公開処女喪失させられた王女は魔力を奪われました

空田かや

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45 シャルリンテの用事

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…不意打ちとは…この事だ…。

なんだって急に…。

自分は恋しさのあまり、白昼夢でも見るようになったのかと、疑心暗鬼になりながら、ゆっくりと後ろを振り向く。

すると、白いショールを頭からパサリと外し、茶色い瞳でまじまじとスーリを見ているシャルリンテがいた。

薄い金色のメッシュの入った茶色の髪が風に吹かれ、邪魔臭そうに顔にまとわりついている。

二年前より大人びていたが、まごうことなく、自分がいつも愛しく思っていたカリストの元王女だった…。

スーリはあまりの事に言葉を失い、固まった顔で、シャルリンテを見ていた…。

すると、シャルリンテは何かに気がついたように、ハッと顔を赤らめ、目を伏せた。

そして、顔を隠すように白いショールをもう一度被ると、くるりと背中を向ける。

そして、大きな声で言った。

「ごめんなさい!人違いでした!私…病気で…!金髪の男の人を見ると声をかけてしまうという…。失礼…!」

そして、ボソリと一言つけ加える。

「そうよ…スーリは…こんなに格好良く…なかったのに……」

シャルリンテがすぐに瞬間移動を使う気配を察し、スーリはシャルリンテの腕を咄嗟に掴んだ…。

「……あなたは馬鹿なのか?そして最後に聞こえた一言は一体…。思い出は美化されるんじゃないのか?なぜ、劣化を…」

腕を掴まれたシャルリンテは、驚いた顔でスーリを見た。

「スーリ…?だって…背が高くなっているし…女性には見えない…まるで、男の人よ…?」

スーリはふぅ…っと息を吐いて言った。

「……シャルリンテ様…私はずっと男でしたよ…」

    

二人の、寸劇のような愚かなやり取りを、頭上から見ている者がいた。

二年ぶりに休眠から目覚めた、クースリューだった。

ジャナル王子に怒られるのが嫌だったから、目覚めてすぐに、シャルリンテを追った。

しかし、やっと見つけた先で、こんな間抜けなやり取りを見せられ、脱力させられていた。

「…ジャナル様は王女にあげるわ…。わたくしは馬鹿になれ…と言われても、あそこまで愚かになれないもの…。ジャナル様はなんだかんだ、ほっとけない女がお好きなのよね…」

クースリューは指を天に突きあげて、雨雲を呼びながら呟く。

「いい女を目指したのに…完全に裏目に出てしまったわ…。ほんと…性格…歪むわよ…」

そう言うと二人の頭上から、土砂降りの雨を降らせた。


すると、クースリューの後ろで聞き覚えのある声が響いた。

「お前…、なかなかいい性格してるな…」

振り向いた先には、休眠を道連れにした、ダートがいた。

「久しぶりね…。あの時はありがとう」

「いいさ…またあんたに会えたし…。俺は今日、覚醒したんだ。あんたもか?」

「そうよ」

下の二人に目をやりながら、クースリューは返事をした。

「ふーん、俺達気が合うな。……あんたの金色の瞳、俺より薄い色で綺麗だな…」

「…お世辞は必要ないわ」

「…お世辞?シャルリンテのような反応を…。あんた達の国の美の基準は、ずれているのか…?」

クースリューは、カッとして言った。

「──私を、あの間抜け女と一緒にしないで!わたくしは、絶世の美女という自覚はあります!」

そう言うと、瞬間移動でパッと消えた。

「俺から逃げ切れるわけ…。お茶の約束は覚えているんだろうな…」

ダートは小さく笑いながら、瞬間移動でクースリューを追った…。



                          ※※※

急に降り始めた激しい雨の中、スーリとシャルリンテは見つめ合って立っていた。

「…スーリ…なの…?でも……」

スーリの背は以前より高くなっていたが、美貌は相変わらずそのままだった。

そして、身に着けている華美な服は貴族である事を意味していた。

その服は、スーリの魅力を一層引き立たせている。

それに対し、村娘の服を着ているシャルリンテは、少し委縮した…。

それでも、奇跡的な再会が嬉しくてたまらなかったシャルリンテは、矢継ぎ早に話し始めた。

「…二年、何やってたの?私はね、山の中で目覚めて…火起こし女としてその山では人から頼られて…。そうやって稼ぎながら、やっと山を下りて…南に行けばスーリに会えると思ったから、船に…。スーリは?」

スーリはそう言われても、じっと自分を見つめたまま固まっていた。

しばらくして、ポツリ…ポツリと話し始める…。

「すみません…言葉が…出てこない…。ああ…私は…社交界に…入ってそれで…」

無表情な顔でただ自分を見つめ、言い淀みながら話すスーリを見て、再会できた事があまり嬉しくないのだろうか…とシャルリンテは、不安になった。

私は…命を差し出して…助けてくれたスーリを…ずっと……。

次に会えたら…きっと…素直になって……。

そう思っていたけれど……。

「…あんまり、嬉しくなさそうな顔ね。もしかして、がっかりさせてしまった?まぁ…山にいたから、王女の頃のように、美容には…力…入れられなかったし…。肌も…髪も…確かに……」

それでも、別れたあの日、スーリは自分を美人だと言ってくれたはず──。

「…今更だけど、私に殺されると思っていたの?…殺すはず…ないのに…」

あまりに反応の薄いスーリに、シャルリンテは思わず名前を呼んだ。

「……スーリ?」

名を呼ばれ、やっとスーリは反応した。

「……聞いて…ますよ。シャルリンテ様……」

そう言うと、びしょ濡れになった自分の髪の水滴を払いながら、激しい雨から二人を守るシャボン玉のようなシールドを張った。

「あなたの口癖…殺してやりたい…だったの覚えてます?…何回言われた事か…」

「…鞭打ちだって、実際にした事、なかったじゃない…。なぜそんな事信じるのよ…」

「まぁ…そうですね。でも、池に突き落とされた事は、ありましたよね…」

「…助けたわ」


スーリはシャルリンテを、魔術で一瞬にして乾かし、次に自分の体も乾かした。

「シャルリンテ様…あなたは…三年も私といたのに…。私がサシュナにあなたを売ると、本気でお思いに…?」

スーリの目には、悲哀と苛立ちが現れていた。

「…だって、恨まれこそすれ…愛されているとは…」

シャルリンテは、スーリの視線に耐えきれず、視線をシールドに向けた。

そして、シールドに触れ、意味もなく内側から外の水滴を指で追う…。

「だいたい、この二年、スーリは私を捜した?遠目では、私に気がつかなくてさっさと行っちゃったし…。さっき、私の事を思い出した…とかじゃないでしょうね?」

スーリはそう言われ、シャルリンテから、ふっと目を逸らした。

「図星なの?!…本当…私が捜さなければ、一生会えなかったかもね。…じゃあ、あなたは、ここの港には仕事か何かで?」

シャルリンテは、ちらっとスーリの服に目を走らせる。

「華やかな社交界にいるのなら…もしかして貴族の娘と結婚していたり…してね?魔術で…書類など、どうとでもなるし…」

そう言われた、スーリの瞳が一瞬揺らぐ。

シャルリンテは、それを見逃しはしなかった…。

……当たり…。

会った時から、挙動がおかしかった…。

スーリは魅力的だから、一人でいたら、誰も放ってはおかない…。


スーリは、静かに言った。

「結婚している…って言ったら?」

シャルリンテは、切ない瞳でスーリを見返した。

そして、すぐに下を向き、涙がこぼれないように目をしばたたかせた。

「………もう、二年もたっているしね。これは昔話。あの時は命を懸けられても…今は…ってとこでしょ?今日、会えてよかった。また、どこかで会えるといいわね。じゃ、私、急ぎの用事があるから行くわね…」

背を向けて、瞬間移動しようとしたシャルリンテの手を、スーリは掴んだ。

「なんの…用事ですか?」

シャルリンテは、泣いている自分を見られないように、顔を伏せながら言った。

「…泣く…用事……」

「…それって、私の隣でもできますよね…?」

スーリはシャルリンテを引き寄せ、抱きしめた。

「結婚は…していませんよ。…毎日…必死に…あなたを捜しました。あなたが思うより…ずっと…ね。もう、二度と離れたく…ないです…」

「──本当に?二年もの間、一人だなんて信じられない…。きっと周りには女性が沢山いたでしょう?」

「……なぜか私は、カリストの元王女しか…目に入らないようで…もはや、刷り込み…ですね」

スーリは、小さく笑って言った。

「初めてあなたに会った時…極度の緊張から解放されたのを…今でも覚えている。そのせい…ですかね…。あなたしか愛せない…」

そして、スーリはシャルリンテの頬にそっと手で触れた。

「それに、公開の場で…王子の初めて…を奪った責任…取ってください」

「責任…?あれは…私が奪ったのだったかしら…?」

「ええ…私は身も心も奪われた…。あれ以外、私に選択肢などなかったし…。だから…どう考えても…あなたの責任…」

スーリはそう言うと、シャルリンテの唇にキスをした。

そのキスで、心の片隅にあった塵のような不安は、一瞬で消え去る…。

「分かったわ。じゃあ、あなたも私にちゃんと魔力を返してね?…私の…半分、持っているでしょう?」

「では…あなたも覚悟してくださいね…。前とは違う方法で、返しますので…」


スーリはそう言うと、侍女の時のように妖艶に笑った。


           
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