識すると……やはり遅い。
ゆっくり少しずつ、じわりじわりと手のほうへ動く。
(昨日より……ほんの少しだけ早いか?)
そう思った瞬間――。
「――そこの生徒。聞いているか?」
「っ!?」
教師の指摘で驚き、あわてて魔力を散らしてしまう。
生徒たちはクスクス笑い、ソラは小さく肩をすぼめた。
(……集中しすぎた)
午前の授業は、それ以降まじめに受けることにした。
昼休みに入り、廊下を食堂へ向かいながらソラは再び考え込んでいた。
(どうすればもっと早く集められるんだ?
水を一気に流すように……いや、押し出すように?
それとも吸い上げるみたいに?
うーん……)
バックの中から、ため息のような声が聞こえた。
『ソラ。お前、食事前までずっと考え込む気か?』
「え? いや、その……」
『魔力操作は集中が要ると言っただろう。空腹で集中してどうする。
せめて飯を食う時は“食うこと”だけに集中しろ』
「……すみません」
怒られたというより、“気遣われた”ような感覚にソラは苦笑した。
そして、ちゃんと昼ごはんを食べる。
午後の授業は魔法薬学。
シーカーに必須で、薬草知識や調合は絶対覚えておかなければならない。
今日は実習で、班を組んでポーションを作ることになった。
「さあ、好きな者同士で班を作れ」
教師の声が響くと、教室中の生徒たちが一斉に動き出す。
……ソラは固まった。
(あ、そういえば……俺、友達……いない……)
初日はカバンに話しかける変人。
二日目はチャイムダッシュの不良。
三日目以降は周囲と距離を取ったまま。話しかけられることもなかった。
結果、ソラの周りには誰も来ない。
視線が合ったクラスメイトは、気まずそうにすぐ顔を背ける。
(……やっぱり、か)
最終的に、余ったメンバーだけで1つの班ができあがる。
オドオドして目が隠れている女子
筋肉質の仏頂面の男
カタコトの外国人少女
顔の濃いキザっぽい男子
そして、カバンに話しかけボッチの自分
……妙に濃いメンツの班がひとつ完成した。
ソラは微妙な気持ちになりつつも、班の机に自分の席を確保する。
(なんか……すごい個性派集団になったな……)
クロはバッグの中でククッと笑った。
『フッ……初対面が苦手な者たちの集まりは、案外うまくいくかもしれんぞ?』
「ほんとかな……」
不安を残しつつ、ソラたちの魔法薬実習が始まる――。
昨夜の魔力操作訓練の疲労は体の奥に残っていたが、不思議と気分は悪くない。
むしろ胸の奥がじんわりと熱い。魔力視に成功し、魔力を右手に集めてパンチを放ったという事実は、ソラの中に静かな高揚を残していた。
「……今日もやらなきゃな」
布団から抜け出し、軽く顔を洗って鏡を見る。
少しだけクマがある。けど、それ以上に表情は引き締まっていた。
しかし今日は訓練の日ではない。
学校がある。
ソラは支度を整え、まだ眠っているクロにそっと声をかける。
「クロ、学校行ってくる」
バックの中から低い声が返る。
『……授業中に寝るなよ。昨日の疲れを引きずると集中が切れるぞ』
「わかってるよ」
少し笑いながら家を出る。
学校までは歩いて十五分。通学路を歩きながら、ソラは自然と丹田にある“魔力の器”を意識していた。
昨夜、クロに褒められたこと。
そしてすぐに厳しい指摘を受けたこと――。
ソラはそれらを思い返し、心の奥が引き締まるような感覚を覚える。
「もっと早く……集められるようになりたい」
歩きながら右手を軽く握っては開き、握っては開く。
魔力を集めるイメージを思い描くが、今は操作しない。学校に着く前から集中して疲れるわけにはいかなかった。
教室に着いて席につくと、授業が始まった。
内容は一般科目で特に難しくもない――はずだが、ソラには別の目的があった。
丹田にある魔力を感じる。
昨夜、拳に魔力を集めていたとき感じたあの“水が揺れるような感覚”をもう一度確かめたい。
深呼吸し、意識を静かに自分の中心へ落としていく。
すると、微かに――波紋のようなゆらぎが意識に触れる。
(……やっぱり、俺の魔力って水みたいだ)
透明な器に注がれた水が、ゆっくり揺れる。
そのイメージが自然と浮かび上がる。
“掴めないようで、掴める。けれど一瞬で形が変わる。”
その“水”を右手へ流そうと意識すると……やはり遅い。
ゆっくり少しずつ、じわりじわりと手のほうへ動く。
(昨日より……ほんの少しだけ早いか?)
そう思った瞬間――。
「――そこの生徒。聞いているか?」
「っ!?」
教師の指摘で驚き、あわてて魔力を散らしてしまう。
生徒たちはクスクス笑い、ソラは小さく肩をすぼめた。
(……集中しすぎた)
午前の授業は、それ以降まじめに受けることにした。
昼休みに入り、廊下を食堂へ向かいながらソラは再び考え込んでいた。
(どうすればもっと早く集められるんだ?
水を一気に流すように……いや、押し出すように?
それとも吸い上げるみたいに?
うーん……)
バックの中から、ため息のような声が聞こえた。
『ソラ。お前、食事前までずっと考え込む気か?』
「え? いや、その……」
『魔力操作は集中が要ると言っただろう。空腹で集中してどうする。
せめて飯を食う時は“食うこと”だけに集中しろ』
「……すみません」
怒られたというより、“気遣われた”ような感覚にソラは苦笑した。
そして、ちゃんと昼ごはんを食べる。
午後の授業は魔法薬学。
シーカーに必須で、薬草知識や調合は絶対覚えておかなければならない。
今日は実習で、班を組んでポーションを作ることになった。
「さあ、好きな者同士で班を作れ」
教師の声が響くと、教室中の生徒たちが一斉に動き出す。
……ソラは固まった。
(あ、そういえば……俺、友達……いない……)
初日はカバンに話しかける変人。
二日目はチャイムダッシュの不良。
三日目以降は周囲と距離を取ったまま。話しかけられることもなかった。
結果、ソラの周りには誰も来ない。
視線が合ったクラスメイトは、気まずそうにすぐ顔を背ける。
(……やっぱり、か)
最終的に、余ったメンバーだけで1つの班ができあがる。
オドオドして目が隠れている女子
筋肉質の仏頂面の男
カタコトの外国人少女
顔の濃いキザっぽい男子
そして、カバンに話しかけボッチの自分
……妙に濃いメンツの班がひとつ完成した。
ソラは微妙な気持ちになりつつも、班の机に自分の席を確保する。
(なんか……すごい個性派集団になったな……)
クロはバッグの中でククッと笑った。
『フッ……初対面が苦手な者たちの集まりは、案外うまくいくかもしれんぞ?』
「ほんとかな……」
不安を残しつつ、ソラたちの魔法薬実習が始まる――。
30
あなたにおすすめの小説
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
異世界帰還者の気苦労無双録~チートスキルまで手に入れたのに幼馴染のお世話でダンジョン攻略が捗らない~
虎柄トラ
ファンタジー
下校帰りに不慮の事故に遭い命を落とした桜川凪は、女神から開口一番に異世界転生しないかと勧誘を受ける。
意味が分からず凪が聞き返すと、女神は涙ながらに異世界の現状について語り出す。
女神が管理する世界ではいま魔族と人類とで戦争をしているが、このままだと人類が負けて世界は滅亡してしまう。
敗色濃厚なその理由は、魔族側には魔王がいるのに対して、人類側には勇者がいないからだという。
剣と魔法が存在するファンタジー世界は大好物だが、そんな物騒な世界で勇者になんてなりたくない凪は断るが、女神は聞き入れようとしない。
一歩も引かない女神に対して凪は、「魔王を倒せたら、俺を元の身体で元いた世界に帰還転生させろ」と交換条件を提示する。
快諾した女神と契約を交わし転生した凪は、見事に魔王を打ち倒して元の世界に帰還するが――。
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
スキル『レベル1固定』は最強チートだけど、俺はステータスウィンドウで無双する
うーぱー
ファンタジー
アーサーはハズレスキル『レベル1固定』を授かったため、家を追放されてしまう。
そして、ショック死してしまう。
その体に転成した主人公は、とりあえず、目の前にいた弟を腹パンざまぁ。
屋敷を逃げ出すのであった――。
ハズレスキル扱いされるが『レベル1固定』は他人のレベルを1に落とせるから、ツヨツヨだった。
スキルを活かしてアーサーは大活躍する……はず。
現代錬金術のすゝめ 〜ソロキャンプに行ったら賢者の石を拾った〜
涼月 風
ファンタジー
御門賢一郎は過去にトラウマを抱える高校一年生。
ゴールデンウィークにソロキャンプに行き、そこで綺麗な石を拾った。
しかし、その直後雷に打たれて意識を失う。
奇跡的に助かった彼は以前の彼とは違っていた。
そんな彼が成長する為に異世界に行ったり又、現代で錬金術をしながら生活する物語。
~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる
僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。
スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。
だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。
それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。
色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。
しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。
ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。
一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。
土曜日以外は毎日投稿してます。
異世界帰りの少年は現実世界で冒険者になる
家高菜
ファンタジー
ある日突然、異世界に勇者として召喚された平凡な中学生の小鳥遊優人。
召喚者は優人を含めた5人の勇者に魔王討伐を依頼してきて、優人たちは魔王討伐を引き受ける。
多くの人々の助けを借り4年の月日を経て魔王討伐を成し遂げた優人たちは、なんとか元の世界に帰還を果たした。
しかし優人が帰還した世界には元々は無かったはずのダンジョンと、ダンジョンを探索するのを生業とする冒険者という職業が存在していた。
何故かダンジョンを探索する冒険者を育成する『冒険者育成学園』に入学することになった優人は、新たな仲間と共に冒険に身を投じるのであった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる