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一章 契約と回帰
五十一話
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一方その頃――
ソラとゴーマンが死闘を繰り広げた、街外れの放置された教会では、警備隊の隊員が二人、現場検証を行っていた。
片方は年季の入ったベテラン隊員。無精ひげに刻まれた皺が、これまでくぐってきた修羅場の数を物語っている。
もう一方はまだ若い隊員で、制服も新品に近く、周囲をきょろきょろと落ち着きなく見回していた。
教会の壁は大きく破壊され、床には乾ききらない血の跡、そして外へ続く木々の折れた痕。
明らかに、ただ事ではない戦闘があったことを示している。
若手隊員は一通り現場を見回した後、首を傾げてベテランに問いかけた。
「なあ、先輩。
ゴーマンはもう捕まってるんですよね? だったら、ここまで念入りに調べる必要ってあるんですか?
事件としてはもう終わったようなもんじゃ……」
その問いに、ベテラン隊員は手を止めず、壁の破損具合を確かめながら低い声で答えた。
「……終わった、か。
そう思えるなら、まだお前は若いな」
若手隊員はむっとしつつも、黙って続きを待つ。
ベテランは一度教会の中央を見渡し、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。
「確かにゴーマンは捕まえた。
だがな、あいつはただのチンピラじゃない」
「……学生を攫っていた誘拐犯なんじゃないんですか?」
「それだけじゃない」
ベテランは若手を一瞥し、はっきりと言い切った。
「ゴーマンは、元Bランクパーティのアタッカーだった男だ。
しかもBランクの中でも上位。腕だけならAに手が届いてもおかしくなかった」
若手隊員の目が見開かれる。
「えっ……そんなに、ですか?」
「本人の素行が最悪でな。暴力沙汰、恐喝、規約違反の常習犯。
それでギルドを追放されたが、実力そのものは本物だった」
ベテランは教会の床に残る深い衝撃痕を指差す。
「見ろ。この破壊の仕方。
武器による斬撃じゃない。
魔法の暴走でもない。
ほとんどが素手による打撃だ」
「……素手?」
若手の声が裏返る。
「あり得ませんよ。
ゴーマン相手に、素手で?」
ベテラン隊員は短く鼻で笑った。
「だから調べているんだ」
そして、ゆっくりと言葉を選ぶように付け加える。
「こんな戦い方ができるのは――
Sランク相当と見ていいだろう」
若手隊員は思わず言葉を失う。
「S……ランク……?」
「剣聖や黒影……
あるいは、新たなSランク……かもしれん」
ベテランは一度、教会の破壊された壁を見つめ、静かに続けた。
「いずれにせよ――
こんな戦い方ができるやつはな」
一拍、間を置く。
「まさに悪魔と言ってもいいだろう」
その言葉に、若手隊員の背筋に冷たいものが走った。
「……でも、そんな人物なら、なぜ名乗り出ないんです?」
「そこだ」
ベテラン隊員は頷く。
「ゴーマンを倒せる実力者がいて、
しかも学生誘拐事件の解決に関わっている。
それなのに、誰一人として名乗りを上げていない」
ベテランは静かに結論づける。
「この件はまだ終わっちゃいない。
むしろ――始まったばかりだ」
二人の警備隊員は、無言で教会を後にする。
その背後で、崩れた教会は何も語らぬまま、ただ沈黙を保っていた。
――この街のどこかに、
Sランク相当の“何か”が確かに存在していることを、誰にも知られぬまま。
ソラとゴーマンが死闘を繰り広げた、街外れの放置された教会では、警備隊の隊員が二人、現場検証を行っていた。
片方は年季の入ったベテラン隊員。無精ひげに刻まれた皺が、これまでくぐってきた修羅場の数を物語っている。
もう一方はまだ若い隊員で、制服も新品に近く、周囲をきょろきょろと落ち着きなく見回していた。
教会の壁は大きく破壊され、床には乾ききらない血の跡、そして外へ続く木々の折れた痕。
明らかに、ただ事ではない戦闘があったことを示している。
若手隊員は一通り現場を見回した後、首を傾げてベテランに問いかけた。
「なあ、先輩。
ゴーマンはもう捕まってるんですよね? だったら、ここまで念入りに調べる必要ってあるんですか?
事件としてはもう終わったようなもんじゃ……」
その問いに、ベテラン隊員は手を止めず、壁の破損具合を確かめながら低い声で答えた。
「……終わった、か。
そう思えるなら、まだお前は若いな」
若手隊員はむっとしつつも、黙って続きを待つ。
ベテランは一度教会の中央を見渡し、ゆっくりと言葉を選ぶように口を開いた。
「確かにゴーマンは捕まえた。
だがな、あいつはただのチンピラじゃない」
「……学生を攫っていた誘拐犯なんじゃないんですか?」
「それだけじゃない」
ベテランは若手を一瞥し、はっきりと言い切った。
「ゴーマンは、元Bランクパーティのアタッカーだった男だ。
しかもBランクの中でも上位。腕だけならAに手が届いてもおかしくなかった」
若手隊員の目が見開かれる。
「えっ……そんなに、ですか?」
「本人の素行が最悪でな。暴力沙汰、恐喝、規約違反の常習犯。
それでギルドを追放されたが、実力そのものは本物だった」
ベテランは教会の床に残る深い衝撃痕を指差す。
「見ろ。この破壊の仕方。
武器による斬撃じゃない。
魔法の暴走でもない。
ほとんどが素手による打撃だ」
「……素手?」
若手の声が裏返る。
「あり得ませんよ。
ゴーマン相手に、素手で?」
ベテラン隊員は短く鼻で笑った。
「だから調べているんだ」
そして、ゆっくりと言葉を選ぶように付け加える。
「こんな戦い方ができるのは――
Sランク相当と見ていいだろう」
若手隊員は思わず言葉を失う。
「S……ランク……?」
「剣聖や黒影……
あるいは、新たなSランク……かもしれん」
ベテランは一度、教会の破壊された壁を見つめ、静かに続けた。
「いずれにせよ――
こんな戦い方ができるやつはな」
一拍、間を置く。
「まさに悪魔と言ってもいいだろう」
その言葉に、若手隊員の背筋に冷たいものが走った。
「……でも、そんな人物なら、なぜ名乗り出ないんです?」
「そこだ」
ベテラン隊員は頷く。
「ゴーマンを倒せる実力者がいて、
しかも学生誘拐事件の解決に関わっている。
それなのに、誰一人として名乗りを上げていない」
ベテランは静かに結論づける。
「この件はまだ終わっちゃいない。
むしろ――始まったばかりだ」
二人の警備隊員は、無言で教会を後にする。
その背後で、崩れた教会は何も語らぬまま、ただ沈黙を保っていた。
――この街のどこかに、
Sランク相当の“何か”が確かに存在していることを、誰にも知られぬまま。
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